前々前世オンライン 〜前世スピノサウルスだった私、ラスボス扱いされてて泣きたいけど鳴くしかできないから代わりに全プレイヤーを泣かしてやる

虎戸リア

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間話

36話「間話:父と暴王」

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 松永まつなが弘秀ひろひでが自宅の自室に入ろうとすると、背後から声がかかった。

「……その部屋だけ、掃除してないから。自分でやって」

 ちょっと怒ったような、拗ねたような声を出す自分の娘にどういう表情を返したらいいか弘秀は分からず、ただ、ああ、としか答えられなかった。

 妻と幼い娘を交通事故で亡くして5年。娘二人と妻が乗る車に飲酒運転のトラックがぶつかってきた。
 妻と幼い方の娘と、トラック運転手は即死だった。

 唯一生き残ってくれた娘の桃花とうかはもう17歳。父親が疎ましいのは仕方ない。とはいえ、やはり寂しいものだと弘秀は少し落胆しながら自室へと入った。

「やはり……ここは落ち着く」

 壁に飾ってある無数の収集品が天井の明かりを反射し黒く光っている。

 ベッド脇にあるデスクのPCの電源を付ける。モニターの横には弘秀が経営するVR機器開発会社【ブイテックスラボ】の売れ筋商品であるVRゲーム専用機【Vステーション4】が置いてある。

 PCのロックを指紋で解除し、ホーム画面を開ける。
 
『お帰りなさい! 今日はどうするにゃん? 3ちゃん見る? あ、【前々前世オンライン】やる!?』

 ホーム画面で、少女型AIがくるくると回りながらそう文字で話しかけてくる。
 ふさふさのポニーテールにしたピンク髪に、ピンクのフリフリのついた魔法少女のような服。
 それは、亡き娘が好きだった女児用アニメに出てくる主人公のような格好だ。

『ゲームは後でやるよ。先に仕事を済ませる』

 そう打ち込んで、弘秀はその少女を慈しむように見つめていた。その視線には欲望はなく、ただ純粋な愛情が注がれているように見えた。

 その少女の姿は桃花とよく似ているが、目元は弘秀に似ている。

 弘秀はチャットアプリを開けた。様々な内容について秘書から送られて来たメッセージ全てに的確な指示を入れながら返していく。

『以上、かしこまりました。それでは良い休暇を。ゲームばかりせず桃花ちゃんともコミュニケーション取ってください』

 そう締めくくりに送ってきた秘書に弘秀は思わず苦笑した。

「全く……余計なお世話だな。耳が痛い」

 弘秀はペットボトルの水を飲むと、VR機器を持って、ベッドへと移動した。

「悪趣味だとは自分でも分かってはいるが……」

 そう言いながらも、止められない事を弘秀は知っていた。

 彼は、【前々前世オンライン】を起動させた。


☆☆☆

 群体レギオン:【暴王】の拠点。

 城のようなと形容するのがぴったりなその拠点。その玉座とでも呼ぶべき部屋に一人の女性が足を組んで座っていた。

 軍服を思わせる衣装を着ており、足にはゴツいブーツ。背後には太い尻尾が揺れている。
 長い黒髪ストレート。切れ上がった涼しげな目元はどこか爬虫類のような冷たさを見る者に感じさせた。

 赤いアイラインが目尻に引いてあり髪の一部を赤く染めているせいで、その表情の冷たさとのチグハグした印象を相手に与えている。

 数人の男が、その女性の前に立っていた。

 一番前に立つ男が、その女性へと話しかける。


「……何?」
「鉱山……いいんですか?」
「もう既に市場にはミスリルは出回ってる。これ以上戦力を割いてでも独占する価値がある? 仮にあったとしてそれを維持し続けられる?」

 アキコの問いに男が首を振った。

「ないですし、無理ですね。あそこより更に奥が発見されたみたいですし、ミスリルにもう価値はない」
「今は、出来る限り素材を蓄えて、アイテム装備を充実させるのが最優先。有能の引き抜きも怠らないように」
「ですね。分かりました。いっそ、あの三人をうちに引き込むのはどうで——」

 男は言葉の途中で後悔し、そして口をつぐんだ。
 ああ、しまった、と。

 この人、あの三人の事となるとすぐに崩れるんだよなあ……と男は頭の中でぼやいていた。

「……何を言っているの? もう一度聞くわ。何を言ってるヒラタケ?」
「あ、いやすみません」
「全員傾聴。次のイベント【大竜星祭だいりゅうせいさい】における目標を発表する」

 アキコの言葉に全員が耳を傾けた。一人がそれをマイクで拾い、群体チャットに流している。

「次のイベントは群体戦。当然、ランキング一位を狙うが、

 アキコが椅子から立ち上がり声を張り上げた。

「リスポンしては殺し、リスポンしては虐殺し……二度とゲームする気が起きないほどに一片の容赦も無く、ひとかけらの慈悲も無く——殺せ殺せ殺せ」

 そう言い切ったアキコがその場にいた全員に目線を向けた。

 それに対して、全員がただ無言で頷いた。

「我ら【暴王】の牙を十分に味わわせてやれ」
「イエスマム!」

 盛り上がる周りとは対極に、そろそろ潮時かなあとか考えるヒラタケであった。

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