前々前世オンライン 〜前世スピノサウルスだった私、ラスボス扱いされてて泣きたいけど鳴くしかできないから代わりに全プレイヤーを泣かしてやる

虎戸リア

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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】

39話「|神聖猫姫天使≪ほーりーえんじぇるユーナ≫」

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 【神聖猫姫天使(VR)】とハンドルネームが表示されているピンクの少女。
 
 ええっと確か(VR)って付いてると現実の姿じゃないんだっけ。まああんなピンクな子流石に現実には中々いないしね。

 でもあれ、なんて読むんだろう?

 私はなんとなく気になってその3人に近付く。中身は分かんないけど、女の子が男に絡まれてるのは放っておけない。
 民家の壁に背を付けた少女とそれを逃がさないように立つ2人の男。

「とにかく、【暴王】には入らないにゃん」
「お前は知らないかもしれない、お前って地雷プレイヤーって有名だからうち以外どこも入れてくれないぞ?」
「……お前らがそう広めたにゃん」
「あん? 言いがかりは止めろや」

 なんか、凄く揉めてる。

「いいから素直にうち入れよ。はは、猫可愛がりしてやんよ?」
「嫌だって言ってるにゃん。入る【群体レギオン】は——
「だから言っているだろ! お前なんてどこも入れねえ!」
「あのお……」

 私は背を向けている男達に控えめに声を掛けた。少女がこちらを見て、一瞬驚くも、すぐに視線を外す。

「うるせー立て込んでるんだよ! 失せろ!」

 男がこちらを見もせず、怒鳴る。

「ユーナが入るのは——……にゃん」

 そう言ってその子は私を指差したのだった。

「あん?」

 男二人が同時に振り返った。

「あ、こないだの鉱山の人」

 私の声と顔を見て、男達の表情が怒りから驚きそして恐怖へと変化していく。

「おおおおおお前ははははは!?」
「ななななんでここに!?」
「またそうやって弱い子いじめてるの? ミリー呼ぼうか?」

 私がそう言って、腰にぶら下げていた手斧に手をかけた。

「サーセンっしたああああああああ」
「覚えとけよおおおお」

 男達が相変わらず小物感溢れるセリフを吐き捨てながら逃げていった。
 ちなみにこういった拠点では、武器での攻撃は全く効果を成さないのだけど……まあ脅しにはなるのかな?

「ふう……大丈夫? ええっと……しんせい……ねこひめてんし?」
「ほーりーえんじぇるユーナ、だにゃん。ユーナでいいにゃん。よろしくにゃん」

 少女がにっこりと笑いながら右手を差し出してきた。なぜか私はその動きに強烈な違和感を抱いた。

 握手を求めるその動きがなんというかあまりにも堂に入っていて、少女らしくなかった。
 私は慌ててそれを握り返した。

 派手なピンクの髪やドレスで目立たないけど。改めて見るととても可愛い女の子だった。目元が優しげで、全体的に顔のパーツが柔和で可愛らしい。
 
「あ、えっとラノアです」
「知ってるにゃん。
「へ?」
「移動するにゃん。お礼をしたい」
「あ、うん」

 なんというか有無を言わせない言動だった。私は大人しくユーナちゃんのあとに付いていった。

 街外れにいくと、ユーナちゃんが看板も何もない店へと入っていく。

「そこ入って大丈夫なの!?」
「大丈夫にゃん。一見さんお断りだけど、ユーナは顔パスにゃん」

 恐る恐る一緒に入ると、暗い入り口に、一人のタキシード姿の男性が立っていた。上に名前が表示されていないのでNPCだろう。

「二人にゃん。VIP席がいいにゃん」
「かしこまりました、ほーりーえんじぇるユーナ様。どうぞ」

 タキシードさんが私とユーナちゃんを案内する。途中にバーカウンターがあって、数人がそこで静かに飲んでいた。その後ろを通り過ぎて、個室へと入る。

「オーダーは任せるにゃん。てきとうでいい」
「かしこまりました。お連れ様は何か苦手なお酒はございますか?」
「へ? あ、なんでも大丈夫です」
「かしこまりました。ではごゆっくり」

 個室には高そうな調度品が置いてあった。狭さを感じない配置にセンスを感じる。

「ここは、課金を一定以上しているプレイヤーだけが入れる店にゃん」
「そうなんだ……あはは凄いねユーナちゃん。あ、ちゃん付けで良かったかな!?」

 しまった。心の中でちゃん付けしていたのをそのまま出してしまった!

「フフ……やっぱりラノアちゃんは面白い。良い、むしろ嬉しい。是非ユーナちゃんと呼んであげてくれ」
「ん? あーうん分かったよユーナちゃん」

 その後ユーナちゃんはこれまた自然な所作で左胸へと手を持って行ったが、途中でその動きを止めた。

「おっと……しまった。なんでもないにゃん」
「ええっと、さっきは何で揉めてたの?」
「【暴王】に入れって誘われたので断っただけにゃん」
「妙に強引だったね。みんなに対してあんな感じなのかな?」
「……わかんないにゃん。でも助かった。ありがとう」

 そう言って、ユーナちゃんが頭を下げたのだった。

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