前々前世オンライン 〜前世スピノサウルスだった私、ラスボス扱いされてて泣きたいけど鳴くしかできないから代わりに全プレイヤーを泣かしてやる

虎戸リア

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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】

55話「妖獣跋扈——9 Fox Tales!」

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 要塞の二階部分の無事だった部屋内。

 そこで、罠を! 仕掛けねば! と駄々をこねるオビ1さんを説得して、【群体同盟】にグループ通信を呼びかけた。

 因みにこの部屋にいるのは私とオビ1さんだけ。ミリー達やエンザさん達には見張りを頼んでいた。

「罠ないと……落ち着かん……しかし、集まったのはこれだけか」

 オビ1さんが窓際に腰掛け、そう呟いた。

 グループ通信に返事があり、繋がった他の群体の長達がホログラムとして部屋の中に現れた。

『……すまん』

 短くそう言って頭を下げたのは、騎士のような格好をした女性だった。

 チェインメイルの上にミスリルとブラックウルフの皮で出来たベストのような物を着ており、さらにその上から青いマントを纏っている。茶色のロングヘアーは後頭部でまとめられており、腰には意匠を凝らしたロングソードがぶら下がっていた。

「いや、いいんだ内藤ナイト。時間に遅れた俺が悪い。実は俺らの同盟【九尾ナインテイル】に仲間が増えてな。その交渉で遅れた——新しく加入した【サーベラス】の長、ラノアだ」

 そう言って、オビ1さんが私を紹介してくれた。
 オビ1さんの横に突っ立っていた私は一歩前に出て自己紹介。第一印象が大事!

「【サーベラス】のラノアです! メンバーは後2人いて、合計3人です! よろしくお願いします!」
『……【ラストオーダー】の騎士団長を務める内藤だ……歓迎する』

 そう言って、内藤さんは剣を少しだけ鞘から取り出すと鞘に再び戻し、キン、という涼しい音を鳴らした。
 無表情のままだけど、一応歓迎してくれているみたいだ。

『【サーベラス】のお……ほっほっ、儂の耳にすら入っておらん【群体レギオン】じゃな……強いのかのお』

 そうしゃがれた声で返してきたのは内藤さんの隣に立つ老人だった。

 老人ながらも頑丈そうなスケイルメイルを纏っており、槍を杖代わりにしている。顔を見れば、頬やこめかみ、額などに岩のように硬質化した鱗が浮き出ており、あたかもプロテクターを装着しているように見える。

「そう言うなよ、ぽる爺。強さは俺が保証する」
『ほっほっ、なら良い。水棲生物のみで構成された群体、【変わらぬ海】の長、ぽるちっかじゃ。気軽に“ぽる爺”と呼んでくれて構わんよ」

 そう言って、老人——ぽる爺さんが頭を下げた。私も慌てて下げ返す。

『これはこれは可愛らしいお嬢さんだ。私は【カティ・サーク】の代表の手嶋、ああ、もちろん親しみを込めて、“ゆき”と呼んでくれて構わないとも。君のような可愛らしいレディとこうやって話が出来て光栄だよ。どうだい? 今度一緒にティーでも』

 そう言って大仰な仕草でお辞儀をしたのは、ステッキを片手に保つモノクルをかけた中年男性だった。ロマンスグレーの髪に黒いロングコートの下には、ベスト。背後には、太い爬虫類の尻尾が見える。そこを除けばまさに紳士って感じだけど、どうやらこの姿はVRアバターのようだ。

「ゆき、ナンパはまた今度だ。すまんなラノア。ちょっと癖が強い連中で——」
『あははははは!! 癖って! あんたが一番のじゃん!』

 ハイテンションで飛び跳ねるように喋ったのは、赤いクマのぬいぐるみだった。中から女性の声が聞こえたので、キグルミだと思うけど……あんな装備あるんだ……いいなあ……。

「うるさいぞコディ」
『あたしは【殺猫熊】のコディアック緋熊ヒグマだよ! ちなみに群体の読み方は特にないから好きに読んでね! あたしのオススメは、キルパンダ! あははは! あたしがのはヒグマだけどね!!」
「あーラノア、こいつは終始こんな感じだが、悪いやつではない……はずだ。皆はコディって呼んでいる」
「コディさんよろしくね!」

 私がにこやかにそう言うと、コディさんの動きがピタリと止まった。

『……うそ……このテンションでドン引きしないとか……すご』

 ええ……。

『じゃあ俺が最後か。よっす、俺は【ユンニャン】の長、谷瓜たにうりだ。呼び名はタニでいいぜラノア』

 軽鎧にシミターを二本腰にぶら下げた中年男性がそう言って、おどけた敬礼をした。渋い感じのおじさんだけど、頭からはアリのような触角が生えているし、群体名が可愛いせいで、なんかギャップを感じる。

『ちなみにユンニャンってのは……俺の飼ってる猫の名前だ! 可愛いだろ? 写真見るか?』
「タニ、それはまた今度だ」

 オビ1さんがそう言って締めた。

 【ラストオーダー】の内藤さん。
 【変わらぬ海】のポル爺さん。
 【カティ・サーク】のゆきさん。
 【殺猫熊】のコディさん。
  そして【ユンニャン】のタニさん。

 全員が何というか、濃いメンバーだ。

『あとの連中は……壊滅した』

 内藤さんがそう静かに言うと、オビ1さんが手を打って、立ち上がった。

「……そうか、仕方ない。……しかし少なくとも、ここに7つの群体が集まった。我々が持ち、他の群体にないメリット、それは人海戦術による情報収集能力だ。さらに【サーベラス】が加入して、打撃力も加わった。この、【Day1】、俺達でポイントを——根こそぎかっ攫うぞ」

 オビ1さんの発言にみんながそれぞれ違う方法で同意を示した。

「じゃあ皆で情報とマップを共有して、

 狩りという言葉に、私の身体が反応する。

 個が群れになろうが、やることは一緒だ。
 だから……私は思わず、こう言ってしまったのだった。

ならめちゃくちゃ得意です!」

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