前々前世オンライン 〜前世スピノサウルスだった私、ラスボス扱いされてて泣きたいけど鳴くしかできないから代わりに全プレイヤーを泣かしてやる

虎戸リア

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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】

62話「ガトリング渦鞭毛虫」

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 背後で着地する音が聞こえ振り向くと、ユーナちゃんが険しい顔で畳んだ日傘をまるで銃のように構え、パプリカさんに向けたままこちらへと歩いてきた。

「今更降参? あんた、自分が何やってるか分かってるにゃん!?」
「……何やら私の力で、皆さんが倒れていくのは知っています。それがどういった物かまでは知りません」

 力なく首を振るパプリカさんと、悔しそうに武器を納めた破隕ぱいん君が口を開いた。

「ゲームシステム上の奴じゃないのは知ってるよ。何度もパーティ内で試したからね。どうせバグだろ? 使える物はなんでも使う。でもパプリカさんが降参というなら僕は従う」

 その言葉に、ユーナちゃんが今まで見たことないような表情で激怒した。

「馬鹿者! バグだと? そんなわけないだろ! これはな、ハナガサクラゲの発光スキルと課金アイテムの宝石類の組み合わせによって生じた視覚毒だ! 明らかに様子がおかしかっただろうが! 君たちはあろうことかそれを利用した!」

 ユーナちゃんが言うには、視覚毒は特殊な光の色の組み合わせを一定のパターンで放つと生じるらしい。だけどその組み合わせ方が難しく、安定して人為的に起こすのは難しいそうだ。だけど、VR内では違う。直接その作用が脳に届く為、現実より起こりやすい。だから、それが起きないように私達が使用している機器については何度も試験や実験を行ったそうだ。

 今回視覚毒が起こった原因は——パプリカさんが大量に身に付けている宝石と彼女の前世ハナガサクラゲの発光スキルの併用。

 彼女のスキルから発せられる様々な色の光がこれまた様々な色の宝石内を通り、反射しそして視覚毒となって放たれていたのだ。

「え、視覚毒?」
「……まさか、そんな効果だなんて。破隕君、私はこのゲームを辞めます。あとで鈴木さんに謝らないと……」
「はい……それを利用してPKしようと言いだしたのは僕です。僕も辞めます」
「いいのよ、貴方は続けなさい。夢があるんでしょ?」
「だけど!」

 なんかパプリカさんと破隕君の2人が盛り上がってるけど、私は不完全燃焼だ。

「ええっと。降参するって言ってるけど、この場合ポイントはどうなるんだろう」
「ポイント譲渡は出来ない……わざと殺される以外は無理にゃん」

 その言葉に、パプリカさんが反応して、私とユーナちゃんへと目線を向けた。

「これまでこの力で倒した人には謝罪はするとして……その方々にポイントを戻す事は出来ません」
「じゃあよこすにゃん」

 おー、ちゃっかりそう言うユーナちゃん。

「それでは不公平でしょ? なので、イベントからログアウトします。こうすればポイントは消えるでしょう。いいわね破隕」
「はい」
「まあそれが妥当にゃん。ログアウトしたらすぐに運営に報告するにゃん。下手したら……このイベントは【Day1】で終わるにゃん」

 ユーナちゃんの言葉に無言で頷いたパプリカさん達が消えた。

「はああ……無駄足踏んじゃったね」
「そうでもないにゃん。ゲームの安全性の為なら仕方が無い」
「そうだね。あれってそんなにやばいんだね。私大丈夫かな?」
「一時的な物にゃん。脳にダメージ与えられるほどVR機器は自由じゃないにゃん。とはいえ、これが終わったら一度検査をオススメする。まあ大丈夫だと思うにゃん」

 なんて言っていると、誰かがこちらへと駆け寄ってくる音が聞こえた。

 私は斧槍を構え、ユーナちゃんが素早くそちらに日傘を向けた。

「ラノア! 無事やった!?」
「ミリー! なんとかね!」
「遅れてすまない。色々と手間取った」

 それはミリーと蔵人さんだった。
 
神聖猫姫ほーりーえんじぇる天使ユーナだにゃん。ユーナでいいにゃん。よろしくにゃん」

 ユーナがそう言いながら構えていた日傘をくるりと回して肩に乗せ、空いている方の手を2人に差し出した。

「ミリーや。ラノアが世話になった。うちは前世パンサーの近接アタッカー」
「蔵人だ。俺も軽量近接アタッカーで、前世はハシブトガラスだ」

 それぞれと握手しながら自己紹介を聞くユーナちゃん。

「あれ、そういえば、ユーナちゃんの前世って何?」
「おーほんまやな。見た目は普通の人間や。まあそういう前世もあるって聞いたけど」
「ユーナの前世は……渦鞭毛虫うずべんもうちゅうにゃん」

 はい?

「うずべん……なんて?」
「渦鞭毛虫にゃん。スキルから察するに渦鞭毛虫類のネマトディニウム属だと思うけど……このゲームでは渦鞭毛虫と略してるにゃん」

 うずべんもうちゅう! ねまとなんとか! 昆虫か何かかな?

「単細胞生物にゃん。凄く原始的な生物だけど、他の生物にない特徴があるにゃん」
「微生物やろ? 大して強くなさそうやけど」
「確か、レベルアップがしやすいのと進化させやすいのが特徴だった気がするが」

 
 ユーナちゃんが少し離れたところにある鉄塊へと向けて日傘を構えた。構えた途端、傘の一部が変形していく。持ち手が銃のような形になり、傘の部分がなんか機械仕掛けの弓のような形になっていく。

「おおおおおお!! なんやそれ!! 仕込み銃!? いや銃はこのゲームにないからそれボーガンか!」
「……すげええ! かっこいい!」

 まるで子供みたいにはしゃぐミリーと蔵人さん。
 いや確かに凄いと思うけど。

「ふふん。凄いのはここから——にゃん!」

 ユーナちゃんが赤く光り、そして日傘の先端からあのダーツが破裂音と共に放たれた。

「は?」
「ばかな!」

 破裂音が小気味良く連続し、それと共にダーツが放たれていく。

 赤い光が収まると共に、ユーナちゃんが引き金から手を離した。その途端日傘は元の形に戻る。

 鉄塊を見ると、刺さったダーツでハートの形を描いていた。凄い!

「うそやろ……ありえへん……連射出来る武器はまだ実装されてへんし、連射遠距離スキルは多くても2~3連射が限界のはずや! 撃ったら分裂するとかはあるけど……」
「今……12連射してたぞ……」

 絶句している2人に、ユーナちゃんが得意げな表情を浮かべた。

「これが! 渦鞭毛虫のみが持つスキル【ガトリング刺胞】にゃん! 遠距離武器を装備していると使えるスキルで、ランダムデバフ効果を付与する特殊な矢を10~15回連射するにゃん!」

 ガトリング……なんだか分からないけど、なんか凄いって事は理解できた私でした。
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