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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
ドワーフの名前は要注意! なものでした
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「あんな野蛮なドワーフの世話をウララがするなんて …… そうでなくとも、竜や吸血鬼やクソ王子に時間をとられてあまり一緒に居られないのに …… やっぱり世界は私を嫌っているんだ ……」
どんよりドヨドヨとリオールがいじける。
何やらクソとか聞き捨てならない言葉を聞いた気がして、暖は首を傾げる。
「リオール?」
「ウララ、あんな性根の腐った魔女の家なんか出て、私と一緒に暮らしましょう! そうすれば私がウララをどこにも出したりしません! 二人でずっと一緒に居られます!」
突如、リオールはとんでもないことを叫び出す。
暖は慌てて頭を横に振った。
「リ、リオール、落ち着いて!」
「私は十分落ち着いています」
「そんなはずがあるか!!」
ディアナの杖が、ポカリとリオールの頭を打った。
「人の家に押しかけて、あまつさえ当人を前に性根が腐っているとか言い出すエルフのどこが正気じゃ!」
プンプンと怒りながらディアナが怒鳴る。
そう、ここはディアナの家だった。
ドワーフのネモの世話が増え、最近あまりリオールの家に行けなくなった暖を訪ねて、今日はリオールの方から暖とディアナの家にきてくれたのだった。
うつ病で引きこもりがちなリオールが、自分から動いてくれたことにとても感激した暖だ。
「世界を滅ぼす力を持つトネリコの杖で私を殴るだなんて、ディアナ、やっぱりあなたは私を殺す気ですね?」
「死にたがりのくせに何を怒っておる。今すぐわしが引導を渡してやるから、とっとと往生しろ!」
「ウララを遺して私が死ねるはずがないでしょう?」
ね、ウララと、リオールはニッコリ笑う。
いったいどう反応して良いものか、暖は戸惑った。
(それにあの杖――――世界を滅ぼすって? ……私、普通にお布団干しとかで叩き棒代わりに使っていたんだけど?)
まさかそんな恐ろしいモノとは思わなかった。
(そんなものを家の中に転がしておかないで欲しいわ! 似たような杖が他にも五~六本あるけれど――――それはさすがに違うわよね?)
暖は思わず祈ってしまう。
「ウララ?」
返事のない暖をリオールは不安そうに見つめてきた。
「ア、ア、モチロン! リオール、死ナナイ嬉シイ!」
暖は慌てて答えた。
破顔一笑、リオールはとても美しく笑う。
「ウララ、その腐れエルフは死なないそうじゃ。これからはそいつの様子を見に行く必要はないぞ」
意地悪くディアナが言ってくる。
「何て事を言うんです! 私はウララの顔を一日見られなければ間違いなく死んでしまいます!」
「たった今、ウララより先には死なないと言ったばかりじゃろう!」
「会えなければ、生きていたって死んだも同然です!」
堂々と宣言するリオールに、ディアナは呆れ果てたように大きなため息をついた。
「こんな奴、相手をするのもバカバカしい。ウララお前も相手にするな。……それより、あのドワーフが自分の名前をお前に名乗ったと聞いたが、本当か?」
興味津々でディアナが聞いてくる。
いったい誰から聞いたのだろう?
(ウルフィアかしら? ウルフィアは、ディアナともおじいさんとも親しいものね)
そう考えた暖は、別に隠すことでもないからとディアナに「ハイ」と返事をする。
「ニモ……ではなくて、ネモって聞きました」
彼女の返事にディアナは満足そうに頷いた。
一方、リオールはひどくびっくりする。
「ドワーフは非常に閉鎖的な種族です。もともと地中で暮らし外の世界を極端に嫌ってきた彼らは、自分が心を許した者にしか名前を教えないし呼ばせません」
リオールの言葉に、暖は目を丸くする。
「まあ、それだけウララを気に入ったんじゃろう。じゃが、教えられたからと言ってあまりうかうかとドワーフの名前を呼ぶでないぞ。許可もないのにうっかり名前でも呼ぼうものなら、たちまち殺されてしまうのじゃからな」
「エ?」
ディアナの忠告を聞いて、暖はびっくりして固まった。
(名前、呼んだけど……)
それどころか間違って呼んでしまった。
(あ、でも……ってことは、私、まだ正しい名前は呼んでいないわよね。ギリギリセーフ?)
不安いっぱいになりながら、暖はディアナに確認する。
「ソレッテ、名前、呼ビ間違エテモ、ダメ?」
「大切な名前を呼び間違えられでもしようなら、百回は殺されるじゃろうな」
大真面目な顔で、ディアナは断言してくれた。
暖の顔は蒼白になる。恐怖でこぼれそうな涙を必死でこらえた。
そんな彼女の様子に、ディアナとリオールは首を傾げる。
「どうした?」
「ナ、名前、間違エタ。殺サレル ……」
ディアナとリオールはポカンとした。
「ドワーフの名前を間違えたのか?」
コクコクと頷く暖を、彼らは信じられないように見つめた。
それなら、何故暖は無事にここにいるのだろう?
プルプルと震える平凡に見える少女が、それゆえに不思議だった。
やがて……
ディアナは、ガハハと笑い出す。
「そうか、そうか。……間違って呼んだか」
「笑イ事、違ウ!」
「いやいや、大笑いするところじゃろうて」
ディアナは心底楽しそうだ。
「あのドワーフめ、なんて手の早い! ウララやっぱり私と一緒に暮らしましょう!」
訳のわからない事を言いながら、リオールがガシッ! と暖の手を握る。
「ソレヨリ、私、死ンジャウノ?」
暖の心配を他所に、ディアナは笑い続けた。
「やっぱり花冠を!」
叫ぶリオールを、ディアナがまた杖で殴った。
どんよりドヨドヨとリオールがいじける。
何やらクソとか聞き捨てならない言葉を聞いた気がして、暖は首を傾げる。
「リオール?」
「ウララ、あんな性根の腐った魔女の家なんか出て、私と一緒に暮らしましょう! そうすれば私がウララをどこにも出したりしません! 二人でずっと一緒に居られます!」
突如、リオールはとんでもないことを叫び出す。
暖は慌てて頭を横に振った。
「リ、リオール、落ち着いて!」
「私は十分落ち着いています」
「そんなはずがあるか!!」
ディアナの杖が、ポカリとリオールの頭を打った。
「人の家に押しかけて、あまつさえ当人を前に性根が腐っているとか言い出すエルフのどこが正気じゃ!」
プンプンと怒りながらディアナが怒鳴る。
そう、ここはディアナの家だった。
ドワーフのネモの世話が増え、最近あまりリオールの家に行けなくなった暖を訪ねて、今日はリオールの方から暖とディアナの家にきてくれたのだった。
うつ病で引きこもりがちなリオールが、自分から動いてくれたことにとても感激した暖だ。
「世界を滅ぼす力を持つトネリコの杖で私を殴るだなんて、ディアナ、やっぱりあなたは私を殺す気ですね?」
「死にたがりのくせに何を怒っておる。今すぐわしが引導を渡してやるから、とっとと往生しろ!」
「ウララを遺して私が死ねるはずがないでしょう?」
ね、ウララと、リオールはニッコリ笑う。
いったいどう反応して良いものか、暖は戸惑った。
(それにあの杖――――世界を滅ぼすって? ……私、普通にお布団干しとかで叩き棒代わりに使っていたんだけど?)
まさかそんな恐ろしいモノとは思わなかった。
(そんなものを家の中に転がしておかないで欲しいわ! 似たような杖が他にも五~六本あるけれど――――それはさすがに違うわよね?)
暖は思わず祈ってしまう。
「ウララ?」
返事のない暖をリオールは不安そうに見つめてきた。
「ア、ア、モチロン! リオール、死ナナイ嬉シイ!」
暖は慌てて答えた。
破顔一笑、リオールはとても美しく笑う。
「ウララ、その腐れエルフは死なないそうじゃ。これからはそいつの様子を見に行く必要はないぞ」
意地悪くディアナが言ってくる。
「何て事を言うんです! 私はウララの顔を一日見られなければ間違いなく死んでしまいます!」
「たった今、ウララより先には死なないと言ったばかりじゃろう!」
「会えなければ、生きていたって死んだも同然です!」
堂々と宣言するリオールに、ディアナは呆れ果てたように大きなため息をついた。
「こんな奴、相手をするのもバカバカしい。ウララお前も相手にするな。……それより、あのドワーフが自分の名前をお前に名乗ったと聞いたが、本当か?」
興味津々でディアナが聞いてくる。
いったい誰から聞いたのだろう?
(ウルフィアかしら? ウルフィアは、ディアナともおじいさんとも親しいものね)
そう考えた暖は、別に隠すことでもないからとディアナに「ハイ」と返事をする。
「ニモ……ではなくて、ネモって聞きました」
彼女の返事にディアナは満足そうに頷いた。
一方、リオールはひどくびっくりする。
「ドワーフは非常に閉鎖的な種族です。もともと地中で暮らし外の世界を極端に嫌ってきた彼らは、自分が心を許した者にしか名前を教えないし呼ばせません」
リオールの言葉に、暖は目を丸くする。
「まあ、それだけウララを気に入ったんじゃろう。じゃが、教えられたからと言ってあまりうかうかとドワーフの名前を呼ぶでないぞ。許可もないのにうっかり名前でも呼ぼうものなら、たちまち殺されてしまうのじゃからな」
「エ?」
ディアナの忠告を聞いて、暖はびっくりして固まった。
(名前、呼んだけど……)
それどころか間違って呼んでしまった。
(あ、でも……ってことは、私、まだ正しい名前は呼んでいないわよね。ギリギリセーフ?)
不安いっぱいになりながら、暖はディアナに確認する。
「ソレッテ、名前、呼ビ間違エテモ、ダメ?」
「大切な名前を呼び間違えられでもしようなら、百回は殺されるじゃろうな」
大真面目な顔で、ディアナは断言してくれた。
暖の顔は蒼白になる。恐怖でこぼれそうな涙を必死でこらえた。
そんな彼女の様子に、ディアナとリオールは首を傾げる。
「どうした?」
「ナ、名前、間違エタ。殺サレル ……」
ディアナとリオールはポカンとした。
「ドワーフの名前を間違えたのか?」
コクコクと頷く暖を、彼らは信じられないように見つめた。
それなら、何故暖は無事にここにいるのだろう?
プルプルと震える平凡に見える少女が、それゆえに不思議だった。
やがて……
ディアナは、ガハハと笑い出す。
「そうか、そうか。……間違って呼んだか」
「笑イ事、違ウ!」
「いやいや、大笑いするところじゃろうて」
ディアナは心底楽しそうだ。
「あのドワーフめ、なんて手の早い! ウララやっぱり私と一緒に暮らしましょう!」
訳のわからない事を言いながら、リオールがガシッ! と暖の手を握る。
「ソレヨリ、私、死ンジャウノ?」
暖の心配を他所に、ディアナは笑い続けた。
「やっぱり花冠を!」
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