お願い神様っ! どうにかしてッッ!!

むらくも

文字の大きさ
3 / 9

【記録3】頼むから!巻き込まないで!!

しおりを挟む
 魔力が減ってないって分かったせいで、リレイがしてくれてた魔力の補充が無くなってしまった。
 補充つってもやってることはキスなんだけど……気持ち良くてコッソリ楽しみにしてたのに、身体が軽い嬉しさで余計なことを言ってしまった。
 キスのお預けを食らって思ったよりショックを受けた自分が情けなくて、逃げるみたいに外に出て。体動かして落ち着いた頃に帰ってきたらリレイとイチェストが二人っきりで向かい合ってた。
 ……ちょっと動いたらキス出来そうな距離で。
 頭に血が昇って色々喚いたと思う。だって、我慢出来なかったから。そんな至近距離で見つめあってた事も、相談事の相手に自分よりイチェストを選んだことも。
  
「で、何相談してたんだよ」
 部屋に戻って問い詰めると、リレイはへらっと笑った。
「まぁ、ちょっとな」
「ちょっとならオレにだって話せるだろ!? 何でいっつも頼ってくんないんだよ!」
 相棒はいつもそうだ。黙って考えて、一人で決めて、知ってる事を教えてくれない。教えてくれたと思ったら……急に自分を置いていってしまう。
 また何か悩んでるなら居なくなる前に聞き出さないと。怖い。また部屋に一人ぼっちになったりしたら立ち上がれるか分からない。
「……本当に言っていいのか?」
「そう言ってんだろ!」
 そんなオレの気持ちなんか知らないで、リレイはちょっとニヤつきながら見つめてくる。腹立ち紛れに答えると「そうか」って頷いてハッキリとにんまり笑った。
「なら……ハーファとキスがしたい」
「……は?」
「毎日していたから、キスをしないと物足りない」
「あ……それ、は」
 オレも同じことを考えてた。嬉しい。リレイもあの時間が惜しいと思ってくれてるんだ。
 
 なら自分からしてもいいだろうかと相棒に近付くと、リレイの様子が少しおかしいことに気が付いた。高揚してるっていうか、興奮してるというか……いつも胡散臭い笑顔浮かべてて、あんまり感情が読めるタイプじゃないのに。
「ハーファを押し倒して、生まれたままの一糸纏わぬ姿にさせて、啼かせたい」
「え……?」
 にんまり微笑んだまま、リレイはじりじりと寄ってくる。
 裸一貫にされて泣くほど虐め抜かれるっていうのか。相棒をそんなに怒らせてしまったんだろうか。全然身に覚えがない。
 そもそもリレイが本気で怒ることなんて滅多に無い。今日だってずっと優しかったのに。
「お、オレ……拷問される程のことしでかしてたか……?」
 恐る恐るリレイに尋ねてみると、拷問?と一瞬キョトンとして、ぶはっと吹き出した。
「そうじゃない。ハーファと裸で抱き合いたい。キス以上の事をしたいんだ」
 何か全然違う回答が返ってきた。何だよ紛らわしいな。
 でも……キス以上って、その。
 前に言ってた、最後まで……って、やつ、だよな、これ。
「っ……な、なんつー相談してんだよ……」
「話せと言っただろう? なぁ。ハーファと一線を越えた関係になるには、どうしたら良いと思う?」
 真っ赤になるオレにニヤニヤ笑いながら、リレイはじっとこっちを見つめていた……。
  
  
「ってさぁ! 何でオレにそんなこと聞くんだってんだよ!」
「ハーファが相談しろって言ったからだろ」
「言ったけど! あんなのどうしたらいいんだよ!!」
 わーわー喚く仲間の声をBGMに、今度はこっちかよと内心げんなりしながらページをめくった。
 何でいちいち俺挟むんだよ……良い仲なんだから当人同士で解決してくれよ……。
「したいならすりゃいいし、したくないならしなきゃいいだろ」
 のんびり読書に耽っていた所を邪魔され、イチェストは少しふて腐れ気味である。
「そ、れはそう、だけど……オレそういうの全然だし……」
「それこそトルリレイエに教わればいいだろ。恋人なんだし」
 むしろ初な反応を楽しんでいる様に見えるし、ハーファが恥じるほどの事ではないと思われる。いっそ喜んでアレコレ教え込みそうだ。
 そういうの詳しそうだし……というのは辛うじて言わずにおいた。余計な火種にはなるまい。
「イチェストはその、キス以上のこと……具体的に知ってるか?」
「まぁ俺も男の子なんで? お子様なハーファとは違うのだよ」
 ちょーっと熱心に市中のエロ本でオベンキョーした程度だけどな!
 神殿は潔癖な上長が多いし、神官兵は魔物退治やら警備やら内務の助っ人やらこき使われるし。信徒の皆さんやシスターに手を出そうものなら大騒ぎになるし、情報源はそれくらいしかない。実地なんてもっての他。
 逆に冒険者は開けっ広げにそういうお色気サービスが普通にあって、驚かされまくってるけど……。
  
「教えてくれ」
  
 ちょっと思考を飛ばしてる間に、ハーファがすぐそこまでやって来ていた。
「ん? 何を」
「キス以上のこと。どうすんのか具体的に教えてくれ」
 待ってくれ、地雷が真っ正面から向かってくるんだが??
「絶対嫌だ。ろくなことにならないの目に見えてるし」
「何でだよ! こんなこと頼めるのイチェストしかいねぇんだよ。なぁ」
 頼むなそんなこと! どーせエロ本渡したってよく分からんって言い出すんだろお前!
 神官兵辞める前だって、ハーファはエロ本に興味津々だった俺らをスルーして訓練していた。元々興味の薄かった事を教えるのは骨が折れるし、ハーファの場合は恋人サマにばれたら本気で棺桶の中へ頭からねじ込まれそうだ。
  
 …………。 
 うん、ダメだ。断固拒否。拒否に限る。 
「大体何で俺なんだよトルリレイエに手取り足取り腰取り教えて貰えって」
「恋人に一からお任せで全部教えて貰うとか、カッコ悪いじゃねーか! なぁ頼む!」
「はぁー!? キスすら初めてだった奴が今更何気にしてんだよ!」
 キスが初めてなら普通にその先も初めてだろうが! というか変に手慣れてたら血眼になって犯人捜し始めるだろあの魔術師!!
 ……そこまで考えて、余りにも現実味がある妄想に早くも背筋がゾッとした。
「俺だって神殿暮らししてんだから詳しい訳じゃ無いしっていうか男同士の事なんか知らな……おいコラ乗って来んな!」
 俺が逃げようとしたのに気付いたのか素早く膝の上に乗ってきた。格闘スタイルなせいか戦闘職の割に身軽なハーファだけど、やっぱり筋肉のついた体は少し重くて身動きがとれない。
 何とか逃げ出そうと悪戦苦闘してると、やたら真剣な顔がずいっと近付いてくる。
 お前トルリレイエと俺が近いだの何だの喚いてただろ……我が振り直せよ……。 
「頼む! キス以上の事もしたいんだ!!」
 大声で変なこと言うんじゃねぇ――ッッ!
 咄嗟に声が出なくて心の中で思いっきりそう叫んだ瞬間。
  
  
「……へぇ?」
  
 恐ろしく冷ややかで低い声が、部屋の中に響いた。
 
  
「あ……リレイ、お帰り」
 お帰りじゃねぇよバ――――――カ!!
 事の重大さがまるで分かってない風のハーファに心の中とはいえ中指を立ててしまった。
 お前が俺の上に乗っかって「キス以上の事もしたいんだ!」はどう考えてもヤバイだろ! 棺桶が一気に近付いて来ただろ俺に!! 
「ハーファ。イチェストと一体何をするつもりだったんだ?」
「えっ。あの、それは……えっと」
 リレイにじっと見つめられて、ぼ、とハーファの顔が一気に赤くなった。
  
 いやお前すげぇよ、こんだけ怒ってますって気配出してる相手に照れてるだけで済んでるお前は本当に凄い。【眼】の能力使ってないとマジでポンコツ。むしろ使ってても鈍感すぎて分かってなさそう。
 ちょっとはビビれよ。その態度は絶対誤解されたぞ今。
「っ……な、なんでもないっ! オレっ……部屋戻る!」
「は? あっおいっ! 一人で逃げんなァァァアッ!!」
 顔を赤くして部屋を出ていくハーファに血の気が引いた。こんな誤解まみれの状況にトルリレイエと置いておかれたら精神の磨耗で死んでしまう。
 必死でハーファに続いて部屋を出ようとした……けれど。
「イチェスト」
 遅かった。物凄い勢いで魔力の壁が出口を塞いで、後ろからガッと腕を捕まれる。
 盾の神官兵専門職でもないのに障壁張るのがお早いことで……。
「…………ナンデゴザイマショウカ」
「吐け。事の経緯を洗いざらい、包み隠さず」
 向けられる声は低いを通り越してドスが利いている。俺の腕を掴んで見上げているであろうトルリレイエの顔を、とても真正面からは見られなかった。
 
 ……悪いな、ハーファ。
 置き去りで逃げられた俺に、お前に関する守秘義務を守る気は一切無いからな!!  四の五の言ってないでさっさと腹括れバーカバーカ!!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...