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再出発
43.出立
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どこ行くんだよと文句をタラタラこぼしながらついてくるイチェストへ適当に返事をしながら、門の方へと向かっていく。
こうなったら最初は好きな所に行かせてもらおう。
もやもやする気持ちから逃げるように、いつか行きたいと話していた候補地を思い浮かべていく。
冒険資金を貯めるための一攫千金アイテム探し、珍しい植物の生息地である深い森……いや、これはリレイの行きたい場所だから却下だ。自分の希望を通してもらわないと意味がない。
「あ」
ひとつだけあった。
噂に聞いてた珍しい場所。
「なぁなぁ、こないだ話してた山に行こうぜ! 雲の海が見れるってアレ!」
後ろから追いついてきた足音に気付いて振り向くと、予想どおり相棒の姿があった。急に話しかけたからか少しキョトンとしたけれど、ああ雲海か、と小さく頷いている。
大陸の北東にある山で出現するという雲の海。
港町で足止めされてた時に話してた場所だ。普段は見れない事も多いのに、今の季節ならよく見れるらしい。
あの時は少し早かったけど今は季節も合ってるし、せっかくなら行ってみたい。
ハーファの提案になるほどと頷いてくれる相棒だったけど。
「却下ー! 今から行くのは大湿地のレア薬草探しでーす!」
割って入ってきた声が邪魔をする。腹の立つ事にちょっとニヤニヤしながら。
湿地といえば、その名のとおりジメジメして足場が悪い。あちこち動き回る戦闘スタイルのハーファとは相性が最悪の地形。
東の森で散々転倒した悪夢のような悪戦苦闘を思い出し、顔が自然と強張っていく。湿地はあれよりも格段に足場が酷い可能性があるのだ。
「何でよりによって動きづらい沼なんかに行かなきゃなんねーんだよ!」
「神殿の役務優先だって説明あっただろ! 仮にも元神官兵なら大人しく泥にまみれて働けっ!」
上手いこと言ったつもりなのか、イチェストは少しドヤ顔でふんぞり返る。
けれどこっちは大神殿に散々な目に遭わされたのだ。しかも言うことを聞いてずっと神殿で大人しくしていたのに、復帰一発目がそんなエリアなのも慈悲がなさすぎる。
とても素直に頷く事は出来なくて、諦めずに食い下がる。
すると向こうも何だかんだで無理強いはしづらいらしい。段々と飛んでくる言葉がもごもごとし始めた。
もう少し押せばいける。
そう思った瞬間、イチェストの顔がくるりと違う方向を向いた。急に何だとその視線を追うと、地図と書面を見比べているリレイの姿がある。
セコい。人の相棒に頼りやがった。
「ふむ……確かこの大湿地の近くに温泉があるな」
「おんせん?」
不満を言いそうになった所へ聞き慣れない単語が耳へ飛び込んできて、思わずそっちへ反応してしまう。思う壺だと分かってはいるけれど……一度引かれた興味はなかなか止まらない。
「地面から湧き出した湯で作った風呂の事だ。湿地の汚れはそこで落とそう。美味い食べ物もあるらしいし」
「美味いもの」
近寄るのを見越したようにリレイの説明が始まって、最後の最後に決定打が決まった。丁度味気のない神殿の食事に飽きていた所だ。その誘惑はあまりにも威力がでかい。
でも。
「……ホントだろうな?」
リレイには約束を破られた前科がある。
置いてけぼりにされた記憶もまだ強い。信じたいけれど、まだ少し手放しで信じきるのは難しい。
少しの不安が伝わってしまったのか、相棒は少し寂しそうな表情を浮かべた。けれどすぐにいつもの顔に戻る。
「行ったわけじゃないがな。湯の蒸気を利用した色々な風呂はもちろん、蒸し料理や菓子が充実していると聞いた」
見たことのない温泉とやらへの好奇心と食の誘惑に、固くなっている心がぐらぐらと揺らぐ。
嘘つき魔術師の大法螺かもしれないし、リレイに話した奴らの誇大表現かもしれない。そう頭では思うのに。
「神殿仕事の後は一緒に湯めぐり食めぐりといこうじゃないか、相棒」
にんまりと胡散臭く笑う顔から出る言葉すら嬉しくて、ぐらりと揺れてしまう。
「………………約束だからな」
「ああ。今度こそ約束だ。二人でゆっくり入ろう」
絶対嘘だ。この流れだと大所帯の移動になるに決まってる。
そうは思っていても、軽く頬に触れたリレイの唇の感触が揺れているハーファにとどめをさした。悔し紛れに唸りながら相棒を睨む。
「絶対だからな……仕方ないから働いてやる」
「ん。よし、行こうか」
「次に約束破ったら絞めて落とすからな!」
精一杯の脅しにも、物騒だなと一言言って笑うだけ。そんな事は出来やしないと思われてるのか、もしかして本当にそのつもりなのか。じっと見つめてみても全然分からない。
そのつもりで、あってほしい。
そんな希望を持ちながら頬に鼻先を寄せると、リレイの手がゆったりと頭を撫でてくる。
「今度こそ一緒に、な」
低く囁いた唇がそっとハーファの唇と重なって、甘く微笑む顔がじっと見つめてくる。そんな相棒を前にすると、これ以上の言葉は出てこなくなってしまった。
こうなったら最初は好きな所に行かせてもらおう。
もやもやする気持ちから逃げるように、いつか行きたいと話していた候補地を思い浮かべていく。
冒険資金を貯めるための一攫千金アイテム探し、珍しい植物の生息地である深い森……いや、これはリレイの行きたい場所だから却下だ。自分の希望を通してもらわないと意味がない。
「あ」
ひとつだけあった。
噂に聞いてた珍しい場所。
「なぁなぁ、こないだ話してた山に行こうぜ! 雲の海が見れるってアレ!」
後ろから追いついてきた足音に気付いて振り向くと、予想どおり相棒の姿があった。急に話しかけたからか少しキョトンとしたけれど、ああ雲海か、と小さく頷いている。
大陸の北東にある山で出現するという雲の海。
港町で足止めされてた時に話してた場所だ。普段は見れない事も多いのに、今の季節ならよく見れるらしい。
あの時は少し早かったけど今は季節も合ってるし、せっかくなら行ってみたい。
ハーファの提案になるほどと頷いてくれる相棒だったけど。
「却下ー! 今から行くのは大湿地のレア薬草探しでーす!」
割って入ってきた声が邪魔をする。腹の立つ事にちょっとニヤニヤしながら。
湿地といえば、その名のとおりジメジメして足場が悪い。あちこち動き回る戦闘スタイルのハーファとは相性が最悪の地形。
東の森で散々転倒した悪夢のような悪戦苦闘を思い出し、顔が自然と強張っていく。湿地はあれよりも格段に足場が酷い可能性があるのだ。
「何でよりによって動きづらい沼なんかに行かなきゃなんねーんだよ!」
「神殿の役務優先だって説明あっただろ! 仮にも元神官兵なら大人しく泥にまみれて働けっ!」
上手いこと言ったつもりなのか、イチェストは少しドヤ顔でふんぞり返る。
けれどこっちは大神殿に散々な目に遭わされたのだ。しかも言うことを聞いてずっと神殿で大人しくしていたのに、復帰一発目がそんなエリアなのも慈悲がなさすぎる。
とても素直に頷く事は出来なくて、諦めずに食い下がる。
すると向こうも何だかんだで無理強いはしづらいらしい。段々と飛んでくる言葉がもごもごとし始めた。
もう少し押せばいける。
そう思った瞬間、イチェストの顔がくるりと違う方向を向いた。急に何だとその視線を追うと、地図と書面を見比べているリレイの姿がある。
セコい。人の相棒に頼りやがった。
「ふむ……確かこの大湿地の近くに温泉があるな」
「おんせん?」
不満を言いそうになった所へ聞き慣れない単語が耳へ飛び込んできて、思わずそっちへ反応してしまう。思う壺だと分かってはいるけれど……一度引かれた興味はなかなか止まらない。
「地面から湧き出した湯で作った風呂の事だ。湿地の汚れはそこで落とそう。美味い食べ物もあるらしいし」
「美味いもの」
近寄るのを見越したようにリレイの説明が始まって、最後の最後に決定打が決まった。丁度味気のない神殿の食事に飽きていた所だ。その誘惑はあまりにも威力がでかい。
でも。
「……ホントだろうな?」
リレイには約束を破られた前科がある。
置いてけぼりにされた記憶もまだ強い。信じたいけれど、まだ少し手放しで信じきるのは難しい。
少しの不安が伝わってしまったのか、相棒は少し寂しそうな表情を浮かべた。けれどすぐにいつもの顔に戻る。
「行ったわけじゃないがな。湯の蒸気を利用した色々な風呂はもちろん、蒸し料理や菓子が充実していると聞いた」
見たことのない温泉とやらへの好奇心と食の誘惑に、固くなっている心がぐらぐらと揺らぐ。
嘘つき魔術師の大法螺かもしれないし、リレイに話した奴らの誇大表現かもしれない。そう頭では思うのに。
「神殿仕事の後は一緒に湯めぐり食めぐりといこうじゃないか、相棒」
にんまりと胡散臭く笑う顔から出る言葉すら嬉しくて、ぐらりと揺れてしまう。
「………………約束だからな」
「ああ。今度こそ約束だ。二人でゆっくり入ろう」
絶対嘘だ。この流れだと大所帯の移動になるに決まってる。
そうは思っていても、軽く頬に触れたリレイの唇の感触が揺れているハーファにとどめをさした。悔し紛れに唸りながら相棒を睨む。
「絶対だからな……仕方ないから働いてやる」
「ん。よし、行こうか」
「次に約束破ったら絞めて落とすからな!」
精一杯の脅しにも、物騒だなと一言言って笑うだけ。そんな事は出来やしないと思われてるのか、もしかして本当にそのつもりなのか。じっと見つめてみても全然分からない。
そのつもりで、あってほしい。
そんな希望を持ちながら頬に鼻先を寄せると、リレイの手がゆったりと頭を撫でてくる。
「今度こそ一緒に、な」
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