芽吹く二人の出会いの話

むらくも

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ゆらぎ

18.違和感

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 ……気を付けないとって……さっき言ったばっかなのにな……。
 
「全く。投与する抑制剤のストックを切らす奴があるか」
 腕組みで説教を始めたのは、さっき二手に別れたはずの生徒会長様。
 少なくなってた薬の補充を間違えて、効き目の薄いやつばっか持ってたのがそもそもの原因だ。強めのを使おうと思ったけど手元に無くて、危うく特効薬を使わないといけなくなりそうだった所を助けられて説教に至る。
「……行家?」
「っ……」
 説教は仕方ない。薬の管理はしっかりしろと散々言われてたのにミスってしまった。特効薬はよく効くけど負担が大きいらしい。オレのしくじりで、苦しんでる奴に余計な負担をかけるところだったんだ。
 ただ、その……熱い。んでもって正座してると痛い。股間が。
 段々話どころじゃなくなってきてしまった。
「……最近よく当てられている様だが、薬は効果が薄くなってるか」
 オレの情けない状態に気付いたのか、仁科儀先輩がじっと顔を覗き込んでくる。しかも少し心配そうな顔で。
 マジで勘弁してほしい。この状況、情けなさすぎる。
「だい、じょぶ、です」
「大丈夫じゃないな。ほら、壁にもたれろ」
「ひ、ひとりで、する……っ」
 じりじり寄ってくるから思わず後退った。でも上手く手足に力が入らなくて、あっという間に追い込まれて。
「大人しく言うことを聞け。それとも押し倒されたいか?」
 ……そう言われた頃には、すぐ後ろが壁になっていた。

 
 鍵のかかった教室に自分の荒い息が響いている。
 下着の中に突っ込まれた手が固くなってるオレのを擦って、足が震えて止まらない。
「んッ、く……ぅ……っ!」
 握り込まれたのが外に引っ張り出されると、びくんと体がひきつってオレのが限界に達した。
 出すもの出したのにまだ少し固い。全然収まらない。むしろ出してぐちゅぐちゅと水気のある音が加わったせいで、余計に固く熱くなっていく。
「下半身がすぐ元気になるな。本当にどうした?」
「しら、な……っあ……! ぁ、あ……」
 仁科儀先輩の不思議そうな顔がこっちを見るけど、オレはひたすら知らないって呟きながら首を横に振る。聞かれたって分かる訳がない。
 いつもはこんなんじゃないのに。一回抜いたら普通に戻るのに。何回も立つのはヒートの時だけなのに。
 まだヒートが来る時期じゃない。薬だってちゃんと飲んでるし、予防活動するようになって飲み忘れも無くなってきた。なのに何で。
「そう気持ち良さそうな顔をされるとやりがいがあるが」
 そんな事言われながらまじまじ顔を見られると恥ずかしさが半端ない。
「う、るさ……っひ!」
「ふふ、悪態になってないぞ」
 心配そうな顔が意地悪な表情になったと思ったら、きゅうっと少し強めに握り込まれてちょっと痛い。だけどすぐに力は抜かれて、親指が端をゆっくり撫でてくる。
「ん、ン、っ……ぁぁ、っ……!」
 ぞくぞくっと背筋を電気みたいなのが駆け上がって、自分のか分からないくらい弱々しい声がこぼれてくる。
 力が入らない。苦しい。気持ちいいけど、気持ちいいのになかなか終わらなくて苦しい。
「……こうして見ると意外と可愛いな。普段の生意気な顔が嘘みたいだ」
 人が必死な思いしてるのに仁科儀先輩は斜め上な事を言い始めた。おまけに顔を上げさせられて息が吸いづらい。
 至近距離でじっと見つめられて、かあっと頬が熱くなっていく。負けるもんかと睨もうとするけど顔にすら力が入れられない。
「っ、この……見んなぁ……ッ!」
「やれやれ、我が儘な協力者殿だ」
 何とか言葉だけ吐き出したけど我ながら何の迫力もない。困ったように微笑み返されて終わってしまった。
 最初の時みたいに誘導されて頭が仁科儀先輩の肩に乗る。後ろ頭を撫でられると頭がふわふわしてきて、また何も考えられなくなって。
「っ、う……っ、あぁ……ッ」
「じき落ち着く。大丈夫だ、力を抜け」
 耳元で揺れる優しい声。
 それに助けを求めるみたいに両手が華奢な背中にすがり付いて、気持ちよさに振り回される自分を何とか繋ぎ止めていた。


 何度も抜いて貰って、やっとのことで落ち着いた頃。仁科儀先輩の携帯が鳴った。
 緊急呼び出しに応えて教室を出ていく仁科儀先輩の背中を見送って、ごろんと床に一人転がった。
「……やっぱりだ……」
 手に触れる板張りのひんやりした感触。ちょっとホコリ臭いけど、抜いて貰ってた熱の余韻が残る体に気持ちいい。
 ヒート中のΩに遭遇しても下半身はそこまで反応しないみたいだった。多少熱くなる程度ですぐ治まる。酷くなる時はいつも時間差で。
 
 ――仁科儀先輩が居る時だけだ。
 
 どうしようもなくなって動けなくなるのは、決まってあの人が近くに居る時。βだけどα寄りって言ってたし、ひょっとしたら離れた方がいいのかもしれない。
 だけど。
「…………気持ちい、んだよな……」
 自分で触ったんじゃああはならない。性欲に飲まれるっていうヒート期間中ですら抜くのはめんどくさいだけだったのに。
 今回はずっと気持ちよかった。苦しかったけど。
 自分と違う手の温度や少し甘い香水が気持ちよくて、予想のつかない動きが刺激的で。
 
「先輩のせいって……決まった訳じゃないし」
 すっかりあの時間がくせになっていたオレは、疑惑から目を背けてしまったのだった。
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