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番
23.思慕
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ぐちゅぐちゅと、水気のある音が教室の隅に響く。
「っあ……っ、ぅ……!」
いつの間にか膝の上に座らせられた状態で、後ろから身体中を撫で回されていた。下着から引っ張り出された自分のそれを擦られて、溜め込んでいた熱を吐き出す。
仁科儀先輩に触れられている今の状況は、まるで少し前に戻ったみたいだ。
……でも、違う。
もう自分にそんな権利はない。全部投げ出してしまったから。
冷静さが戻ってきた頭は、達した幸福感に甘く沈んでいた心を冷たい空気の中に引き上げていく。
「役立たず相手にこんな面倒なことしないで……さっさと鎮静剤飲ませれば良かったのに」
今まで慰めて貰えていたのは先輩の役に立っていたからだ。先輩の要請に応えて働いていたから、その影響で熱くなった身体を慰めてくれていた。いわばご褒美だ。
だって……ヒートなら薬で鎮められるんだから。ヒートさえ落ち着かせてしまえば、下半身は自分で抜かせれば済むはずなんだ。
なのにこんな触り方するのは、勘違いしそうなことするのは、止めてほしい。
もう任せられないって。オレは役に立たないって言ったのは先輩なのに。あの時質問したのはオレだけど、はっきりそう返したくせに。
どこか拗ねたような感情に突き動かされて、気付けば憎まれ口を叩いていた。
だけど仁科儀先輩は何も言わない。ただ後ろから回された腕に少し力がこもって。
「いッ!?」
ガリ、と項に痛みが走った。
一度じゃない。ガリガリと何度も何度も、固い感触が項の肉を噛む。αはそういう習性があるらしいけどβの先輩がどうして。
困惑に負けて後ろから自分を抱き締めているその人の顔を覗き込んだ。
「俺がαなら、いっそ番にしてしまえるのに」
そう口元を笑みの形に歪める仁科儀先輩の目は笑ってなかった。何だか悲しそうな光を揺らめかせながらこっちを見ている。
「手伝いなんかどうでもいいんだ。どうしたらお前は側に居てくれる? どうしても……どうしても、手放したくないんだ」
なんだ、これ。
「お前の体温が恋しい。抱きしめ合いたい。キスがしたい。今みたいに触れていたい。あの日みたいに……もう一度深いところで繋がりたい」
じっとオレを見る先輩から浴びせかけられる言葉が、ぱちんぱちんと耳の中で弾けて響く。
頭が追い付かなくて言葉が出てこないどころか顔の筋肉ひとつ動かせない。呆然と固まったまま目の前の顔を見つめてると、その目からぼとぼとと水が落ちてきた。
「お前が欲しい。お前じゃないと嫌だ。なのに居なくなってしまった。どうすればいいか何処にも書いてない……一体どうしたら……俺だけのものになってくれるんだ」
――泣いてる。あの、仁科儀冬弥が。
きゅっと一文字に震える唇を引き結んで、喉の奥に声を押し込めて。じっと動かずにこっちをただ見据えている。
ひゅ、と思わず息を飲んだ。向けられた言葉がじわじわと頭を痺れさせていく。
都合よくオレが見てる夢じゃないのか。
夢なのか現実なのか確かめるみたいに恐る恐るキスをして。正面から抱き寄せると、するりと先輩の腕が抱き返してきた。
「逃げるなら今の内だからな……その気がないなら妙な期待をさせてくれるな」
「……逃げるつもりなら、こんな事しない」
少し詰まったような声に答えると、ぱっと涙でぐしょぐしょになってる顔がオレを見た。ぬぐってもまだ涙が落ちてきて、乾ききることは無さそうだ。
ゆらゆらと水気に滲む瞳はじっと不安げな視線を向けてくる。
「行家……」
「やっぱオレをおかしくしたのはアンタだ。しつこく追いかけ回したり……その、抱いたり、して……その気にさせたから」
言葉に詰まる。やっぱり恥ずかしい。
でも、言わないといけない。これを逃したら次なんてないような気がする。
「だから、ちゃんと責任取れ。役立たずでも、たぶらかした責任とって側に居ろよ」
何とか言い切った瞬間、しん、と気まずい沈黙が落ちた。
……何か……思ってたのと自分の言葉が違う。
こんなはずじゃなかった。先輩の側に居たいって言いたいだけなのに。これじゃ全然伝わらない。
慌てて言葉を継ぎ足そうと仁科儀先輩を見る。
すると、はらはらと涙を落としていた瞳がゆるりと目尻を下げた。しずくに濡れているその顔ははっきりと微笑んでいる。
「責任は取る。手放したりしない」
ぎゅうっと強く抱き締められて、とくとくと少し早く脈打つ心臓の音が伝わってきて。ふわりと鼻をくすぐる仁科儀先輩の匂いは何だかほっとする。
「お前の番は俺だ。誰にも渡さない」
伝わってくる声音と心音が心地よくて、意識がふわふわしてきた。よかった……あんな言い方なのにオレの言いたかったこと分かってくれたんだ。
しばらく抱き合ってると、ふっと先輩の瞳がオレを見る。ゆっくり顔が近付いてきて唇同士が触れた。控えめに何度も触れあって、少しずつ深くなっていく。
いつの間にか先輩がオレを見下ろしてて、体が少しずつ傾いてって。床に背中が着いた頃には触れてる所がじくじくと熱を持ってるような違和感を訴えていた。
甘い香りがちょっとずつ強くなってく。
くらくらする頭のまま覆い被さってくる身体を受け止めた。頭の奥の方がじんじんする気がするのは、固くなってきてる先輩の股間が触れてるせいかもしれない。
「行家、その……」
「も、もう床は嫌だからな。抜き合うだけだからな……っ」
「ん……」
とろんと甘い顔と声が微笑んだ。一気に身体が熱くなって息が苦しい。
少しだけ緊張した様子でゆっくり近付いてくる瞳を見つめながら――もう一度、仁科儀先輩を受け入れた。
「っあ……っ、ぅ……!」
いつの間にか膝の上に座らせられた状態で、後ろから身体中を撫で回されていた。下着から引っ張り出された自分のそれを擦られて、溜め込んでいた熱を吐き出す。
仁科儀先輩に触れられている今の状況は、まるで少し前に戻ったみたいだ。
……でも、違う。
もう自分にそんな権利はない。全部投げ出してしまったから。
冷静さが戻ってきた頭は、達した幸福感に甘く沈んでいた心を冷たい空気の中に引き上げていく。
「役立たず相手にこんな面倒なことしないで……さっさと鎮静剤飲ませれば良かったのに」
今まで慰めて貰えていたのは先輩の役に立っていたからだ。先輩の要請に応えて働いていたから、その影響で熱くなった身体を慰めてくれていた。いわばご褒美だ。
だって……ヒートなら薬で鎮められるんだから。ヒートさえ落ち着かせてしまえば、下半身は自分で抜かせれば済むはずなんだ。
なのにこんな触り方するのは、勘違いしそうなことするのは、止めてほしい。
もう任せられないって。オレは役に立たないって言ったのは先輩なのに。あの時質問したのはオレだけど、はっきりそう返したくせに。
どこか拗ねたような感情に突き動かされて、気付けば憎まれ口を叩いていた。
だけど仁科儀先輩は何も言わない。ただ後ろから回された腕に少し力がこもって。
「いッ!?」
ガリ、と項に痛みが走った。
一度じゃない。ガリガリと何度も何度も、固い感触が項の肉を噛む。αはそういう習性があるらしいけどβの先輩がどうして。
困惑に負けて後ろから自分を抱き締めているその人の顔を覗き込んだ。
「俺がαなら、いっそ番にしてしまえるのに」
そう口元を笑みの形に歪める仁科儀先輩の目は笑ってなかった。何だか悲しそうな光を揺らめかせながらこっちを見ている。
「手伝いなんかどうでもいいんだ。どうしたらお前は側に居てくれる? どうしても……どうしても、手放したくないんだ」
なんだ、これ。
「お前の体温が恋しい。抱きしめ合いたい。キスがしたい。今みたいに触れていたい。あの日みたいに……もう一度深いところで繋がりたい」
じっとオレを見る先輩から浴びせかけられる言葉が、ぱちんぱちんと耳の中で弾けて響く。
頭が追い付かなくて言葉が出てこないどころか顔の筋肉ひとつ動かせない。呆然と固まったまま目の前の顔を見つめてると、その目からぼとぼとと水が落ちてきた。
「お前が欲しい。お前じゃないと嫌だ。なのに居なくなってしまった。どうすればいいか何処にも書いてない……一体どうしたら……俺だけのものになってくれるんだ」
――泣いてる。あの、仁科儀冬弥が。
きゅっと一文字に震える唇を引き結んで、喉の奥に声を押し込めて。じっと動かずにこっちをただ見据えている。
ひゅ、と思わず息を飲んだ。向けられた言葉がじわじわと頭を痺れさせていく。
都合よくオレが見てる夢じゃないのか。
夢なのか現実なのか確かめるみたいに恐る恐るキスをして。正面から抱き寄せると、するりと先輩の腕が抱き返してきた。
「逃げるなら今の内だからな……その気がないなら妙な期待をさせてくれるな」
「……逃げるつもりなら、こんな事しない」
少し詰まったような声に答えると、ぱっと涙でぐしょぐしょになってる顔がオレを見た。ぬぐってもまだ涙が落ちてきて、乾ききることは無さそうだ。
ゆらゆらと水気に滲む瞳はじっと不安げな視線を向けてくる。
「行家……」
「やっぱオレをおかしくしたのはアンタだ。しつこく追いかけ回したり……その、抱いたり、して……その気にさせたから」
言葉に詰まる。やっぱり恥ずかしい。
でも、言わないといけない。これを逃したら次なんてないような気がする。
「だから、ちゃんと責任取れ。役立たずでも、たぶらかした責任とって側に居ろよ」
何とか言い切った瞬間、しん、と気まずい沈黙が落ちた。
……何か……思ってたのと自分の言葉が違う。
こんなはずじゃなかった。先輩の側に居たいって言いたいだけなのに。これじゃ全然伝わらない。
慌てて言葉を継ぎ足そうと仁科儀先輩を見る。
すると、はらはらと涙を落としていた瞳がゆるりと目尻を下げた。しずくに濡れているその顔ははっきりと微笑んでいる。
「責任は取る。手放したりしない」
ぎゅうっと強く抱き締められて、とくとくと少し早く脈打つ心臓の音が伝わってきて。ふわりと鼻をくすぐる仁科儀先輩の匂いは何だかほっとする。
「お前の番は俺だ。誰にも渡さない」
伝わってくる声音と心音が心地よくて、意識がふわふわしてきた。よかった……あんな言い方なのにオレの言いたかったこと分かってくれたんだ。
しばらく抱き合ってると、ふっと先輩の瞳がオレを見る。ゆっくり顔が近付いてきて唇同士が触れた。控えめに何度も触れあって、少しずつ深くなっていく。
いつの間にか先輩がオレを見下ろしてて、体が少しずつ傾いてって。床に背中が着いた頃には触れてる所がじくじくと熱を持ってるような違和感を訴えていた。
甘い香りがちょっとずつ強くなってく。
くらくらする頭のまま覆い被さってくる身体を受け止めた。頭の奥の方がじんじんする気がするのは、固くなってきてる先輩の股間が触れてるせいかもしれない。
「行家、その……」
「も、もう床は嫌だからな。抜き合うだけだからな……っ」
「ん……」
とろんと甘い顔と声が微笑んだ。一気に身体が熱くなって息が苦しい。
少しだけ緊張した様子でゆっくり近付いてくる瞳を見つめながら――もう一度、仁科儀先輩を受け入れた。
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