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未定
しおりを挟むポロポロ、ポロポロと
溢れでる涙にびっくりしたアインス様は
先ほどの怒りの顔から焦りの顔になり
慌てて私に近寄ってきた。
「悪い。シェニー言いすぎたよな。」
近寄ってきた彼は左手をそっと私の顔に添えて反対の右手を着ている服の袖で溢れてくる私の涙を優しく拭ってくれる。
そんなおろおろとしている彼をよそに
私は思い出してしまった前世の記憶に
唖然とすることしかできなかった。
そして先ほどからしていた頭痛がさらに
痛みを増して目眩をするとともに
私は彼にもたれるようにして倒れた。
倒れたあと夢をみた。
そこはこことは別の世界。
私が前世で生きていた世界。
"私"には物心ついた頃から
いつも一緒にいた幼馴染がいた。
彼とは毎日のように一緒にいて
小、中、高と腐れ縁だった。
私は"彼"が大好きで苦手だった。
小さい頃からいつもいつも
私を苛めては笑ってひどい態度を
取られていた。
最初は大嫌いだった。
周りの子は私に対して優しいのに
彼だけはずっと冷たかった。
でもある日、、、。
パッと目を見開く。
見覚えのある高い天井にパチクリさせていると
「シェニーお嬢様!お目を覚まされたのですね!」
声のする方を見ると
侍女長のマアヤが私の顔をみて涙目になっていた。
小皺が少し目立つ白髪混じりの
ふくよかなこの女性は侍女長のマアヤ。
小さい頃から私のお世話をよくしてくれていた。
「ユリー、早く旦那様と奥様とお医者様、それにアインス様にお伝えしてちょうだい!」
マアヤのすぐ後ろのユリーは
はい!と言い慌てて部屋を出ていった。
ユリーはマアヤの娘で私専属の侍女である。
「シェニー様お体は大丈夫でしょうか?」
私の右手を両手で包むように握る。
「...大丈夫だと思うわ。軽く頭が痛いくらい。」
中庭で感じた頭痛よりいくらかは
マシになっていたがそれでも軽く頭痛はした。
「頭痛、、。すぐにお医者様に見てもらいましょう。」
心配そうな目で私をみる彼女に
少し申し訳なく思い、大丈夫よ心配しないで。と言おうとしたら
扉がバンッと音を立てて開いた。
「シェニー!!」
まだ起き上がれない体を少しだけ
動かして扉の方に目を向けると
走ってきたのか息が荒いアインス様の
姿がそこにあった。
「シェニー!大丈夫なのか?!」
私が寝てるベットの横までやってきた彼は
マアヤから私の手を取り泣きそうな目で
私を見ていた。
最近は冷たい目しか見せない彼が
私の心配をしてくれるなんて驚いてしまう。
不謹慎ながら泣きそうな顔でも綺麗だなって思ってしまうわ。
「アインス様。大丈夫です。申し訳ございません。」
「いや俺が君の体調に早く気づいてやれればよかったんだ。」
ギュッと私の手を握る手に力が込められた。
と同時にお父様達も息を切らして
部屋に入ってきた。
「シェニー!目を覚ましたんだな!心配したんだぞ!さぁ早く先生に診てもらいなさい。」
そういうや否やお医者様が近づいてきて
触診、聴診とみてもらい
そのまま大事をとって1週間安静にするようにと言われた。
幾分か時間が過ぎて
夜も遅いのでアインス様は一度
城に帰っていった。
というより帰された。
倒れた後慌てて彼は私を抱いて
アンシュタイン家。つまり私シェリーの家まで
運ぶと医者を呼べ!と大声で叫んで
私が目を覚ますまで彼は学園も自分の城にも帰らず私のそばにいてくれていたらしい。
それが3日間ものことだったと。
片時も離れない彼に対してさすがに
私の父であるアンシュタイン公爵が
3日間ほぼ寝ずの王太子様を心配して少し休むようにと言ったみたいで無理やり客室で仮眠を取らせていた時に私が起きたのだ。
まさか3日間も寝てたなんて。
そんなに寝てたつもりはないんだけど
身体が少し重いし本当のことなんだなって思った。
私が目を覚ましたので
父はアインス様のお身体を心配して
城に帰るよう従事に半ば強制的にアインス様を連れてお城に返したのだ。
アインス様が3日間も私のそばに
いたなんて信じられる?
私が近寄ればすぐに怒って逃げるように
どこかに行くあの人が。
少し落ち着いた後
お父様達も疲れてるみたいだったから
今日は部屋に戻ってと言った。
心配そうに本当に大丈夫かと何度も
聞いてきてくれたけど私は大丈夫なので、皆様お部屋にお戻りくださいませ。
とまだ少し気だるい身体を起こし笑顔を見せた。
お父様達のお身体も勿論心配だったけど
とりあえず今は少し1人になりたかったのだ。
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