そんなに可愛がらないで

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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2章【そんなに拒む理由を消さないで】

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 ツカサはカナタを真っ直ぐと見つめたまま、言葉を続ける。


「俺は自分の発言に責任は持っているし、あの言葉は脅しのためのフェイクなんかじゃない。覚悟や度胸もなく『死んでやる』って言うヒステリックなメンヘラとはワケが違う。カナちゃんが他の奴に盗られるくらいなら──カナちゃんが他の奴を選ぶなら、俺はカナちゃんを殺す。それですぐに、迷わず俺も死ぬよ」


 あまりにも簡単に出てくる【死】という単語。
 けれどそれは、とても重々しい意味合いの言葉として、カナタの胸に届く。


「怖いと思われても、これは本心だから。ウソじゃないから、ちゃんと伝える。誤魔化しもしない。俺はカナちゃんを殺すことができるし、カナちゃんが死ぬのなら俺は俺だって殺せる。そして一緒に死んだ後も、俺は地獄でカナちゃんを捕まえるよ」


 恐ろしい、と。
 そう思うよりも先に、カナタは思った。


「怯えさせてしまうからといって、キレイゴトを並べることができなくてごめん。怯えさせると分かっていながらで申し訳ないけれど、俺は地獄でも……カナちゃんが俺を拒んできたら、たとえ死後の世界だとしても、カナちゃんを殺す。この気持ちがウソじゃないってことを、どうか分かってほしい。……ごめんね」


 ──この人は。

 ──この人はなんて、誠実なのか……と。

 取り繕わず、その場しのぎもしていない。
 ツカサはカナタが【怯えている】ということを理解していながら、自分の気持ちを嘘偽りなく伝えている。

 それは、カナタを脅すためではない。
 ツカサの言葉は、自分の発言に責任を持っているからだ。

 カナタに、真っ直ぐとぶつかっている。

 勿論、真っ直ぐであればあるほど【殺す】という単語は研ぎ澄まされた。
 脅しでも冗談でもないのなら、ツカサは悪意なくカナタを殺すのだろう。
 そのことに、一切の罪悪感も申し訳なさも抱いていないのだから。

 それでも、ツカサは謝罪の言葉を口にした。
 それは、どうしてか。

 ──カナタに対しての本心が、カナタが望むものと違うと。

 ──そう、理解しているからだ。

 黙り込んでしまったカナタに対して、ツカサはカナタが口にしていた別のことにも返答をする。


「それと、俺がアルバイトの子を何人も辞めさせたって話。あの話は、半分は確かに合っているけれど、半分は合っていない。俺は直接、なにかをしたわけじゃない。だけど、辞める原因は俺だった」


 よく、分からない。
 そんな目を、カナタはツカサへ向けた。

 ツカサはカナタを見つめて、弱々しく笑う。


「辞めたアルバイトの子たちは、俺のことを好きになったんだってさ。だけど、俺はソイツ等のことなんて微塵も好きじゃない。だから、辞めたらしいよ。マスターが言っていたんだ。『報われないから一緒にいると辛い』って」


 自嘲気味な笑みは、嘘を吐いているとは思えなかった。
 ツカサはいつもとは違う色の笑みを浮かべながら、カナタを見つめる。


「これが俺の本心と、カナちゃんが知りたがっていたことの真実。信じてくれるかは、カナちゃん次第。……俺を怖がるのも、カナちゃん次第だよ。カナちゃんの、自由だよ」


 ツカサの手が、カナタから離れた。
 その腕はもう、カナタに触れようとはしていない。


「でも、そっかぁ……。カナちゃん、俺のこと怖かったんだ。うぅん、ヤッパリちょっとショック。俺、カナちゃんのことは特別扱いしていたつもりなんだけどなぁ……」
「それは……っ」


 背後を振り返り、カナタは言葉を探す。
 そして、ずっと抱えていた疑問を口にした。


「──どうしてツカサさんは、オレのことをそんなに可愛がってくれるんですか?」
 



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