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冬の章
結婚式を挙げました。
しおりを挟む「いやー、でも突然でびっくりしたよな!
団長もついに結婚か。籍はいつ入れるんだ?」
「籍は明日入れるぞ。陛下へも報告してるしな。式はそうだな、いつがいいか…。」
「明日⁈婚約期間えらい短いな!もっとゆっくりでいいんじゃねぇ?
他の女の子達と遊べなくなるんだぞ?いいのか?」
トニーはアクラスを心配そうに見る。
「…トニー、団長はお前と違って誠実なんだ。女遊びなんてするもんか。」
トレインが呆れたように言う。
「そうだな、千春殿より美しいと思う女も居なければ、愛らしく思う女もいないしな。」
アクラスは至極当然のように言った。
「俺は毎日千春殿と一緒にいるだけで満足しているぞ?」
「っ羨ましいなクソっ!…俺だってっ!」
「トニー…、せめて1人に絞る事から始めような?」
そして翌日。
宣言通り、籍を入れた2人は晴れて夫婦となった。
愛し子と騎士団長の結婚の事は、瞬く間に城中へと広がり、数日後には城下にまで知れ渡る事となる。
皆からの祝福を受ける中、
2人は中庭を見渡せるベンチに座っていた。
千春が寒く無いようにと体を寄せ合って。
「寒くは無いか?」
「はい。皆に見られている恥ずかしさで暑いくらいです…。」
千春達は2人きりと言うわけではない。
中庭付近にはチラホラとこちらを伺う者達もいた。
「そうか。」
アクラスは千春を膝の上へと抱き上げると、嬉しそうに抱きしめた。
「千春…、俺の妻。やっと俺のものだ…。」
「アクラスさん…!(この体勢からの呼び捨て…っ、
なんて破壊力なのっ…!)」
正面から見つめられて頰を赤らめる。
「貴女の友にもしっかりと伝えたいのだが、呼んでもらう事は出来るか?」
「っはい…、大丈夫です。私も伝えたいと思っていました。
…地、水、火、風、空。」
千春が小さくそう呼びかけると、
中庭に淡い光を放って5人の男女が現れた。
『…なんだ、アクラスとやら。私の千春をついに妻としたか。』
仲睦まじい2人を見て開口1番にそう言ったのは千春を1番溺愛してきた空だった。
『まぁ、空ったら。
千春、貴女は幸せなのでしょう?』
「うん、風!私、とっても幸せよ!空は、私達のこと祝福してくれる?」
『…当たり前だ、祝福はする。
しかしアクラス。千春を悲しませるような事があれば私はお前を許さんぞ。』
「はい、分かっています。
今日はあなた方への結婚の報告と、これまで千春を守ってくれた事に感謝をと思い、こうして呼ばせていただきました。」
『ふーん。やっぱりいい男じゃねぇか。
すまねぇな、この間は千春と添い寝しちまって。』
火がアクラスを見てニカッと笑った。
「添い寝……」
アクラスの声が少し低くなる。
「っあ、水と地も祝福してくれる⁈
(その話題はもうぶり返さないで!)」
『そうね。アクラスちゃん?これからは貴方が千春を守ってあげるのよ!』
少女の姿の水が腰に手を当てアクラスを見上げる。
「(ちゃん…)…もちろんです。
これからは俺が千春を守っていきます。」
『そうか。よかったな千春。だが、私達はいつでも千春の味方だ。
人間の手に負えないような事があれば、その時は呼べばいい。』
「ありがとう地!」
「ありがとうございます。」
『それではアクラスよ。お前達2人を祝福してやるから、正装してこい。友や親しい者も呼ぶといい。』
「…?正装ですか?(これも一応正装なのだが…。)
分かりました。千春、行こうか。」
「?はい。…空?」
『ほら、早く行ってこい。またここに戻ったら私達を呼べ。』
そう空が言うと、5人は消えて行った。
そして、2人はそれぞれの自室へ。
「あのねアンナ。空に正装してこいって言われて。
祝福してくれるみたいなんだけど、この衣装も一応正装だし、可愛いのにダメだったのかな?」
「祝福…⁈それはもしやっ!少し待っていらしてくださいな!」
そう言ってアンナは慌ただしく部屋から出たかと思うと、ほんの数秒で戻ってきた。
「さぁさぁ!お着替えを致しましょうっ!
とぉっておきのドレスがありますわ!」
そう言ってアンナが見せたのは、結婚式用にと準備していた純白のウェディングドレス。
「っえぇっ⁈これを着るの!?
これ結婚式で着るやつでしょ⁈私だけ場違いだったら恥ずかしいじゃない!!」
「そんなことありませんわ!祝福の場での正装ならば、このドレスしかありません!さぁ、急いで御支度を!」
それから、あれよあれよという間に千春はアンナと他数人の侍女達によって花嫁姿へと変貌を遂げたのだった。
その頃のアクラスはというとーー
トニー達へ相談していた。
「どういうことだろうか?祝福するから正装してこいとは…?この衣服も正装だぞ。」
アクラスと千春は、籍を入れるために正装していたのだ。
「それ、結婚式用の事を言ってるんじゃねぇか?」
「そうですよ!祝福するから正装して来いとはきっとそういう事です。そうと分かれば早く支度をしなければ!」
それから数十分後ーー
再び中庭へと戻ってきた2人は、互いのその姿を目の前にして驚く。
「っ千春…綺麗だ。本当に美しい!」
アクラスは千春の髪や瞳と同じ、黒色のタキシードを。
「アクラスさん…かっこいい!素敵だわ…!」
千春は貴方色に染まりたいという思いを込めて、純白のウェディングドレスを。
そして今、この場には2人の他にも多数の者達もいた。
トニーやトレイン、アンナに騎士団の仲間達。そしてその人だかりに興味を持った者達までチラホラと集まってきていた。
「ほぁ~!千春ちゃん綺麗だなぁ!!とても16とは思えない妖艶さが漂ってるぜ!」
「美しいですね。本当にお綺麗ですよ、千春様。」
「ありがとうございます。トニーさん、トレインさん。」
千春は頰を染めて笑う。
「当然ですわ!私達が腕によりをかけたのですもの!」
アンナは千春の華やかしい花嫁姿に満足していた。
そこに偶然か、この国のトップも現れた。
「おや、千春殿にアクラス。どうしたんだ?その格好はまるで結婚式のようだな。」
「まぁ、お綺麗ですわ、千春さん。」
王妃を連れ添って現れたのはアリオス王だ。
オリヴィア王妃はうっとりと千春を見つめている。
「陛下、お騒がせしております。千春の友殿が祝福をしてくれるそうで。」
「そうだったのか。私達も一緒に良いか?そういう事なら私達にも祝福させてくれ。」
「もちろんです!ありがとうございます!」
千春は嬉しそうにそう答えた。
そして、千春は再び皆に呼びかけた。
『随分と集まったようだな。千春、美しいぞ。』
空が千春の頰を撫でた。
「このドレス場違いじゃないか恥ずかしいんだけど…。大丈夫だった?」
『えぇ、問題無いわ。それこそが私達の求めていた正装だもの。』
『それでは、お前達2人に祝福をーー』
そう空が微笑むと、
中庭の中心に、氷の粒が渦巻いた。
そして、
小さくも煌びやかな氷の教会が突如として現れたのだーー
「ーーっ凄い!」
千春は手を合わせて感激した。
「これは、驚いたな…。」
アクラスも目を見開いている。
周りの者達もその光景にどよめいた。
千春達から氷の教会までの道には、地による祝福が2人を出迎えた。
色鮮やかな花が綺麗に並んでいる。
それは冬に咲くパンジーやデイジーに水仙、マーガレットなど。千春が好きな花ばかりだ。
そして火によって、皆の周りの空間を暖かいものに。
「おおっ、あったけぇ!!何だこれ⁈」
「なんか俺達、光ってる⁈」
皆の体が、淡く光っているのだ。
「それは火の力ですよ。暖かな空気を纏わせてくれてるんです。とてもあったかいですよね!」
アクラスは千春の手を取り、促す。
「千春、行こうか。」
「はい…!」
そして教会の中へと入ると、そこは太陽の光を受けた氷が、様々な色を作り出し美しく祭壇を照らしている。
「っ綺麗…。」
『千春、アクラス。祭壇の前へ。』
風に促されて2人はバージンロードを歩く。
「すげぇ、あんな風に祝福して貰えるなんて、千春ちゃん嬉しいだろうなぁ。」
「それはそうだろう。本当に幸せそうだ。」
そして、風により誓いの言葉がかけられた。
「…俺は、癒しとなり支えてくれる貴女に出会えた事に感謝し、一生をかけて貴女を愛し、守り抜く事を誓う。」
「私は、優しく頼りになるあなたに出会えたことに感謝し、貴方の妻として、一生愛し続けることを誓います 。」
2人はお互いを見つめ合い微笑んだ。
「っいいなぁ、俺だっていつか可愛い女の子とっ!!」
「しーっ!静かにしろ!次は恐らく誓いの口付けだ!」
「(聞こえているぞ、お前ら…。)」
「(ふふ、なんか安心しますね。)」
『それでは、誓いの口づけをーー』
そして、2人は長く優しい口づけを交わした。
皆の祝福の声とともに、氷の鐘の音が鳴る。
「わぁ、鐘もなるのね!」
「澄んだ音だな。」
2人が鐘の音に聞き入っていると、
天井から水で形作られた天使が舞い降りてきた。
「っ可愛い!天使だわ!」
千春が触れようとすると、それは一瞬でキラキラとした白い粒へと変わった。
そして、風に乗った色鮮やかな花びらが舞い込み、2人を包み込む。
皆からの最高の祝福だった。
「凄く、綺麗…!本当に素敵な結婚式…!」
氷の教会は虹色に輝き、色鮮やかな花に囲まれている。
「そうだな。こんなにも祝福されて、俺達は幸せ者だ。」
「えぇ!とても!」
千春は涙を滲ませながら幸せそうに笑う。
「っおめでとー、だんちょー!俺は嬉しい!
俺もいつか絶対可愛い女の子見つけてやるからな!」
トニーはウルウルと瞳を潤わす。
「千春様、おめでとうございます!」
トレインは笑顔で祝福の言葉を。
「おめでとうございます!千春様ー!アクラス殿ー!」
皆からの祝福に千春は本当に嬉しそうに笑う。
「っありがとうございます、私、幸せです!」
「千春、これからもっと幸せにするぞ?」
「…っはい!」
2人が再び口づけを交わしアクラスが千春を抱き上げた。
結婚式にしては質素だったかもしれない。
しかし、2人にとってはこれまでにない程の特別な日となったのだった。
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