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〜季節は巡り〜
新たな生命の誕生。
しおりを挟む季節は巡りーー
千春がこの世界に喚ばれた頃の、暖かい春の季節が訪れていた。
「早いですね、今日でちょうど1年ですか。」
「そうだな。」
「あの…アクラスさん、私は大丈夫ですからもう仕事に戻っていいですよ?」
アクラスは毎日仕事を中断しては、こうして千春の元へと来ていた。
千春は妊娠したのだ。
現在4ヶ月。
「…突然気分が悪くなるかもしれない。」
「アンナがいつも側に居るから大丈夫です。」
アンナはそんな2人を微笑ましく見守っていた。
「(このやり取りはもう日課ですわね。)」
「…何かあったら、すぐに言え。いいな?」
「はい。分かっていますよ、アクラスさん。」
「アンナ、千春を頼んだぞ。」
「えぇ。もちろんです。」
そうしてアクラスはやっと仕事へと戻っていったのだった。
最近はこの繰り返しである。
「これは、お腹が大きくなったらもっと大変ね。あなたのお父さんは過保護すぎるわ。」
そう言いながらお腹を撫でる。
「ふふ、どちらでしょうね。男の子か、女の子か。楽しみですわ。」
「そうね、私はどちらでもいいかな。元気で生まれて来てさえくれれば。」
「そうですね。」
ーーー
「あ、団長戻ってきた。今日は早かったなぁ。千春ちゃんどうだった?」
「あぁ。問題は無さそうだ。
…だが、最近やたらと早く仕事に戻れと言われる。」
「それは…、こうも毎日来られては当然だと思いますよ。」
トレインはやや呆れたように答えた。
「それは仕方がないだろう。やはり心配なんだ。」
「でも団長も旦那の次はパパか。どんどん出世していくなぁ。」
「まぁ、ほどほどにですよ団長。女性というのは強かですから、きっと大丈夫です。さ、仕事が待ってます。さっさと終わらせましょう!」
トレインはこの数ヶ月で少し逞しくなった。
なんと、恋人が出来たのだ。
相手は城下で甘味屋を営んでる夫婦の娘。可愛いと評判だ。
「っお前ばかり、狡い。」
「何が。」
「彼女だよ!何で俺には未だに出来ないんだ!」
「…自分の胸に手を当ててよーく考えてみろ?お前のどこに原因がある?」
そう言われトニーは自身の胸に手を当てる。
「……!俺が男前すぎて女の子達が気後れしてる…?」
「違う!!そもそも、複数の女の子が対象ってのがおかしいことに気づけ!」
「っ俺の夢はハーレムなんだ!!
それを諦めたら俺の人生お終いじゃないか!」
「じゃあ一生、死ぬまで、未来永劫、果てしなく、無理だな!」
「何でだよ!夢は諦めない為にあるんだろ⁈」
「…お前達うるさい。」
いつものように賑やかな日常。
ーーそんな日常も刻々と過ぎ、
千春のお腹は最大限にまで大きくなっていた。
「ふぅ、ふぅ。赤ちゃんひとりお腹にいるだけで、歩くのも大変なんて。」
千春はふぅふぅ言いながら中庭を散歩していた。
運動して筋肉と体力を維持しなければ、長い出産には耐えられない。
そしてそれを見守る者が数人。
「歩くのってそんなに大変なのか?」
「何を言ってる、妊婦にとってはとても大変なんだ。それなのに運動しないといけないなんて…!
俺が抱き上げて歩いてやりたいのをどれだけ我慢していると思っている!」
アクラスは千春と赤子のためを思い我慢していた。
「女性には本当に敵わないですね。ああやって赤子を必死に育てて、万全の体制で産めるよう励むのですから。」
「……御三方、お仕事はよろしくて?」
アンナはいつの間にか隣にいた3人へ問いかける。
「ん、休憩中なの。」
「あぁ。千春の様子が気になってな。」
「ふぅ、今日はこれまでにしておきましょう。
…あれ、アクラスさん?トニーさん達もどうしたんですか?」
そこで千春はやっと3人に気づいた。
「千春、体はどうだ?変わりないか?」
「はい!赤ちゃんも元気ですよ!よく蹴られてます。」
「そうか。…お前も早く出たいのか。」
「予定日まであと5日ですから。」
千春は愛しそうにお腹を撫でる。
「元気に産まれて来てくれよ。」
アクラスはそう言ってお腹を撫でた。
「!……っ!?、ぃ……っ!!」
突然千春の表情が歪んだ。
「っどうした⁈千春!」
アクラスは千春の様子に慌てふためく。
「団長がお腹を撫でたからじゃねぇ⁈」
「そんな訳あるか!!千春様、どうされました⁈」
「千春様?一旦お部屋へ戻りましょう?お顔が優れませんわ。」
皆が心配して声をかけるが、千春はお腹を抱えて蹲る。
そして小さく呟いた。
「…っ。…、る!」
「何だ⁈どうした!!?」
アクラスは千春の口元へ耳を寄せた。
「っ…産まれるって言ってるのっ!!」
千春は叫んだ。
「「「!っなにぃ…っ!?」」」
千春は破水していた。
「っまぁっ!!急いで医務室へ向かいましょう!
っアクラス様!突っ立ってないで、今こそ千春様を抱えて下さいまし!」
「っあぁ!千春、待ってろすぐ連れていくからな!頑張れ!」
アクラスはそう言うとバッと千春を抱き上げて急いで医務室へと向かった。
ーーそうして千春が運び込まれてから4時間。未だ千春の苦悶の声は止まない。
「…出産ってこんなに苦しむの?っ俺怖いんだけど…。」
「どうか、無事に。頑張ってくれ千春…!」
分娩室の外で、男達はただ祈る事しかできなかった。
そしてそれからさらに6時間が経ち、
ついに、その時がきた。
ーーっぎゃあ!ぉぎゃあ!!
「っ生まれた!!千春!」
アクラスは千春の元へと駆け寄った。
千春は力を出し切った様子でぐったりと横になっている。
そしてアクラスの姿を見て言った。
「…男の子でした。元気な、男の子です。」
出産で酷使した体の痛みや疲れに、千春は声を出すのもやっとだったが、アクラスにはちゃんと無事だと伝えたかった。
「あぁ。ありがとう、千春。2人とも、無事で良かった…!」
「はい。…ちょっとだけ、休みますね、アクラスさん…。」
出産の痛みと興奮で眠れはしないが、しばらく安静が必要だ。
「あぁ、ゆっくり休んでくれ。」
そうして2人の間に生まれた元気な男の子は、
光溢れる人生を送れるようにと、『ルーカス』と名付けられたのだった。
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