追放先の辺境で前世の農業知識を思い出した悪役令嬢、奇跡の果実で大逆転。いつの間にか世界経済の中心になっていました。

緋村ルナ

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第1章:偽りの断罪、追放の序曲

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 玉座の間に響き渡る王太子レオナルドの声は、まるで出来の悪い芝居のようだった。
「アメリア・リュミエール・グランフォード! 貴様の悪行、もはや見過ごすわけにはいかん!」
 きらびやかなシャンデリアの光が、居並ぶ貴族たちの嘲笑う顔を照らし出す。私は背筋を伸ばし、その光景を冷静に見つめていた。
 悪行。私が平民の侍女に暴言を吐き、階段から突き落とそうとした、というものらしい。もちろん、事実無根。その侍女は、王太子の新しいお気に入りで、私を陥れるために用意された駒だろう。
「私はそのようなこと、しておりません」
「まだ言い訳をするか! この場で涙を流す被害者がいるのだぞ! お前のような嫉妬深く、冷酷な女は、我が国の王妃にふさわしくない!」
 レオナルドの隣では、新しいヒロインが庇護欲をそそるように震えている。茶番だ。私がこれまで、どれだけ彼の尻拭いをしてきたと思っているのか。外交文書の草案作成、財政難を乗り切るための政策提言、不満を持つ貴族たちの懐柔――すべて、表に出ることなく、この愚かな王太子の功績として処理されてきた。
 だが、彼は私の才覚を恐れた。自分の無能さが浮き彫りになることを。だから、扱いやすい人形を隣に置き、私を排除することを選んだのだ。
「よって、今この時をもって貴様との婚約を破棄する! そして、グランフォード侯爵家の悪逆に鑑み、貴様を国外追放処分とする!」
 高らかな宣言に、貴族たちが歓声を上げる。私の実家であるグランフォード家も、この策略によってすでに力を削がれているのだろう。味方は、どこにもいない。
 だが、それでいい。こんな腐りきった場所に、未練など一片もなかった。
 私はゆっくりとレオナルドに歩み寄り、嘲笑を浮かべてみせた。その美しい顔が、私の予期せぬ行動にわずかに引きつる。
「……滑稽ですね」
 静かだが、よく通る声で私は言った。広間のざわめきが止まる。
「私を捨てたこの国が、後で泣く姿が見えるようですわ、殿下」
「な、なにおっ!?」
「ご自分の足で立つ練習でもなさったらいかがです? それでは、ごきげんよう」
 私は優雅に一礼すると、踵を返した。衛兵が両脇を固め、私を王宮から連れ出す。誰一人、私に同情の視線を向ける者はいなかった。
 それでいい。覚えておくといい。
 私、アメリア・リュミエール・グランフォードを切り捨てた代償が、どれほど高くつくことになるのか。
 王都の門をくぐり、最低限の荷物と共に荒野へと続く道を歩き始めた時、私の胸に去来したのは絶望ではなかった。
 むしろ、鎖から解き放たれたような、奇妙な高揚感だった。
 私の物語は、ここから始まるのだ。
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