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第7章:伝説の料理人と、究極のソース
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食堂『太陽の恵み』の評判が安定してきたある日の午後。店に、ひときわ気難しそうな顔をした一人の老婆が客としてやってきた。仕立ての良い服を着ているが、その目つきは全てを値踏みするかのように鋭い。
「噂の食堂とやらは、ここかい。田舎にしては、まあまあの賑わいじゃないか」
老婆は空いている席にどかっと座ると、メニューも見ずに言い放った。
「一番自信のあるものを、出してみな」
その尊大な態度に、私は少しだけカチンときたけれど、お客様は神様だ。私は笑顔で、その日のスペシャルメニューだった「完熟トマトと鶏肉の煮込み」をお出しした。私の畑で採れた、最高のトマトを使った自信作だった。
老婆――ソフィアと名乗った――は、料理をじろりと一瞥すると、スプーンでソースを少量すくい、テイスティングするように口に含んだ。そして、眉間に深い皺を刻んだ。
「……三流だね」
店の中が、しんと静まり返った。
「素材は奇跡だ。これほどの生命力を持つトマトには、生まれてこの方お目にかかったことがない。だが、あんたの腕が、この奇跡を殺している。火の入れ方、塩加減、ハーブの使い方、すべてが素人仕事。もったいない。あまりにも、もったいないね!」
手厳しい、というより酷評だった。他のお客さんたちも、気まずそうにこちらを見ている。悔しくて、顔が熱くなるのを感じた。
「な、なんですって……!?」
「事実を言ったまでさ。だが……」
ソフィアは、そこで言葉を切ると、もう一度トマトの煮込みを口に運び、目を閉じてじっくりと味わった。
「……だが、可能性は感じる。あんた、この食材の声を、ちゃんと聞こうとしているね」
「……え?」
「このトマトは、こう訴えかけている。『もっと私の甘みを引き出してくれ。私の酸味を、最高の形で輝かせてくれ』とね。それが聞こえないようじゃ、料理人失格さ」
食材の声。それは、私が「大地の声」として聞いているものと、どこか通じるものがあるように感じた。
ソフィアは、空になった皿をテーブルに置くと、私をまっすぐに見据えた。
「あたしはソフィア。見ての通り、ただの口うるさいババアさ。昔、ほんの少しだけ王宮で料理長なんてものをやっていたがね」
「伝説の料理長、ソフィア様……!?」
その名を、私は聞いたことがあった。数年前に忽然と姿を消した、アストリア王国史上最高の料理人と謳われた天才。人間関係に疲れ、引退したと聞いていたが、まさかこんな場所にいたなんて。
「お嬢ちゃん。あんたには才能がある。いや、あんたが育てたこの食材には、世界を変える力がある。それを、こんな三流の腕で無駄にするつもりかい?」
ソフィアの言葉は厳しかったが、その瞳の奥には、料理に対する熱い情熱が燃えていた。
「嫌じゃなければ、あたしがあんたを鍛え直してやろう。この奇跡の食材にふさわしい、最高の料理人にね。どうだい?」
願ってもない申し出だった。私は、深々と頭を下げた。
「! ぜひ、よろしくお願いいたします! ソフィア先生!」
その日から、私とソフィア先生の猛特訓が始まった。先生は本当に厳しかった。食材の切り方一つ、火加減一つで、容赦なく叱責が飛ぶ。私は何度も泣きそうになったが、先生の教えは的確で、私の料理は日を追うごとに見違えるように洗練されていった。
そして私たちは、二人で一つのソース作りに没頭した。私の畑で採れた、最高の完熟トマトだけを使ったソース。先生の長年の経験と知識、そして私の「大地の声を聞く力」を融合させる。
『もっと、ゆっくりと火を入れて。焦らないで』
『あのハーブを少しだけ。香りが、味を深くする』
土の声に導かれ、先生の技術でそれを形にする。試行錯誤の末、私たちはついに、奇跡のようなソースを完成させた。
艶やかな深紅に輝き、甘み、酸味、旨みが完璧な調和を織りなすソース。一口舐めただけで、全身に幸福感が駆け巡る。
「……できたね。これが、あんたとこのトマトが作り出した、『奇跡のソース』さ」
ソフィア先生が、満足そうに微笑んだ。
このソースが、『太陽の恵み』を、そして私の運命を、さらなる高みへと導いていくことになるのだった。
「噂の食堂とやらは、ここかい。田舎にしては、まあまあの賑わいじゃないか」
老婆は空いている席にどかっと座ると、メニューも見ずに言い放った。
「一番自信のあるものを、出してみな」
その尊大な態度に、私は少しだけカチンときたけれど、お客様は神様だ。私は笑顔で、その日のスペシャルメニューだった「完熟トマトと鶏肉の煮込み」をお出しした。私の畑で採れた、最高のトマトを使った自信作だった。
老婆――ソフィアと名乗った――は、料理をじろりと一瞥すると、スプーンでソースを少量すくい、テイスティングするように口に含んだ。そして、眉間に深い皺を刻んだ。
「……三流だね」
店の中が、しんと静まり返った。
「素材は奇跡だ。これほどの生命力を持つトマトには、生まれてこの方お目にかかったことがない。だが、あんたの腕が、この奇跡を殺している。火の入れ方、塩加減、ハーブの使い方、すべてが素人仕事。もったいない。あまりにも、もったいないね!」
手厳しい、というより酷評だった。他のお客さんたちも、気まずそうにこちらを見ている。悔しくて、顔が熱くなるのを感じた。
「な、なんですって……!?」
「事実を言ったまでさ。だが……」
ソフィアは、そこで言葉を切ると、もう一度トマトの煮込みを口に運び、目を閉じてじっくりと味わった。
「……だが、可能性は感じる。あんた、この食材の声を、ちゃんと聞こうとしているね」
「……え?」
「このトマトは、こう訴えかけている。『もっと私の甘みを引き出してくれ。私の酸味を、最高の形で輝かせてくれ』とね。それが聞こえないようじゃ、料理人失格さ」
食材の声。それは、私が「大地の声」として聞いているものと、どこか通じるものがあるように感じた。
ソフィアは、空になった皿をテーブルに置くと、私をまっすぐに見据えた。
「あたしはソフィア。見ての通り、ただの口うるさいババアさ。昔、ほんの少しだけ王宮で料理長なんてものをやっていたがね」
「伝説の料理長、ソフィア様……!?」
その名を、私は聞いたことがあった。数年前に忽然と姿を消した、アストリア王国史上最高の料理人と謳われた天才。人間関係に疲れ、引退したと聞いていたが、まさかこんな場所にいたなんて。
「お嬢ちゃん。あんたには才能がある。いや、あんたが育てたこの食材には、世界を変える力がある。それを、こんな三流の腕で無駄にするつもりかい?」
ソフィアの言葉は厳しかったが、その瞳の奥には、料理に対する熱い情熱が燃えていた。
「嫌じゃなければ、あたしがあんたを鍛え直してやろう。この奇跡の食材にふさわしい、最高の料理人にね。どうだい?」
願ってもない申し出だった。私は、深々と頭を下げた。
「! ぜひ、よろしくお願いいたします! ソフィア先生!」
その日から、私とソフィア先生の猛特訓が始まった。先生は本当に厳しかった。食材の切り方一つ、火加減一つで、容赦なく叱責が飛ぶ。私は何度も泣きそうになったが、先生の教えは的確で、私の料理は日を追うごとに見違えるように洗練されていった。
そして私たちは、二人で一つのソース作りに没頭した。私の畑で採れた、最高の完熟トマトだけを使ったソース。先生の長年の経験と知識、そして私の「大地の声を聞く力」を融合させる。
『もっと、ゆっくりと火を入れて。焦らないで』
『あのハーブを少しだけ。香りが、味を深くする』
土の声に導かれ、先生の技術でそれを形にする。試行錯誤の末、私たちはついに、奇跡のようなソースを完成させた。
艶やかな深紅に輝き、甘み、酸味、旨みが完璧な調和を織りなすソース。一口舐めただけで、全身に幸福感が駆け巡る。
「……できたね。これが、あんたとこのトマトが作り出した、『奇跡のソース』さ」
ソフィア先生が、満足そうに微笑んだ。
このソースが、『太陽の恵み』を、そして私の運命を、さらなる高みへと導いていくことになるのだった。
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