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わたしのつなぎたい手
【第39話:春は始まりの季節】
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いつもの宿で朝を迎えたユア。
ユアは朝が余り得意ではなく、好きなだけ寝ていたい方だ。
しかしアミュアが非常に規則正しく寝起きするので、だんだんとユアも慣らされてきていた。
(もうすぐ春が来る)
日が昇っていって明るくなった空を、じっと見る。
最近は雪が降ることもほとんどなくなった。
(アイギス兄さんからは結局何も連絡がなかったな)
ユアの表情には若干のあせりが混じる。
何度もアミュアを説得し旅立とうとしたのだが、アミュアを始めマルタスやオフィスの皆にも止められた。
冬の長旅は危険すぎると。
ミルディス公国との間にはかなり険しい山脈が遮るように横たわっている。
山越えの峠道はあるが、冬季に分け入るような場所ではなかった。
南回りの海路はとても遠回りで、普通に年単位の移動になる。
「ユア起きたのですね、シャワー空きましたよ?」
部屋に付属のシャワールームからバスタオルを巻いただけのアミュアが出てくる。
髪はまだ乾かしていないのか、タオルで包み拭きしていた。
「おはよー、アミュア。了解!入ってきちゃうね」
さっきまで外を見て沈んでいた表情も気分も、アミュアを見ただけで元気に塗りつぶされるユアであった。
それだけのものを積み上げてきたのだ。ゆるがない絆を。
アミュアはユアを元気にする魔法をまとっているのだ。
「で・・・?、ミルディス公国に行きたいと?」
いつものハンターオフィスカウンターで、いつものマルタスである。
「アイギス兄さんから連絡無いのは、きっとトラブルがあったからなんだよ!もう半年になる…」
マルタスにつかみかかる勢いのユアが、強く言う。
ユアのパワーに怯みもせず、腕組みになって「わかったわかった」と考えこむマルタス。
そこへマルタスの横から、出来る新人所員のお姉さんが指摘する。
「ユアちゃん相当距離があるので、徒歩では現実的ではないですよ?路線便も無いですし」
このルメリナのある国とミルディス公国は特に国交豊とも言えず、交易路は主に南方の海路である。
「うん…」
理性的に止められると、地理に詳しくないユアでは言い返せない。
その時スイングドアが勢いよく開く。
スイングドアにはベルが付いており、開閉時に音を鳴らすので開くと目が行く仕様だ。
ちょっと青筋を浮かべるマルタスだけでなく、ほぼ全員の視線が集まった。
「アミュア!!」
たーっと走ってくるのはミーナだ。
一番に反応したのはアミュアで、声とともに駆けていく。
「ミーナ!どうしたの?!」
「おぉ?どーしたの?ミーナちゃん?」
まだ飲み込めないユアが続く。
ひしっと抱き合う二人。
ミーナはもこもこの赤系チェックのダウンコートで、アミュアもユア指定のもこもこフード付き白コートだ。ぽよんっと擬音がついてきそうな抱擁であった。
再び入口のベルが今度は控えめに鳴った。
「カーニャ!」
今度はユアが真っ先に見つけて近づく。
「久しぶり。マルタスさんごめんなさい妹が加減判らずドア開けちゃって」
本当は文句いいたそうだが、口では責めないマルタス。
「いいんだ、気にすんな。…妹元気になったんだな、よかったな」
最後はニヤリと笑いことほぐ。
オフィスの隅にある歓談コーナーのテーブルセットを4人で占領し、お互いの近況をまず伝えあった。
ミーナはアミュアにべったりである。
「カーニャ絶対今の感じの方が、人気出ると思うな!綺麗だし優しい感じする」
ちょっと頬が赤くなるのは、前回の登場シーンを思い出したのか。
ちょっとツンで答えるカーニャ。
「べべ、別に人気が欲しくてイメチェンしたんじゃなくってよ!」
すっと微笑み、お姉さんの顔になるカーニャが続ける。
「若くて実績を多く積むと、普通は恨まれるのよ?ユア」
カーニャは最年少クラスの出世株だ。
10代でAクラスのハンターは世界的にも珍しい。
カーニャは半年ほど前、ルメリナにくる少し前にAクラスに昇格していた。
もちろん周囲からはやっかみの声も多かったが、地道に積み上げてきたキャラの外面でうまくかわしていたのである。
「ふむふむ?」
と、わかってなさそうなユアだが、それ以上はカーニャは押し付けない。
「手紙に色々書いてたじゃない?ミルディス公国に行きたいんでしょ?」
ずばり核心から入るカーニャは本当に優秀である。
二人は月に何度も手紙をやり取りしていて、ユアはアイギスやミルディス公国の事、親の仇の話もしていた。
副作用として、ユアの国語力は大分上がった。
「ミーナのリハビリも落ち着いて、ちょっとなら走れるようにもなったので、いい機会だから連れてきちゃった。迷惑じゃないよね?」
軽やかにウィンクを添えるカーニャ。
こうゆうとこだよなカーニャの凄いとこ、会話に無駄が少ないな。
と、思いながら答えるユア。
見事なウィンクもユアに刺さっていた。
「ぜんぜん平気!いまは『すみれ館』も空きがあるようだし、泊まっていけるんでしょ?」
ニコっと笑顔になるカーニャ。
そうして笑うと、化粧でごまかした年齢ではなく、実年齢相応に見える。
「泊まるよ、ミーナを迎えに2~3日で実家から馬車が来るからそれまではゆっくりしたいな」
こちらもいつものにっこりでユア。
「おっけー、こないだはあんまりゆっくり出来なかったから、今度はルメリナを案内するよ!」
カーニャだけじゃなくミーナにも向けてユアは元気に宣言した。
「ところで、ふたりはどうやって来たの?汽車?」
とは、ミーナに腕を取られたままのアミュア。
「あぁ!」
ミーナが思い出してハッとする。
微笑ましそうにそれを見ながらカーニャが答える。
「実は今回は自分の馬車で来てるの。私専用のやつよ」
「なんと!マイ馬車ですの?ですの?」
とふざけて答えるユア。
「なによ!せっかく公国まで一緒に乗せて行こうと思って、持ってきたのに!」
ちょっとツン切れるカーニャ。
隅っこにいても姦しさマックスのユア達であった。
カーニャ姉妹も含め、見守る大人たちの目線は柔らかかった。
ユアは朝が余り得意ではなく、好きなだけ寝ていたい方だ。
しかしアミュアが非常に規則正しく寝起きするので、だんだんとユアも慣らされてきていた。
(もうすぐ春が来る)
日が昇っていって明るくなった空を、じっと見る。
最近は雪が降ることもほとんどなくなった。
(アイギス兄さんからは結局何も連絡がなかったな)
ユアの表情には若干のあせりが混じる。
何度もアミュアを説得し旅立とうとしたのだが、アミュアを始めマルタスやオフィスの皆にも止められた。
冬の長旅は危険すぎると。
ミルディス公国との間にはかなり険しい山脈が遮るように横たわっている。
山越えの峠道はあるが、冬季に分け入るような場所ではなかった。
南回りの海路はとても遠回りで、普通に年単位の移動になる。
「ユア起きたのですね、シャワー空きましたよ?」
部屋に付属のシャワールームからバスタオルを巻いただけのアミュアが出てくる。
髪はまだ乾かしていないのか、タオルで包み拭きしていた。
「おはよー、アミュア。了解!入ってきちゃうね」
さっきまで外を見て沈んでいた表情も気分も、アミュアを見ただけで元気に塗りつぶされるユアであった。
それだけのものを積み上げてきたのだ。ゆるがない絆を。
アミュアはユアを元気にする魔法をまとっているのだ。
「で・・・?、ミルディス公国に行きたいと?」
いつものハンターオフィスカウンターで、いつものマルタスである。
「アイギス兄さんから連絡無いのは、きっとトラブルがあったからなんだよ!もう半年になる…」
マルタスにつかみかかる勢いのユアが、強く言う。
ユアのパワーに怯みもせず、腕組みになって「わかったわかった」と考えこむマルタス。
そこへマルタスの横から、出来る新人所員のお姉さんが指摘する。
「ユアちゃん相当距離があるので、徒歩では現実的ではないですよ?路線便も無いですし」
このルメリナのある国とミルディス公国は特に国交豊とも言えず、交易路は主に南方の海路である。
「うん…」
理性的に止められると、地理に詳しくないユアでは言い返せない。
その時スイングドアが勢いよく開く。
スイングドアにはベルが付いており、開閉時に音を鳴らすので開くと目が行く仕様だ。
ちょっと青筋を浮かべるマルタスだけでなく、ほぼ全員の視線が集まった。
「アミュア!!」
たーっと走ってくるのはミーナだ。
一番に反応したのはアミュアで、声とともに駆けていく。
「ミーナ!どうしたの?!」
「おぉ?どーしたの?ミーナちゃん?」
まだ飲み込めないユアが続く。
ひしっと抱き合う二人。
ミーナはもこもこの赤系チェックのダウンコートで、アミュアもユア指定のもこもこフード付き白コートだ。ぽよんっと擬音がついてきそうな抱擁であった。
再び入口のベルが今度は控えめに鳴った。
「カーニャ!」
今度はユアが真っ先に見つけて近づく。
「久しぶり。マルタスさんごめんなさい妹が加減判らずドア開けちゃって」
本当は文句いいたそうだが、口では責めないマルタス。
「いいんだ、気にすんな。…妹元気になったんだな、よかったな」
最後はニヤリと笑いことほぐ。
オフィスの隅にある歓談コーナーのテーブルセットを4人で占領し、お互いの近況をまず伝えあった。
ミーナはアミュアにべったりである。
「カーニャ絶対今の感じの方が、人気出ると思うな!綺麗だし優しい感じする」
ちょっと頬が赤くなるのは、前回の登場シーンを思い出したのか。
ちょっとツンで答えるカーニャ。
「べべ、別に人気が欲しくてイメチェンしたんじゃなくってよ!」
すっと微笑み、お姉さんの顔になるカーニャが続ける。
「若くて実績を多く積むと、普通は恨まれるのよ?ユア」
カーニャは最年少クラスの出世株だ。
10代でAクラスのハンターは世界的にも珍しい。
カーニャは半年ほど前、ルメリナにくる少し前にAクラスに昇格していた。
もちろん周囲からはやっかみの声も多かったが、地道に積み上げてきたキャラの外面でうまくかわしていたのである。
「ふむふむ?」
と、わかってなさそうなユアだが、それ以上はカーニャは押し付けない。
「手紙に色々書いてたじゃない?ミルディス公国に行きたいんでしょ?」
ずばり核心から入るカーニャは本当に優秀である。
二人は月に何度も手紙をやり取りしていて、ユアはアイギスやミルディス公国の事、親の仇の話もしていた。
副作用として、ユアの国語力は大分上がった。
「ミーナのリハビリも落ち着いて、ちょっとなら走れるようにもなったので、いい機会だから連れてきちゃった。迷惑じゃないよね?」
軽やかにウィンクを添えるカーニャ。
こうゆうとこだよなカーニャの凄いとこ、会話に無駄が少ないな。
と、思いながら答えるユア。
見事なウィンクもユアに刺さっていた。
「ぜんぜん平気!いまは『すみれ館』も空きがあるようだし、泊まっていけるんでしょ?」
ニコっと笑顔になるカーニャ。
そうして笑うと、化粧でごまかした年齢ではなく、実年齢相応に見える。
「泊まるよ、ミーナを迎えに2~3日で実家から馬車が来るからそれまではゆっくりしたいな」
こちらもいつものにっこりでユア。
「おっけー、こないだはあんまりゆっくり出来なかったから、今度はルメリナを案内するよ!」
カーニャだけじゃなくミーナにも向けてユアは元気に宣言した。
「ところで、ふたりはどうやって来たの?汽車?」
とは、ミーナに腕を取られたままのアミュア。
「あぁ!」
ミーナが思い出してハッとする。
微笑ましそうにそれを見ながらカーニャが答える。
「実は今回は自分の馬車で来てるの。私専用のやつよ」
「なんと!マイ馬車ですの?ですの?」
とふざけて答えるユア。
「なによ!せっかく公国まで一緒に乗せて行こうと思って、持ってきたのに!」
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カーニャ姉妹も含め、見守る大人たちの目線は柔らかかった。
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