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わたしがわたしになるまで
【第7話:ふたたびの町にて前編】
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町についたアミュアとユアは、まず宿を取ったのだった。
かつてカーニャと3人で泊まった高級ホテルだった。
今回の旅では全く宿代がかかっていないので、奮発したのだった。
マルタスから研修旅行費として、まとまったお金も持たされていた。
もちろん思い出の宿だから、と言うのもあった。
ユアを覚えていて受付から見送るホテルの職員も、まさか隣の銀髪がアミュアだとは気付くまい。
せいぜい前の子の姉かな面影あるし?くらいである。
それくらいアミュアは大きくなったのだ。
まだ大分時間は早かったが、お風呂に入り着替えてから部屋でくつろぎ話し合った。
ベッドにあがりスリッパを落としたユアが、ぱたぱた足を振りながら言う。
「さすがにアミュアが病院いったら大騒ぎになるよ」
「それはそうですね」
大騒ぎの看護婦達を容易に想像できた。
アミュアは今となってはあざとすぎる仕草で、指をあごにあてる。
隣のベッドに座りながら続ける。
「ユアがひとりでアイギスさんに会ってきてください」
にこりとしてさらに、ユアに気遣いさせまいと告げた。
「わたしは上のラウンジでお茶してますね。見晴らしいいですここのラウンジ」
もちろんユアにはアミュアの気持ちが伝わり、ありがたく従うのだった。
「じゃあまずはあたしが行って、にいさんに色々説明してくる。それから二人であらためて行こう」
折衷案みたいな提案で閉めるユアだった。
今日は天気も良く太陽も元気だが、午後の日差しは少し柔らかくなった。
6階建てのこのホテルは、この町で一番背が高い。
最上階の展望ラウンジは人気で、半分以上の席が埋まっていた。
アミュアはカウンターで一人カウンターチェアに腰かけ、アイスココアを飲んでいた。
口を開かないアミュアはどこのお嬢様か?と視線を集めている。
近寄りがたい雰囲気で誰も声をかけたりはしないのだが。
上には生クリームが山盛りでチョコソースでチェック模様が飾られている。
今はストローを刺し、カーニャの真似をして優雅っぽく飲んでいた。
おねーさん気分である。
以前は気にしていた、胸と下着の間もみっちりつまり自身満々なのである。
正面の窓からは雪月山脈が霞んで見える。
「おまたせー」
そこに思いがけず早い帰還のユア。
「はやすぎるよ?今から飲むとこなのに」
クスっと笑って隣に座るユア。
カウンター奥のボーイさんに花の香りのアイスティを頼んだのだった。
アミュアはちょいちょいアイスココアを飲むが、まだスプーンには手を付けずクリームはそのままだ。
クリームに描かれたかわいい細いチェックが気に入ってるのだ。
視線がもの問いたげなアミュアに、ユアが病院での結果だけを話す。
「ここじゃ詳しく話しづらいけど。とりあえず急ぐ必要はなくなったよ」
ユアのセリフにタイミングをあわせて、おまたせしましたの声。
フラワーアイスティが来た。
エディブル・フラワーはオレンジの大輪でグラスからはみ出す勢いだ。
「でっかいな!これ好きなんだちょっとオレンジの味すんのね」
カーニャの真似で紅茶を飲み始めたユアだが、最近ではかなり詳しい。
ちゅうっとストローで吸い、アミュアに回す。
カラリと氷が鳴った。
飲んでみて、との意味だろう。
アミュアも興味があるのか、ココアをユアに回してアイスティに口を付けた。
「あ、ほんとです。ちょっと香りもいいですね!おいしいかも」
「でしょでしょ」
答えつつユアもココアを一口、甘い香りがひろがる。
いつも紅茶は甘くしないと飲めなかったアミュアが、高評価でにっこりであった。
「さすがの高級ホテルです」
一旦部屋に戻り、窓際のテーブルセットに掛けた二人。
日当たりもよく暖かいので、窓も開けていた。
レースのカーテンが揺れ、さらっと風がぬけていく。
さっそくユアが説明。
「アイギスにいさんは、手紙を受け取った翌日自主退院したって」
伏し目がちにしてユアは寂しそうに続けた。
「右足は結局回復しなくて、右手も手首から先は自由には動かないままだったって」
「どうやって退院したんですか?誰か迎えに来た?」
すぐ聞き返すアミュアはちょっと小さい頃を思い出させる。
ユアは顔を上げてニコリと答えた。
「なんでも知り合いだって男の人が来て、補助してくれたんだって。たぶん現地協力員かな」
「きょうりょくいん?」
ユアは斥候の任務についても仕込まれており、ルメリナやスリックデンの協力員なら、顔と連絡方法を教わっていた。
この町は知らないが、アイギスは活動拠点にもしていたと聞いていた。
「作戦地域に協力者を雇うんだよ」
ユアは簡単にアミュアにも斥候任務について解説した。
「ふむ、では行方はわからないと?」
「そうなるね」
しばらく無言の後ユアが結論付ける。
「きっと探して欲しいならそうゆう合図のこすのね、斥候の約束事」
またちょっとだけ視線を下げるユア。
「病院にそれが無いのは探すなって事だと思う」
向かいに座っていたアミュアがすっと腰を上げ、膝の上に置いたユアの手を取る。
「平気、アイギス兄さんはいつもふらっと居なくなるの。挨拶なしでね」
アミュアの言葉を遮り、言い訳かのように付け足す。
じっと見たアミュアは手を放して座った。
「先生に聞いてみたら、今夜時間もらえるって」
突然の宣言にアミュアはびっくり顔。
「晩御飯に誘ったから、今夜上でご一緒するよ。アミュアの事は何も話してないけど」
「どうして?」
まるで小さい頃のアミュアのように短い質問だけが返ってきた。
表情から読み取れるのは照れだ。
「会ったらわかるかもよ?」
にやにや成分を多く含むユアの笑顔だった。
そのあと、ホテルに入ってる貸衣装コーナーでアミュアのドレスを借りた。
大きくなったアミュアは、以前買ったドレスがもう入らないのだ。
ユアは馬車につみっぱなしだったドレスだ。
ユアは貸衣装で借りた、オレンジのすけすけストールだけ足して羽織った。
靴もあわせてオレンジのを借りる。
今はお店のひとが3人がかりでアミュアをちやほやしている。
こっちがいいとか、あれがいいとか、素材がいいだの姦しくいろいろ試されていた。
ユアは壁にかかっている魔石時計を確認し、そろそろ決めないとなあと他人事。
最終的にユア共々軽くお化粧もしてもらい、仕上がったのはぎりぎりの時間だった。
レディは殿方をまたせるものだの、男性に器量をしめさせるのも、などと最後まで姦しく送り出された。
「さて、いきますか姫」
ユアがそういって差し出した右ひじに、そっと肘まである白手袋の手をそえるアミュア。
まさしくプリンセスな仕上がりだった。
プロはすごいなとユアは感心したのだった。
かつてカーニャと3人で泊まった高級ホテルだった。
今回の旅では全く宿代がかかっていないので、奮発したのだった。
マルタスから研修旅行費として、まとまったお金も持たされていた。
もちろん思い出の宿だから、と言うのもあった。
ユアを覚えていて受付から見送るホテルの職員も、まさか隣の銀髪がアミュアだとは気付くまい。
せいぜい前の子の姉かな面影あるし?くらいである。
それくらいアミュアは大きくなったのだ。
まだ大分時間は早かったが、お風呂に入り着替えてから部屋でくつろぎ話し合った。
ベッドにあがりスリッパを落としたユアが、ぱたぱた足を振りながら言う。
「さすがにアミュアが病院いったら大騒ぎになるよ」
「それはそうですね」
大騒ぎの看護婦達を容易に想像できた。
アミュアは今となってはあざとすぎる仕草で、指をあごにあてる。
隣のベッドに座りながら続ける。
「ユアがひとりでアイギスさんに会ってきてください」
にこりとしてさらに、ユアに気遣いさせまいと告げた。
「わたしは上のラウンジでお茶してますね。見晴らしいいですここのラウンジ」
もちろんユアにはアミュアの気持ちが伝わり、ありがたく従うのだった。
「じゃあまずはあたしが行って、にいさんに色々説明してくる。それから二人であらためて行こう」
折衷案みたいな提案で閉めるユアだった。
今日は天気も良く太陽も元気だが、午後の日差しは少し柔らかくなった。
6階建てのこのホテルは、この町で一番背が高い。
最上階の展望ラウンジは人気で、半分以上の席が埋まっていた。
アミュアはカウンターで一人カウンターチェアに腰かけ、アイスココアを飲んでいた。
口を開かないアミュアはどこのお嬢様か?と視線を集めている。
近寄りがたい雰囲気で誰も声をかけたりはしないのだが。
上には生クリームが山盛りでチョコソースでチェック模様が飾られている。
今はストローを刺し、カーニャの真似をして優雅っぽく飲んでいた。
おねーさん気分である。
以前は気にしていた、胸と下着の間もみっちりつまり自身満々なのである。
正面の窓からは雪月山脈が霞んで見える。
「おまたせー」
そこに思いがけず早い帰還のユア。
「はやすぎるよ?今から飲むとこなのに」
クスっと笑って隣に座るユア。
カウンター奥のボーイさんに花の香りのアイスティを頼んだのだった。
アミュアはちょいちょいアイスココアを飲むが、まだスプーンには手を付けずクリームはそのままだ。
クリームに描かれたかわいい細いチェックが気に入ってるのだ。
視線がもの問いたげなアミュアに、ユアが病院での結果だけを話す。
「ここじゃ詳しく話しづらいけど。とりあえず急ぐ必要はなくなったよ」
ユアのセリフにタイミングをあわせて、おまたせしましたの声。
フラワーアイスティが来た。
エディブル・フラワーはオレンジの大輪でグラスからはみ出す勢いだ。
「でっかいな!これ好きなんだちょっとオレンジの味すんのね」
カーニャの真似で紅茶を飲み始めたユアだが、最近ではかなり詳しい。
ちゅうっとストローで吸い、アミュアに回す。
カラリと氷が鳴った。
飲んでみて、との意味だろう。
アミュアも興味があるのか、ココアをユアに回してアイスティに口を付けた。
「あ、ほんとです。ちょっと香りもいいですね!おいしいかも」
「でしょでしょ」
答えつつユアもココアを一口、甘い香りがひろがる。
いつも紅茶は甘くしないと飲めなかったアミュアが、高評価でにっこりであった。
「さすがの高級ホテルです」
一旦部屋に戻り、窓際のテーブルセットに掛けた二人。
日当たりもよく暖かいので、窓も開けていた。
レースのカーテンが揺れ、さらっと風がぬけていく。
さっそくユアが説明。
「アイギスにいさんは、手紙を受け取った翌日自主退院したって」
伏し目がちにしてユアは寂しそうに続けた。
「右足は結局回復しなくて、右手も手首から先は自由には動かないままだったって」
「どうやって退院したんですか?誰か迎えに来た?」
すぐ聞き返すアミュアはちょっと小さい頃を思い出させる。
ユアは顔を上げてニコリと答えた。
「なんでも知り合いだって男の人が来て、補助してくれたんだって。たぶん現地協力員かな」
「きょうりょくいん?」
ユアは斥候の任務についても仕込まれており、ルメリナやスリックデンの協力員なら、顔と連絡方法を教わっていた。
この町は知らないが、アイギスは活動拠点にもしていたと聞いていた。
「作戦地域に協力者を雇うんだよ」
ユアは簡単にアミュアにも斥候任務について解説した。
「ふむ、では行方はわからないと?」
「そうなるね」
しばらく無言の後ユアが結論付ける。
「きっと探して欲しいならそうゆう合図のこすのね、斥候の約束事」
またちょっとだけ視線を下げるユア。
「病院にそれが無いのは探すなって事だと思う」
向かいに座っていたアミュアがすっと腰を上げ、膝の上に置いたユアの手を取る。
「平気、アイギス兄さんはいつもふらっと居なくなるの。挨拶なしでね」
アミュアの言葉を遮り、言い訳かのように付け足す。
じっと見たアミュアは手を放して座った。
「先生に聞いてみたら、今夜時間もらえるって」
突然の宣言にアミュアはびっくり顔。
「晩御飯に誘ったから、今夜上でご一緒するよ。アミュアの事は何も話してないけど」
「どうして?」
まるで小さい頃のアミュアのように短い質問だけが返ってきた。
表情から読み取れるのは照れだ。
「会ったらわかるかもよ?」
にやにや成分を多く含むユアの笑顔だった。
そのあと、ホテルに入ってる貸衣装コーナーでアミュアのドレスを借りた。
大きくなったアミュアは、以前買ったドレスがもう入らないのだ。
ユアは馬車につみっぱなしだったドレスだ。
ユアは貸衣装で借りた、オレンジのすけすけストールだけ足して羽織った。
靴もあわせてオレンジのを借りる。
今はお店のひとが3人がかりでアミュアをちやほやしている。
こっちがいいとか、あれがいいとか、素材がいいだの姦しくいろいろ試されていた。
ユアは壁にかかっている魔石時計を確認し、そろそろ決めないとなあと他人事。
最終的にユア共々軽くお化粧もしてもらい、仕上がったのはぎりぎりの時間だった。
レディは殿方をまたせるものだの、男性に器量をしめさせるのも、などと最後まで姦しく送り出された。
「さて、いきますか姫」
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