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わたしがわたしになるまで
【第39話:ここにいるよ】
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「アミュア!ミーナ!」
ミーナの部屋にユアがあわてて入ってくる。
「ユア、ひとの部屋に入る時はノックしないとだめですよ」
冷静なアミュアの声にミーナも続く。
「ふふ、いいんですよ。ユアさんに見られて困るものなどありませんから」
ちょっと唇を尖らせアミュア。
「ミーナはあまやかしすぎです。ダメですよユア」
ちょっとお姉さんぶるアミュアであった。
「ごめん、ちょっとあわててて!カーニャがいないの!どこに行ったんだろ?会わなかった?」
「??」
「いない?」
ふたりも怪訝な顔で視線を交わした。
「昨日眠くって、なにか私が嫌な事いっちゃったのかな?!どこにいったんだろ?ミーナちゃん思い当たらない?」
うーんと考え込むが思い当たらないようだ。
「そうだ!お母さまならわかるかも?誰よりも姉さまの事しってるのはお母さまです」
ぱっとミーナの手をとるユア。
「よし!すぐ聞きに行こう!」
飛び出していきそうなユアを、アミュアが止める。
「まってユア」
「ん?いそぐんだよお?!」
じっとユアの首から下をみるアミュア。
ミーナも一緒に見ている。
あわててカーニャの部屋を出てきたユアは、カーニャに借りた薄手のキャミソール一枚の姿だった。
「ぐはぁしまった!」
朝の光で色々透ける上に、あしも裸足であった。
「カーニャさんが行きそうな所‥そうですね」
カーニャの母エリセラは30台後半の女性で、カーニャそっくりの美人顔だった。
とても若く見えて、ギリギリ20代と言っても通りそうだった。
アップにまとめた金髪も同じ色で、これは家族だなとわかる容姿。
ユアは急いで身支度をすませ、ここへ一人で来たのだった。
万一昨夜の話題になったらと、ミーナは外で待たせた。
今は焦りを隠せないのか、落ち着きがなくソファに座っていた。
1階の奥にある応接だった。
ミーナの寝室からは近く、カーニャの寝室は2階なので少し距離がある。
「もしかしてあの子は落ち込んでいましたか?」
じっとユアを見るエリセラ。
カーニャともミーナとも少しちがう青色の落ち着いた目だった。
「おそらく‥‥ひとりにしてとメモが残っていたんです」
ユアの答えにエリセラが横を向く。
同席していたカーニャの父レオニスを見たのだ。
無言のレオニスと頷きあい、ユアに告げるエリセラ。
「きっとあそこです」
ぱぱっと外套と短剣だけ取りに行って、飛び出していくユアにアミュアが告げる。
「カーニャは任せます、わたしはこちらに待機していますね」
「姉さまをおねがいします!ユアさん」
ミーナも隣で願った。
「うん!まってて」
それだけ告げると玄関に向かうユア。
そこにエリセラとレオニスが現れる。
「ユアさん‥どうかカーニャをよろしくお願いします」
丁寧にこいねがい告げるエリセラに無言で頷くユア。
にっこり笑顔だった。
ぱたんと扉がしまるとユアはあっという間に走っていったのだった。
そっとエリセラの手を取ったレオニスは、心の中でユアに願うのだった。
(どうか私たちの希望をよろしくお願いします)
とだけ。
カーニャは幼いころから強かった。
まず魔力が強い。
大人でも敵わないほど魔力があり、その制御も見事だった。
6才のころには独学で攻撃魔法やディテクト系の魔法に、生活魔法の一部まで使いこなした。
身体強化も効率は悪くとも使いこなす。
そうして魔法も使い駆けだすと、家人では追いつけるものは少なかった。
家人がみな褒めるので、調子にのって大分生意気に育っていた。
そんなカーニャでも子供らしい失敗をすることもあった。
落ち込んだ時は決まってここへ来たのだ。
屋敷の裏に広がる裏山。
それほど高い山ではないが、ルミナ・ヴァルディア家の所領で一般には入山禁止とされていた。
その山頂に小さな展望台がある。
木製のシンプルなものだが、貴族家所有だけあり、それなりの彫刻が入った美しいものだった。
付近の原木も刈られ整えてあるので、非常に見晴らしが良い。
その端にカーニャは座って、手すりに寄りかかっていた。
小さい頃からの隠れ家だ。
(なんか書置きしてでてくるなんて、家出みたいね)
クスっと笑うカーニャには悲壮さはどこにもない。
行動ほど落ち込んでもいないのだった。
ただちょっとユアに会うのが恥ずかしかったのと、やっぱり自分の思考がユアに相応しくなく感じて少し悲しかったのだ。
そうして静かな山の上で一人で居ると、小さい頃を色々と思い出したのだった。
場所柄思い出されるのは、悲しかったこと、恥ずかしかったこと。
そんなことばかり思い出された。
(これじゃ本当にダメな子供だった様に思えるわ)
カーニャが浮かべるのは自嘲の笑み。
(お母さま‥‥いつもここに迎えに来てくれたのはお母さまだったわ。そんな事も忘れていたなんて親不孝な娘だわ)
秘密にされていたショックも、出自を知った恐怖も。
それを暴いた気まずさも。
もうとっくの昔にカーニャの中では整理がついている事だった。
(どうして私は、いつまでも意地を張ってるのかしら?)
そんな事をつれずれ思っていると、下の方から気配が上がってくる。
道は一本しか無いし、目的地はここだろう。
カーニャと呼ぶ声がした。
まだ少し遠いがユアの声だと解った。
一瞬逃げようか迷い、このまま待つことにした。
そうして山頂にユアがたどり着く。
ユアの体力なら準備運動程度の山である、本気なら数秒で跳び上がってくるだろう。
それを気配をさらし、ゆっくり登ってきたのだ。
カーニャはその気遣いにも胸が熱くなる。
「探したよ、お姫様」
いつかの夜霧の上のようにふざけてユアが言う。
「バカ‥」
カーニャも赤くなり同じ様な答えをするのだった。
カーニャの隣まで階段を登ったユアが、隣に立つ。
いつもの距離感だ。
ただの友人には近づきすぎて、恋人達よりは少しだけ遠い。
「ごめんねユア‥‥あなたといると子供みたいな事をしてしまうの」
ちょっと恥ずかしそうにうつむくカーニャ。
ユアは視線を合わせない。
「昨日はちょっと眠くなっちゃって、ちゃんとお話出来なくてごめんカーニャ」
そうして謝罪しあうと、いつもの様に視線を合わせクスクスと笑い合った。
ただそれだけでカーニャの心は幸せに包まれたのだった。
嫌なことなど何もなかったかのように、晴れやかであたたかな気持ちだけが満ちてくるのだった。
カーニャの隣の日陰に座るユア。
展望台は屋根がある庵になっており、日差しは当たらない。
虫の音だけがうるさいほど鳴り響いて夏を告げる。
「そうだ」
突然沈黙を破り、話し出したユア。
「昨日寝る前にカーニャに伝えたかったことがあったの」
唐突な話にカーニャは戸惑う。
(そんな流れだったかしら?)
いつもの様に、にっこりカーニャを見てユアが続けた。
「カーニャはちゃんと両親の事が好きで、両親もカーニャの事が大好きだよきっと」
思いがけない言葉にカーニャは感情を抑えきれなくなる。
いつかのアウシェラ湖の朝のように、意志では制御できない涙が溢れてくる。
静かに涙を流したカーニャを、そっと抱きしめるユアであった。
少しうるさいくらいの虫の音は、2人の会話をきれいに隠してくれるのだった。
2人だけの秘密だねと。
ミーナの部屋にユアがあわてて入ってくる。
「ユア、ひとの部屋に入る時はノックしないとだめですよ」
冷静なアミュアの声にミーナも続く。
「ふふ、いいんですよ。ユアさんに見られて困るものなどありませんから」
ちょっと唇を尖らせアミュア。
「ミーナはあまやかしすぎです。ダメですよユア」
ちょっとお姉さんぶるアミュアであった。
「ごめん、ちょっとあわててて!カーニャがいないの!どこに行ったんだろ?会わなかった?」
「??」
「いない?」
ふたりも怪訝な顔で視線を交わした。
「昨日眠くって、なにか私が嫌な事いっちゃったのかな?!どこにいったんだろ?ミーナちゃん思い当たらない?」
うーんと考え込むが思い当たらないようだ。
「そうだ!お母さまならわかるかも?誰よりも姉さまの事しってるのはお母さまです」
ぱっとミーナの手をとるユア。
「よし!すぐ聞きに行こう!」
飛び出していきそうなユアを、アミュアが止める。
「まってユア」
「ん?いそぐんだよお?!」
じっとユアの首から下をみるアミュア。
ミーナも一緒に見ている。
あわててカーニャの部屋を出てきたユアは、カーニャに借りた薄手のキャミソール一枚の姿だった。
「ぐはぁしまった!」
朝の光で色々透ける上に、あしも裸足であった。
「カーニャさんが行きそうな所‥そうですね」
カーニャの母エリセラは30台後半の女性で、カーニャそっくりの美人顔だった。
とても若く見えて、ギリギリ20代と言っても通りそうだった。
アップにまとめた金髪も同じ色で、これは家族だなとわかる容姿。
ユアは急いで身支度をすませ、ここへ一人で来たのだった。
万一昨夜の話題になったらと、ミーナは外で待たせた。
今は焦りを隠せないのか、落ち着きがなくソファに座っていた。
1階の奥にある応接だった。
ミーナの寝室からは近く、カーニャの寝室は2階なので少し距離がある。
「もしかしてあの子は落ち込んでいましたか?」
じっとユアを見るエリセラ。
カーニャともミーナとも少しちがう青色の落ち着いた目だった。
「おそらく‥‥ひとりにしてとメモが残っていたんです」
ユアの答えにエリセラが横を向く。
同席していたカーニャの父レオニスを見たのだ。
無言のレオニスと頷きあい、ユアに告げるエリセラ。
「きっとあそこです」
ぱぱっと外套と短剣だけ取りに行って、飛び出していくユアにアミュアが告げる。
「カーニャは任せます、わたしはこちらに待機していますね」
「姉さまをおねがいします!ユアさん」
ミーナも隣で願った。
「うん!まってて」
それだけ告げると玄関に向かうユア。
そこにエリセラとレオニスが現れる。
「ユアさん‥どうかカーニャをよろしくお願いします」
丁寧にこいねがい告げるエリセラに無言で頷くユア。
にっこり笑顔だった。
ぱたんと扉がしまるとユアはあっという間に走っていったのだった。
そっとエリセラの手を取ったレオニスは、心の中でユアに願うのだった。
(どうか私たちの希望をよろしくお願いします)
とだけ。
カーニャは幼いころから強かった。
まず魔力が強い。
大人でも敵わないほど魔力があり、その制御も見事だった。
6才のころには独学で攻撃魔法やディテクト系の魔法に、生活魔法の一部まで使いこなした。
身体強化も効率は悪くとも使いこなす。
そうして魔法も使い駆けだすと、家人では追いつけるものは少なかった。
家人がみな褒めるので、調子にのって大分生意気に育っていた。
そんなカーニャでも子供らしい失敗をすることもあった。
落ち込んだ時は決まってここへ来たのだ。
屋敷の裏に広がる裏山。
それほど高い山ではないが、ルミナ・ヴァルディア家の所領で一般には入山禁止とされていた。
その山頂に小さな展望台がある。
木製のシンプルなものだが、貴族家所有だけあり、それなりの彫刻が入った美しいものだった。
付近の原木も刈られ整えてあるので、非常に見晴らしが良い。
その端にカーニャは座って、手すりに寄りかかっていた。
小さい頃からの隠れ家だ。
(なんか書置きしてでてくるなんて、家出みたいね)
クスっと笑うカーニャには悲壮さはどこにもない。
行動ほど落ち込んでもいないのだった。
ただちょっとユアに会うのが恥ずかしかったのと、やっぱり自分の思考がユアに相応しくなく感じて少し悲しかったのだ。
そうして静かな山の上で一人で居ると、小さい頃を色々と思い出したのだった。
場所柄思い出されるのは、悲しかったこと、恥ずかしかったこと。
そんなことばかり思い出された。
(これじゃ本当にダメな子供だった様に思えるわ)
カーニャが浮かべるのは自嘲の笑み。
(お母さま‥‥いつもここに迎えに来てくれたのはお母さまだったわ。そんな事も忘れていたなんて親不孝な娘だわ)
秘密にされていたショックも、出自を知った恐怖も。
それを暴いた気まずさも。
もうとっくの昔にカーニャの中では整理がついている事だった。
(どうして私は、いつまでも意地を張ってるのかしら?)
そんな事をつれずれ思っていると、下の方から気配が上がってくる。
道は一本しか無いし、目的地はここだろう。
カーニャと呼ぶ声がした。
まだ少し遠いがユアの声だと解った。
一瞬逃げようか迷い、このまま待つことにした。
そうして山頂にユアがたどり着く。
ユアの体力なら準備運動程度の山である、本気なら数秒で跳び上がってくるだろう。
それを気配をさらし、ゆっくり登ってきたのだ。
カーニャはその気遣いにも胸が熱くなる。
「探したよ、お姫様」
いつかの夜霧の上のようにふざけてユアが言う。
「バカ‥」
カーニャも赤くなり同じ様な答えをするのだった。
カーニャの隣まで階段を登ったユアが、隣に立つ。
いつもの距離感だ。
ただの友人には近づきすぎて、恋人達よりは少しだけ遠い。
「ごめんねユア‥‥あなたといると子供みたいな事をしてしまうの」
ちょっと恥ずかしそうにうつむくカーニャ。
ユアは視線を合わせない。
「昨日はちょっと眠くなっちゃって、ちゃんとお話出来なくてごめんカーニャ」
そうして謝罪しあうと、いつもの様に視線を合わせクスクスと笑い合った。
ただそれだけでカーニャの心は幸せに包まれたのだった。
嫌なことなど何もなかったかのように、晴れやかであたたかな気持ちだけが満ちてくるのだった。
カーニャの隣の日陰に座るユア。
展望台は屋根がある庵になっており、日差しは当たらない。
虫の音だけがうるさいほど鳴り響いて夏を告げる。
「そうだ」
突然沈黙を破り、話し出したユア。
「昨日寝る前にカーニャに伝えたかったことがあったの」
唐突な話にカーニャは戸惑う。
(そんな流れだったかしら?)
いつもの様に、にっこりカーニャを見てユアが続けた。
「カーニャはちゃんと両親の事が好きで、両親もカーニャの事が大好きだよきっと」
思いがけない言葉にカーニャは感情を抑えきれなくなる。
いつかのアウシェラ湖の朝のように、意志では制御できない涙が溢れてくる。
静かに涙を流したカーニャを、そっと抱きしめるユアであった。
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