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わたしがわたしになるまで
【第40話:やさしいノアのたむけ】
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丘の離宮裏庭の奥に、新しく墓地が作られた。
今までは使用人の墓地などなく、王都へ送られていた。
最近になって主人セルミアの意向で作られることとなった。
それは主人が、心を痛めたノアをなぐさめるため是非にと願ったものだった。
14人いたメイドは、7人となり丁度半分になったのだった。
今は白いドレスエプロンを外し、プリムの代わりに黒いヴェールを降ろした7人のメイドが葬儀に参加していた。
同僚たちの葬儀だ。
必ず遺体を持ち帰るようにと、優しい主人の命で持ち帰った5人の遺骸を加え、先に亡くなった二人と併せて葬儀となったのだ。
横並びに控えているメイドの前を、ノアがセルミアに手を引かれ歩いていく。
セルミアはいつもより少し地味な黒いイブニングドレスで、ノアは黒いワンピースに黒い帽子を合わせている。
一番右の墓石前でノアが立ち尽くす。
『ミシェリ・マウルサリス』
決して仲良くしていたわけではないが、顔と名前を覚えるくらいの接触はあった。
最初の襲撃で失われた命の一つだ。
ノアは持たされていた白い花を一輪捧げた。
『ジュリエラ・クレストーニャ』
ミシェリ共々ノアの周りに良くいたメイドの一人で、最初の襲撃で亡くたったもう一人だ。
家名があるところを見ると良家の子女であったのであろう。
ノアの瞳にありありと悲しみが浮かぶ。
そして花をまた捧げるのだった。
我慢できなくなったのか下を向いてポトリと涙を落とすノア。
一列にならんだメイド達の中からもすすり泣きが漏れてくる。
メイド長のノーラもヴェールの下で口元がゆがんでいた。
抑えきれない怒りが滲んでしまうのだ。
メイドとしての矜持は無表情に立てと言うが、手塩にかけて育てた部下を7人も失ったのだ。
また、ノアの純粋な悲しみをみて、それを与える者へのぐつぐつと沸き立つような怒りが抑えられず浮き上がったのだ。
ノアが足を止めたので、セルミアは優しく肩を抱いて進める。
「さあノア、まだお花を待っている子達がいるわよ」
とても慈しみに満ちた声でノアに囁くのだ。
手のかかる子ほどかわいいとは良く言ったもので、ノアはメイド達にとても愛されていた。
セルミアは丁寧にノアを悲しませる。
手を抜くことなくこまごまと心を傷付けようとするのだ。
それがノーラあたりには見え透いて怒りすら湧てくる。
メイド達には影獣の種子が植えられ、基本的にセルミアに疑問を持たないよう制御されているのだ。
同じ時期に離宮にいた人間すべてをそうして配下にしたセルミアだったが。
心の強さで術の効きは左右されるようで、メイド長辺りはまだまだ反感を持てるのだ。
それを主人に悟られるほどは愚かではなかったが。
「ノア、もっと力が必要なの。協力してくれないかしら?」
セルミアの私室であった。
今はメイドも下がらせているので、二人きりでノアと話している。
「先日の敵はとても強かったわ。5人ものメイド達が犠牲になったの」
びくっとノアの肩が揺れる。
5人の無残な遺骸も確認し弔ったのだった。
ノアが段階的に人の死を理解し、身近なものの喪失を見ることで抗いたいと願わせる。
セルミアの書いた道筋だ。
そのためにメイドは死んだのだった。
(次はあの一番懐いているメイド長に死んでもらおうかしら?)
悲しそうな顔の裏でセルミアは冷静にノアへの効果を測っている。
「‥‥どうしたらいいの?」
ノアは眉を下げ、縋るようにセルミアに問う。
「そうね、もっと強い戦士が必要だわ。ノアよりも強いね」
ここが勝負所と思ったか、ノアの背に手を添え辛そうに話すセルミア。
「前に影獣にしたように右手で力を与えてくれないかしら?」
そう言ってノアから離れたセルミアは机に置いてある金属のベルを取り鳴らす。
チリン
下げていたメイドを呼ぶベルだ。
「お呼びでしょうか?」
少しだけ開いた扉から声が漏れてくる。
「スヴァイレクを呼んでちょうだい」
「承知いたしました」
声だけで顔は見せず下がった。
「それではノアよろしくね」
セルミアが肩を抱いてスヴァイレクの前にノアを導く。
抑えきれない愉悦が顔を歪ませているが、ノアには見えないのだった。
拝礼して下を向くスヴァイレクの頭にそっとノアの右手が伸びる。
右手からは薄っすらと影が流れ出し、スヴァイレクに染み込んでいった。
かつての虎型影獣と同じように少しづつノアの右手が影で覆われ膨らんでいた。
かつてのように触れなくとも行えるのはノアの進化なのか、気持ちの問題か。
いずれセルミアにとっては都合の良い変化だった。
スヴァイレクの体躯は一般的な男性よりちょっと大きいくらいでそこにいた。
体の大きさすら自由にできるスヴァイレクのレベルならそうだろうと、セルミアが読んだ通り体躯に変化はない。
しかし時間を追うごとにスヴァイレクの存在感が増していき、反比例するようにノアの体躯が縮んでいく。
これもセルミアの予想通りであった。
そうしているのが辛くなったのか、ノアは手をおろし荒い息をつく。
「はぁはぁはぁ」
ノアの額からはつぎつぎと汗も流れ落ちている。
そっとセルミアが支えて労う。
「ありがとうノア。きっとこの強くなった戦士が皆を守るわ」
痛ましそうな表情でノアに語りかける。
「どうかしら?少し休んだらいいわ」
そういって10才程度に縮み、ワンピースがローブのようになったノアを寝室へ連れて行くのだった。
あとにはスヴァイレクが、ただ跪いているばかり。
その輪郭を紫の炎がメラメラと縁取っているのだった。
今までは使用人の墓地などなく、王都へ送られていた。
最近になって主人セルミアの意向で作られることとなった。
それは主人が、心を痛めたノアをなぐさめるため是非にと願ったものだった。
14人いたメイドは、7人となり丁度半分になったのだった。
今は白いドレスエプロンを外し、プリムの代わりに黒いヴェールを降ろした7人のメイドが葬儀に参加していた。
同僚たちの葬儀だ。
必ず遺体を持ち帰るようにと、優しい主人の命で持ち帰った5人の遺骸を加え、先に亡くなった二人と併せて葬儀となったのだ。
横並びに控えているメイドの前を、ノアがセルミアに手を引かれ歩いていく。
セルミアはいつもより少し地味な黒いイブニングドレスで、ノアは黒いワンピースに黒い帽子を合わせている。
一番右の墓石前でノアが立ち尽くす。
『ミシェリ・マウルサリス』
決して仲良くしていたわけではないが、顔と名前を覚えるくらいの接触はあった。
最初の襲撃で失われた命の一つだ。
ノアは持たされていた白い花を一輪捧げた。
『ジュリエラ・クレストーニャ』
ミシェリ共々ノアの周りに良くいたメイドの一人で、最初の襲撃で亡くたったもう一人だ。
家名があるところを見ると良家の子女であったのであろう。
ノアの瞳にありありと悲しみが浮かぶ。
そして花をまた捧げるのだった。
我慢できなくなったのか下を向いてポトリと涙を落とすノア。
一列にならんだメイド達の中からもすすり泣きが漏れてくる。
メイド長のノーラもヴェールの下で口元がゆがんでいた。
抑えきれない怒りが滲んでしまうのだ。
メイドとしての矜持は無表情に立てと言うが、手塩にかけて育てた部下を7人も失ったのだ。
また、ノアの純粋な悲しみをみて、それを与える者へのぐつぐつと沸き立つような怒りが抑えられず浮き上がったのだ。
ノアが足を止めたので、セルミアは優しく肩を抱いて進める。
「さあノア、まだお花を待っている子達がいるわよ」
とても慈しみに満ちた声でノアに囁くのだ。
手のかかる子ほどかわいいとは良く言ったもので、ノアはメイド達にとても愛されていた。
セルミアは丁寧にノアを悲しませる。
手を抜くことなくこまごまと心を傷付けようとするのだ。
それがノーラあたりには見え透いて怒りすら湧てくる。
メイド達には影獣の種子が植えられ、基本的にセルミアに疑問を持たないよう制御されているのだ。
同じ時期に離宮にいた人間すべてをそうして配下にしたセルミアだったが。
心の強さで術の効きは左右されるようで、メイド長辺りはまだまだ反感を持てるのだ。
それを主人に悟られるほどは愚かではなかったが。
「ノア、もっと力が必要なの。協力してくれないかしら?」
セルミアの私室であった。
今はメイドも下がらせているので、二人きりでノアと話している。
「先日の敵はとても強かったわ。5人ものメイド達が犠牲になったの」
びくっとノアの肩が揺れる。
5人の無残な遺骸も確認し弔ったのだった。
ノアが段階的に人の死を理解し、身近なものの喪失を見ることで抗いたいと願わせる。
セルミアの書いた道筋だ。
そのためにメイドは死んだのだった。
(次はあの一番懐いているメイド長に死んでもらおうかしら?)
悲しそうな顔の裏でセルミアは冷静にノアへの効果を測っている。
「‥‥どうしたらいいの?」
ノアは眉を下げ、縋るようにセルミアに問う。
「そうね、もっと強い戦士が必要だわ。ノアよりも強いね」
ここが勝負所と思ったか、ノアの背に手を添え辛そうに話すセルミア。
「前に影獣にしたように右手で力を与えてくれないかしら?」
そう言ってノアから離れたセルミアは机に置いてある金属のベルを取り鳴らす。
チリン
下げていたメイドを呼ぶベルだ。
「お呼びでしょうか?」
少しだけ開いた扉から声が漏れてくる。
「スヴァイレクを呼んでちょうだい」
「承知いたしました」
声だけで顔は見せず下がった。
「それではノアよろしくね」
セルミアが肩を抱いてスヴァイレクの前にノアを導く。
抑えきれない愉悦が顔を歪ませているが、ノアには見えないのだった。
拝礼して下を向くスヴァイレクの頭にそっとノアの右手が伸びる。
右手からは薄っすらと影が流れ出し、スヴァイレクに染み込んでいった。
かつての虎型影獣と同じように少しづつノアの右手が影で覆われ膨らんでいた。
かつてのように触れなくとも行えるのはノアの進化なのか、気持ちの問題か。
いずれセルミアにとっては都合の良い変化だった。
スヴァイレクの体躯は一般的な男性よりちょっと大きいくらいでそこにいた。
体の大きさすら自由にできるスヴァイレクのレベルならそうだろうと、セルミアが読んだ通り体躯に変化はない。
しかし時間を追うごとにスヴァイレクの存在感が増していき、反比例するようにノアの体躯が縮んでいく。
これもセルミアの予想通りであった。
そうしているのが辛くなったのか、ノアは手をおろし荒い息をつく。
「はぁはぁはぁ」
ノアの額からはつぎつぎと汗も流れ落ちている。
そっとセルミアが支えて労う。
「ありがとうノア。きっとこの強くなった戦士が皆を守るわ」
痛ましそうな表情でノアに語りかける。
「どうかしら?少し休んだらいいわ」
そういって10才程度に縮み、ワンピースがローブのようになったノアを寝室へ連れて行くのだった。
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