138 / 161
わたしがわたしになるまで
【第52話:森で出会った二人】
しおりを挟む
「知っていると思うが、亡きわが主は貴様の主人を嫌っていてな」
すうっとどうやったのか、一つ離れた枝に移ったカルヴィリスが鋭い視線のままレヴァントゥスに告げる。
「その薫陶を受けた我が身も、しらず気に入らない首を落としてしまうかもしれんぞ」
きれいな脅しであった。
嫌な汗が背中を伝うレヴァントゥス。
セリフ通りのことが出来ると見せられたばかりだ。
「いえ、たまたまここで休んでいたら知り合いのノアちゃんが来たので、そっと見守っていただけですよ」
軽い調子で答えるレヴァントゥスには、逆らう気配はなかった。
「そちらこそこんな所でどうしたんですか?」
軽い感じで聞くが、事情を把握している者同士である。
皮肉の成分は全て伝わった。
「ふむ、やはり気の向くまま過ごすべきかな。主を失った下僕としては」
言いながらするりと音もなくシャムシールが抜かれる。
やばい本気だと察したレヴァントゥスは逃走に移る。
「いえいえ、どうぞ健やかにお過ごしを~」
いいつつ無詠唱の影魔法で、枝からくるりと回り落ちながら姿を消した。
ぱちりと剣をもどしたカルヴィリスはもうレヴァントゥスに興味は無いようで、ノアに視線を向けていた。
(セルミアに見張られる少女か‥‥危ういな)
すっと枝から音もなく地上に降り立つカルヴィリス。
どんな技術なのか全く気配も音もたてない。
東方暗殺ギルドとはそれほどものなのか。
このカルヴィリスが平均的暗殺者なら、世の権力者達は枕を高くして眠れないことだろう。
カルヴィリスはノアに近づきながら、わざわざ気配をもらす。
ピクっと素早く反応しノアが上体を起こしカルヴィリスを見る。
(いい反応だ。野生で鍛えたものか?)
かさりと草をならしノアのいる泉近辺の開けた広場にでたカルヴィリス。
柔らかく声をかけた。
「驚かしてしまったかな?すまないな」
レヴァントゥスに向けたものとは違い、かつてユアに向けたものとも違う柔らかな声であった。
流石に無視はできないと思ったか、ノアが不機嫌そうに答えた。
「驚いたりしない。だれ?」
舐められたと思ったか強い言葉で返すノア。
口元をおおうヴェールを外し、顔を見せながらカルヴィリスは続ける。
「たまたま近くに居てね、泣いていたようだったから気になって追ってきたのだよ」
ニコっと笑顔も見せて話すカルヴィリス。
「君はセルミアという女を知っているか?」
びくっとノアが跳ねて下がる。
警戒度が数段あがった。
「セルミアのてしたか?」
ノアの声も一段低くなり、臨戦態勢。
あわてて答えるカルヴィリス。
「ちがうわよ、どちらかと言うと戦っていた相手ねセルミアは主人の敵よ」
言葉の意味を理解したノアはすっと立ち上がり、警戒を解いた。
「なんだ、もう見つかったのかと心配しちゃった」
ぺたぺた歩いてカルヴィリスの近くまで来るとペタリとあぐらをかいて座る。
服はまだ濡れているので裸のままだ。
「残念だけど、見つかったのは本当かもよ?さっきレヴァントゥスという男に会ったわ」
「!!」
またピクンとなるノア。
「レヴァントゥスは知ってる、セルミアのてしたの変なやつだ」
ちょっと考え込んでから、カルヴィリスは話し出す。
「よかったら事情を話してみない?力になれるかもよ?さっきも話したけどセルミアは私にとっても敵だわ」
体をねじって後ろに干してる服を試すノア。
まだ濡れていた。
「全部は話せないけど、助けてくれる?」
ノアにとっても、今はただノーラに言われ逃げただけの状態で、この後どうしたらいいのか決めかねていた。
かなりの手練れと見えるカルヴィリスが味方してくれたら、セルミアから逃げられるかもと思ったのだ。
「レヴァントゥスはセルミアの部下でも上位の存在。戦力としても高い。それが貴方を監視していた」
すっと岩の上に座るノアを見上げ言うカルヴィリス。
「危険な状態だと思う。私は今手が空いてるから、それがセルミアの嫌がる事なら喜んで協力するわ」
小さくすることなんて他にないしね、と口の中でつぶやいた。
すこしだけ瞳に寂しさを浮かべたカルヴィリスを信じて見ようかなとノアは思った。
「わたしはノア。セルミアの館から逃げてきたの」
すとっと岩から飛び降り、カルヴィリスの横まで来るノア。
「私はカルヴィリス。主を失った根無し草だわ」
そういって寂しそうに右手を出してきた。
ノアは黙って手を出し右手で握手する。
右手の能力に関しては制御に自信があった。
誤って発動したりはしないと思うが、左手は自信がない。
うっかり消したりしないよう左手はできるだけ、味方には触れないように気をつけるノアであった。
「レヴァントゥスはまだ見張っているの?」
カルヴィリスを信じる事にしたノアは、メイド達と話すような口調にもどった。
くすくすっと笑いカルヴィリスが答える。
「少し脅してやったから、しばらくは出てこないと思うわ。ただ監視はあると思ったほうがいい」
ニコっときれいに笑って続ける。
「乙女は簡単に肌を見せてはいけないのよ?安くみられるわ」
ふむっと考えてからノア。
「うん、それは前にノーラからも怒られたことある。あ、ノーラは逃がしてくれたメイドだよ」
ぴょんとまた岩の上にもどり、生乾きの下着をつけていくノア。
つめたかったのかぶるっと震えた。
「火を起こしましょう。服がかわかせるわよ?」
そう言って焚き火の準備を始めるカルヴィリスの目には、どこかメイドたちのような優しい気配があった。
ノアは敏感にその手触りの変化を感じ取るのであった。
こうして森の奥で、逃げた少女と逃げ出せない女が出会ったのであった。
すうっとどうやったのか、一つ離れた枝に移ったカルヴィリスが鋭い視線のままレヴァントゥスに告げる。
「その薫陶を受けた我が身も、しらず気に入らない首を落としてしまうかもしれんぞ」
きれいな脅しであった。
嫌な汗が背中を伝うレヴァントゥス。
セリフ通りのことが出来ると見せられたばかりだ。
「いえ、たまたまここで休んでいたら知り合いのノアちゃんが来たので、そっと見守っていただけですよ」
軽い調子で答えるレヴァントゥスには、逆らう気配はなかった。
「そちらこそこんな所でどうしたんですか?」
軽い感じで聞くが、事情を把握している者同士である。
皮肉の成分は全て伝わった。
「ふむ、やはり気の向くまま過ごすべきかな。主を失った下僕としては」
言いながらするりと音もなくシャムシールが抜かれる。
やばい本気だと察したレヴァントゥスは逃走に移る。
「いえいえ、どうぞ健やかにお過ごしを~」
いいつつ無詠唱の影魔法で、枝からくるりと回り落ちながら姿を消した。
ぱちりと剣をもどしたカルヴィリスはもうレヴァントゥスに興味は無いようで、ノアに視線を向けていた。
(セルミアに見張られる少女か‥‥危ういな)
すっと枝から音もなく地上に降り立つカルヴィリス。
どんな技術なのか全く気配も音もたてない。
東方暗殺ギルドとはそれほどものなのか。
このカルヴィリスが平均的暗殺者なら、世の権力者達は枕を高くして眠れないことだろう。
カルヴィリスはノアに近づきながら、わざわざ気配をもらす。
ピクっと素早く反応しノアが上体を起こしカルヴィリスを見る。
(いい反応だ。野生で鍛えたものか?)
かさりと草をならしノアのいる泉近辺の開けた広場にでたカルヴィリス。
柔らかく声をかけた。
「驚かしてしまったかな?すまないな」
レヴァントゥスに向けたものとは違い、かつてユアに向けたものとも違う柔らかな声であった。
流石に無視はできないと思ったか、ノアが不機嫌そうに答えた。
「驚いたりしない。だれ?」
舐められたと思ったか強い言葉で返すノア。
口元をおおうヴェールを外し、顔を見せながらカルヴィリスは続ける。
「たまたま近くに居てね、泣いていたようだったから気になって追ってきたのだよ」
ニコっと笑顔も見せて話すカルヴィリス。
「君はセルミアという女を知っているか?」
びくっとノアが跳ねて下がる。
警戒度が数段あがった。
「セルミアのてしたか?」
ノアの声も一段低くなり、臨戦態勢。
あわてて答えるカルヴィリス。
「ちがうわよ、どちらかと言うと戦っていた相手ねセルミアは主人の敵よ」
言葉の意味を理解したノアはすっと立ち上がり、警戒を解いた。
「なんだ、もう見つかったのかと心配しちゃった」
ぺたぺた歩いてカルヴィリスの近くまで来るとペタリとあぐらをかいて座る。
服はまだ濡れているので裸のままだ。
「残念だけど、見つかったのは本当かもよ?さっきレヴァントゥスという男に会ったわ」
「!!」
またピクンとなるノア。
「レヴァントゥスは知ってる、セルミアのてしたの変なやつだ」
ちょっと考え込んでから、カルヴィリスは話し出す。
「よかったら事情を話してみない?力になれるかもよ?さっきも話したけどセルミアは私にとっても敵だわ」
体をねじって後ろに干してる服を試すノア。
まだ濡れていた。
「全部は話せないけど、助けてくれる?」
ノアにとっても、今はただノーラに言われ逃げただけの状態で、この後どうしたらいいのか決めかねていた。
かなりの手練れと見えるカルヴィリスが味方してくれたら、セルミアから逃げられるかもと思ったのだ。
「レヴァントゥスはセルミアの部下でも上位の存在。戦力としても高い。それが貴方を監視していた」
すっと岩の上に座るノアを見上げ言うカルヴィリス。
「危険な状態だと思う。私は今手が空いてるから、それがセルミアの嫌がる事なら喜んで協力するわ」
小さくすることなんて他にないしね、と口の中でつぶやいた。
すこしだけ瞳に寂しさを浮かべたカルヴィリスを信じて見ようかなとノアは思った。
「わたしはノア。セルミアの館から逃げてきたの」
すとっと岩から飛び降り、カルヴィリスの横まで来るノア。
「私はカルヴィリス。主を失った根無し草だわ」
そういって寂しそうに右手を出してきた。
ノアは黙って手を出し右手で握手する。
右手の能力に関しては制御に自信があった。
誤って発動したりはしないと思うが、左手は自信がない。
うっかり消したりしないよう左手はできるだけ、味方には触れないように気をつけるノアであった。
「レヴァントゥスはまだ見張っているの?」
カルヴィリスを信じる事にしたノアは、メイド達と話すような口調にもどった。
くすくすっと笑いカルヴィリスが答える。
「少し脅してやったから、しばらくは出てこないと思うわ。ただ監視はあると思ったほうがいい」
ニコっときれいに笑って続ける。
「乙女は簡単に肌を見せてはいけないのよ?安くみられるわ」
ふむっと考えてからノア。
「うん、それは前にノーラからも怒られたことある。あ、ノーラは逃がしてくれたメイドだよ」
ぴょんとまた岩の上にもどり、生乾きの下着をつけていくノア。
つめたかったのかぶるっと震えた。
「火を起こしましょう。服がかわかせるわよ?」
そう言って焚き火の準備を始めるカルヴィリスの目には、どこかメイドたちのような優しい気配があった。
ノアは敏感にその手触りの変化を感じ取るのであった。
こうして森の奥で、逃げた少女と逃げ出せない女が出会ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる