わたしのねがう形

Dizzy

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わたしがわたしになるまで

【第54話:ふたつの旅立ち】

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 ちゅんちゅんと小鳥が飛び立つ気配がする。
大きな窓からはすでに登った朝日が、思いがけず強く差し込み室温をじわじわ上げていた。
昨夜食べすぎてしまったユアは、入浴後早々に寝てしまったのだった。
客間のツインを借りて、ラウマと二人で寝たのだった。
アミュアはミーナの部屋で一緒に寝ただろう。
「ふむうん」
伸びをしようとして、ユアは右手に抵抗を覚えた。
むにゅんである。
ユアの右手にはラウマ様がべったりはりついて、幸せそうに寝ていた。
「あれれ?昨日はあっちに寝たのに?」
夜半にユアが寝てからラウマはこっそりこちらに侵入して寝たのだった。
はじめてのぬくもりにほんわり気持ちよく寝たのだった。
まだまだ夜でも気温が高いので、ふたりとも薄着であったので密着度は高かった。
動かせる左手でそっとラウマ様をおこしにかかるユア。
「ラウマ様、そろそろ起きないといけませんよ」
「はっ!!」
がばっと起きるラウマ様。
アミュア以上に寝起きが良いようだ。
きょろきょろと状況把握もアミュアより早い。
「ごめんなさいユア。昨日とてもユアが気になって調べていたら寝てしまいました」
「しらべてってw」
両手で自分を隠してユアが答える。
「なにを調べていたんですか?!ラウマ様」
じっとユアを笑顔で見ながら話すラウマ。
「昨日ラウマと呼ぶこと、丁寧語もやめることをお願いしました」
にこにこのラウマはアミュアのような迫力があった。
「う‥うん。じゃあそろそろ起きようラウマ」
「はい、着替えをまた借りてもいいですか?」
「もちろん。あたしが選んであげる!あ、今日時間あったら服も買いに行こうね!」
あっというまにラウマの指示通りにできるユア。
むしろ無理して丁寧語を使っていたのであろう。
ふんふん~と機嫌よく鼻歌まじりにラウマ様の服を選びに行くユアであった。



「行ってまいります、お父様お母様」
 ミーナが深々とお辞儀をする。
あげた顔にはふんわりと笑みが浮かぶ。
「これまでご迷惑おかけし育てていただいたうえ、忘恩の極みと思いますが、勝手をお許しいただき感謝いたします」
両親にむける目には言葉以上の親密と自信が溢れていた。
「体には気を付けて、がんばりなさい」
と父レオニスが微笑みで言葉を贈る。
「寮に落ち着いたら手紙でもくださいね。愛していますよミーナちゃん」
そういって母エリセラはミーナをそっと抱きしめた。
離れた母と見守った父にクスリと笑って見せるミーナ。
先日13才になったミーナは年齢以上のしっかりとした受け答えが出来る。
「年末には一度戻ります。ご心配おかけしますが、どうかご自愛を」
もちろん両親の教育もあろうが、覚悟がしっかりとミーナを立たせていた。
 その覚悟をくれた親友にも挨拶。
「アミュア‥‥私がんばって強くなる。近くに来たら会いに来てね」
握手だけして終わろうとするのだが、瞳には未練があった。
その手をすっとやさしく引きアミュアはミーナをそっと抱きしめた。
「かならず会いに行きます」
アミュアはこういう時言葉が少ないのだが、ミーナには十分に気持ちが伝わるのであった。
ユアとラウマにも軽く挨拶して握手し、ミーナは馬車に乗り込んだ。
家人が駅まで送ってくれるのであろう。
生活用の荷物は全て事前に送り、カーニャが王都で受け入れてくれているはずだ。
馬車の窓を開け、最後のあいさつをするミーナ。
「いってきます!」
元気なその声には万感の思いがこもる。
とても沢山迷惑かけちゃったな、とも思うのだがそれ以上に誇らしく思っていた。
自らが決めた道を今日歩き始めるのだと。



「やっぱりラウマには黄色が似合うと思うの!」
「いえ、絶対白がいいと思います」
 ラウマ様を挟んで、ユアとアミュアは服装の選択で話し合っている。
自分のことを話しているのが嬉しいのか、にこにこ左右をみるラウマ様であった。
すでに3件ほど服屋をまわり、小物や下着を含めて十分な量を入手していたが、二人はまだまだ買うつもりか、談義に花を咲かせていた。
 そうしてお昼はレストランですまし、午後そうそうに馬車ギルドによるのだった。
「おう、ずいぶんゆっくりだったな嬢ちゃん。支払いすんでるからいいんだがよ!」
とは先日修理を受けてくれたドワーフの職人だ。
奥から「親方次もありますから手短に!」と声がかかるところを見ると、この工房の親方なのであろう。
「ごめんね!ちょっと旅先でトラブルあってね。今日もっていけるの?馬車」
「おうよ、すっかり試験まで終えてるから安心して持っていきな!」
軽快にやり取りしながら馬車を引き取ったのだった。

「う~んおかえりいいこいいこ」
ユアは例によって馬車にすら愛情たっぷりにすりすりする。
見た目は変わっていないが、後部のいろいろはカーニャがお金に糸目をつけず改良まで加えてくれた。
その白い複合材はつやつやと塗装も新しくなり、新車といった雰囲気を出していた。
荷物をあちこちにしまい込みながら、アミュアが言う。
「食料とか買い足さないとですね。このまま馬車を乗り付けましょう」
「うん!さっき途中で見たお店いいかもね。行ってみよう」
ミーナを送り出したばかりだが、こちらも新しい旅が始まるのだった。
行き先はまだ未定だったが。



 そうして全ての準備を終えた3人は、早速馬車の試運転を兼ね南郊外の草原まで来ていた。
ここからはスリックデンの街並みも見えて、その美しいアンシンメトリが背景の山々に相似する姿が見えた。
夕日はすでに西側の山脈に消え、今はゆっくりと色を変える空とぽつぽつと増える星を楽しみながら晩御飯だった。
 ご飯は馬車後部の据付コンロを展開しユアが調理した。
そのユアお得意のホワイトシチューを堪能しながら、今後について話していたのだった。
 ちょっと遠慮がちにラウマ様が願い出る。
「御用が他にもあるのなら、申し訳ないのですが。わたくしはノアが気になって仕方がありません」
そういったラウマ様は眉尻を下げ、心配そうな声で告げたのだった。
ちらと見交わしたユアとアミュア。
「もちろん!探しに行きましょうノアを」
とはにっこりユア。
「たよりないので心配ですねノアは、探し出して保護しましょう」
とは鼻息もあらいアミュア。
マウントも忘れない。
「ありがとう二人共」
ラウマ様も笑顔に戻った。
こうしてまた旅が始まるのであった。
すっかり暗くなった夜空には、星星が壮大な天蓋を描く。
その奥行きが迫力を伴って告げている。
どこまででも行けるのだぞと。
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