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わたしがわたしになるまで
【第58話:雷神と影獣】
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先ほどの着地で大きな音を出したくせに、驚くほど動いた気配がないスヴァイレクが近づいてくる。
以前より巨大に感じたのは、その当てて来る殺気が原因であった。
実際に身長が変わった訳ではなく、プレッシャーがそう見せるのだ。
ユアはじりじり馬車の方に横移動。
こちらもすり足で気配を殺している。
ユアの意図を知り、ヘイトを取ろうと魔力を吹き出すアミュア。
動けずにドアノブを握り固まっているラウマ。
スヴァイレクは落ち着いて話しかけてきた。
「先日は邪魔が入り残念だったよユア」
すっと殺気が緩み、静かに語るスヴァイレク。
「今度は邪魔が入らないとでも?」
ユアも答えつつ馬車にたどり着く。
ラウマの背を押し馬車に乗せた。
「こちらは一騎打ちを受けていませんよ」
とアミュアは臨戦態勢のまま魔力を練り上げる。
黄金の輝きは光属性か、溢れ出す魔力が右手に集中していく。
すでに身長ほども浮き上がっているアミュアであった。
「もちろんかまわぬよ、癒やし手の眷属。闇夜は影獣の時間だと思い知らせてくれる」
馬車の後部ラッチからクレイモアを取り外すユア。
アミュアのお陰で装備を替えられたのだ。
詠唱が終わり、待機状態のアミュア。
このままただ撃っても、当たらないことが感じられるのだった。
かつてダウスレムと相対した時の緊張があった。
すすっとアミュアの方にジリジリ戻りながらユアが問いかける。
ゆっくりとした語調に怒りが滲み出す。
「こないだ言ってたこと‥‥本当なの?おかあさんの話し」
聞きながら半ば確信があるのか、クレイモアから黄金の粒子が漏れ出し、ユアの目も赤い光を放ち始める。
スヴァイレクからは未だ殺気が来ない。
「嘘は一つも伝えておらぬよ。素晴らしい戦士であったぞ貴様の母は」
みなまで言わせずユアの全身に強化魔法が赤く廻り、黄金の光がクレイモアを倍の大きさにした。
ドン!
ユアが地を蹴ると土煙が上がる。
硬い岩盤の地面が抉れていた。
同時に控えていたレヴィテーションでアミュアが高度を稼いで飛び上がる。
まだ撃たない。
スヴァイレクの両手には巨大な両刃の斧が握られていた。
先日とちがい両手持ちでさらに巨大な斧だ。
スヴァイレクの足元もヒビが入り、ユアの縦斬りを斧の柄で受け止めた。
ゴォン
と重い音が鳴り、ペルクールの雷を止めるスヴァイレク。
それはダウスレムと同じ技か、消滅することなく受け止めたのだった。
同時にアミュアの魔法が発動。
ユアはスヴァイレクの斧を蹴り渾身のバックステップ。
ユアの逆だった髪の毛をかすめるようにアミュアの極太レーザーがスヴァイレクに届く。
今度は立てた斧を地面に刺し、紫の結界を発動する。
スヴァイレクを覆い隠すほど大きくないがその強度は高く、アミュアのレーザーを放水を受けているように防いでしまう。
弾けた光粒子が地面を赤熱させる。
「くつくつ、すばらしい。ここまでの力は試せなかった。次はこちらからも行くぞ?」
まるで戦いそのものが目的かのように、次の手をさらすスヴァイレク。
受け損なうなよ?との意味だ。
ズドォ!
先程の着地を超える爆発のような音を残し、スヴァイレクが高速でユアに迫る。
アミュアは一瞬だけ飛行魔法で横移動、馬車を目指した。
(ユア!気を付けて!)
援護が遅れる恐怖を心の中だけに留めるアミュア。
馬車に結界を貼りたいのだ。
ユアも蹴り出して、空中でスヴァイレクと当たる。
質量差を跳ね除けて、宙で弾けあった。
「すばらしい、先日よりも力が出ているな?ユア」
ほぼ同じ位置に着地したユアは歯ぎしり。
少しだけ後ろに下げられていた。
当たり負けたのだ。
「あたしの名前を呼ぶな!!外道!」
真紅の輝きが放たれ、ユアの右手から黄金の光がさらに伸びる。
両親の贈ってくれた名前を汚されたように感じたのだった。
アミュアが馬車の横に落ちる。
落下速度を調整する間も惜しんだのだ。
バンと馬車に当たりながら詠唱していた結界魔法を貼る。
馬車が白銀に輝く結界で覆われる。
同時に残っている魔力を振り絞り、再び二重発動のレビテーション。
高速で上空に上がる。
ユアの剣技が冴える。
怒りはユアの剣筋を乱さない、滑らかに弧を描く軌道。
敵の左に回り込む常道だ。
クンっと剣先が上がりフェイントとなる。
スヴァイレクの防御は斧を寝かせるので、防御させると攻撃の範囲を絞れるのだ。
フェイントで軽い勢いのまま振り下ろして見せる黄金の剣先が、クルリと斜めにまわり全力でねじり込んだ薙ぎ払いに変わる。
防御の間を崩されたスヴァイレクは中途半端に下がった。
一瞬を捉えたユアの剣先が、立てきれなかった斧の横から胴に入った。
十分に供えられなかったスヴァイレクが横っ飛びに吹き飛ぶ。
振り切った剣先を肩に背負い、さらに飛び込むユア。
両目はもう真っ赤な輝きになっている。
弾き飛びながらも腹が消し飛ぶのを抑えるため、スヴァイレクの影が胴に集中していた。
その瞬間を知っていたかのようにスヴァイレクの頭に氷の槍が突き立った。
アミュアのアイスジャベリン改だ。
高速回転する氷の槍がスヴァイレクの右目に突き刺さった。
一瞬遅れてスヴァイレクの右手がやりを掴み貫通するのを防ぐ。
ビシュっと大きな音を立てながらも槍の回転は止められ、引き抜かれる。
スヴァイレクもダメージが入ったのか、右目から真っ黒な血が吹き出した。
残った目が捉えるのは、満月を背負い落ちてくるユアの姿。
スヴァイレクの影による防御も間に合うまいタイミングであった。
死に瀕した加速世界の中で、スヴァイレクの斧がゆっくりと掲げられる。
(だめだ間に合わない‥‥)
スヴァイレクの想像通り、ユアの速度は防御を上回る。
ダウスレムの時のように極大に輝く黄金がスヴァイレクに届く。
その一瞬の前にユアが真横に吹き飛ぶ。
ガァーン
と音は後から聞こえた。
ギリリとスヴァイレクの歯がなるが、主人の指示を思い出し後方に飛び退った。
ユアは真っ赤な血の水たまりに転がっていた。
剣も手から離れ転がっている。
「くっまたか!」
スヴァイレクは憤怒の表情で下がり影に消えた。
「ユアァアァァ!!」
レビテーションが切れたまま高速でユアの側に落ちるアミュア。
大地に当たる直前で再度レビテーションを発動。
急停止して地に立つ。
同時に無詠唱の結界がぱっと二人の前に構成される。
その裏でアミュアがさらなる結界魔法を詠唱している。
ユアを狙撃した山手の気配が消える。
詠唱後待機したアミュアが無詠唱のディテクトイビルを発する。
そこに至って初めて事態に追いついたラウマが、こちらに走ってくるのがアミュアに見えた最後であった。
魔力切れの気持ち悪さと共に意識も手放され、ただ腕の中にユアを庇いながら暗転したのだった。
以前より巨大に感じたのは、その当てて来る殺気が原因であった。
実際に身長が変わった訳ではなく、プレッシャーがそう見せるのだ。
ユアはじりじり馬車の方に横移動。
こちらもすり足で気配を殺している。
ユアの意図を知り、ヘイトを取ろうと魔力を吹き出すアミュア。
動けずにドアノブを握り固まっているラウマ。
スヴァイレクは落ち着いて話しかけてきた。
「先日は邪魔が入り残念だったよユア」
すっと殺気が緩み、静かに語るスヴァイレク。
「今度は邪魔が入らないとでも?」
ユアも答えつつ馬車にたどり着く。
ラウマの背を押し馬車に乗せた。
「こちらは一騎打ちを受けていませんよ」
とアミュアは臨戦態勢のまま魔力を練り上げる。
黄金の輝きは光属性か、溢れ出す魔力が右手に集中していく。
すでに身長ほども浮き上がっているアミュアであった。
「もちろんかまわぬよ、癒やし手の眷属。闇夜は影獣の時間だと思い知らせてくれる」
馬車の後部ラッチからクレイモアを取り外すユア。
アミュアのお陰で装備を替えられたのだ。
詠唱が終わり、待機状態のアミュア。
このままただ撃っても、当たらないことが感じられるのだった。
かつてダウスレムと相対した時の緊張があった。
すすっとアミュアの方にジリジリ戻りながらユアが問いかける。
ゆっくりとした語調に怒りが滲み出す。
「こないだ言ってたこと‥‥本当なの?おかあさんの話し」
聞きながら半ば確信があるのか、クレイモアから黄金の粒子が漏れ出し、ユアの目も赤い光を放ち始める。
スヴァイレクからは未だ殺気が来ない。
「嘘は一つも伝えておらぬよ。素晴らしい戦士であったぞ貴様の母は」
みなまで言わせずユアの全身に強化魔法が赤く廻り、黄金の光がクレイモアを倍の大きさにした。
ドン!
ユアが地を蹴ると土煙が上がる。
硬い岩盤の地面が抉れていた。
同時に控えていたレヴィテーションでアミュアが高度を稼いで飛び上がる。
まだ撃たない。
スヴァイレクの両手には巨大な両刃の斧が握られていた。
先日とちがい両手持ちでさらに巨大な斧だ。
スヴァイレクの足元もヒビが入り、ユアの縦斬りを斧の柄で受け止めた。
ゴォン
と重い音が鳴り、ペルクールの雷を止めるスヴァイレク。
それはダウスレムと同じ技か、消滅することなく受け止めたのだった。
同時にアミュアの魔法が発動。
ユアはスヴァイレクの斧を蹴り渾身のバックステップ。
ユアの逆だった髪の毛をかすめるようにアミュアの極太レーザーがスヴァイレクに届く。
今度は立てた斧を地面に刺し、紫の結界を発動する。
スヴァイレクを覆い隠すほど大きくないがその強度は高く、アミュアのレーザーを放水を受けているように防いでしまう。
弾けた光粒子が地面を赤熱させる。
「くつくつ、すばらしい。ここまでの力は試せなかった。次はこちらからも行くぞ?」
まるで戦いそのものが目的かのように、次の手をさらすスヴァイレク。
受け損なうなよ?との意味だ。
ズドォ!
先程の着地を超える爆発のような音を残し、スヴァイレクが高速でユアに迫る。
アミュアは一瞬だけ飛行魔法で横移動、馬車を目指した。
(ユア!気を付けて!)
援護が遅れる恐怖を心の中だけに留めるアミュア。
馬車に結界を貼りたいのだ。
ユアも蹴り出して、空中でスヴァイレクと当たる。
質量差を跳ね除けて、宙で弾けあった。
「すばらしい、先日よりも力が出ているな?ユア」
ほぼ同じ位置に着地したユアは歯ぎしり。
少しだけ後ろに下げられていた。
当たり負けたのだ。
「あたしの名前を呼ぶな!!外道!」
真紅の輝きが放たれ、ユアの右手から黄金の光がさらに伸びる。
両親の贈ってくれた名前を汚されたように感じたのだった。
アミュアが馬車の横に落ちる。
落下速度を調整する間も惜しんだのだ。
バンと馬車に当たりながら詠唱していた結界魔法を貼る。
馬車が白銀に輝く結界で覆われる。
同時に残っている魔力を振り絞り、再び二重発動のレビテーション。
高速で上空に上がる。
ユアの剣技が冴える。
怒りはユアの剣筋を乱さない、滑らかに弧を描く軌道。
敵の左に回り込む常道だ。
クンっと剣先が上がりフェイントとなる。
スヴァイレクの防御は斧を寝かせるので、防御させると攻撃の範囲を絞れるのだ。
フェイントで軽い勢いのまま振り下ろして見せる黄金の剣先が、クルリと斜めにまわり全力でねじり込んだ薙ぎ払いに変わる。
防御の間を崩されたスヴァイレクは中途半端に下がった。
一瞬を捉えたユアの剣先が、立てきれなかった斧の横から胴に入った。
十分に供えられなかったスヴァイレクが横っ飛びに吹き飛ぶ。
振り切った剣先を肩に背負い、さらに飛び込むユア。
両目はもう真っ赤な輝きになっている。
弾き飛びながらも腹が消し飛ぶのを抑えるため、スヴァイレクの影が胴に集中していた。
その瞬間を知っていたかのようにスヴァイレクの頭に氷の槍が突き立った。
アミュアのアイスジャベリン改だ。
高速回転する氷の槍がスヴァイレクの右目に突き刺さった。
一瞬遅れてスヴァイレクの右手がやりを掴み貫通するのを防ぐ。
ビシュっと大きな音を立てながらも槍の回転は止められ、引き抜かれる。
スヴァイレクもダメージが入ったのか、右目から真っ黒な血が吹き出した。
残った目が捉えるのは、満月を背負い落ちてくるユアの姿。
スヴァイレクの影による防御も間に合うまいタイミングであった。
死に瀕した加速世界の中で、スヴァイレクの斧がゆっくりと掲げられる。
(だめだ間に合わない‥‥)
スヴァイレクの想像通り、ユアの速度は防御を上回る。
ダウスレムの時のように極大に輝く黄金がスヴァイレクに届く。
その一瞬の前にユアが真横に吹き飛ぶ。
ガァーン
と音は後から聞こえた。
ギリリとスヴァイレクの歯がなるが、主人の指示を思い出し後方に飛び退った。
ユアは真っ赤な血の水たまりに転がっていた。
剣も手から離れ転がっている。
「くっまたか!」
スヴァイレクは憤怒の表情で下がり影に消えた。
「ユアァアァァ!!」
レビテーションが切れたまま高速でユアの側に落ちるアミュア。
大地に当たる直前で再度レビテーションを発動。
急停止して地に立つ。
同時に無詠唱の結界がぱっと二人の前に構成される。
その裏でアミュアがさらなる結界魔法を詠唱している。
ユアを狙撃した山手の気配が消える。
詠唱後待機したアミュアが無詠唱のディテクトイビルを発する。
そこに至って初めて事態に追いついたラウマが、こちらに走ってくるのがアミュアに見えた最後であった。
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