どっちも好き♡じゃダメですか?~After Story~

藤宮りつか

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一章 笠原兄弟の恋愛事情 前編 ~笠原伊澄視点~

   兄の決断(8)

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 伊織とするセックスの何がそんなにいいのか……。
 美沙という彼女がいながら、伊織の誘いを拒むに拒みきれない俺は、当然ながらその理由を考えたことがある。
 というより、ここ数日の俺の悩みはもっぱらそれだったりもする。
 女の身体とはまた違った締め付け具合というか、中の具合が最高に気持ちいいのが一番の理由だとは思うが、その他にも
「ぁんっ! ぁっ……んんっ……んっ……お兄ちゃ……ぁあんっ……」
 伊織の喘ぎ声がエロくて可愛い、というのも理由の一つである。
 おまけに
「何だ? 気持ち良くてもうイきそうなのか?」
「んんっ……気持ちいいっ……中いっぱい……お兄ちゃんに中いっぱい気持ち良くしてもらえて……ぁあんっ……凄く気持ちぃ……」
「そっか……そりゃ何より……だなっ……」
「ぁあんっ! ぁっ……ダメっ……ぁあっ……」
 反応や発言がいちいちエロくて可愛い。
 これまで控えめで受け身な彼女達とばかりセックスしていた俺は、欲望に忠実で、エロい事にも積極的な伊織とするセックスは新鮮だったし
(欲望に素直な相手とするセックスって、こっちの気分もめちゃくちゃ高まるよな……)
 と思った。
 もちろん、控えめで受け身な彼女にエロい反応をさせて楽しむのも悦びの一つではあるのだが、伊織みたいに気持ちいいことは素直に「気持ちいい」と言ってくれる方が、攻める側は嬉しくなってしまうものだし、喘ぐ声が可愛いと、もっと哭かせてやりたいと思ってしまうものだ。
「んんっ……ぁんっ……お兄ちゃん……今日……いつもより激し……ぁんんっ……」
「そうか? 伊織の中がめちゃくちゃ気持ちいいからな。すげー興奮してるのかも……」
「んっ……ぁんっ……ぅ……嬉しいっ……お兄ちゃんが僕で気持ち良くなってくれてるの……凄く嬉しい……っ」
「そっか……」
 伊織とセックスしている最中に、俺が伊織に向かって「気持ちいい」と言ってやったことはなかった。
 伊織とのセックスが気持ちいいことは本人の前でも認めたことがあるが、それはまあ事後報告っていうか、伊織が聞いてきたから渋々って感じだったし。
 とにかく、シてる最中はなるべく伊織と愛を深める感じにならないようにと心掛けていた俺は、伊織を辱めるような発言をすることが多く、自分が伊織とのセックスでヤバいくらいに気持ち良くなっていることは隠そうと必死だった。
 セックスそのものは彼女にしてやるのと同じ――いや、それ以上だったりもするが、伊織とはあくまでも身体だけの付き合いだと割り切るようにしていた。
 まあ、身体だけの関係だと割り切るというなら、むしろ性欲全開なセックスをしてもいいと思うんだけどな。
 実際、伊織とシている時の俺は性欲剥き出しだと思うから、伊織も俺がわざわざ口にしなくても、俺が伊織でしっかり気持ち良くなっていることはわかっていると思う。
 だからこそ、伊織も俺と初めてセックスした後に
『気持ち良かったでしょ?』
 なんて聞いてきたんだと思うし。
「あぁ……伊織の中、マジですげー気持ちいい……。お前、これまで一体何人の男とヤって、こんなエロい身体になったわけ?」
 セックスの最中に元カレの話を振るなんて野暮だとは思ったが、俺は伊織と兄弟以上の関係にならないためにも、伊織に元カレの話を振ることを避けていた。
 俺から元カレの話を振ってしまうと、俺が伊織の過去に嫉妬していると思われそうで嫌だったからだ。
 でも、ずっと気になっていることではあった。
 俺は伊織の口から伊織の恋愛対象が男に限定されている話を聞くまで、伊織は極々一般的な恋愛をしているものだとばかり思っていた。
 しかし、伊織の恋愛対象が男だと知り、過去に付き合ってきた相手が全員男だと知った時から、俺の心の中はずっともやもやしていたんだよな。
 伊織が過去に何人の男と付き合い、その男達とどういうセックスをどれくらいしてきたのか、いつか聞きたいと思っていた。
 特に、伊織の身体を知った後の俺は、伊織の身体があまりにも男を悦ばせることにけているような気がしたから、伊織の歴代彼氏という奴にも嫉妬する気持ちがあった。
 俺の弟に何してくれてんだ! という、兄としての怒りもあった。
「ぁっ、ん……そ……そんなの……いちいち全部憶えてない……もんっ……。だって僕……誰といてもいつもお兄ちゃんのことばっかり……お兄ちゃんのことしか考えてなかったんだもんっ……」
 伊織は俺からの質問に答えてくれなかった。答えてくれない代わりに「憶えてない」と言ってきた。
 今は俺とヤってる最中だから、そんな質問に答える余裕がないのかもしれないし、ずっと片想いをしていた俺に自分の生々しい性体験を知られたくないという思いがあるのかもしれない。
 前者ならともかく、後者の場合は答えられない時点で、伊織の性体験は相当数であるという証拠のような気もする。
「みんな……みんなお兄ちゃんの代わりだったもん……お兄ちゃんが僕とシてくれないから……お兄ちゃんにちょっとでも似てる誰かで寂しさを紛らわせていただけ……だもんっ……」
 でもって、その相当数いるんじゃないかと思われる歴代彼氏達が、全員俺の代替品というあたりがなぁ……。何度聞かされても複雑極まりない気分である。
 でもまあ、伊織がそうなってしまったのは俺のせいだもんな。伊織の行動を俺にとやかく言える筋合いはないか。
 とはいえ、仮に俺が伊織の気持ちに勘付いた時点で何かしらの行動を起こしていたとしても、結局俺は伊織の気持ちに応えてやることはなかっただろうから、結果は同じだったんじゃないかと思う。 
 早い段階で俺が伊織をちゃんと振ってやっていても、伊織は俺を諦めることができず、俺のことをずっと好きなままでいたんだろうから。
 だから、俺がもっと早くに伊織の気持ちを突っ撥ねていても、伊織は俺のことが好きなまま、俺に少しでも似ている誰かと付き合い、その相手に俺の姿を重ねるだけの恋愛をしていたんだと思う。
 そう思うと、伊織が俺に一途過ぎるって気もするが、そこまで俺を一途に想い続けてくれた伊織のことを、今は「勘弁しろよ」とは思わない。
 むしろ、どう考えても望みが薄い俺のことを、そこまで一途に想い続ける伊織のことが可愛いとすら思えてしまう。
 自分でもびっくりしてしまうこの心境の変化は何なのだろう。
 今日、二週間ぶりに会った美沙とのデートがいまいち盛り上がらなかったことと、美沙としたセックスに満たされきらなかったせいか? そのことで、俺が伊織を手離せなくなっているとでもいう?
「酷い奴だな、お前は。仮にも自分の彼氏に選んだ奴らだろ? 〈憶えてない〉とか言ってやんなよ」
 一番酷いのは、美沙とのデートから帰って来た直後に伊織とセックスしている俺だと思うが、そんな自分のろくでなし具合に凹みたくない俺は、歴代彼氏のことを「憶えてない」と言う伊織を責めることで、自分のいい加減さから目を逸らしてしまいたかったのだと思う。
 もちろん、本気で伊織を責めるつもりは俺にない。
(伊織は俺のことがずっと好きだったんだから仕方ねーよな……)
 と思っていた。
「いいっ……んだもんっ……。だって僕が本当に好きなのはお兄ちゃんだけ……だからっ……。だから僕っ……」
「っ……可愛い奴っ……」
 俺から与えられる快感に涙目になりながら感じて耐える伊織の姿は、俺の心を震わせるほどに悦ばせてくれる。
 自分が気持ち良くなっていることを全身でアピールしているかのような伊織の身体を抱き返すと、俺は伊織にキスをしてやりながら、伊織が一番感じてしまうところを集中的に突き上げてやった。
「ぁあっ! ん……んっ……ぁんっ、ぁ……んんっ……」
 伊織は「そうされると堪らない」と言わんばかりに腰をくねらせながらも、俺からのキスに応えようと必死だった。
 表情、声、反応、身体の動かし方――。その全部がエロくて可愛い伊織に夢中になっていく俺は、伊織への気遣いを忘れ、欲望任せに伊織を突き上げてしまわないように我慢するのが大変だった。
 だが、伊織は伊織でエロい奴だから
「ぁんっ………もっと……気持ちいいからっ……もっと激しく……シて……」
 なんて言ってきてくれるから、そこからは俺も遠慮なく伊織をガンガン突き上げてやった。
「っ……ヤベっ……すげー気持ちいい……」
「んんっ……んぁっ、ん……ぁっ……ぁんっ……お兄ちゃんっ……んんっ……」
「気持ちいいか? 伊織っ……」
「ぅんっ……んっ……うんっ……」
「俺もすげー気持ちいい……っ……」
 今日のセックスはいつもと違うと最初からわかっていた。
 これまでも伊織の身体に掛かる負担はいつも気にしてやっていたし、伊織を気持ち良くさせてやろうって気遣いは最低限しているつもりだったが、今日は伊織そのものを大事にしてやっているというか……。
 とにかく、いつものセックスよりは数倍甘くて激しいセックスをしていると思う。
「ぁんっ、ぁ……お兄ちゃん……大好きっ……大好きっ……」
「んっ……」
 ただし、まだ俺の口から伊織の気持ちに応えてやるセリフは言えなくて、それが少しもどかしくもあった。
 俺は伊織のことを弟としては間違いなく好きだし愛してもいるが、恋愛的な意味ではどうなのか……となると、やはりそこには迷いがあるし、ハッキリとした感情を自覚しているわけじゃない。
 こうして俺の腕の中で可愛く乱れる伊織の姿に愛しさは感じるが、それが恋愛的な感情なのか、兄としての愛情なのかは今一つ自信を持って言えなかった。
 それでも、少しくらいは伊織への愛情を言葉にしてやりたくなった俺は
「お前……ほんと可愛いな……」
 好きという言葉を使わない代わりに、可愛いという言葉を使うことで、俺の中に確かに存在している伊織への愛情を示そうとした。
「んっ……んんっ……お兄ちゃん……」
 シてる最中に俺から「可愛い」と言ってもらえた伊織は、ただでさえ潤んでいた瞳を更に潤ませ、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
 それと同時に中がきゅうぅっと俺を甘く締め付けてきて、そろそろ限界が近かった俺は危うくイってしまうところだった。
(っ……伊織より先にはぜってーイけねぇっ……)
 こういう時、咄嗟にそう思ってしまうあたりが兄ちゃんとして、男としての意地でプライドなんだろうな。
 いつも弟からいいように誘惑され放題の俺は、今更意地やプライドなんてものは崩壊しているような気もするが。
「ほんと、セックスしてる時のお前はエロくて可愛くて……最高だよ、伊織……」
 危うくイきそうになった自分をどうにか抑えることに成功した俺だけど、おかげで余裕というものがすっかりなくなってしまった。
 俺から与えられる刺激や快感に喘ぎ続けている伊織も、呼吸がすっかり乱れ、限界が近いのか身体がずっと震え続けている。
 伊織と呼吸を合わせるようにして伊織を突き上げてやると、それまでよりももっと深い一体感を味わえるような気がした。
「っ……はっ……」
「ぁんっ……ぁっ、んんっ……ぁっ、ぁっ……」
 一緒に絶頂へと昇り詰めていくようになると、言葉を交わす余裕なんてものがなくなり、会話の代わりに吐息とキスを交わしながら、最高に気持ちいい時間を共有した。
 頭の中を支配するのは、伊織とするセックスが気持ちいいという感覚――。
 そして、弟の伊織を愛しく思う気持ちだけで、この時の俺は美沙の存在を完全に忘れてしまっていた。


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