どっちも好き♡じゃダメですか?~After Story~

藤宮りつか

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四章 幼馴染みは鉄板だろ? 後編 ~桐原岳視点~

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「え。展開早くない? 桐原って先週佐々木に告白されたばっかりだよね?」
「まあ良かったっちゃ良かったんだろうけど……。にしても、マジで展開早過ぎ。あまりにも展開が早過ぎて、何があった? って感じなんだけど」
 俺と慧ちゃんが所謂いわゆる恋人同士になったのは今から三日前、金曜日の出来事だった。
 今年の二学期はちょうど月曜日から始まり、始業式の翌日に深雪と頼斗の関係を知った俺は、その衝撃が冷めやらぬままに慧ちゃんから告白され、三日間悩んだ末、金曜日の学校が終わった後に改めて慧ちゃんに告白をして、慧ちゃんからの告白を受け入れる形になった。
 まあ、最初は慧ちゃんも俺からの告白を素直に受け入れようとはしなかったけど……。
 でも、それに腹を立てた俺からキレ気味に再度告白されたことが効いたのか、慧ちゃんは俺の気持ちを信じてくれて、俺と慧ちゃんは晴れて恋人同士になったわけだ。
 突然の告白から僅か一週間足らずでカップル成立した俺達に、深雪と頼斗は唖然としてしまっている様子だけど、そうなってしまったものはそうなってしまったのだから仕方がない。
 俺が三日三晩あれこれ考えた結果、「俺も慧ちゃんが好き」ってなっちゃったんだもん。
 慧ちゃんは俺が好きで、俺も慧ちゃんが好きってなったら、俺達が付き合うのは当然の流れだもんな。
「いや……正直、俺もここまでとんとん拍子に事が運ぶとは……。どうせこいつの言う〈好き〉は幼馴染みとしての好きを勘違いしているだけかと思ったんだけどな。どうやらちゃんと恋愛的な意味で好きらしいことがわかったから、だったら……ってなったんだよ」
 今は昼休みの真っ只中。いつもなら昼休みは涼介や旭と一緒にお弁当を食べて、そのままダラダラと二人の女の子にまつわるエピソードを聞かされたり、昼休みの教室でするには相応しくない下ネタトークに花を咲かせていたりするんだけど、今日は相談に乗ってくれた深雪への報告も兼ねて、お昼は深雪や頼斗と一緒に食べることにした。
 天気もいいし、教室でできるような話じゃないから、二人を誘って屋上にやって来たのはいいんだけど、三階の教室から四階を通り過ぎて屋上に上がって来ることが、今日の俺には物凄く辛く感じたりもした。
 何故ならば――。
「で、さっきから何か辛そうにしてる桐原の様子からして、お前、この週末はちゃっかり桐原とヤることヤったってことだな」
「ん……まあ……」
 そうなんだよね。俺が金曜日に慧ちゃんと恋人同士になっちゃったものだから、この土日は慧ちゃんとずっと一緒にいたって言うか……。慧ちゃんにいっぱいエッチな事をされてしまって身体がめちゃくちゃダルい。そして重い。ついでに言うと、お尻にずっと違和感があって変な感じもする。
 慧ちゃん的には中学時代から片想いをしていた俺とようやく結ばれたことになるから、気持ちが抑えられなくなる気持ちもわからないではないけどさ。こっちは色々と準備ができていなかった感じだから、もう少しゆっくり事を進めて欲しかったような気もする。
 でも、結局恋人同士になったらする事は一緒なんだから、恋人同士になった途端にセックスしちゃう展開もアリと言えばアリなのかもな。
 俺もちょっと興味があったのは事実だし。高校生になったんだから、早く童貞を捨ててしまいたいっていう願望もあったもんね。
 ただ、童貞ではなく処女を捨てる羽目になるとは思っていなかった。男同士のセックスのやり方くらいは知っていたけれど、まさか自分が体験することになるとは思っていなかったよね。
 何かもう、凄い体験をしちゃったって感じで、まだ信じられないような気分でもある。
「色々と頼斗に聞いておいて良かったよ。ネットの情報だけだと不安だったからな。実際に経験のある人間からアドバイスを聞いておいたおかげで、あんまりテンパらずに済んだ」
「別に俺はお前にアドバイスをしたつもりはなかったんだけどな。でも、役に立ったなら良かったよ」
 なるほど。慧ちゃんも俺と同じでセックスは初体験なはずなのに、やたらと落ち着いているように見えたのは頼斗のおかげだったのか。
 ってことは、慧ちゃんは最初から俺とセックスする気満々だったってこと? だって、俺と恋人同士になる前から、頼斗に男同士のセックスのやり方についてレクチャーを受けていたわけだから。
「ちょっ……頼斗⁉ それってどういう事⁉ もしかして、佐々木に俺とどういうセックスしているのかを、事細かく話したわけじゃないよね⁉」
 俺と慧ちゃんとの急展開に唖然としていた深雪だけど、慧ちゃんが頼斗から男同士のセックスのやり方を教えてもらっていたと知るなり、ギョッとなって頼斗を見上げていた。
「え」
 深雪から怖い顔で問い詰められた頼斗は、途端に決まり悪そうな顔になっている。
 どうやら深雪は慧ちゃんと頼斗がお互いに恋愛相談的なものをしていることは知っていたみたいだけど、その内容についてはあまり良く知らなかったようだ。
「べ……別に……。そんなに言うほど事細かくは喋ってない……つもりだ。ただまあ、深雪の場合は……みたいな感じで話すことはあったけど……」
「なっ……! それが恥ずかしいんじゃんっ! 何で俺の場合とか言うの⁉ 信じられないっ!」
 頼斗が自分との実体験を慧ちゃんに話していたことに、顔を真っ赤にして激怒する深雪。
 深雪は基本的にいつもおとなしくて控えめだから、誰かに向かって声を荒げる姿なんて滅多に見ることがないけれど、幼馴染みで恋人の頼斗にはそういう態度を取ることもあるんだな。
 でも、これは怒っているというよりは、むしろ……。
「もーっ! 頼斗の馬鹿馬鹿っ! 俺が知らないところでそんな話なんかしないでよっ!」
「悪い。でもほら。佐々木は深雪のことで惚気られる数少ない相手だし。俺だけが知ってる深雪の可愛い姿ってさ、ついつい人に話したくなるじゃん」
「そこは頼斗だけの秘密にしてて欲しいんだけどっ!」
「まあそうなんだけどな。マジでごめんって。今度からは気をつけるからさ」
「約束だからねっ!」
 ただイチャイチャしているだけのように見えるのは気のせいかな? 頼斗が深雪に向かって歯の浮くようなセリフを言っている姿も、意外と言えば意外だった。
(俺だけが知ってる深雪の可愛い姿、とか……。頼斗もそういう事言うんだ……)
 頼斗とは中学からの付き合いだけど、どちらかと言えば口数が少なく、ぶっきら棒で硬派なイメージが強かった。その頼斗が、恋人には当たり前のように「可愛い」という言葉を使う姿というのは、見ているこっちも少し恥ずかしくなってしまうものがあった。
(そう言えば、慧ちゃんも俺とセックスしている時は、俺に何度も〈可愛い〉とか〈好きだよ〉って言ってきたよね……)
 思い出したらめちゃくちゃ恥ずかしくなった。
 この週末、俺は慧ちゃんにいっぱい甘やかされたし、如何にも恋人同士って感じの甘い言葉もいっぱい囁かれちゃったりしたんだよね。
 俺は慧ちゃんと恋人同士になったばかりだったし、俺の中にも慧ちゃんを好きだと思う気持ちはちゃんとあるから、慧ちゃんに恥ずかしい言葉を言われても、それが何だか嬉しく思えたりもしたんだけど……。
(恋人同士の会話って、後で思い出したり、第三者の立場で聞くとめちゃくちゃ恥ずかしいものなんだな……)
 今の深雪と頼斗のちょっとした痴話喧嘩を見て、痴話喧嘩でさえイチャついているようにしか見えない恋人同士の会話には要注意だと思った。
 もし、俺と慧ちゃんの何気ない会話が、涼介や旭に恋人同士のように聞こえてしまったら、俺達の関係が二人にバレちゃうかもしれないもんな。それは不味い。
「それはそうと、伊藤や桑島には話すつもりなのか? お前らの関係」
 深雪の機嫌もひとまず直ったところで、頼斗は再び俺と慧ちゃんに視線を戻して聞いてきた。
 でも、お弁当を食べ終わった後の頼斗の手は、深雪の手をしっかりと握っていたから、二人のイチャイチャはまだ続いているんだと思った。
 っていうか、恋人同士だとわかってから見る二人って、四六時中イチャついているようにしか見えないよね。
 出逢った頃から二人の仲がいいことは知っていたし、恋人同士になる前からずっとこんな感じではあるけれど。
「いや。あの二人にはしばらく内緒にしておこうと思う」
 実は俺と慧ちゃんの間でも、俺達が恋人同士になった話を涼介と旭に報告するかどうかは話し合われていた。
 その結果
「女好きなあいつらには理解されないような気がするし、知ったら知ったで大騒ぎするからな。口が堅いとも言えないから、あっという間にクラスの連中に俺達の関係が知れ渡っても困るし」
 二人には内緒にしておこうってことになった。
 理由は今慧ちゃんが述べた通りで、話した時のリスクが高過ぎるからだ。
「まあ、それが正解って感じだよな。あいつらにとっては知らない方がいい事だと思う」
 慧ちゃんの言葉にあっさりと納得する頼斗の隣りで、深雪もこくこくと首を縦に振っていた。
 俺としては、二人も子供の頃からの幼馴染みだから、二人に隠し事をしているのも心苦しい気持ちはあるんだけどね。
 でも、二人の性格を良く知っている俺と慧ちゃんだからこそ、今はまだ言えないってことになった。
 もう少し二人が大人になって落ち着いてくれれば、そのうち話してみようと思っている。
 まあ、その時まで俺と慧ちゃんが付き合っていたら――の話ではあるけれど。
「じゃあ、今はこの四人だけの秘密ってことだな。了解した」
「お前らが俺達の関係を言い触らすとは思ってないよ。そこは信用してるから」
「任せて。絶対誰にも言わないから」
 深雪と頼斗が俺と慧ちゃんの関係を秘密にしてくれるのも、同じ同性カップルとしての仲間意識が強いからだろう。
 そして、俺達の秘密が周囲の人間に知られてしまうと、自分達の関係も危うくなると思うからだろう。
 どちらにしても、同じ幼馴染みの男同士で恋人になってしまった俺達四人は、これかれらはもっと深い付き合いをしていくことになるのだと思う。
 だけど、思いがけず慧ちゃんと恋人同士になってしまった俺にとって、何かあったらすぐに相談できる相手がいるのは心強いものだから、同じ境遇の相手の存在はありがたかった。
 今後何か困ったことがあったら、俺は迷わずこの二人を頼ることになるだろう。
「言っとくけど、伊織にも言うなよ。あいつに知られたら、どこでバラされるかわかったもんじゃないから」
「え。あ……わ、わかった」
 深雪の言う「絶対誰にも言わない」は、どうやら学校の人間に限定されていたみたいで、慧ちゃんの口止めにハッとした顔になっていた。
 深雪は頼斗の他に雪音とも付き合っているからな。雪音には俺と慧ちゃんのことを話すつもりでいたのかもしれない。
 でも、雪音と伊織君は同じ学校に通う幼馴染みだから、今の言葉で雪音にも俺と慧ちゃんの関係を話せなくなったって顔だった。
 まあ、俺達が雪音や伊織君に会う機会なんて早々にないとは思うんだけどな。念には念をってやつだ。
 俺達の関係を徹底的に隠し通したいと思っているのなら、俺と慧ちゃんの関係はここにいる四人だけの秘密にしておいた方がいい。
 いくら幼馴染み同士が恋愛の鉄板だとしても、俺や深雪達の場合は隠しておいた方が身のためだもんな。



 その後。昼休みの終わりを告げるチャイムと共に教室に戻って来た俺と慧ちゃんは、涼介と旭に
「何? ようやく仲直りできたの?」
 と聞かれ
「うん」
「深雪と頼斗が仲直りのきっかけを作ってくれた」
 と答えておいた。
「そっか。良かったじゃん」
 俺と慧ちゃんが喧嘩中だと信じて疑っていなかった二人のホッとした顔を見ると、ちょっとだけ胸が痛んだ。
 だけど、極々一般的な男子高校生として、女の子のお尻ばかり追い駆け回している二人には、余計な心配を掛けないことも優しさだと思う。
 高校一年生の二学期から慧ちゃんと恋人同士になった俺は、これまでの日常がどう変わっていくのかがちょっと怖くもあり、少し楽しみでもあった。


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