どっちも好き♡じゃダメですか?~After Story~

藤宮りつか

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After Story

最終話 春~新たなる始まり~(1)

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 雪音が受験した八重塚高校の合格発表は三月三日で、その日は偶然にも伊織君の誕生日でもあった。
 三月三日と言えば雛祭り。まるで女の子のように可愛らしい伊織君の誕生日が、そんな日と被っていることがちょっと出来過ぎているような気もするけれど、そんな日に生まれてきたからこそ、伊織君は女の子と見間違うような容姿なのでは? と思わなくもない。
 去年、俺や頼斗が受験した白鈴高等学校は、合格発表を日曜日に定めているようだけど、八重塚高校にはそういうこだわりがないらしい。今年の三月三日は普通に平日だった。
 俺の時は学校が休みの日に合格発表があったから、頼斗と一緒に白鈴まで合格発表を見に行ったけれど、平日に合格発表がある場合はどうするんだろう……と思っていたら、そこは平日でも休日でもあまり変わりがないようだった。
 姫中から八重塚を受験する生徒は多く、八重塚の合格発表の日は姫中三年生の登校は自由になるのだとか。
 そういうところは意外と緩いんだな、と思ったけれど、三年生はもうすぐ卒業だし、受験が終わったのであれば先生達の肩の荷も下り、少しはのんびりしたくなっちゃうのかも。
 合格発表を見に行った後、真っ直ぐ家に帰るも良し。合否確認の後で学校に向かうも良し。どのみちその日は授業がなく、一日中自習らしいから、学校に行く必要がない――ということだそうだ。
 なので、雪音も伊織君と一緒に八重塚まで合格発表を見に行った後は、真っ直ぐ家に帰るつもりのようだった。
 まあ、雪音が早く帰って来たところで、俺は普通に学校があるし、父さんや宏美さんも仕事なんだけどね。
 だから
「せっかく伊織君の誕生日でもあるんだから、二人でお祝いでもしたら?」
 と提案してあげると
「そっか。それもアリだね」
 雪音は〈思いもしなかった〉という顔で頷いていた。
 物心つく前からの幼馴染みだっていうわりには、雪音が伊織君の誕生日に無頓着過ぎる。
 自分の誕生日には毎年プレゼント代わりのチョコレートを貰っているんだから、伊織君の誕生日もちゃんと祝ってあげて欲しい。
 と思いきや
「伊織の誕生日は毎年伊織の家族と一緒に祝ってあげていたからね。二人でっていう発想はなかった」
 雪音は何も伊織君の誕生日を蔑ろにしているわけじゃなかったからホッとした。
 そりゃそうだよね。いつも一緒にいる仲良し幼馴染みの誕生日を蔑ろにするほど、雪音も薄情な人間じゃないよね。
 それに、伊織君は実の兄である伊澄さんのことが大好きだ。雪音のことは友達としてもちろん好いてくれているけれど、誕生日は大好きなお兄ちゃんと一緒にいたいよね。
「去年までは僕が伊織の家にお邪魔して、笠原家の人達と一緒に伊織の誕生日をお祝いしていたんだけどね。今年からは家も少し離れちゃったし、伊織も伊澄さんと上手くいったから、〈おめでとう〉って言ってプレゼントを渡すだけにしようかと思ってた」
「ダメだよ。大事な友達の誕生日はちゃんと祝ってあげなくちゃ。特に、雪音は伊織君以外に仲良くしている友達がいそうにないんだから」
「失礼だね。確かに僕は伊織以外に特別親しくしている人間なんていないけど、それは伊織も同じだから。僕達は沢山の友達が欲しいわけじゃなくて、本当に気が合う人間としか付き合わないスタンスなの。特別親しくしている人間が少ないだけで、クライメイトとは普通に話すもん」
「べ……別に俺は雪音に友達がいないって言ってるわけじゃないよ」
 うぅ……。俺の言い方が少し不味かったことは認める。認めるけど、これ見よがしに拗ねなくてもいいじゃんか。
 雪音のモテっぷりを見れば、雪音が如何に人気者なのかってことは一目瞭然なんだから。
「嘘嘘。怒ってないよ。深雪は僕の心配をしてくれただけなんだよね。僕が伊織以外の人間とあまり親しくしないから、春から始まる高校生活を上手くやっていけるのかどうかって」
「いや。別に……」
 何やら俺の発言をいい方向に捉えてくれたらしい雪音だったけれど、ぶっちゃけ俺はそこの心配は全くしていなかった。
 だって雪音だよ? 容姿端麗、頭脳明晰な雪音だよ? きっとどこに行っても人気者になるに決まっているじゃん。
 まあ、女の子にモテ過ぎちゃうから、同じ男からは妬まれることもあるかもしれないけど、そんな事をいちいち気にするような雪音じゃないし。
「それにしても、一年なんてほんとあっという間だね。去年の今頃、僕と深雪が出逢って、深雪が高校生になったかと思うと、今度は僕が高校生なんだもん」
「ほんとだね。まあ、俺としては雪音がまだ中学生ってことの方が信じられなくもあるんだけどね」
 一年なんてあっという間であることは事実だけれど、雪音が未だに中学生であることはちょっと信じられない。
 そもそも、俺は偶然街で雪音と出逢った時だって、雪音のことを自分よりも年下だとは思わなかったもん。
 どうやら女関係のことで怖そうなお兄さん達に絡まれていたみたいだし、初対面の俺にいきなりキスしてきた雪音のことを、どうやったら年下だと思えるという。仮に俺が恋愛経験ゼロじゃなかったとしても、あの日の雪音を自分より年下だとは思わなかっただろう。
 大体、中学生のわりには完成し過ぎているんだよね。背だって俺や頼斗よりも高いし。顔も無駄に大人っぽいしさ。
 そんな雪音を一目見て、自分より年下だとは思えないよ。
「それってさ、深雪の目には僕が大人っぽく見えるってこと?」
「え? う……うぅ……まあ……」
 あまり本人の前で認めたくはなかったけれど、嘘を吐いても仕方がない。俺が「そうだ」と認めれば雪音が喜ぶこともわかっていたから、俺は渋々といった感じで雪音の言葉を肯定した。
 雪音は時々自分が年下であることを武器にしてくることもあるけれど、俺に大人っぽく見られるのは好きなんだよね。
 多分、自分が彼氏役だからなんじゃないかと思う。
 彼氏の立場である雪音は、俺に〈格好いい〉って思われたいんだろうから。
「そっかそっか。深雪にとっての僕って大人っぽいのか。嬉しいな~」
「もーっ! 浮かれてないで早くお風呂に入ってきたら⁉ 明日早いんでしょっ!」
 得意気な顔でニヤニヤと笑う雪音に恥ずかしくなった俺は、照れ隠しのためにも雪音をお風呂に追いやろうとした。
 今日はまだ三月二日。時刻は午後十時半を過ぎたところ。
 頼斗はとっくに帰り、俺と雪音は俺の部屋でまったりとお喋りしている最中だった。
 雪音が受験生の時は、まだこの時間は雪音も勉強していることが多かったけれど、受験生から解放された後の雪音は、勉強するよりも俺と過ごす時間の方を優先しているように思う。
 それでも、毎日必ず勉強する時間を作っているところが雪音の尊敬すべきところだ。
 俺なんて、受験が終わってから高校生活が始まるまでの間、ロクに勉強なんてしなかったというのに。
 子供の頃からの習慣と言ってしまえばそれまでかもしれないが、その習慣だって自分の意志でどうにだって変えられる。
 自分を厳しく律することができるところが、俺には無い雪音の凄いところだと思う。
「別に明日は早起きする必要もないんだけどね。合格発表は何時に見に行ってもいいし」
「た……確かに……」
 勢い余って、つい「明日早いんでしょっ!」なんて言ってしまった俺は、明日の予定が〈合格発表を見に行くだけ〉の雪音に早起きをする必要がないことを思い出した。
 的外れな指摘をしてしまった自分を恥ずかしく思っていると
「でも、深雪と一緒に朝御飯を食べたいから、明日はいつも通りの時間に起きるよ」
 柔らかい笑みを浮かべながらそんな事を言ってくる雪音に、別の意味で気恥しくなってしまった。
 ほんとにもう……。雪音はこういう殺し文句をどこで覚えてくるんだろう。こういうところも雪音を年下だと思えない要因の一つでもあるよね。
「さてと、そんな僕は深雪に言われた通り、そろそろお風呂に入って来ようと思うんだけど……」
 今日はわりとおとなしく引き下がるんだな、と安心していた俺は
「一緒に入る?」
「っ⁉」
 急にそんな大胆な誘いを掛けてくる雪音に、顔がボッと赤くなった。
 全く。油断も隙もあったものじゃないんだから。一階にはまだ父さんと宏美さんがいるのに、雪音と一緒にお風呂になんか入れるわけないじゃん。
「何言ってるのっ! 入らないからっ!」
 今更雪音と一緒にお風呂に入るくらいどうってことない俺ではあるけれど、俺達はまだ親の保護下で生活している身。
 その事を雪音にも忘れて欲しくないから、あえて厳しい態度を取って見せる俺なのであった。


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