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After Story
春~新たなる始まり~(11)
しおりを挟む「それじゃ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
「雪音。新入生代表の挨拶はしっかりな」
「うん。任せて」
雪音が朝食を食べ終わった後、俺達三人は一緒に家を出た。
ぶっちゃけ、俺と頼斗はもう少し家の中でのんびりしていても良かったし、一緒に家を出たところで、白鈴と八重塚の通学路は正反対って感じなんだけどね。
でも、俺と頼斗に時間的余裕があるおかげで、今朝は雪音を駅まで見送ってあげようって話になった。
本当は俺と同じ高校に通うことも考えていた雪音に、少しでも俺と一緒に登校している気分を味わわせてあげようと思ったから。
「にしてもお前、本当に稔さんや宏美さんに入学式に来てもらわなくてもいいの?」
まあ、頼斗も一緒だから、二人っきりってわけにはいかないけどね。
だけど、もし雪音が白鈴に通うことになっていたとしても、通学路は毎日頼斗も一緒になっていたから、これはある意味リアルな体験である。
「うん。だってみんなも親は出席しないって言うんだもん。僕自身、高校生にもなって親が一緒なのはちょっと恥ずかしいしさ」
「でも、宏美さんは見たかったんじゃない? 雪音の晴れ姿。雪音、今日は新入生代表の挨拶するし」
「いやいや。むしろ、それがあるからこそ余計に恥ずかしくて来て欲しくないんじゃん」
「へー。お前にも一応恥ずかしいって感情があるのか」
「あるよ。一体僕を何だと思ってるの?」
雪音がこうして俺や頼斗と一緒に朝の通学路を歩いているのは初めてのことだけど、いざ一緒に歩いてみると思いの外に違和感がないと思った。
白鈴の生徒と八重塚の生徒が一緒に歩いている光景というものは、傍から見ると違和感なのかもしれないけれど。
「っていうか、深雪や頼斗だって高校の入学式には親が出てないじゃん。ついでに言うと、中学の卒業式も。それなのに、僕のことをとやかく言う筋合いはなくない?」
「別にとやかくは言ってねーだろ。ただ、宏美さんが出席したいと思っているなら、お前に〈来ないで〉って言われるのも可哀想だと思っただけだよ」
「大丈夫だって。母さんも年頃の息子を待つ母親として、息子のそういう気持ちは理解してくれているよ。それに、今日の入学式は学校のホームページで動画がアップされるらしいから、入学式を見ること自体は可能だよ」
「そうなんだ。それは随分と保護者思いな学校側の配慮だね」
「まあね。僕もそういうのがあるって知ったから、母さんに〈できれば来ないで欲しい〉って言えたんだよ」
「なるほどな」
今の時代、親が仕事で我が子の入学式や卒業式に出られないというのも珍しい話じゃなかったりするもんね。
小学生の頃ならまだしも、年頃になると子供──特に、男の子は親と一緒を嫌がるようになったりもするし。
本当は我が子の晴れ姿を見たいと思っていても、仕事の都合で入学式や卒業式に出席できない親がいたり、子供が嫌がるから出席したくてもできない親がいるかもしれない。
そういう意味では、学校のホームページで入学式や卒業式の動画を流すというサービスはアリだと思う。
うちから駅まではそう遠くないんだけれど、三人で話しながら歩いていると本当にあっという間だった。
今日は雪音の入学式だから、会話の内容が入学式に関係ある話ばかりになってしまうのは仕方がないと思う。
自分達の会話を聞きながら
(俺も中学を卒業する頃には、親と一緒が照れ臭いと思うようになっていたよね……)
と、今からほんの一年前の記憶を懐かしく思ったりした。
母さんが亡くなった後、父さんと二人で暮らしていた俺は、たかが中学の卒業式如きで父さんに仕事を休んでもらうのは申し訳ない、と思っていたし。
「それはそうと、いよいよ今日からだね」
住宅街を抜け、少しだけ賑やかな通りに出てしまうと、駅はもうすぐそこだった。
このまま駅に着くまで、雪音の入学式の話が続くのだろうと思っていた俺は、急に話題を変えてしまう雪音に
(今このタイミングで?)
と思った。
ついでに言うと
(何がいよいよなの?)
とも思った。
しかし、頼斗は雪音の言う〈いよいよ〉がすぐにわかったみたいで
「おう。お前も今日から高校生だから、これからは今までよりもちょっとは大人な恋愛ができるようになるといいな」
としたり顔だった。
二人して満足そうな顔をしている雪音と頼斗を見て、俺も二人が何の話をしているのかがピンときた。
春休み中、俺達三人の中での決まり事を改めて考え直そうと思った俺は、声が枯れ果ててしまった日の夜、早速雪音と頼斗を自分の部屋に呼びつけた。呼びつけて三人で話し合いというものをした。
当然、俺は二人に週一の約束と、同じ日は避けるという決まり事を継続させるつもりでいたし、三人でスる時のルールなんかもつけ加えるつもりでいた。
ところが、元々週一という縛りに不満を抱えていた二人は、ここぞと言わんばかりに俺の主張に猛反発してきた挙げ句、俺とのセックス回数を増やすように要求してきた。
その結果
【セックスは月に七回。三人でスるのは月に二回まで】
という新たな決まりを受け入れることになってしまった。
週の縛りはなく、月の回数になったことが大きな違いであることと、同じ日は避けるという決まりもなくなった。
そして、三人でするセックスが月に二回までと、別カウントになってしまったことで、トータルのセックス回数は一気に増えることになってしまった。
でも、二人が
『この条件なら絶対に守る』
と言うので、有耶無耶にされてしまう決まり事よりも、確実に守ってもらえる決まりの方がいいのかな? って俺も思ってしまって……。
で、その決まり事が有効になるのが今日――雪音の入学式の日からなのである。
「~……」
別に忘れていたわけじゃないんだけど、今ここでその話をされるとは思っていなかった俺としては
(あまり考えたくなかった話題を……)
と、ちょっとだけ二人のことが恨めしく思えた。
だけど、二人にとっては待ちに待った日でもあったようで
「あー、楽しみだし嬉しいな~。月に七回ってことは、二日続けて深雪とセックスするのもアリだもんね」
「残りを我慢できるなら、週七でセックスしてもいいってことだもんな」
「三人でスる日もいつにするかちゃんと決めておかなくちゃ」
「そうだな」
今日から新しくなる俺達の性生活にウキウキだった。
対する俺は、今の二人の会話だけでも、既に疲れがドッと押し寄せてきそうである。
(週七とか……冗談じゃないんだけど……)
心の中で悪態は吐くものの、俺も一度首を縦に振った身だから、今更
『やっぱりもう一度話し合おうよ』
なんて言うつもりはない。
今日からの俺の目標は
【二人の性欲に負けない体力をつけること】
だ。
「んじゃ雪音、しっかりやれよ」
「うん」
「伊織君と一緒に写った写真撮ってきてね」
「わかった」
駅に着き、改札に向かう雪音を頼斗と一緒に見送る俺は、先月よりも急に大人っぽくなったと感じる雪音の背中に手を振りながら
(今日から新しく始まる一年を頑張ろう……)
新たなる始まりに、気持ちがキュッと引き締まる思いがした。
こうして三人で付き合って行く以上、これから先もいろんな事が少しずつ変わっていくのかもしれないけれど、大好きな雪音と頼斗とずっと一緒にいられるのなら、俺はそれだけで満足なのかもしれない。
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