どっちも好き♡じゃダメですか?~After Story~

藤宮りつか

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番外編 Episode:0 side頼斗

恋になるまで(3)

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 入学早々、同じクラスになった七緒深雪と、半ば深雪の面倒を見る形でお近づきになった俺は、入学式が終わった後、母さんが七緒親子を食事に誘ったことで、親同士の付き合いまで始まることになってしまった。
 正直、いきなり母さんが七緒親子を食事に誘った時は、やんわり断られるものだと思った。
 だが、深雪の母親から返ってきた返事は
「私達も帰りはどこかで食べて帰ろうって話をしていたんですよ。是非ご一緒しましょう」
 とまあ、あっさりオッケーの返事だったから、俺の方がちょっと面食らってしまった。
 どうやら深雪の母親は引っ込み思案でも人見知りでもないようである。
 でも、よくよく考えてみれば、七緒家は最近引っ越してきたばかりだというし、息子の深雪は親が心配になるほどに消極的な性格だ。
 これから始まる息子の学校生活同様、母親にとっても新しい土地での新生活が始まることになるわけだから、人付き合いは大事だと思ったのかもしれないよな。
 俺の母さんが誰にでも気さくに接するタイプの人間だから、深雪の母親も話しやすかったのかもしれない。
 四人で入ったファミレスで料理を注文し、その料理が運ばれてくる頃には、うちの母さんと深雪の母親はすっかり会話が弾んでしまっていた。
 同じ歳の息子を持つ母親同士、話が合ったのかもしれない。
 一方、俺と深雪も
「へー。深雪は青がいいのか。俺は断然黒だな」
「え~? でも、黒ってちょっと怖くない?」
「何言ってんだよ。そこが格好いいんじゃん」
 小学一年生の子供らしく、今放送している戦隊ヒーローの話で盛り上がったりしていた。
 最初は俺相手でも緊張してオロオロしていた深雪も、母親がすぐ傍にいる環境で、好きなテレビの話をしていると気が弛んできたようで、学校にいた時よりはスムーズに俺と話ができるようになっていった。
 まさか入学初日から同じクラスになった相手とこんな親し気な付き合いが始まるとは思っていなかったけど、これもやっぱり縁ってやつなんだろうな。
 深雪のことはまだよくわからないことだらけではあるが、俺は深雪と一緒に過ごす時間を楽しいと思うようになったいた。
 俺はこれまでも友達と呼べる相手が何人かいたし、今日から通うことになった小学校には幼稚園が一緒だった奴も沢山いる。
 だけど、深雪はその誰とも違うって感じがして、それは俺にとって妙に新鮮だった。
 食事が終わり、家の近くまで一緒に帰る道でも、俺は深雪といろんな話をした。
 そして、深雪と別れる時は、明日からの学校生活が不安そうな顔をしている深雪に
「明日の朝、お前の家の前まで行ってやろうか? 引っ越してきたばっかだっていうなら、まだこの辺の道もよくわかんねーだろ? 慣れるまで一緒に学校行ってやるよ」
 と言ってやると、深雪は目をキラキラ輝かせながら喜んでいた。
 七緒親子と別れ、母さんと二人きりになった途端、母さんからは
「あんたって意外と面倒見がいいのね。知らなかった。光があんたの面倒を全然見ないから、逆にあんたが面倒見のいい子に育っちゃったのかしら?」
 と意外そうな顔で言われたが、俺はそれには何も答えず、心の中で
『そうなんじゃね?』
 と言ってやった。



 それからというもの、俺と深雪は所謂いわゆる〈家族ぐるみの付き合い〉ってやつを始めることになったんだけど、深雪との付き合いが長くなるにつれ、深雪のことも段々わかってきた。
 相変わらず学校ではどうしようもない引っ込み思案で人見知りも激しく、なかなか他人と打ち解ける様子がなかったが、最初に仲良くなった俺の前ではかなり自分を出せるようになっていった。
 深雪が控えめでおとなしい性格であることは間違いないのだが、ただそれだけというわけでもないというか……。
 俺との仲が深まり、俺に気を遣わなくなってきた頃から、深雪は時々俺に我儘を言うこともあった。
 もちろん、俺を困らせるような我儘は言ってこなかったけど、意外にも自己主張が強いというか、「嫌」とか「ダメ」はわりとハッキリ言う方だと思った。
 しかし、元々一人っ子で親にも甘やかされて育ってきたみたいだから、基本的には甘えたがりだった。
 一つ気になったのが、深雪の母親はあまり身体が丈夫な方ではないってことだ。
 どこが悪いとか、どういう病気なのかって話は聞いていないし、深雪も知らないみたいだったけど、体調を崩すことが少なくはなく、一度体調を崩すと数日寝込むこともあるみたいだった。
 母親があまり元気じゃないから、深雪も母親にべったりになってしまうのかも……と、ちょっと思ったりもした。
 でも、調子がいい時は俺の家族と一緒に遊びに行くこともあったし、体調さえ崩さなければ、至って明るい普通の母親だった。
 深雪の父親も優しくて穏やかな人で、俺のことは息子の深雪同等に可愛がってくれた。
 やや強面なうちの父親と違って、深雪の父親は柔和なイケメンって感じだったが、俺の父さんとは結構気が合うらしく、いつの間にか下の名前で呼び合うようになっていた。
 家族ぐるみの付き合いということは、当然俺の姉ちゃんも七緒家の人間と関わることになったのだが、俺に対する扱いと、深雪に対する扱いはあまり変わらないようだった。
 ただまあ、一応人様の子だという認識はあるようで、俺に対するほどの暴言は深雪に吐かなかったし、多少は優しくしているように見えた。
 ズケズケと物を言う姉ちゃんに、深雪の方はしょっちゅう怯えているようでもあったけれど。
 だが、別に姉ちゃんのことが嫌いってわけでもなさそうだった。
 言葉遣いが乱暴な姉ちゃんに面食らっているようでも、姉ちゃんのことを「光さん」と呼んで懐いている様子でもあった。
 個人的には、ガサツで乱暴な姉ちゃんにあまり深雪を近付けたくなかったんだけど、そんな事をしたら余計に姉ちゃんが深雪に絡もうとしそうだから、俺も深雪に近付く姉ちゃんを気にしない振りをしつつ、いつでもすぐに深雪を助けられるよう身構えていた。
 俺が実の姉よりいつも深雪を優先するものだから、一度姉ちゃんに
「あんたって何でそんなに深雪に過保護なの? 好きなの? 深雪に惚れてんの?」
 と言われたことがある。
 が、弟にそんな質問を浴びせてくる姉ちゃんに、俺は思いっきり冷めた視線を送ってやっただけだった。
(好きって何だ。惚れてるって何だよ。男同士でそんなことになるわけないだろ)
 と、当時の俺は姉ちゃんの発言に心底呆れた。
 しかし、後に姉ちゃんのその発言は正しかったのだと思い知る日か来る。
 それは、まだもう少し先の話にはなるが――。


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