異世界で平和ボケしてたオレのドタバタ七日間

ぐるぐる

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窮地に立たされた可哀想なオレ君

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ここは子爵家当主の老紳士の休んでらっしゃる部屋の厳かな扉の前。
物音ひとつしない静か過ぎる邸。
静か過ぎると空気が重く感じ、肌寒い気がしてくる。

寒い気がするのにオレは汗をかいて立ちすくんでいた。

窮地に立たされた可哀想なオレ。
この扉の前まで、悩み葛藤しながら歩きたどり着いたオレは、嫌な汗を体全身に流して、息の仕方も忘れてしまっていた。

そう、今、オレは!今世10才にして人生最大のピンチに、この重厚な地獄の門のような扉の前に薬をもって立ち尽くして、どれくらいの時間が経っただろうか・・・・・・



そんな可哀想で哀れなオレは・・・・・・家族を事故で一度に亡くして憔悴して寝たきりになってしまった子爵様のお世話をするために連れて来られた傍系の男爵家三男アトラス。
前世日本人だった記憶を少し持っている。

前世では異世界ラノベが大好きでちょっとの隙間時間でもスマホをみていた。
だからこそ剣と魔法の異世界に転生できたことにめちゃくちゃ喜んだ。
剣はともかく、魔法は好きだ!大好きだ!絶対使いこなすんだ!と意気込んでいた。

だがしかし、現実はそう甘くはなかった。
オレの魔法の才能は、生活魔法が平民並み。あと、持っているスキルは異世界三種の神器といわれる鑑定・収納・言語理解だった。
期待していた攻撃魔法とか支援魔法とか付与魔法とか召喚魔法とかじゃなかった・・・・・・
この世界、魔法の才能は遺伝ともいわれているから男爵家じゃそんなもんなんだろう。
でもでもでもでも、魔力量は努力次第だと聞いたから!ラノベでたくさん読んだ通り、魔力枯渇を繰り返せば魔力量が増えると思って魔力枯渇で倒れるを毎日繰り返したさ!
この世に生まれ落ちてから5才のあの時までは。。。

5才になるとみんな教会でお祝いのようなお祭り騒ぎの中で水晶に手を翳して鑑定してもらうんだ。
その時に自分の魔力量が平民並みってきいてもう心が折れたんだ。
5年も頑張ったのに平民並みって、ラノベ主人公のような魔力量チートはオレにはなかったとわかり、そりゃもう絶望した。

だってだって、一緒に鑑定を受けた平民の友人の方がオレより魔力量高かったし!なんならあいつ、魔法なんて使ってなかったし!
努力したオレよりなんで魔力量あるわけ!?

ショックを受けていたそんなオレを優しく慰めてくれたのはこの世の家族だ。
高位貴族だったらきっと冷めた目で見られていただろうけど、魔法をあまり使わない平民の如き質素な生活をしていた仲良し男爵家では、誰も魔法の才能を発揮していなかったし、魔法に関して努力すら不要とでも思っているような風潮。
畑を耕し家畜の世話をして日々の糧に感謝しよう。
平凡平穏な日々に感謝しよう。
そんな家族だった。

仲良し家族に育てられて感化されて、無駄な努力はやめたんだ。
笑顔の絶えない優しい家族。
平々凡々平和で呑気な生活の中では、ちょっとした生活魔法が使えるだけで「わぁ便利ね!」と褒められるだけでオレは幸せ一杯になった。

だから、ありきたりな転生特典であるオレの三種の神器についての性能を充分に理解し、使いこなす、なんて考えは生まれて来なかった。
平民並みの魔力量でスキルを使いこなすなんてできるわけがないと鷹を括っていたしね。




だが!
薬を持って立ち尽くしているオレは、スキルを使い熟すべく、今まさに頭をフル回転させて、助けて三種の神器さまー!と心の中で号泣して神頼みしたら、三種の神器はチートだったんだ!

人生最大のピンチな時にオレのスキルがチートだったと知るだなんて!
オレは馬鹿なのか?天才なのか?もう汗しか出ない。




さて、オレのチートな鑑定によると、こうだった。


子爵様は事故で息子夫婦、孫たちを全員亡くしてしまった。
後継ぎがいなくなってしまったので、傍系の子爵家次男を養子にもらい、実務も全て引き継いだ。
だが子爵様が寝たきりになってから1年経っても未だ爵位継承されないことに後継ぎさまは(次期さまと呼ぼう)苛立っていた。
さらには子爵様が後継ぎを代えようとしている動きに気付いて、子爵様を毒殺する計画を立ててオレを子爵家に連れてきたと。

オレたち男爵家のみんなは、子爵家へ出発するときには家族みんな今生の別れかと思うくらい泣いてぎゅうぎゅうにハグしてキスして別れを惜しんだっけ。
本当に家族大好きでとても幸せだったなぁ・・・・・・

おっと、現実逃避してしまった。

そしてその次期さまが先程、寝たきりの子爵様が元気になる薬だから毎日与えろと渡されたのを、何気なくふと鑑定してみたら実は毒でした、と。

で、今に至る。

奴はオレにこう言った。

「毎日与えれば1週間で元気にベッドから起きるようになるから、投薬を怠ればわかるからな。元気にならなかったらお前とお前の家族に罰を与える」

と。

頭の悪いオレにはわからなかったが、チートな鑑定さまによると、1週間後に子爵様が死ななければ家族もろともあの世行きだが、死んだら死んだで罪を全部着せられてあの世行きなんだそうだ。

もうオレには、オレの家族には、あの世行きの未来しかないってことみたい。
泣く!!!
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