積極的にバラすタイプの鶴

のは(山端のは)

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GWデート

柏餅とべこ餅と

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「桂聖には、それが柏餅に見えるんですね……」
 そう言われて、俺は買ったばかりの柏餅を見おろした。
 パッケージにもそう書いてあるし、柏の葉に包まれたツヤツヤのお餅はどう見ても柏餅だ。

「かつて、柏餅はべこ餅で、べこ餅は柏餅だったじゃないですか」
 どゆこと?

 混乱する頭で俺はひとまずべこ餅について整理した。
 べこ餅とは、白と黒色のむっちりした食感の餅菓子だ。黒色の部分は黒糖の味がする。べこと似ているからべこ餅だとか、べっこうから来ているのだとか諸説ある。が、柏餅とかかわりがあるとは聞いたことがない。

 俺はすっかり首を傾げてしまったが、琉冬はいたって真面目、いやそれ通り越してなんか必死だ!

「端午の節句だから、べこ餅を食べるんじゃないんです。べこ餅は通年あるじゃないですか! 昔はね、この季節にだけ、べこ餅を葉の形に見立て、それを柏餅と呼ぶ風習があったんです。そもそもべこ餅は楕円形だったんですよ」
「そ、そうなんだ」
「そうなんです! それなのに、過去を、まるでなかったことのようにふるまわれることが、俺は悔しい――」
 琉冬はきつく拳を握りしめた。

 どうした琉冬。珍しく感情的になっちゃって。
 俺は笑い出しそうになるのを必死で堪えた。
「まあまあ、どっかには残ってるかもよ、そういう地域」
「そうでしょうか」
「希望は持とうぜ」
 ぽんぽんと肩を叩いてなだめる。

 ベンチで柏餅を分け合う頃には、琉冬もだいぶ落ち着いたようだった。
「すみません、少々取り乱しました」
「うん。面白かったよ」
 俺はニヤニヤ笑ってしまったが、琉冬は上げかけた目線をまた下げてしまった。

「子供のころ、柏餅を食べましょうというから、何か食べたことのないお菓子が出てくるんだと思って期待したんですよ。それが、出てきたのはどう考えてもべこ餅で、ずっと謎だったんです」
 イケメンがしょうもないことで物憂げな顔してる。彼の背後で、さきほどまで元気に泳いでいたはずの鯉のぼりも、すっかりしぼんでしまってる。

「あー、そっか、それはガッカリだな」
「わかってます。真の柏餅に罪がないことは。ですけど、昔から端午の節句にはべこ餅が食べられていたとか言われると、なんだかこっちが長年騙されてたみたいじゃないですか」

 俺はキュッと口をつぐんだ。ダメだ、面白すぎる。

「よし、風呂でも入るか!」

 気分を変えるにはやっぱ風呂だろ。
 今回の旅行は、レンタカーではなくバスにした。自由度は下がるが、その分ちょっといい宿に泊まれる。
 そうして選んだこの宿は、客室数を抑えて、料理とサービスでもてなしますってコンセプト。
 泳げるほど広い大浴場はなくても、その分雰囲気がいいし、ゆったり浸かってられる。
 
 半露天は貸し切り状態だったので、俺たちは大いにくつろいだ。
 琉冬は長い髪をきっちりとタオルで包み込み、岩にもたれて深く息を吐き出した。その顔をそっと覗き見て、俺はホッとした。
 いいぞいいぞ。緩んできた。
 すると視線に気づいたのか、琉冬がこっちを見て吹き出しやがった。

「桂聖それ、妙に似合いますよね」
 俺は今、琉冬がくるくる形成した、羊巻きのタオルを頭に乗っけられている。こんなんどこで覚えてきたんだ。
「おそろいにしてやろうか」
「遠慮します」
 真顔で断るな。
「桂聖がするから可愛いんでしょう」

 俺はふんと鼻で答える。
 だけど、こんなんでおまえの気分が上がるんなら、いくらでもやってやるさ。
 内心そんなことを考えているものだから、怒っているフリは長続きしなくて、笑ってしまう。
 琉冬は俺の頭にそっと手を乗せた。

 琉冬の瞳がようやっと柔らかく溶けた。
 甘い雰囲気になりかけたところで、見知らぬおじさんが露天の扉を開けて、気まずそうに閉めたところで俺たちも我に返る。
「……上がろっか」

 そんで湯上り。目の毒だな。
 浴衣の着こなしがやっぱり他の人と違うもんな。髪をゆるく団子みたいにしてるから、うなじがスゴイ色っぽい。
 人目もはばからず琉冬に着付けてもらったから、俺だってきちんとしてるはずなんだけど。
 ほらー、ちょっと目を離すとすぐに視線の集中砲火を浴びてるし。見るな見るな、俺のだぞって言ってやりたい。言わないよ。
 牽制なんて必要ないくらい、琉冬は俺しか見てないから。

 夕食は期待以上に豪華だった。
 刺身うまい。
 すごくまったりしている。熟成具合がいいんだな。手間暇という贅沢よ。うまみが強くて臭みはまったくない。ワサビはすりたて、エビでかい! プリッとしてる。

 酒を入れると更にうまい。
 注文する時、琉冬が目をキラッとさせたから、たぶん酒自体もいい奴なんだろう。
 俺はふだん日本酒はあまり飲まないんだけど、ちょっと癖になりそう。うまみはあるけど甘すぎず、料理の味を引き立てる。

 こちらの食べるペースに合わせて一品ずつ運ばれてくる料理は、どれも最後の一口を惜しんでしまうような控えめな盛りに思えたのに、ごはんが来たときには結構腹いっぱいになっていることに驚いた。

 デザートまで残さず食べて、俺はポッコリ膨らんだ腹をさすった。
「美味しかったですね」
 琉冬はライバルを認めるような顔つきで頷いている。
「だな」
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