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光、昔に囚われる:ルミ視点
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あれからレンは私の公演の日は必ず見に来てくれた。舞台で演じていた際にふとした瞬間彼と目が合ってしまうと、私は現実に戻されてしまうので、必死に役に集中しなければならなかった。そんな彼は必ず花束を持ってきてくれた。
(嬉しい・・・)
嬉しいのに毎回「なんで来たのよ」「暇なんじゃないの」などと口に出してしまうので、彼が帰ると言う時に私はまたやってしまったと思いがっくりと肩を落とすのだ。
「ルミ、ルミちゃんじゃないの」
「・・・お、お母さん?」
お使いに隣街に出た私は寄り道して好物のシフォンケーキを買って帰ろうと考えていたところだった。そこに以前よりすっかりと痩せ衰えた母が立っていたのだ。
「やっぱりルミちゃんだわ!ごめん、ごめんねルミちゃん。私間違ってたの。あの男にすっかり騙されてたのよ」
母は細い腕で私をぎゅっと抱きしめた。
「あの男はあの遊廓の女将の叔父でね、彼、裏社会のボスの娘と結婚してたんけど、あなたが出来てしまったでしょう?それを隠してたんだけど奥さんにバレちゃったの。前の遊廓から追い出されちゃって、今はこの街の遊廓でひっそり働いてるのよ。ルミちゃんもこんな綺麗になったんだもん。いっぱい稼げるわ。一緒に働きましょう?ね?」
美しかった母は白髪が増え、シワも増えて、頬は痩けていた。目は視線が合わず、手も震え、中毒症状が出ている。こういった人を私は諜報活動している際に見たことがある。彼女は麻薬に手を出しているのだ。
「お母さん・・・一人になって辛かったのね・・・ごめん、お母さん。これからは一緒にいるから」
「あぁ・・・ルミちゃん、私嬉しい。」
劇団の皆と会えなくなるのは寂しけど、お母さんは一人だもの。あの人ともう会えなくなるけど、どうせ片思いだったの。これで良かったのよ。
ーー私は昔に囚われた。
母と共にやってきた遊廓は以前の場所より格下のようだ。以前母がいたところは貴族や富豪を相手にしていたので、わりかし綺麗な部屋であった。今の部屋は薄暗く、光を通さない部屋に、鞭や蝋燭、拘束器具など下品な商売道具が転がっていた。
「おー新人か?綺麗な顔してるけど、地味だし、愛想のねーやつだな。ちゃんと躾とけよ!」
「ははは、生意気そうな顔だけど薬漬けにしたら大人しくなるんじゃねーの」
男たちがゲラゲラと笑いながら酒を飲んでいる。私はこういう奴らに毎日犯されるんだろうか。すっかりと目から光を無くした私はひっそりと佇んでいた。劇団にいたのが遠い記憶のように感じた。
しばらく母の手伝いや人気遊女のお手伝いをした。やはり体は覚えているものだ。てきぱきとこなしている自分はやはり遊女の元に生まれ、落ちぶれた遊女として死にゆく運命なのだ。そしてとうとう男性の接客を任された。
(私は遊女よ)
女優マーサとして演じるように、自分は遊女だと念じた。いつもは演じれる役であるのにもかかわらず、どうしても弱いルミが出てきてしまう。
「マーサ!!」
幻聴が聞こえる。彼が恋しすぎて声まで聞こえるようになってしまったのだろうか。
目を開けると視界には彼の姿が。
(・・・レン?本物?)
私は恐怖で逃げようとするが、腕をつかまれてしまった。
「見つけた、マーサ」
「私はマーサじゃないわ。ルミよ。人違いだわ」
私は悪あがきをした。一番見つけて欲しくなかった私の姿を彼は探しだしてしまったのだ。
「人違いな訳ないさ、この可愛らしい青い目、この小ぶりな鼻、この憎たらしい言葉を吐き出す小さな唇、そしてこの尖ったすぐ赤くなる耳。どれもマーサじゃないか」
(そんな私のこと見ててくれたのね。嬉しい・・・)
「帰ろう、マーサ」
喜びそうになったが、ふと現実に戻される。私は彼と結ばれることはできないのだ。
「無理よ、私は所詮遊女の娘だもの」
私は目を反らし拒否した。
(お願い、私に期待させないで)
思いがグラグラと揺れているなか、女将が私の名を呼んだ。
「おい、ルミ、初物好きの紳士がえらい高値でお前を一夜買ってくれるとよ」
「は、はい」
とうとうこの時がきた。私が遊女として男に抱かれるのを彼に知られたくないのに、現実は残酷だ。
「おい、好きでもない男と寝るってのかよ!」
「遊女だもの、当たり前のことよ」
私は最後まで強がってみせた。
(ほら、あなたは私に幻滅するのよ。これでいいの)
「それはいくらだ。俺はその倍出す」
(なっ・・・!!)
私が否定する前にそそくさと彼はお金を払い、女将は部屋に彼を通してしまった。
(嬉しい・・・)
嬉しいのに毎回「なんで来たのよ」「暇なんじゃないの」などと口に出してしまうので、彼が帰ると言う時に私はまたやってしまったと思いがっくりと肩を落とすのだ。
「ルミ、ルミちゃんじゃないの」
「・・・お、お母さん?」
お使いに隣街に出た私は寄り道して好物のシフォンケーキを買って帰ろうと考えていたところだった。そこに以前よりすっかりと痩せ衰えた母が立っていたのだ。
「やっぱりルミちゃんだわ!ごめん、ごめんねルミちゃん。私間違ってたの。あの男にすっかり騙されてたのよ」
母は細い腕で私をぎゅっと抱きしめた。
「あの男はあの遊廓の女将の叔父でね、彼、裏社会のボスの娘と結婚してたんけど、あなたが出来てしまったでしょう?それを隠してたんだけど奥さんにバレちゃったの。前の遊廓から追い出されちゃって、今はこの街の遊廓でひっそり働いてるのよ。ルミちゃんもこんな綺麗になったんだもん。いっぱい稼げるわ。一緒に働きましょう?ね?」
美しかった母は白髪が増え、シワも増えて、頬は痩けていた。目は視線が合わず、手も震え、中毒症状が出ている。こういった人を私は諜報活動している際に見たことがある。彼女は麻薬に手を出しているのだ。
「お母さん・・・一人になって辛かったのね・・・ごめん、お母さん。これからは一緒にいるから」
「あぁ・・・ルミちゃん、私嬉しい。」
劇団の皆と会えなくなるのは寂しけど、お母さんは一人だもの。あの人ともう会えなくなるけど、どうせ片思いだったの。これで良かったのよ。
ーー私は昔に囚われた。
母と共にやってきた遊廓は以前の場所より格下のようだ。以前母がいたところは貴族や富豪を相手にしていたので、わりかし綺麗な部屋であった。今の部屋は薄暗く、光を通さない部屋に、鞭や蝋燭、拘束器具など下品な商売道具が転がっていた。
「おー新人か?綺麗な顔してるけど、地味だし、愛想のねーやつだな。ちゃんと躾とけよ!」
「ははは、生意気そうな顔だけど薬漬けにしたら大人しくなるんじゃねーの」
男たちがゲラゲラと笑いながら酒を飲んでいる。私はこういう奴らに毎日犯されるんだろうか。すっかりと目から光を無くした私はひっそりと佇んでいた。劇団にいたのが遠い記憶のように感じた。
しばらく母の手伝いや人気遊女のお手伝いをした。やはり体は覚えているものだ。てきぱきとこなしている自分はやはり遊女の元に生まれ、落ちぶれた遊女として死にゆく運命なのだ。そしてとうとう男性の接客を任された。
(私は遊女よ)
女優マーサとして演じるように、自分は遊女だと念じた。いつもは演じれる役であるのにもかかわらず、どうしても弱いルミが出てきてしまう。
「マーサ!!」
幻聴が聞こえる。彼が恋しすぎて声まで聞こえるようになってしまったのだろうか。
目を開けると視界には彼の姿が。
(・・・レン?本物?)
私は恐怖で逃げようとするが、腕をつかまれてしまった。
「見つけた、マーサ」
「私はマーサじゃないわ。ルミよ。人違いだわ」
私は悪あがきをした。一番見つけて欲しくなかった私の姿を彼は探しだしてしまったのだ。
「人違いな訳ないさ、この可愛らしい青い目、この小ぶりな鼻、この憎たらしい言葉を吐き出す小さな唇、そしてこの尖ったすぐ赤くなる耳。どれもマーサじゃないか」
(そんな私のこと見ててくれたのね。嬉しい・・・)
「帰ろう、マーサ」
喜びそうになったが、ふと現実に戻される。私は彼と結ばれることはできないのだ。
「無理よ、私は所詮遊女の娘だもの」
私は目を反らし拒否した。
(お願い、私に期待させないで)
思いがグラグラと揺れているなか、女将が私の名を呼んだ。
「おい、ルミ、初物好きの紳士がえらい高値でお前を一夜買ってくれるとよ」
「は、はい」
とうとうこの時がきた。私が遊女として男に抱かれるのを彼に知られたくないのに、現実は残酷だ。
「おい、好きでもない男と寝るってのかよ!」
「遊女だもの、当たり前のことよ」
私は最後まで強がってみせた。
(ほら、あなたは私に幻滅するのよ。これでいいの)
「それはいくらだ。俺はその倍出す」
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