賢者様が大好きだからお役に立ちたい〜大人の時間を探査版〜

柴花李

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第四十八.五話 妙縁。「み」を取り「ょ」が育てば妖艶(タイトル意味不明)

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「ふふっ。人それぞれですね。私などズボラなので、これこの通り」
 言ってエウフェリオは手の平の上に留まっていた折り鳥を扉へ向けて飛ばした。滑るように舞ったそれは途中で一旦解けて広がり、元の紙に戻って扉の隙間を鮮やかに擦り抜け去っていった。
「うわ…走るより速そう」
「速いですよ。本気を出せばアルよりも」
「ええーっ、すごい!」
 それはかなり極まっているのではなかろうか。感心して顔を上げると蕩けそうな笑顔とかちあって息を呑んだ。ひたむきに包み込んでくるその眼差しが一昨日の夜に見た表情と重なって腰の奥に甘痒い疼きを覚える。
「…っ」
 ひくり。と、身を震わせたのは二人同時だった。それはそうだろう。今は互いの状態が手に取るようにわかるのだから。
「リンド…」
「…フェリ…」
 明日は部屋で休んでいるとアルベロスパツィアレに伝えた事実が、エウフェリオとオリンドの背を細やかに押して距離を近付けた。
「……ん…ぁ」
 触れ合わせ絡めた舌先からも魔素は流れ行き入り込んでくる。
 味覚では無いところで感じる甘味に、思考はたちまち互いを欲すること一色に染まった。
 早く、早く。と服を捲り上げ素肌に手を足を這わせて、目に付くところを口付け合えば、孕んだ熱はひと息に高まり鼓動を押し上げる。
 すでにこれだけ昂っているのに、絡み合う視線が、全身を巡る魔素が、いかに相手が自分を求めているかを伝えてきて止まず、胸が打ち震えた。
「リンド……すみません。…これは、止められそうに無い、です」
「うん……。うん、フェリ。…俺も」
 欲しくてたまらない感情が思考を頭から追い出して、強く抱きしめ合い深く唇を重ねる。
 温かくて柔らかな、それでいてしっかりと弾力のある塊に上顎を撫でられ、オリンドは擽ったい疼きに腰を跳ね上げた。
 もう欲しい。はやくここを満たしてほしい。肚の奥でフェリの熱に抱き付きたい。
 火照る腰を無意識に揺らめかせ、ただ夢中で口付けに応えながら迎え入れることに思いを馳せた。すると何か火の付いたようにエウフェリオの目が見開かれる。
 次の瞬間には、強く肩を掴まれたと思う間も無く、取っ組み合いの勢いで身を反転させ組み敷かれていた。
「……あ……」
 降り注ぐ真剣な眼差しに情欲の炎が燃え盛り、触れ合う肌という肌からもうどちらのものかもわからない欲求が強く染み渡った。
 背筋からぞくりと脳髄を貫く快楽を逃がしたいのに、目を離せず頭を振ることもできない。
「……フェリ…っ」
 焦げるほど欲しい相手から焼け付くほど欲されている。堪らなく身の内が濡れそぼる感覚を覚えて、オリンドはエウフェリオの目を見詰め両手を伸ばした。
「リンド…。ですが…、解してから、ですよ」
 魔素が伝えてくる衝動のほどを思えば、よくぞ我慢ができるものだと驚愕する。詰まる息の元、手を取り頬を寄せてくる仕草だけで、いかに大切に大事に扱われているかがわかって涙が滲んだ。
「……っ、うん…っ。……あ、お、俺、自分で…」
「そ…っんな姿を見せられて、我慢しきれるものですか。いけません」
「うひぃ」
 想像だけで更に滾ったのだと全身を飲む魔素が訴えてくる。その訴えには確かに自身の熱も籠っていて、嬉しいやら恥ずかしいやら。
 けれどそんな感情も即座に口付けが解いて情欲に変えていく。
「んんっ、…んう…」
 いつの間にエウフェリオの手にあったのか、おそらく操作魔法で取り寄せた潤滑剤を纏った指がゆっくりと入り込んでくる。今回は約束通り身体強化魔法などは使わずに進めてくれるようだ。障壁を介さず直接触れてくる肌に、より彼を感じられるような気がして、オリンドは足の先に浮き上がるような熱を覚えた。
「痛かったら、言ってくださいね」
「うん…」
 じっくりと時間をかけ十二分に柔らかくなった頃、そっと引き抜かれた指の代わりにあてがわれた熱い塊に、ほんの少し息を呑む。
「……ぅ、…ん、…んんっ!」
「大丈夫ですか?」
「うんっ、…ん、大丈夫……」
 待ち望んでいた質量が優しく焦らさず中を満たしていく感触があまりにも心地よくて、オリンドは頭の両脇に腕を投げ出して脱力した。
「ふは…う。……きもちい…」
 知らず満足の溜息が零れ落ち、エウフェリオの熱に集中して止まない意識に身を任せれば、綿の海を揺蕩うかのようだ。
「っ、り…リンド……。あまり、煽らないでくださ、い…っ」
「……へぅ?」
 煽るとは?
 敷布を擦って首を傾げたオリンドは、ややあって自分の腰が緩やかに動いていることに気付いた。そればかりか、どうやら突き出すたびに力が入って少々締め付ける結果になっているらしい。
「あっ…わわ!ご、ごめ…っ、う、……だめ…、止まんない…っ」
 何も動いているのはオリンドばかりではなく、愛しい体温に包まれたエウフェリオもまた我慢など効かずに揺さぶり始めていた。
「っ、ん、ぁっ。…んっ。んぅ。…ふぇり…、ふぇり…っ」
「す、みません…。まだ、きつい、ですよね?……ですがっ…」
「ん、ううん。全然きつくなんか、ないっ…よ。……もっと、強くしても、いい…」
「~~っ!…貴方は、もう…っ!」
 それが強がりなどでなく、待ち望んでいることだと甘く粘性を帯びた魔素が伝えてくる。堪らずエウフェリオはオリンドを掻き抱くと深く口付け腰を押し進めた。
「んんっ!…んっ!…ぅんんっ!」
 合わされた唇の間から漏れる声が確かな艶を含んで鼓膜を擽ぐる。
 その声に炙られ焦がされるまま突き上げると、鼻では呼吸が間に合わなくなったのか、ぷあ、と小さな音を立てて離れ仰け反った。塞ぐものの無くなった口からは、忙しなくなり始めた息遣いの合間に少し上擦った嬌声が上がり始める。
 縋るように敷布を掴む指先も、快楽に眉を寄せて恍惚とする表情も、なにもかも愛おしくて、食べてしまいたいとはこのことかとエウフェリオはしみじみ感じ入った。
「リンド……かわいいですよ」
「ふへぇっ!?…う、うそうそ、っ、……そ、そんなことっ…ぅあっ!」
「嘘なものですか」
「ん……ひぅ、……ぁっ、あ、……はぁっ」
 偽りなど口にしていないというエウフェリオの深い感情に満たされて、身体中どこもかしこも崩れていきそうだ。オリンドは熱の籠る息をゆるく吐き出した。
 彼も同じように蕩ける心地を味わってくれていると嬉しい。ふと思えば、巡ってくる魔素がとろみを増して甘やかに身を焦がす。
「…っんあ!」
 同時に奥を撫でていた動きが穿つそれに変わって、物理的にもエウフェリオの想いを知れば、もう骨まで流れていきそうだった。
「ん、んんっ、んっ、…んぅ」
 内壁を擦り上げられるたび悦としたむず痒さと、満ち足りた喜びが湧き上がってくる。あまりにも気持ちよくて幸せで、身の内は言葉になりきらない好きだという感情に埋め尽くされていった。
「はぁ…。ああ、リンド…。貴方の中、で、溶けてしまいそうです…」
「ふぁぅっ!…んんっ!」
 それこそ蕩けそうなエウフェリオの声に鼓膜を震わされて腰が砕ける。
「ぁっ、…あ、だめ。そこ、ぃ、いっ…く……!」
 だというのに、いいところばかりを刺激され続けて堪えきれず、最奥が啜り泣いた。
 追い討ちをかけるように、循環した魔素が自分自身の好きという感情と彼の愛情とを纏って戻ってくる。
「…っあ、あーっ!…っ、ぃく!……んっ!んぅうっ」
 堪らなかった。優しさと甘さと柔らかさと温かさと、これほどまで求められる幸せと、欲しいという気持ちと貰ってほしいという気持ちに溺れてふやけて、もうどこまでが自分の心で体なのかもわからない。
「ひぅっ…、ぁっ、…ふぇり、…ふぇりっ、…すき、…好きぃ」
 互いの感情が疑いようもなく全身を巡っているのに、とても口にせずにはおれず舌へ乗せれば、呼吸ごと貪るように口付けられる。噛み砕かれそうな欲求に晒されて、身の内が歓喜で破裂しそうだ。
「…私も、愛してます…っ、リンド…!」
「ふぇり…!あっ!っく、いく…!また、…ぃ、いくぅ…っ!」
 強い快感が背筋を駆け抜け、オリンドは二度目の絶頂を味わった。一瞬の間を置いて、奥深くにエウフェリオの熱が吐き出される。
 体を強張らせて、それでもそっと抱き込んでくる腕が嬉しい。耳元で繰り返される切羽詰まった荒い息に、夢見心地で聞き入った。
「……っ!…っ、……は……、っ、はぁ……っ!」
「はあっ、…ぅん!…あっ、……あ……!」
 最後に数度、全て出し切ろうと大きく突き込まれる衝撃に、なすがまま揺すられ脳裏に火花が散る。
「……っは、……ぁ……ぁん……」
 余韻に強く痙攣する体へ互いの四肢を絡めて、濃厚すぎる快感が収まるまでの時間をじっくりと満喫した。
 漫然とする意識を彷徨わせ、エウフェリオの汗ばんでぺとりと張り付く背の肌を手の平で辿り堪能していると、鼻先を唇で撫でられて、それからそっと口付けられた。蝶々が花に留まるかの感触を彷彿とする擽ったい気持ちに浮かされ、二人してくすくすと笑いながら唇を啄み合う。
 やがて名残惜しそうにエウフェリオはオリンドから自身を引き抜き、循環の流れを穏やかに止めた。
「ふは……。すごい。気持ちよくて力入んない……」
 ずっと巡っていた魔素の名残が、指の先まで甘やかな痺れとして残っている。
 これまで味わったこともない、深く深く繋げた奥底から境界も何もかも溶けて無くなりそうな多幸感に全身が満たされ胸が打ち震えた。
「…これは…まずったかもしれませんね…」
 満足しきって身を敷布に投げ出し、陶然と天井を眺める傍ら、呆けた顔でエウフェリオはぽつりと溢した。
「うん?」
 なにかまずいことがあっただろうか?
 台詞のわりに緊迫感の無いエウフェリオを不思議に思ったオリンドが聞き返すと、困ったような悪戯を思いついたような笑みが返ってくる。
「今後は貴方と魔力を交換するたびに、今夜のことを思い出すでしょうから」
「……、っ!?…はぅあ!?」
 うわああああ!?そうだ!?そうなるよね!?だって、だってさっきのチューだけでもすごく幸せで溶けちゃいそうなくらい気持ち良かった。
「そ、そんなの、回路調整するたび、ちゅーとかえっちなことしたくなっちゃう…」
 どうしよう。…どうしようぅうぅう…!
 真っ赤な顔を枕に押し当ててもだもだと唸るオリンドに、それはこちらの台詞だ。と、エウフェリオは笑顔のまま固まった。
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みんなの感想(2件)

たぬたぬ
2024.11.19 たぬたぬ

ただ、もう、ありがとうございますm(_ _)m

2024.11.19 柴花李

こちらこそ、お読みいただきありがとうございます!

解除
ぺたる
2024.09.12 ぺたる

ふぇぇ…なんと幸せな….。゚+.゚
うう、ありがとうございます(涙
アルベロスパツィアレの並々ならぬ観察眼に乾杯。

2024.09.13 柴花李

ご覧いただきありがとうございます!
ひたすら優しさに溢れる二人の営み、お楽しみいただけたら幸です。
ええ。アルベロスパツィアレが居なかったら、まだ進んでませんでした…

解除

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