【完結】番が見ているのでさようなら

堀 和三盆

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46 魔法医の先生と私(ふわふわ耳視点)

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 うふふ。初めて先生にカフェに誘われた日のことは忘れないわ!
 だって……ねえ? どう考えたって、あれは『初デート』よね?


 ……まあ、私は十歳にも満たなかったし、顔中クリーム塗れにしてケーキを頬張っちゃったけど。治療のお陰で食事制限も吐き気もなく好きなものを思いっきり食べられる幸せでいっぱいだったんだもの。前回の人生を含めて初めての経験だったのだから許してほしいわ。ケーキって、とっても美味しいのよ?

 前回の人生で、最初で最後だった先生との図書室デートは話題が『自分の死にざま』だったけど、あれに比べたら随分デートらしいと思うのよ。まあ、今回の初デートの話題は『番同士であるはずの両親の不倫』だったけど。


 ……そういえばあれ以降、先生は個室のあるカフェを選んでくれるようになったのよね。

 ……あら?

 もしかして先生って意外とデリカシーあるのかしら……? それでいくと、デリカシーがないのは私の方ってことに……。

 …………。

 ううん、あれは『社会常識』ってやつよね。私はまだ子供だったんだもの。無くて当たり前。そうじゃなくても転生後、先生との初めてのデートで舞い上がっていたから。

 だって、先生ってば飛び級しまくって王国史上最年少のお医者様とか呼ばれるようになっていたし、その補正なのか誤差なのか、前回より私との年齢差も少ないのよ。

 元々貴族の婚姻には年齢差なんて関係ないけど、それでもある程度少ない方が現実的には望みが大きいと言える。それでいくとこのくらいの年齢差なら私にも可能性はあるかも……とか思ってはしゃいじゃっていたのよね。

 当時の先生には前世同様、浮いた噂なんてなかったし。
 ……残念ながら今もないけど。


 ああでも、私もその後は言い訳なんてしないで、必死に社会常識を身に付けたわよ?

 せっかく先生に治療してもらったのだもの。出来ないことを病気のせいにしたくはなかったし、それより何より――大好きな先生に相応しい女性になりたかったから。


 体を動かせるのが嬉しくて、何をやっても何を学んでも楽しかった、というのもある。


 やってはいけないことよりやれることが多いって、すごいことだと思うの。健康になった今の私は、何だってチャレンジしてみたいと思っているわ!

 先生は自分が知りたがっている獣人の話の他に、私のそんな話も嬉しそうに聞いてくれた。
 それでますます先生に相応しい淑女になりたいって頑張っちゃうという……。

 ……少しは先生に釣り合うような女性に近づけたかしら?



 先生は転生した際、何故だか獣人に対して並々ならぬ興味を持っていたそうだ。
 まったく覚えていないが、過去二回の人生で何かしら原因となるような何かがあったのだろう、と言っていたのだけれど……それについては心当たりがありすぎて困る。

 おそらく……原因は前世、最初で最後の図書室デートで私が話した話題のせいだろう。死を前にした猫獣人の本能……というか、習性の話をしたのよね。あの時の先生の食いつきようといったらすごかったから。


 カリカリカリカリ…
 カリカリカリカリ…


 私の話を聞いて。興味深そうに、真剣にメモを取る先生の姿は昔も今も変わらない。そして、私の気持ちが伝わらないのも、昔のまま……。



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