義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら

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「婚約が決まった。侯爵家のアルサルイス・ラカトゥシュだ。サヴァスティンカ、今度、挨拶に来られるから、そのつもりでいなさい」
「……」
「どうした?」


娘が、すぐに返事をしないことに父が不思議そうに娘を見た。サヴァスティンカが、それに答える前に割って入ってきたのは……。


「サヴァスティンカ!? 待ってください。婚約したのは、セザリナでは?」
「は? なぜ、セザリナが婚約するんだ?」


メテリア伯爵は心底わからない顔をした。それに後妻は、えっ?という顔をして怯んだ。どうやら、色々とまずいことをしたのは自覚していたようだ。


「なぜって、それは……」
「セザリナの婚約に関しては、義父が請け負うと言っていた。私は、関与しない」
「あ、あら、父が、そんなことを?」
「あぁ、お前に知らせたと言っていたが? まさか、知らないのか?」
「っ、!?」


それを聞いて、義母は目を泳がせた。義母は実家との仲がいまいちだったりする。特に彼女の実父は厳しい方で、実の孫のセザリナよりも、なぜかサヴァスティンカの方を可愛がってくれているような方だ。

何をしても、しなくとも、義母と義妹は叱られてばかりいる。まぁ、叱られるようなことをしているからなのだが、叱られるようなことをしている自覚がないようだ。そんな厳しい環境で生活してきたはずなのにこうなったのだ。サヴァスティンカは不思議でならなかった。

だが、一番はこの義母の実父だろう。孫もそっくりになっていることに何を言っても無駄なことがあることを知ったとサヴァスティンカに言ったことがある。

その時の疲れ切った顔とそれでも、血の繋がらないが理想の義理の孫ができたことを喜んでいた。義祖父は、妻に先立たれていて、サヴァスティンカの父と同じく苦労して娘を育てたことはサヴァスティンカも知っていた。

そんな義祖父は、サヴァスティンカの亡くなった母を実の娘のように可愛がっていたそうだ。母も、血の繋がりがないのに懐いていたらしく、サヴァスティンカを見て懐かしそうにしながら、寂しそうによくしていた。

義母は、その間に何かを思い出したかというとそうは見えなかったが、こう言っていた。たぶん、知らせが来ているのを放置していたのだろう。差出人を見て、手紙を開けないのは前からだ。それを知ってるはずなのに手紙にしたのだ。そういうことだろう。


「そ、そう言えば、そうでしたわ」
「ちょっ、お母様!?」


義妹は、ただですら会うたび、怒られてばかりいるため、祖父を嫌っていた。そんな人が、婚約者を決めるのは、嫌だと言いたいはずだが、義母はここで騒がれたら困るとばかりに部屋から出て行った。これ以上、色々聞かれたりしても、答えにつまるだけだと思ったようだ。

それを父は見ていて眉を顰めた。それだけでは、何があったかがわからなかったのだろう。


「サヴァスティンカ。何があった?」
「いつもの勘違いです。どこぞで、何か言われて来たようです」
「またか。出かけると色々言われるだけだから、出なくていいと言っているというのに。そもそも呼んでいるのは、馬鹿にしている連中だと言うのに未だに気づかないままのようだな」
「……」


呼ばれているのは、自分だと思っているのだから仕方がない。

お茶会で、婚約の話を聞いたのか。もしくは、面白がって婚約の話をふられたのだろう。それを自分の娘の方だと勘違いしたに違いない。あちらは、誰とは言わずに勘違いするのを楽しんでいるのだから、たちが悪いでは済まされないが、父が止めきれないということは、爵位が上の方がしているのだろう。

お茶会への出席を控えるように言っても、この家の女主人は自分だとばかりに出て行くのだから困ってしまう。しかも、あの格好で、笑いのネタを提供しに行っているようなものだが、本人はファションリーダーと思っているようだ。

そんな人たちのことよりも、サヴァスティンカは父に確認するため話を戻すことにした。


「それより、ご挨拶に伺うのではないのですね」
「あぁ、婿入りするから、こちらに来るそうだ」


それを聞いて、サヴァスティンカはうきうきしているラカトゥシュ侯爵夫人の顔が思い浮かんだが、それは脇に追いやり別のことを口にした。


「……ラカトゥシュ侯爵家というとご兄弟が多かったですよね?」
「あぁ、そうらしいな。3男だ。他も聞いたが、あー、名前をど忘れした。5人兄弟とかで、すらすらと名前を言われて、ごちゃまぜになった」
「5人でしたか」


それを聞いて苦笑してしまった。婿入り先を探すのも一苦労だろうが、そう多くはないはずだ。そうなると養子にしてもらって家を継ぐとかになるか、余程出なければ難しいだろう。


「あちらは、女の子がほしかったようだ」
「……性別はともかく、それだけ大勢いると賑やかでしょうね」
「どうだろうな。我が家は、こんな感じで賑やかすぎると思うが」
「……」


父の言葉にサヴァスティンカは苦笑していた。

サヴァスティンカは、兄弟がそれなりにいることは知っていた。ラカトゥシュ侯爵夫人に会うたび、息子の嫁にとあれこれ言われるのだ。忘れられるわけがない。

義理の娘でも、娘ができるなら、サヴァスティンカのような令嬢がいいと思われていたようだ。ありがたいと思うところなのだろう。でも、そのしつこさにサヴァスティンカはちょっと腰が引けていた。婿入りしてもらうとはいえ、あの人と一生付き合っていくことが、現実になりそうになったのだ。前までは、そうなったら考えようと思っていたが、もっとよく考えなくてはならなくなったようだ。

何かとアポなしで、メテリア伯爵家に来そうな未来が訪れそうだ。サヴァスティンカは、それにげんなりしてしまったが、顔には出さなかった。父が気にしてしまう。


「ラカトゥシュ侯爵家の夫人は、お前のことをとにかく気に入っているらしくてな。長男が一番だが、婿入りさせるしかないなら仕方がないと3男にしたようだ」
「ラカトゥシュ侯爵夫人には会うたび、ご子息のことを教えてくださいます。一番上の方の話題が多いですが」


更に会ったことがある。あの方は、実母がどんな人かよくわかっていて、謝られたのだ。迷惑をかけていないわけがないという口振りで、サヴァスティンカは話すのがとても楽しかった。こういう兄がいたらと思うほどだった。

あの方がいれば、暴走も止めてくれるかも知れないが、サヴァスティンカは自分でとうにかしなければいけなくなることに浮かれてなどいられなかった。

そんな娘の心中など気づかずに父は……。


「自慢なのだろう。私も、お前のことをついつい自慢してしまうからな」
「……お父様。あまり他所ではなさらないで。あちらに聞かれたら、また大変です」
「ん? あぁ、そうか。そうだな」
「……」


あちらとは、父の再婚相手のその連れ子だ。何かとサヴァスティンカと張り合おうとして迷惑していた。張り合えるレベルではないことすら、義妹は気づいていない。義母もそうだ。そのため、この2人にわかりやすく話すのは忍耐力が試されるが、義母の実父が長年してきて駄目だったのだ。

今更、サヴァスティンカに何かできることがあるのかと思ってしまっているが、それでもはじめが肝心だと思って、色々やった。そこまで頑張っても、何一つ通じないくらい酷いのだ。

そんな人たちなのだが、父は再婚相手に選んだのだ。


「お父様。なぜ、再婚なさったの?」
「気になるか?」


父を見て、サヴァスティンカは視線を逸らした。いつも、はぐらかされるため、この日は……。


「お父様のお好みが、よくわからないわ」
「っ、いや、私の好みではないぞ。お前の母に頼まれたんだ」
「え? お母様に……?」
「あ、いや、うん。仕事があるから、部屋に戻る」


まさか、亡くなった母が父に頼んでいた事とは思わなかったので、サヴァスティンカは物凄く驚いてしまった。

全部を話して聞かせてくれる気はないようだ。サヴァスティンカは、新しい情報が手に入ったが益々混乱してしまった。


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