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しおりを挟む一方のサヴァスティンカの義母のアレクサンドリーナと義妹のセザリナは、アレクサンドリーナの部屋に移動していた。その部屋は彼女らしく、目立ちたがりなものばかりがある部屋だった。流行りだと聞いて、更に1点物だと聞くとそれを買いたがるのだ。そこに統一感などない。買い取ってくれと言っても捨てるのにお金がかかると言われるくらいくだらない物しかなかった。
それが、どこで流行っているかなんてアレクサンドリーナにはどうでもよかったようだ。ただ、商人はそうやって売れ残りを売りつけたかったようなところが多々あった気はする。
それをアレクサンドリーナのみならず、セザリナにもやっていたが、サヴァスティンカとメテリア伯爵にはそれをやることはなかった。やる相手を見定めているとは言え、そんなものを買っていること自体が笑いのネタのようになっている。お金を出しているのは、メテリア伯爵なのだ。その商人を出禁にしようとしても、アレクサンドリーナとセザリナは自分たちのお気に入りだとして、今だに呼びつけている。そんな迷惑は、この2人がメテリア伯爵家に来てからずっとだった。
だが、この2人はそんなことで迷惑をかけていることに気づくことはなく、売れ残りを寄せ集めたような物を家の中で着ているのだ。それを目にするたび、最初の頃はサヴァスティンカと父やメテリア伯爵家の使用人たちは絶句したり、あまりの光景に食欲をなくしたり、特にサヴァスティンカの精神面をかなり削った。
でも、そんな日々が日常になると図太くなれるようだ。どんな変な格好であろうとも、食欲を失せることはなくなった。強烈な香水にも、サヴァスティンカは鍛えられた。ご夫人たちが集まるところは、サヴァスティンカは苦手だったが義母たちのおかげで、匂いにも強くなっていた。他にも強くなったところは多々あった。この家の女主人としてやっていくためにも、必要なことでもあるからと思うことにした。
それは、サヴァスティンカだけではない。この家にいる者たちは、なんだかんだと強くなったし、結束力も増した。この何を言っても理解できない2人に個別に立ち向かうのは無理があっても、どうにかするしかないのだ。家のことを任されているサヴァスティンカが、それをやらねばならないのだが、あまりの酷さにサヴァスティンカを助けようとしてくれるようになった。ありがたい限りだ。
だが、それでも、今日のようにどうやったのかわからないが、招待状を入手して出かけてしまうのだ。いつも、派手な格好をしているから、気分転換に外に行くと言われると止められない。
むしろ、それすら止めるともっと酷くなるのだ。ガス抜きだと思っていたが、その何回かに1回が、こうして招待状を入手して出かけて行ってしまっていた。
その度、密かに笑いものにされていた。そのため、なおさら父はどこかに呼ばれても行くなと再三、言っていた。でも、それが2人に理解できることはなかった。
2人というのも、セザリナが周りにアレクサンドリーナがお茶会に出ていたことで、色々言われるのだ。
「セザリナさんのお母様、凄く目立っていたそうね」
「っ、」
「お母様が言っていたわ。私では、とても着こなせないって」
「あ、私のお母様もよ」
「そ、そうでしょ」
まぁ、そんなようなことをセザリナは学園で周りに言われていたようだ。普段話しかけて来ない令嬢たちが、そう言うらしく、セザリナは褒められたと思ってアレクサンドリーナに話して、サヴァスティンカにも伝えて来るのだ。
そんなのどう聞いても褒めてなどいない。馬鹿にしているのだが、2人は話題を独占したとばかりにしていて、カリスマのようになっていると思っていた。とんでもない誤解でしかないが、それに気づく気配はない。
だが、いつもなら、そういうところに出ても数日は機嫌が良かったが、その日のうちに雲行きが怪しくなったのは、初めてだった。
「お母様! どういうことなの!!」
「わからないわ。私は確かに婚約したと聞いたのに」
「なら、何で、あの女が婚約してるのよ!!」
「知らないわよ!」
ギャーギャーと親子喧嘩が始まっていた。そうなる前から控えている使用人たちは、いつでもものが飛んできても避けられるようにしていた。
不満があるとものに当たり散らすのだ。親子揃って、そうなのだ。そのため、この2人の側に控えている使用人たちは運動神経がいい者が受け持っていた。
「お前たちは、出てなさい!」
「わかりました」
「失礼いたします」
使用人たちは、そう言われてホッとしつつ、外に出てからは、扉の左右で待機した。2人の心配してのことではない。物を壊した音やらで、片付けるところを推測するのだ。ちょっとでも、片付けしきれていなくとも、激怒されるのだ。
暴れまわったのは、2人なのに。アレクサンドリーナとセザリナが怪我をしたことはないが、片付けている使用人が怪我をしたことはある。そのため、サヴァスティンカは暴れてもいい部屋でも作ろうかと本気で悩んだことがあるほどだ。
壊すものは、見た目だけが立派なものに替えているが、それでも不満が爆発するたび、そんな風に暴れられたら壊れたものを直すのもお金がかかる。だが、2人はそんなことすらケチ臭いと言うだけで、やめないのだから困ってしまう。
だが、暴れるだろうと思っていたが、この日はこれまた違っていた。
アレクサンドリーナは、今日言われたことをあれこれと考えるのに忙しくしたのだ。それのどれもが、勘違いにすぎなかったのだが、それすら彼女はわかっていなかった。メテリア伯爵家に婿入りするお相手の話とメテリア伯爵家の跡継ぎについてのことだった。アレクサンドリーナは、自分の娘が、さもこの家の跡継ぎになると思って聞いていたからこそ、おかしなことになったというのにそこに行き着かなかったのだ。
そんな風になぜ思えるのかが、そもそも理解できない。セザリナは、連れ子でしかないのだ。それに養子縁組もなされてはいない。する気はないと伯爵が結婚する前から言っていたことすら、綺麗さっぱり忘れていて、そのことの重要さもわかってはいない母娘なのだ。
「まずいわ。このままでは、あの女の子供が、この家の跡継ぎになってしまう」
「お母様、何とかしなきゃ」
「そうね。……さっき、ここにラカトゥシュ侯爵子息が挨拶に来ると言っていたわ。その前にあなたが、子息に会って見初められればいいのよ」
「っ、それだわ!」
2人は、それにやる気を見せた。見せてはならないやる気だが、この時の2人はラカトゥシュ侯爵家が5人兄弟なことを知らなかった。
まぁ、知っていても、ラカトゥシュ侯爵夫妻はセザリナを義理の娘にすることはしなかっただろう。なにせ、メテリア伯爵家とは養子縁組をしていないのだ。
それは、本人たちが大した事ないと思っているのと一部の人が知らないことだった。その一部と出会ったことで、この2人が更に図に乗ることになるとは、サヴァスティンカと父は思いもしなかった。
だだ、いつもなら、癇癪を起こして部屋の中のものを壊しまくる2人が、ものを壊さなかったことに使用人たちは首を傾げずにはいられなかった。
「……何も壊れていないのね?」
「はい。よく聞いてきましたが、そう言う音はしませんでした」
「そう。引き続き、あの2人をよく見ていて」
「「はい」」
メイド長のソロミア・ニクラエは、報告を受けて厳しい顔をした。おとなしくしているなんて、ここに来てからなかったのだ。それにメイド長は思案していた。あの2人のことは、予測不可能なのだ。熟練のメイド長であるソロミアをこれほどまでに悩ませるのも、2人が一番多かった。
「……」
「どうした? また、片付けに追われたのか?」
執事のドイネル・バセスクが、訝しげにしているメイド長に声をかけた。この2人は、古くから子爵家に仕えていて、幼なじみ同士だったりする。
「ドイネル。何も片付けていないのよ」
「……自分たちでやるわけがないしな」
ドイネルもよくわかっていた。あの2人は、使用人にやらせるのが当たり前であり、それでこそ貴族のように思っている。そのため、礼も感謝もないのだ。むしろ、自分たちがやらせたことすら、下手をすると都合よく忘れていることもある。
その話をすると覚えていないことが多いが、覚えていても恥をかかせるようなことをしたとどちらにしても怒るような2人だ。親子揃って、そっくりすぎるのだ。セザリナは、母親を真似ているだけだが、勉強もできていないせいか。アレクサンドリーナより、酷かった。
メテリア伯爵家の家の事情を知らない者には、こんなのが? メテリア伯爵家の令嬢なのかと言われるのは無理ないレベルだったがメテリア伯爵が、セザリナの卒業まではそのままにしておく意向のため、従うしかない。
「えぇ、縦のものも横にしないような方たちよ。それが、勘違いしていたのに暴れないなんておかしいわ」
「そうか。旦那様に話しておく。目を離すな」
「えぇ、わかってはいるわ。サヴァスティンカ様に何かあっては、先代の奥様に申し訳ないもの」
それから、メテリア伯爵家では目を光らせて警戒していた。
そして、そんな話をわざわざするためにメテリア伯爵家にその話をアレクサンドリーナにしたのは、ラカトゥシュ侯爵夫人だった。夫人は、アレクサンドリーナのような女性がとにかく嫌いで、お気に入りのサヴァスティンカを蔑ろにして馬鹿にしているのも気に入らなかった。
そのため、時折やっていることをした。それも息子がようやく婚約したとわかって、嬉しくて仕方がなかったのだが、それをしたとサヴァスティンカが知っていたら……。
それか、メテリア伯爵がそれを詳しく知っていたら、婚約の話を受けなかったかも知れない。わざわざ、笑いものにするためにサヴァスティンカが日頃散々な目にあっている仕返しのつもりだとしても、そんなことをする夫人の義理の娘にさせる気にはならなかっただろう。
更にはサヴァスティンカとて、夫人なりによくしてくれているとしても、裏でそんなことをする夫人の義理の娘になりたいとは思わない。それどころか、そもそも苦手なのだ。できれば、程よい距離で応対していたい。そんな風に思われていることも、夫人は知らなかった。
それにわざわざ呼び立ててまでやることではないし、たとえサヴァスティンカのためだと言っても、サヴァスティンカに全てを擦り付けるような人を義理の母に持ちたいとは思わない。
もう既に厄介な継母がいるのだ。これ以上、厄介な義母などいらない。ほしいとも思わない。自分の代わりにやり返してくれる義母がほしいと思ったことはない。
サヴァスティンカが知っていたら、父に白紙にしてほしいと願っていただろうが知らないことで、それをサヴァスティンカが頼むことはなかった。
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