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しおりを挟むシダルタとラヴィシャは、ヴァリャから話を聞いてある決断をすることにした。何よりラヴィシャは、ヴァリャの父親に激怒していたことがあった。
ヴァリャの母であり、ラヴィシャの従姉の葬儀のことを知らせもしなかったのだ。駆けつけるのは無理だと思ってのことではない。間に合う以前の問題だった。知らせを寄越さず、終わってから知らせて来たかと思えば、そこには今後の付き合いを一切する気はないと言う手紙を寄越して来たのだ。
だから、葬儀にもよばなかったと言いたいようだが、それとこれとは別のはずだ。
「信じられない」
「ラヴィシャ? どうした?」
シダルタは、悔しそうに届いた手紙を破り捨てたそうにするのを見かねて声をかけた。そんな風に怒りをあらわにする妻をシダルタは見たことがなかったが、言葉にできないラヴィシャは、その手紙を夫に見せた。
「君の従姉だよな?」
「えぇ、そうよ。とても、世話になったわ。それなのに葬儀にも呼んでもらえなかった。それどころか。そんなに具合が悪いなんて知らなかった。……もう一度会いたかった」
そんなに具合が悪いのなら、会わせてくれていても~かったのに。チャンダ男爵は、それすらさせてくれなかったのだ。
ラヴィシャは、それで数日、泣きくれた。幼い頃のことを思い出しては泣いた。
だから、ヴァリャが母親を思い出して泣いたのを見て、自分とて泣きくれたのに泣かせてしまったことに申し訳ない気持ちしかなかった。
ラヴィシャには従姉でも、ヴァリャには母なのだ。ずっと側で看病しながら、病を治したくて治療法に役立ちそうなものまで見つけたのに間に合わなかったのだ。
それでも、他の者たちを救えるならばと行動したのだ。一番助けたかった人を救えなかったとしても、ヴァリャのしたことでどれだけの者が救われたことか。
そんなヴァリャを実の父親が蔑ろにしてきたのだ。周りに何をしたかなんてとてもじゃないが言えはしなかった。
父親が、母方の親族と今後付き合う気がないから、そんなことをしたことを誰が言えるというのか。
その上、前妻の喪中に再婚までして、新しく迎え入れた妻子のためにヴァリャに今までのように働けと言い、更には留学資金を貯めていたのも、使い込まれてしまって、ネヘラ公爵家が手を回してくれたのだ。
ネヘラ公爵家には感謝してもしきれない。そんなところにヴァリャがいたのだ。もっと早く気づけばよかったのだ。
親戚にそんなことをするのだ。実の娘であろうとも、そんなことをしているかも知れないと。なのにヴァリャのことを気遣うことができなかったのだが、そこまでではないと思う以上にそこまでなのかと思わせる人たちだったのだ。
それを聞いて、ラヴィシャの怒りが爆発することになった。
「旦那様」
「わかっている。ヴァリャに我が家に養子に来てくれるか話してみよう」
「ヴァリャが、嫌だと言っても、帰したくありません」
「それなら、ここにいたくなるようにすればいい」
ラヴィシャは、夫が養子前向きなのを聞いて、ホッとしながら何やらやる気に満ちているのに首を傾げたくなったが、深く追求することはしなかった。
何やら触れてはならない気がしたのだ。
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