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ひとりの秘密、ふたりの事情
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「そんなに怒るなよ。昨日のことは謝ったじゃん」
外に出て事務所に向かう間も、雀夜は俺の腕を掴んだままだった。
「遊隆にバラしてんじゃねえよ」
「え、何を?」
「……くだらねえことを、だ」
不機嫌な態度だけれど、そこまで深刻に怒っている訳ではないらしい。どちらかと言うと、不貞腐れている感じだ。
ひょっとして俺達のプライベートなプレイは、秘密にしておきたかったってことだろうか。……今更?
「後で鬱陶しい目に遭うのは俺だぞ」
「遊隆ならいいじゃん。雀夜にとっても親友なんだし」
雀夜だって、セックスの時の俺の恥ずかしい失敗を遊隆にバラす時がある。それでからかわれる俺を見て満足してる時もある。
「お前は、そっちの躾も必要だな」
「えっ? な、なに……?」
事務所ビルのエレベーターに乗り込んだ瞬間、雀夜が俺の腕を離して顔を近付けてきた。
「バラしてもいいことと、隠しておくべきことの線引きをしろ」
「お、俺馬鹿だから……分かんない」
雀夜の顔が近い。視線が、吐息が近い。雀夜は俺を睨んでいるつもりだけれど、俺にとっては見つめられてるのと同じことだ。エレベーターという密室でこの距離は、ヤバい。
「お前が何でも喋るせいで、俺はバラされても良いことしか言えねえし、できねえ」
「……うん?」
「俺に仕事と同じセックスをさせるな」
雀夜の視線と言葉を間近で受けた俺は、ポカンと口を開けて思考を空転させた。
仕事と同じ。つまり雀夜は、バラされるのが嫌で当たり障りのないプレイしかしていなかったということか。
俺をあんな風に辱めておいて、本当はまだ更に上を行くプレイをしたいけれど、俺のお喋りのせいで我慢しているということなのか。俺は今まで雀夜の手抜きプレイで満足していたということなのか。
「そういうことじゃねえ」
単純な俺が何を考えているか悟ったのだろう、雀夜がかぶりを振って否定した。
「お前を喜ばせるセックスが出来ねえ、って意味でもある」
「じ、充分喜んでるけど……?」
俺から離れ、エレベーターのボタンを凝視している雀夜。まだ不貞腐れているが、珍しくその顔は少しだけ赤くなっている。
「体だけ満足しても、意味ねえだろうが。……お前が俺をセフレ扱いしてるなら別だが」
「そ、それって」
「関係ねえ奴に知られたくねえことも、お前にしか言いたくねえこともある」
「………」
ピイィィ、と頭の中で音がした。火にかけたヤカンが沸騰した時の音だ。爆発しそうなほどに顔が赤くなり、汗が吹き出て、喉がからからになる。
俺も雀夜も、同じ状態だった。
「さ、雀夜──」
「俺達のことは、俺達だけが知っていればいい」
普段は意地悪なほど冷静なのに、どうしてこんな時だけ……この男は。
「そういうモンだろ、普通は」
俺は雀夜に突進し、その体を強く抱きしめた。
相変わらず直接的なことは言ってくれないけれど、雀夜の赤くなった顔と懸命に吐き出した言葉が嬉しすぎて不覚にも泣いてしまいそうだった。
ここまで言われれば馬鹿な俺でも分かる。そういうモンなんだよ、普通は──普通の恋人同士は。
「雀夜、好き。好き、好き好き好き、クッソ好き!」
「しつけえぞクソガキ、離れろ」
「も、もう俺、誰にも雀夜とのこと言わないから。これからのこと全部、俺達だけの秘密にしよ。だから雀夜も遠慮しないで、俺にしたいこと、全部して欲し──」
エレベーターが止まり、ポン、と音をたててドアが開いた。慌てて雀夜から離れ、正面を向く。誰に見られているか分からないのだ。これからは俺もちゃんとして、雀夜の迷惑も考えないと。
「雀夜、本当は俺とどういうプレイがしたいの?」
何となく訊いてみると、エレベーターを降りる寸前になって雀夜が俺に耳打ちした。
「……、……」
「え、……ええぇっ?」
───。
「おう雀夜、桃陽。もう少ししたら撮影するから準備しとけ、……」
「まっ、松岡さん! 松岡さん、助けて!」
「何だ桃陽、事務所の中は走るな」
「幸城、そのガキの口を封じろっ、今すぐだ!」
「雀夜までどうした。お前がそんなに慌てるなんて珍しいな」
「松岡さんっ、俺このままだと雀夜に辱め殺される!」
「どういう意味だ、そんな日本語はねえぞ」
「だってこいつ、俺に──んぐっ!」
「言わせるか、クソガキがっ!」
「仲良いなお前ら。とにかく桃陽はシャワー浴びて来い。雀夜は写真用の衣装に着替えろ」
「んんっ、ん──、うー、うぅー!」
「黙れ、阿呆。このまま窒息させるぞ」
「桃ちゃんも雀夜も、顔が真っ赤だよ~」
「うぅー!」
「雀夜、桃陽のファミレスでの飯代立て替えといたからな」
「んうぅー!」
「じゃれ合ってねえで、さっさと準備しろお前ら」
「おーい、二人共急がないと社長がキレるぞ」
「もうキレてる。お前ら今日の分の給料は払わねえからな」
「冗談じゃねえ、今行く。……桃陽」
「ぷはっ。はぁ、はぁっ……」
「黙っていい子にしてたら、お前がして欲しいことも全部してやる。いいな」
「わ、分かった……約束」
「男同士の約束だ。もしお前が破ったら」
「な、なに……?」
「俺の動画でオナニーしてた昨日のお前を撮った動画、ネットにばら撒くからな」
終
外に出て事務所に向かう間も、雀夜は俺の腕を掴んだままだった。
「遊隆にバラしてんじゃねえよ」
「え、何を?」
「……くだらねえことを、だ」
不機嫌な態度だけれど、そこまで深刻に怒っている訳ではないらしい。どちらかと言うと、不貞腐れている感じだ。
ひょっとして俺達のプライベートなプレイは、秘密にしておきたかったってことだろうか。……今更?
「後で鬱陶しい目に遭うのは俺だぞ」
「遊隆ならいいじゃん。雀夜にとっても親友なんだし」
雀夜だって、セックスの時の俺の恥ずかしい失敗を遊隆にバラす時がある。それでからかわれる俺を見て満足してる時もある。
「お前は、そっちの躾も必要だな」
「えっ? な、なに……?」
事務所ビルのエレベーターに乗り込んだ瞬間、雀夜が俺の腕を離して顔を近付けてきた。
「バラしてもいいことと、隠しておくべきことの線引きをしろ」
「お、俺馬鹿だから……分かんない」
雀夜の顔が近い。視線が、吐息が近い。雀夜は俺を睨んでいるつもりだけれど、俺にとっては見つめられてるのと同じことだ。エレベーターという密室でこの距離は、ヤバい。
「お前が何でも喋るせいで、俺はバラされても良いことしか言えねえし、できねえ」
「……うん?」
「俺に仕事と同じセックスをさせるな」
雀夜の視線と言葉を間近で受けた俺は、ポカンと口を開けて思考を空転させた。
仕事と同じ。つまり雀夜は、バラされるのが嫌で当たり障りのないプレイしかしていなかったということか。
俺をあんな風に辱めておいて、本当はまだ更に上を行くプレイをしたいけれど、俺のお喋りのせいで我慢しているということなのか。俺は今まで雀夜の手抜きプレイで満足していたということなのか。
「そういうことじゃねえ」
単純な俺が何を考えているか悟ったのだろう、雀夜がかぶりを振って否定した。
「お前を喜ばせるセックスが出来ねえ、って意味でもある」
「じ、充分喜んでるけど……?」
俺から離れ、エレベーターのボタンを凝視している雀夜。まだ不貞腐れているが、珍しくその顔は少しだけ赤くなっている。
「体だけ満足しても、意味ねえだろうが。……お前が俺をセフレ扱いしてるなら別だが」
「そ、それって」
「関係ねえ奴に知られたくねえことも、お前にしか言いたくねえこともある」
「………」
ピイィィ、と頭の中で音がした。火にかけたヤカンが沸騰した時の音だ。爆発しそうなほどに顔が赤くなり、汗が吹き出て、喉がからからになる。
俺も雀夜も、同じ状態だった。
「さ、雀夜──」
「俺達のことは、俺達だけが知っていればいい」
普段は意地悪なほど冷静なのに、どうしてこんな時だけ……この男は。
「そういうモンだろ、普通は」
俺は雀夜に突進し、その体を強く抱きしめた。
相変わらず直接的なことは言ってくれないけれど、雀夜の赤くなった顔と懸命に吐き出した言葉が嬉しすぎて不覚にも泣いてしまいそうだった。
ここまで言われれば馬鹿な俺でも分かる。そういうモンなんだよ、普通は──普通の恋人同士は。
「雀夜、好き。好き、好き好き好き、クッソ好き!」
「しつけえぞクソガキ、離れろ」
「も、もう俺、誰にも雀夜とのこと言わないから。これからのこと全部、俺達だけの秘密にしよ。だから雀夜も遠慮しないで、俺にしたいこと、全部して欲し──」
エレベーターが止まり、ポン、と音をたててドアが開いた。慌てて雀夜から離れ、正面を向く。誰に見られているか分からないのだ。これからは俺もちゃんとして、雀夜の迷惑も考えないと。
「雀夜、本当は俺とどういうプレイがしたいの?」
何となく訊いてみると、エレベーターを降りる寸前になって雀夜が俺に耳打ちした。
「……、……」
「え、……ええぇっ?」
───。
「おう雀夜、桃陽。もう少ししたら撮影するから準備しとけ、……」
「まっ、松岡さん! 松岡さん、助けて!」
「何だ桃陽、事務所の中は走るな」
「幸城、そのガキの口を封じろっ、今すぐだ!」
「雀夜までどうした。お前がそんなに慌てるなんて珍しいな」
「松岡さんっ、俺このままだと雀夜に辱め殺される!」
「どういう意味だ、そんな日本語はねえぞ」
「だってこいつ、俺に──んぐっ!」
「言わせるか、クソガキがっ!」
「仲良いなお前ら。とにかく桃陽はシャワー浴びて来い。雀夜は写真用の衣装に着替えろ」
「んんっ、ん──、うー、うぅー!」
「黙れ、阿呆。このまま窒息させるぞ」
「桃ちゃんも雀夜も、顔が真っ赤だよ~」
「うぅー!」
「雀夜、桃陽のファミレスでの飯代立て替えといたからな」
「んうぅー!」
「じゃれ合ってねえで、さっさと準備しろお前ら」
「おーい、二人共急がないと社長がキレるぞ」
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「ぷはっ。はぁ、はぁっ……」
「黙っていい子にしてたら、お前がして欲しいことも全部してやる。いいな」
「わ、分かった……約束」
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「俺の動画でオナニーしてた昨日のお前を撮った動画、ネットにばら撒くからな」
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