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東京ナイトスパロウ・10
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「……お」
目が合った瞬間、雀夜が少しだけ驚いたような顔をした。
俺の方は、体が固まって動けない。
そこにいたのは雀夜だけじゃなかった。
「………」
「一緒に撮影してるのが、雀夜の相方の遊隆だよ」
義次さんの声がしたけど、俺は頷くことすらできなかった。
完全に裸で、ベッドの上で絡み合っている雀夜と、俺の知らない男。
遊隆という名前の青年は、雀夜の下で日に焼けた逞しい肉体をさらしている。金色の髪。大きくても鋭い眼差し。正直言って男前だ。まさかこんな男らしい男が、雀夜の相手をするなんて想像もしてなかった。てっきり相手は俺みたいな小柄の奴だと思っていたから、突然叩き付けられた目の前の現実に思考が追い付いてこない。
「遊隆、可愛いチビスケが見てるぞ」
雀夜が、恐らくは俺をからかうために言った。
「あ……?」
視線だけを動かして、遊隆が部屋の入口で立ち尽くす俺を見る。
「………」
俺の存在が気にはなるものの、撮影中にベラベラ喋る訳にはいかないんだろう。遊隆は俺から視線を外して、雀夜に顔を戻した。
ニヤニヤと悪巧みをするような笑顔で、雀夜が遊隆の肌に口付ける。胸元から腹部に、脇腹に。
「う……、ん」
くぐもった声で遊隆が雀夜の愛撫に応える。逞しい体同士がぶつかり合い、割れた腹筋同士が重なり合う。普段の俺ならその二人の肉体美にうっとりと見入ってしまっていただろうが、今は違う。
遊隆から目が離せなかった。まるで粗探しをするかのように、顔や体の隅々までに視線を走らせていた。雀夜の相手が俺と同じタイプのネコだったら、余裕でそこに立って見学していたかもしれない。「その程度なら、俺の勝ち」。だけど遊隆は、俺とは全く違う。違うからこそ、俺に勝てる要素があるのか分からなくて不安になる……。
「桃陽、お茶淹れたから一服する? 買ってきてくれたケーキもみんなで食べよう」
義次さんが呑気に俺の肩を叩いた瞬間、ハッと我に返って首を振った。
部屋を出てすぐに、義次さんに問いかける。
「あの二人って、関係長いの?」
「いや……遊隆は半年前くらいに街でスカウトしたんだよ。雀夜は一年前くらいからやってて、コンビ組んだのはここ最近なんだよね」
俺にソファを勧めながら、義次さんがテーブルの上に紅茶とケーキの皿を置く。周りにいた何人かのスタッフも「いただきます」と俺に声をかけてケーキを食べていた。
「いやぁ、でも本当に桃陽が来てくれて良かったよ。あっ、そうだ。ウチの代表の紹介がまだだったよね」
「………」
俺は無言でテーブルの一点を見つめていた。義次さんがどこかに消え、少しして一人の男を連れて戻ってきた。
「この人が代表の松岡幸城さん。ウチのトップだよ」
「こんにちは……」
笑い損ねた顔を向けると、松岡さんは顎髭を撫でながら「へえ」と声を漏らした。代表の割には若そうだ。スタイルも良く、賢そうな顔立ちをしている。黒縁の眼鏡もお洒落で、インテリな雰囲気に似合っていた。
「義次が見つけてきたのか。いい素材だな」
「そうでしょう。ほら、例のBMCって売り専でナンバーワンだった子ですよ。名前は桃陽くん」
「桃陽。売り専でトップの座にいたのに、どうしてウチに来た?」
「う、ええと……」
松岡さんに質問され、俺は口ごもった。まさか雀夜に抱かれて惚れてしまったから、なんて言えない。何て答えるべきか迷っていると、
「昨日、俺と雀夜で店行ってきたんですよ。そこで雀夜に説得してもらったんです」
義次さんが軽い口調で説明した。それを聞いた松岡さんが腕組みをして首を傾げ、俺の目を覗き込んでくる。
「なるほど。雀夜が一発打ってゲットしたって訳か。……で、ここにいるってことは、アイツもお前を認めたってことか」
カッと頬が熱くなった。何もかも見透かされている。
考えてみれば昨日初めて雀夜と出会った俺とは違い、ここの人達はずっと雀夜と一緒に仕事をしてきてるんだ。俺なんかよりずっと、雀夜のことを分かっているんだろう。
「あの、よろしくお願いします。俺はどんなプレイでもできるし、誰とでもヤれますから!」
「ん。期待してるぞ」
客の緊張を和らげると評判だった俺のとびきりの笑顔を向けても、松岡さんは表情一つ崩さない。なんだかサイボーグみたいな人だと思った。
「それで、その……さっき少し見学して、雀夜の相方が遊隆って人だって義次さんに聞いたんですけど、俺にも相方ってのができるんですか?」
できることなら相方は雀夜が良かった。昨日はあいつに負けてばかりだったけど、雀夜のやり方に慣れればきっと俺達は最高のコンビになるはずだ。根拠はないけど、俺はそう確信していた。
「そうだな。桃陽は売り専で有名だったし、その時の客がやっかむかもしんねえから、固定の相方ってのはしばらく付けない方がいいかもしれないな」
「えっ? それじゃあ……」
「複数プレイとかも経験あるか?」
真顔で俺に問いかける松岡さん。俺は軽く頷きながら、心の中で「そりゃあもう、ありすぎるくらい」と付け足した。
「おっけ。しばらくは相手を変えて馴染ませて、ウチでやっていけそうだったら改めて相方を決めるか」
「は、はい……」
その時、候補に雀夜はいるんだろうか。
……駄目だ。俺、雀夜のことばっかり考えてる。
目が合った瞬間、雀夜が少しだけ驚いたような顔をした。
俺の方は、体が固まって動けない。
そこにいたのは雀夜だけじゃなかった。
「………」
「一緒に撮影してるのが、雀夜の相方の遊隆だよ」
義次さんの声がしたけど、俺は頷くことすらできなかった。
完全に裸で、ベッドの上で絡み合っている雀夜と、俺の知らない男。
遊隆という名前の青年は、雀夜の下で日に焼けた逞しい肉体をさらしている。金色の髪。大きくても鋭い眼差し。正直言って男前だ。まさかこんな男らしい男が、雀夜の相手をするなんて想像もしてなかった。てっきり相手は俺みたいな小柄の奴だと思っていたから、突然叩き付けられた目の前の現実に思考が追い付いてこない。
「遊隆、可愛いチビスケが見てるぞ」
雀夜が、恐らくは俺をからかうために言った。
「あ……?」
視線だけを動かして、遊隆が部屋の入口で立ち尽くす俺を見る。
「………」
俺の存在が気にはなるものの、撮影中にベラベラ喋る訳にはいかないんだろう。遊隆は俺から視線を外して、雀夜に顔を戻した。
ニヤニヤと悪巧みをするような笑顔で、雀夜が遊隆の肌に口付ける。胸元から腹部に、脇腹に。
「う……、ん」
くぐもった声で遊隆が雀夜の愛撫に応える。逞しい体同士がぶつかり合い、割れた腹筋同士が重なり合う。普段の俺ならその二人の肉体美にうっとりと見入ってしまっていただろうが、今は違う。
遊隆から目が離せなかった。まるで粗探しをするかのように、顔や体の隅々までに視線を走らせていた。雀夜の相手が俺と同じタイプのネコだったら、余裕でそこに立って見学していたかもしれない。「その程度なら、俺の勝ち」。だけど遊隆は、俺とは全く違う。違うからこそ、俺に勝てる要素があるのか分からなくて不安になる……。
「桃陽、お茶淹れたから一服する? 買ってきてくれたケーキもみんなで食べよう」
義次さんが呑気に俺の肩を叩いた瞬間、ハッと我に返って首を振った。
部屋を出てすぐに、義次さんに問いかける。
「あの二人って、関係長いの?」
「いや……遊隆は半年前くらいに街でスカウトしたんだよ。雀夜は一年前くらいからやってて、コンビ組んだのはここ最近なんだよね」
俺にソファを勧めながら、義次さんがテーブルの上に紅茶とケーキの皿を置く。周りにいた何人かのスタッフも「いただきます」と俺に声をかけてケーキを食べていた。
「いやぁ、でも本当に桃陽が来てくれて良かったよ。あっ、そうだ。ウチの代表の紹介がまだだったよね」
「………」
俺は無言でテーブルの一点を見つめていた。義次さんがどこかに消え、少しして一人の男を連れて戻ってきた。
「この人が代表の松岡幸城さん。ウチのトップだよ」
「こんにちは……」
笑い損ねた顔を向けると、松岡さんは顎髭を撫でながら「へえ」と声を漏らした。代表の割には若そうだ。スタイルも良く、賢そうな顔立ちをしている。黒縁の眼鏡もお洒落で、インテリな雰囲気に似合っていた。
「義次が見つけてきたのか。いい素材だな」
「そうでしょう。ほら、例のBMCって売り専でナンバーワンだった子ですよ。名前は桃陽くん」
「桃陽。売り専でトップの座にいたのに、どうしてウチに来た?」
「う、ええと……」
松岡さんに質問され、俺は口ごもった。まさか雀夜に抱かれて惚れてしまったから、なんて言えない。何て答えるべきか迷っていると、
「昨日、俺と雀夜で店行ってきたんですよ。そこで雀夜に説得してもらったんです」
義次さんが軽い口調で説明した。それを聞いた松岡さんが腕組みをして首を傾げ、俺の目を覗き込んでくる。
「なるほど。雀夜が一発打ってゲットしたって訳か。……で、ここにいるってことは、アイツもお前を認めたってことか」
カッと頬が熱くなった。何もかも見透かされている。
考えてみれば昨日初めて雀夜と出会った俺とは違い、ここの人達はずっと雀夜と一緒に仕事をしてきてるんだ。俺なんかよりずっと、雀夜のことを分かっているんだろう。
「あの、よろしくお願いします。俺はどんなプレイでもできるし、誰とでもヤれますから!」
「ん。期待してるぞ」
客の緊張を和らげると評判だった俺のとびきりの笑顔を向けても、松岡さんは表情一つ崩さない。なんだかサイボーグみたいな人だと思った。
「それで、その……さっき少し見学して、雀夜の相方が遊隆って人だって義次さんに聞いたんですけど、俺にも相方ってのができるんですか?」
できることなら相方は雀夜が良かった。昨日はあいつに負けてばかりだったけど、雀夜のやり方に慣れればきっと俺達は最高のコンビになるはずだ。根拠はないけど、俺はそう確信していた。
「そうだな。桃陽は売り専で有名だったし、その時の客がやっかむかもしんねえから、固定の相方ってのはしばらく付けない方がいいかもしれないな」
「えっ? それじゃあ……」
「複数プレイとかも経験あるか?」
真顔で俺に問いかける松岡さん。俺は軽く頷きながら、心の中で「そりゃあもう、ありすぎるくらい」と付け足した。
「おっけ。しばらくは相手を変えて馴染ませて、ウチでやっていけそうだったら改めて相方を決めるか」
「は、はい……」
その時、候補に雀夜はいるんだろうか。
……駄目だ。俺、雀夜のことばっかり考えてる。
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