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第三話
第3話 1
しおりを挟む倒れたマレが目を冷ましたのは、砦にある私室だった。
とりあえず、マレ達みたいな戦闘に参加しているものは1人につき1つの個室が与えられるの。
理由は、簡単。
戦闘をしているが故に絶対安静にきなきゃいけない場合や特殊な病気やウイルスに侵された時にホープの使えない非戦闘員を巻き込まない為だ。
とはいえ、特別大きいものではなく共同スペースより棚が一つ多く入るほどの大きいくらいだ。
「あら、マレ様。
気付きました?」
マレがベッドで仰向けになって、ぼやーっと天上を見ていたらアンナが現れた。
ホカホカと湯気をたてたお粥を持って。
「気分はどうです?
体の過ぎなんて…。
アレは、区切りが良いところで解除して休んで発動しての繰り返しがコツですよ。
あと、部屋に運んだのは私なので安心してください。」
アンナは、そう言うとベッドの側にある机にお粥をおいた。
普通のお粥の上、梅干しが真ん中に1つだけ乗せられているシンプルなものだった。
アンナはマレにレンゲを手渡して食べるように優しく促す。
「…ありがと。」
「いえいえ。
むしろ、食べ盛りのマレ様にはもの足りないかもしれませんが。」
アンナは、マレの横に座り優しそうな笑みでマレを見た。
なんで、この笑みが出来る人間がアイクの骨を躊躇なく砕ける暴君なんだろう。
物足りないものなんてない。
米や非常用の梅干し、そして塩などの調味料も今はまだ貴重なものだ。
まだまだ、世間の全てをしっているわけではないがそれくらいは分かる。
お粥を食べているマレの話し相手になるように、アンナはマレが気を失っている間の事や他愛のない世間話を話していた。
「…この砦にアレってある?」
「アレ…って?」
米粒ひとつ残さないように綺麗にお粥を食べ終えたマレは、アンナに聞いた。
…墓石について。
「…墓石…ですか。
なぜ、今になって。」
「…なんとなく。
きっと遺骨とかはないだろうけど、挨拶くらいはしておきたいと思って。」
アンナを先頭にマレは、砦を下に向かって歩いている。
墓石は、砦の最下層。
砦の中で最も静かな場所に置かれていて、灯りも壁についた少し頼りない松明が数本ある。
物音がない為かマレ達の足音が辺りにコツコツと響いていた。
「マレ様が先程言っていた通り墓石といっても、残念な事に石に名前が刻まれているだけ。
肉体や遺骨などは、納めてはいないんですの。
せめて祈りだけは届くようにとベル様にお願いして作っていただきました。」
アンナの視線の先には、あまり大きいとは言えない部屋の中にあるマレの背丈と同じぐらいの大きさの石が設置されている。
そして、そこの前には胡座を書いて座っているエグザスの姿があった。
「あら、エグザス様。
こんな所ばかりいると、風邪ひきますよ?」
「アンナか…。
こんな所ばかりは、余計だ。」
エグザスは、アンナの言葉を聞くとゆっくりと立ち上がった。
アンナは、そのエグザスの横を横切って墓石の前で止まる。
「ナツ…サヤ…ジュリ…、コーダ…、カナ、…グレーズ。」
アンナは、墓石に刻まれた文字をなぞりながら呟くように名前を言った。
どこか悲しそうな声が室内に静かに響く。
「私はベル様やシオ様、アイク様と違い最古参の人間ではないので、結成時のメンバーについては良く分からない事だらけでお話はできません…が、ジュリ様はエグザス様の恋人でしたよね?」
「…ぁあ。
忘れてはいけない、大切な人だ。」
エグザスは、特化型ではないキーウエポンの柄を強く握ってそう言った。
恋人がいなくなった悲しみは、考えられない痛みだったのだろう。
「あれ、ナツ様についてマレ様は何もご存じないのですか?」
アンナは、墓石に刻まれた名前を聞いても特に反応がなかったマレに少し驚いたような顔をする。
しかし、マレは分からないと言わんばかりに首を傾げた。
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