オメガバースは突然に

マカロン

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第ニ章

フラッシュモブ

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五條の向かいのソファに座る。

セイボリーの皿に手を伸ばし、ホワイトチキンのサンドイッチを口にすると人参のラペとパンドミに練り込まれたクランベリーの酸っぱさが何ともいえずマッチして思わず頷きながら頬張る。

「お前はナイフとフォークを綺麗に捌くが、パンとスコーンは手を使うんだ」

「昔からそうだ」

五條の問に対して答えながら咀嚼を繰り返し

パンはキリストの体、スコーンは国王が座る玉座の下に置いてある石。どちらもナイフを入れるにはふさわしくない。
と解説を付け加えた。

「なるほど」

と五條は納得したように頷き返しながら、手元のスコーンを二つに割り、クロテッドクリームも載せてから、口の中に放り込み

「ここは、コーヒーだけじゃなく、こうした軽食も美味いんだな」

と、どうやらスコーンの方も美味しいらしく満足気にそう言った。

確かに、頻回にお邪魔している喫茶店だが、それはいつも閉店後のことで、こうして食事をするのは俺も初めてだが、こんなにも本格的な味わいでこだわったメニューが揃えられていることは知らなかった。
今日は大学の講義が午前中で終わりその後普段であれば何かしらの俳優としての仕事が入っているが珍しくオフであった為、飯塚柚木がアルバイトをしているここで五條と一緒にランチを食べている。

「あれから、綿あめ作りは順調か?」

「ああ、もう名人の域に達した」

「水ヨーヨーの時は手こずったが、綿あめは案外早かったな」

そう言って笑った五條に対し、俺は証拠を見せるかのようにテーブルの上に置いていたスマホをいじると、昨日自宅で作った綿あめの試作品の写真を五條に見せる。

「ん、凄いじゃないか、こんなにもうまく作れるもんなんだな」

確かに水ヨーヨーを五條の協力のもと特訓した時は当初まったくコツが掴めず苦戦した。
しかし今回は意外とすぐに上手く作れた。
それもそのはず、何しろ家庭用の綿あめ機ではなく、業務用の機械とザラメを使用したことにより、祭りで秋が食べた綿あめを忠実に再現することに成功したのだから。


「あとは、この綿あめをどうやって秋に食べさせてあげるかだ」

「どうやってとは、どういうことだ?」

「遅れてしまったが、これは秋への誕生日の祝いとしての綿あめだ、それをただ渡すだけでは、誕生日の祝いとしては味気ない。他にも秋に喜んでもらえるようなサプライズ的なイベントをしたい」

本来ならば恋人の誕生日当日に彼氏として自分が誰よりも豪華に祝ってあげるべきところをそれが出来なかったのだから、遅れてではあるが盛大に祝ってあげたい。

「なるほど、確かにその方がいいな」

「それで色々自分なりに調べたんだが、世間一般的な祝いのイベントとしてフラッシュモブというものがあるらしい」

「Flashmob?…一瞬の群衆?とはどういうイベントだ」

「調べによると不特定多数の人が突然現れ公共の場でゲリラ的に演奏を交えたダンスを踊り最後は消えていくというものらしい」

実際に結婚式や誕生日の祝で行われた他者の動画などを拝見したが、楽しそうであったし、祝われた側の驚きと感動の涙に胸を打たれた。

「ほぉーそんなイベントが一般的にあるのか、全然知らなかった」

「対価を払って依頼すると、その対価に見合った人数のプロのダンサーと演奏家を手配してもらえるサービスもあるらしいから、それを頼もうと思ってるんだが」

一人では成立しないイベントであり友人知人を集めてやっている人もいるが、本格的にやりたい場合はフラッシュモブのプロの方に依頼するのがよいと知り、何件か依頼する会社のピックアップは済んでいる。

「なるほど、それなら盛大なフラッシュモブが出来そうだな」

「ただ、公共の場っていうのが、どこがいいのか思案中で」

「彼の自宅の前っていうのはダメなのか?」

「最初にそれは考えたんだが、秋の家の前でやろうと思ったんだが、思ったよりも公道だ狭くてフラッシュモブに不向きだった」

「なるほど、、ちなみに何人ぐらいのエキストラを手配するつもりなんだ」

「まぁー大体、仮装してもらうエキストラが15名ほどで、演奏者5,6名で考えてる」

「仮装?何の仮装だ」

「この前教えた、トトロの仮装をする予定だ」

「ああー確か恋人がトトロというキャラクターが好きで一緒に映画を観たって言ってたあれか」

「あれだ、子ども役、両親役、おばあさん役に、友人役、ネコバス、それから、まっくろくろすけ、メインのトトロの仮装は出来れば俺がやりたい」

彼が好きなトトロ。実際自分もその映画を観て、とても素晴らしい作品だと感動した。
だからトトロに出てくるキャラクターを勢揃いさせ、その仮装姿でダンスを披露すればきっと喜んでもらえる。

そしてもちろん曲目はトトロにまつわる音楽を色々と演奏してもらう予定だ。

「そうか、だったらその人数の仮装行列だと家の前は無理があるな、、、、、」

「そうなんだ。狭いし準備するスペースもない」

「あ、だったら、彼の通う大学はどうだ」

「勿論それも考えて、視察に行って、一応許可を貰えるか聞いてみたんだが、防犯上を理由に断られてしまった」

「そうか、、、、、だったら、次はバイト先に聞いてみたらどうだ、図書館の中は無理だとしても、駐車場が広いし、いいんじゃないか?」

「確かに、図書館の駐車場はスペース的に問題ないかもしれないな!」

早速明日にでも使わせてもらえるか聞いてみよう。

「フラッシュモブが成功した後は、チャーターしたヘリでナイトフライト、その後は夜景の見える五つ星レストランのフルコースディナーを食べて最後に自宅に招いて薔薇とキャンドルをたくさん飾った室内で俺が作った綿あめをプレゼントする。こんなプランでどうだろう?」

「いいじゃないか!薔薇は俺も毎年柚木に贈っているから、行きつけの花屋を紹介してやるよ」

「助かるよ、それじゃあ、明日にでも図書館に出向いて、館長に   」


ダン!!!

五條と夢中になって話をしていると。

別の席に座っていた客人が突然テーブルを強く叩いたような音が聞こえ
その音の大きさに思わずこちらの会話が途切れる。

そして次の瞬間
スっと立ち上がったその客人は、クルッと我々の方を振り返り、目が合ったと思ったらこちらへと向かって歩みを進め

えっと思った時には、
俺たちのテーブルの前
仁王立ちしたその客人を見上げる形になった俺たちに対し
客人は一呼吸したあと

今度は

ダン!!!
と俺たちの座るテーブルに手をつき

「貴方、まさか本気でそれ実行するつもりじゃないでしょうね!!」

と血の気の引いたような、鬼の形相のような、なんとも言えない複雑な表情を浮かべ俺のことを凝視した。

「貴女は?」

呆気に取られた俺に代わって五條が訪ねると

「あたしは、秋ちゃんの姉よ!」

間髪容れずにそう言い放った。

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