オメガバースは突然に

マカロン

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飯塚柚木のターン②『俺、βなんですけど』

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「貴方は隠れΩオメガなの」


先陣を切って
母さんの放った一言は目の前の俺の耳に聞き違うことなく届けられた。

..意味が分からない。

勿論母国語なので言った意味は理解出来る。
しかし、全く意味が分からない。
二次性という奇っ怪な性が登場してはや一年。
【隠れΩ】などというワードは聞いたことがない。


まさか隠れΩというだけあって世間から隠れているというのか?..それにしたって、まさか

「俺が..」



その後はなんだか、ふわふわした気持ちで、いつの間にやら俺の隣に当然のように座っている五條から説明を受けた。


隠れΩとは
通常は何ら一般のβと見分けがつかない。
しかし、ひとたび運命の番に出会ってしまうことでβから突然変異しΩに性を変化させる。勿論それは非常に特殊なレアケースなものでこの一年での症例は1%あるかないかだ。従って国も公には公表しておらず、保護者として医師から説明を受けた時点で、医師含め、両親も隠れΩが運命の番に出会うことがない限り告知する必要なし、と判断していたようだ。

父さんが五條の説明に加えて重い口を開き

「父さんと母さんはな、病院の先生から1%の確立で運命の番との成立があると聞かされた時に、そんな低い確率の話をお前にわざわざ告知して要らん混乱や、そのことで日常生活に不安を覚えながら過ごして欲しくなかったんだ、だからあえて隠れΩであることを伏せていたんだ、ずっと隠していてすまなかった」

と云われ、謝罪交じりの息子思いの両親に対し俺は何も言い返すことは出来なかった。
もし俺でもきっと黙っておくという選択を選んだと思うから。

そんな、1%の確率でしか出会うことのない運命の番に俺は出会ってしまったってことなのか...

そんなことをぼんやり思いながら無意識に隣に佇み俺を見つめる五條と目が合った。

それにしたって疑問が残る
さっきの説明だと隠れΩは普段はβと同じ、それってつまり俺からフェロモン的な匂いを発することはない。それ故に、ほとんどの場合一生をβで終えることの方が多いってことだよな。
..だとしたら

「どうやって五條は俺がΩだって分かったんだ?」

そんな素朴な疑問を彼に投げかけると
優しい眼差しで微笑みながら嫌味な程整った顔で俺を見つめ返し

「本能だよ」と、五條禮鵺はサラリと言った。






そして

引っ越し前日の夜。


それは

両親と一緒に過ごす最後の夜。

俺の花嫁道具!?的なモノはほぼ新居へ運び終わっていて、残すは俺の身と貴重品、それからハチワレ猫の里芋ちゃんグッズは自分の手で運びたくて、それらを今、母さんと他愛ない話をしながらキャリーケースに詰め込んでいる。

新居のマンションはこの家から車で30分圏内。ひとり息子の旅立ちだったとしても、そこまで感傷的になることもない距離だ。
しかし敢えて家族三人の、これまでの思い出話は一切しなかった。
思い出話の裾の尾を今ここで広げて懐かしさに花なんて咲かせてしまったら、流石に『寂しさ』を感じてしまいそうな予感がしたからだ。恐らくは母さんも。そう思ったから、いつも通りのくだらない話をポツリポツリとした。


「あら、これ、貴方が欲しがってたサツマイモちゃんのキーホルダーじゃない」

「サツマイモちゃんじゃなくて、里芋ちゃんね」

「あはは、ごめんなさいね、こういうのホント覚えられなくて、これ五條君がゲームセンターで取ってくれたもの?」

「え、ああ、そうだけど、、何で母さんがそのこと知ってんの?俺話したっけ?」

「うんうん、違うのよ、貴方には言ってなかったけど、五條君何度も私達の元を訪ねて来てくれたのよ、その時に、色々経過報告?みたいなことをしてくれてね、それでUFOキャッチャーなんてやったこともなかった五條君が貴方の為に特訓して、それから貴方をゲームセンターに誘って、その時貴方が凄く喜んで初めて笑顔を見ることが出来たって、嬉しそうに報告に来てくれて、、デートの度に必ず菓子折りを持って来てくれるから、私、毎回は要らないって断ったのよ、報告だけしてくれるだけでも嬉しいことだったから、そう言っても五條君、必ず品を変えて菓子折り持参で来てくれて」

「ホントにあの子はいい青年だ」

父さんは夜だというのに、朝刊を広げ座椅子に座りながら見るとはなしに新聞に目を向けながらちゃっかり母さんと俺の会話に聞き耳を立て、ボソっと口を挟んで来た。


「俺の知らないところで、なんかアイツ色々動いてたんだな..」


「五條君は貴方に好かれる努力を惜しまなかったのよ」


「まぁーだとしても、それが俺にとっていいのか悪いのか、まだ全部が全部納得出来てる訳じゃないし。俺のことなのに全てが蚊帳の外状態だったし」

「だから、その件については申し訳ないと思ってるわ」

「別に母さんのこと責めてる訳じゃないよ、俺のことを思って父さんも母さんも黙っていてくれたって分かってるからさ、、ただなんて言うか、、俺が一番アイツのことよく知らないじゃん、俺以外はみんなアイツのこと色々知ってるのに、それがなんかちょっと、、なんて言っていいか俺自身も頭の中ごちゃごちゃで、ごめん俺、何言ってるか分かんないよね」

「嫉妬だな」

ボソリと言った父さんの言葉に

「そうね、嫉妬してるのね」

大きく頷きながら母さんが賛同する。

嫉妬?
誰が?
誰に?
もしかして
...俺が、父さんと母さんにってこと!?

「まだ、明日になるまで時間がある、お前の知らない五條君のことを俺と、母さんが話してやるから」

そう言って読んでもいない広げた朝刊を折り畳み

父さんと母さんは嬉しそうに、楽しそうに、俺の預かり知らない五條禮鵺という人となりについての讃美と称賛を交えた語りが始まった。


深夜遅くまで
父さんと母さんに五條禮鵺の良さをイヤと言う程叩き込まれ、洗脳完了で明日俺はお嫁に行く。





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