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第2話
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Ⅱ
予選三試合は、なんとか全勝で通過することができた。新人の龍矢もぶっつけ本番の割にはよく動けているし、スパイクもよく決めている。チームとしての状態はなかなかだった。
残すは順位決定戦の三試合のみとなる。その前に長めの空き時間ができたため、観客席で少し遅めの昼食を摂ることにした。
「龍矢くんができる子でよかったわ~」
隣に座った真申がそう話しかけてきた。
「そうだね。とても久しぶりにやるようには見えないよ」
「ね~。はあ、なんかアタシんが足引っ張ってる気がするわよ。クイックって難しいのよね~」
真申の本来のポジションはオポジットだが、今日はミドルブロッカーが一人欠けているということで、そちらに入っている。慣れないクイック攻撃に苦戦しているのが傍から見ていてもわかった。
「まあでも点になってるから気にしなくていいんじゃないかな?」
「そう言ってくれるとありがたいわ~。でもやっぱアタシがもうちょい機能すれば、いまのメンバーってうちの歴代の中じゃ一番強いと思うのよね~」
「確かに、俺が入ってからだと一番強い気がする」
チームの平均身長も見た感じ他のチームより高く、それぞれの実力も平均以上と言った感じだ。龍矢も思っていた以上にできるようだし、ここまでは確かに今までのどの大会よりも結果を出している。
「問題は人数なのよね~。せめてもう一人か二人くらい、経験者がいてくれると安心なんだけど。龍矢くんも来年の春にはいなくなっちゃうみたいだし」
「え、そうなの?」
騒ぎ出していた心に、冷や水を浴びせられたような気がした。
「ほら、県庁の近くに料理の専門学校あるでしょう? あそこにいま通ってるんだって。来年の春には卒業して東京のなんとかってお店で何年か修行するらしいから、うちにいられるのもそれまでみたいなのよ~」
「それは……残念だな~」
せっかく見つけた好きな人。けれど現実はそんなに甘くないようで、弘毅の中では始まったばかりなのに、その恋にはすでに終わりが見えてしまっている。たった半年で、出逢ったばかりの龍矢はいなくなってしまう。
「そういえば弘毅、悪いんだけど次の練習のときは弘毅が龍矢くんを迎えに行ってくれない?」
「それは別に構わないけど」
「龍矢くん大学の寮に住んでて、あっち方面はうちのメンバー誰もいないから、練習来るとなると電車で来てもらわないといけないのよね。大学生にとっちゃ電車賃もそれなりに痛い出費だろうし、弘毅なら一応通り道だから迎えに行けるでしょう?」
「通り道って、ちょっと遠回りなんだけど……。まあ別にいいけど」
「助かるわ~。じゃああとで龍矢くんと連絡先交換しといてね」
「わかった~」
同い年なのもあってか、龍矢はこの日公伸とよく話していた。と言っても話しているのは主に龍矢のほうで、公伸は相槌を打ったり、何か一言返すだけのことが多かった。元々極端な無口だから仕方がない。
「龍矢くん、ちょっといい?」
まだ大人に変わり切っていない顔が振り返り、目が合うとドキリと鼓動が弾む。それが顔に出ないように気をつけながら、弘毅は彼の隣の椅子に座った。
「どうしたんっすか?」
「実は次の練習から、俺が龍矢くんのこと迎えに行くことになったんよ。だから連絡先教えて? 待ち合わせするのに困るだろうし」
「そうなんっすね。すんません、よろしくお願いします。え~と、スマホスマホ」
喋り口調は体育会系というか、学生のそれだなと心の中で思いながら、差し出された彼の連絡先をアプリに登録する。弘毅のほうから一言メッセージを送り、龍矢のほうも登録が済んで連絡先の交換は完了だ。
「弘毅さんっと。登録したっすよ」
「じゃあ待ち合わせ場所とか時間はまた練習日が近づいたら連絡するよ」
「はーい」
弘毅は決して人見知りをする性格じゃないけど、龍矢と話すのは少しだけ緊張した。そういえば惚れた相手に対しては最初はいつもこんな感じだったなと、過去の恋愛を振り返りながら内心で苦笑する。
「試合、楽しい?」
もっと彼と話してみたくて、弘毅は隣に居座ることを決めた。
「楽しいっすよ! 久々だから最初は緊張したけど、すぐに感覚取り戻せたし、今んとこ足引っ張らずにやれてますから。にしても弘毅さん、上手いっすね! レシーブもスパイクも安定感抜群ですげえっすよ!」
「ありがとう。でも友春さんには負けるよ」
「そんなことないっすよ。俺なんかこっちにサーブ打たれないか毎回ドキドキで……まだ下手なのばれてないみたいだから狙われることもないっすけどね」
「サーブカット苦手なの?」
「ちょっと苦手っすね。だから弘毅さんみたいに綺麗にカットする人尊敬しちゃいます」
褒められたことが嬉しくて、つい顔が綻びそうになる。このむず痒いような恥ずかしさは、相手が好きな人だからこその感覚だ。
それからしばらくは龍矢との会話を楽しんだ。話題は主にバレーのことだったが、そこから派生して日本代表選手のあの人がタイプだの、この人がゲイっぽいだのというゴシックなネタで盛り上がった。
龍矢と話しているとあっという間に時が過ぎていって、いつの間にか順位決定戦が始まる時間になっていた。真申に呼ばれて慌てて準備に取り掛かる。
最後の三試合は一勝しかできなかった。どこも最上位ブロックに上がってくるほどのチームということもあり、勝った試合も苦戦を強いられた。けれど弘毅たちのチームの最終的な順位は三位と、これまでの中で一番の結果を残した大会となった。
「みんなお疲れ様~! ということで乾ぱ~い!」
真申の合図で、チームメンバー六人がそれぞれのグラスを突き合わせる。打ち上げに大会参加メンバー全員がそろうのは初めてだ。いつも誰かが何かの用事で欠けたり、弘毅自身が参加できなかったりと、なかなか全員そろうことがなかった。
乾杯が終わると、各々が好きなように焼肉を摘み始め、好きなように会話を始める。残念ながら龍矢は弘毅の対角線に当たる離れた席に座っていたため、さっきのように二人で話すことは叶いそうになかった。
「お前、さっきからずっと龍矢のこと見てんな」
隣に座っていた寿が、胡乱げな目をして弘毅に話しかけてくる。
「いや、可愛いなって思って」
「まあ確かに可愛いわな。何、気に入ったのか?」
「そういうんじゃないけど……」
「嘘つけ。顔に惚れましたって書いてあんぞ。俺にはわかる」
誤魔化したのを一瞬で見透かされ、思わず苦笑が零れる。寿は出会った頃からそういうことに鋭くて、弘毅が恋をするとすぐに気づいてからかってくる。自分の気持ちが悟られるのを恥ずかしく思う反面で、時にはよき相談相手にもなってくれる寿は弘毅にとって頼れる兄貴分の一人だった。
「にしても、弘毅が年下に熱上げるなんて珍しいじゃねえか。今までは年上ばっかだったろ?」
「自分でもちょっとびっくりしてる」
「気に入ったんなら付き合ってみりゃいいじゃねえか。お前いまフリーだろ? 龍矢も行きの車でフリーだっつってたからな」
「それはちょっと……だって、龍矢くんって来年の春にはいなくなっちゃうんだろ?」
「おう、なんかそんなこと言ってたな」
「じゃあ今から付き合い始めたとしても、半年くらいで終わっちゃうじゃんか」
「別にあいつが遠くに行っちまうからって、別れる必要なんかねえだろ? ああ、もしかして遠距離になるのが嫌なのか?」
「うん……」
弘毅には、遠距離恋愛で失敗した過去がある。大丈夫だと信じてその恋に飛び込んでみたけれど、次第に我慢できないことや噛み合わない部分が露出してきて、結局別れに至ってしまった。何よりも互いに物理的な距離があるように、心にも少しずつ距離ができてしまう。電話でどれだけ話そうが、一度開いた距離はなかなか縮まらず、触れられない相手よりも手近の別の誰かを求めてしまう。それは弘毅も相手も同じだった。
そのときの失恋が、特別辛い記憶として残っているわけじゃない。けれどまた同じようなことになってしまったら、互いにいろんなものを消耗するだけで、何も残らない気がする。それはなんとなく嫌だった。
「まあ確かに遠距離は辛いよな。俺も経験あるからなんとなくわかるわ。けどよ、お前は若いんだからまだ先があんだろ? 駄目になったって次を見つけりゃいい」
「嫌だよ、そんな適当なの。俺は付き合うんだったら、やっぱりその人と死ぬまで一緒にいる気で付き合う。もちろん途中で気持ちが変わったりするのかもしれないけど、そうじゃないと付き合う意味ってないと思うんだ」
「その歳でそんな重く考える必要ねえと思うけどな~。まあ弘毅は真面目だし、仕方ねえのかもしんねえけどよ。でも何もしねえのももったいねえよ。だからセフレくらいにはなっとけば?」
それは弘毅も少し考えた。けれど自分の中に龍矢に対する恋愛感情がある以上、ただのセックスフレンドでいるのは逆に辛い気がする。その感情が段々と膨らんでいって、最後には暴発してしまうんじゃないかと不安だった。
けれど寿の言うとおり、何もしないのももったいないとも思っている。どうせあと半年しか一緒にいられないのなら、その間に一度でいいから身体を重ねてみたい、それだけの関係でもいいから龍矢と親密になりたい。せめぎ合う感情の中に、そんな願望も存在していた。
どの選択肢を選んでも、きっと自分は何かしら後悔をするのだろう。失恋に未練と後悔は付き物だ。どんなに綺麗に幕を閉じたとしても、きっとそれは変わらない。けれど後悔の大きさは選択肢ごとに違っていた。弘毅にとって一番後悔が小さくて済むのは――
予選三試合は、なんとか全勝で通過することができた。新人の龍矢もぶっつけ本番の割にはよく動けているし、スパイクもよく決めている。チームとしての状態はなかなかだった。
残すは順位決定戦の三試合のみとなる。その前に長めの空き時間ができたため、観客席で少し遅めの昼食を摂ることにした。
「龍矢くんができる子でよかったわ~」
隣に座った真申がそう話しかけてきた。
「そうだね。とても久しぶりにやるようには見えないよ」
「ね~。はあ、なんかアタシんが足引っ張ってる気がするわよ。クイックって難しいのよね~」
真申の本来のポジションはオポジットだが、今日はミドルブロッカーが一人欠けているということで、そちらに入っている。慣れないクイック攻撃に苦戦しているのが傍から見ていてもわかった。
「まあでも点になってるから気にしなくていいんじゃないかな?」
「そう言ってくれるとありがたいわ~。でもやっぱアタシがもうちょい機能すれば、いまのメンバーってうちの歴代の中じゃ一番強いと思うのよね~」
「確かに、俺が入ってからだと一番強い気がする」
チームの平均身長も見た感じ他のチームより高く、それぞれの実力も平均以上と言った感じだ。龍矢も思っていた以上にできるようだし、ここまでは確かに今までのどの大会よりも結果を出している。
「問題は人数なのよね~。せめてもう一人か二人くらい、経験者がいてくれると安心なんだけど。龍矢くんも来年の春にはいなくなっちゃうみたいだし」
「え、そうなの?」
騒ぎ出していた心に、冷や水を浴びせられたような気がした。
「ほら、県庁の近くに料理の専門学校あるでしょう? あそこにいま通ってるんだって。来年の春には卒業して東京のなんとかってお店で何年か修行するらしいから、うちにいられるのもそれまでみたいなのよ~」
「それは……残念だな~」
せっかく見つけた好きな人。けれど現実はそんなに甘くないようで、弘毅の中では始まったばかりなのに、その恋にはすでに終わりが見えてしまっている。たった半年で、出逢ったばかりの龍矢はいなくなってしまう。
「そういえば弘毅、悪いんだけど次の練習のときは弘毅が龍矢くんを迎えに行ってくれない?」
「それは別に構わないけど」
「龍矢くん大学の寮に住んでて、あっち方面はうちのメンバー誰もいないから、練習来るとなると電車で来てもらわないといけないのよね。大学生にとっちゃ電車賃もそれなりに痛い出費だろうし、弘毅なら一応通り道だから迎えに行けるでしょう?」
「通り道って、ちょっと遠回りなんだけど……。まあ別にいいけど」
「助かるわ~。じゃああとで龍矢くんと連絡先交換しといてね」
「わかった~」
同い年なのもあってか、龍矢はこの日公伸とよく話していた。と言っても話しているのは主に龍矢のほうで、公伸は相槌を打ったり、何か一言返すだけのことが多かった。元々極端な無口だから仕方がない。
「龍矢くん、ちょっといい?」
まだ大人に変わり切っていない顔が振り返り、目が合うとドキリと鼓動が弾む。それが顔に出ないように気をつけながら、弘毅は彼の隣の椅子に座った。
「どうしたんっすか?」
「実は次の練習から、俺が龍矢くんのこと迎えに行くことになったんよ。だから連絡先教えて? 待ち合わせするのに困るだろうし」
「そうなんっすね。すんません、よろしくお願いします。え~と、スマホスマホ」
喋り口調は体育会系というか、学生のそれだなと心の中で思いながら、差し出された彼の連絡先をアプリに登録する。弘毅のほうから一言メッセージを送り、龍矢のほうも登録が済んで連絡先の交換は完了だ。
「弘毅さんっと。登録したっすよ」
「じゃあ待ち合わせ場所とか時間はまた練習日が近づいたら連絡するよ」
「はーい」
弘毅は決して人見知りをする性格じゃないけど、龍矢と話すのは少しだけ緊張した。そういえば惚れた相手に対しては最初はいつもこんな感じだったなと、過去の恋愛を振り返りながら内心で苦笑する。
「試合、楽しい?」
もっと彼と話してみたくて、弘毅は隣に居座ることを決めた。
「楽しいっすよ! 久々だから最初は緊張したけど、すぐに感覚取り戻せたし、今んとこ足引っ張らずにやれてますから。にしても弘毅さん、上手いっすね! レシーブもスパイクも安定感抜群ですげえっすよ!」
「ありがとう。でも友春さんには負けるよ」
「そんなことないっすよ。俺なんかこっちにサーブ打たれないか毎回ドキドキで……まだ下手なのばれてないみたいだから狙われることもないっすけどね」
「サーブカット苦手なの?」
「ちょっと苦手っすね。だから弘毅さんみたいに綺麗にカットする人尊敬しちゃいます」
褒められたことが嬉しくて、つい顔が綻びそうになる。このむず痒いような恥ずかしさは、相手が好きな人だからこその感覚だ。
それからしばらくは龍矢との会話を楽しんだ。話題は主にバレーのことだったが、そこから派生して日本代表選手のあの人がタイプだの、この人がゲイっぽいだのというゴシックなネタで盛り上がった。
龍矢と話しているとあっという間に時が過ぎていって、いつの間にか順位決定戦が始まる時間になっていた。真申に呼ばれて慌てて準備に取り掛かる。
最後の三試合は一勝しかできなかった。どこも最上位ブロックに上がってくるほどのチームということもあり、勝った試合も苦戦を強いられた。けれど弘毅たちのチームの最終的な順位は三位と、これまでの中で一番の結果を残した大会となった。
「みんなお疲れ様~! ということで乾ぱ~い!」
真申の合図で、チームメンバー六人がそれぞれのグラスを突き合わせる。打ち上げに大会参加メンバー全員がそろうのは初めてだ。いつも誰かが何かの用事で欠けたり、弘毅自身が参加できなかったりと、なかなか全員そろうことがなかった。
乾杯が終わると、各々が好きなように焼肉を摘み始め、好きなように会話を始める。残念ながら龍矢は弘毅の対角線に当たる離れた席に座っていたため、さっきのように二人で話すことは叶いそうになかった。
「お前、さっきからずっと龍矢のこと見てんな」
隣に座っていた寿が、胡乱げな目をして弘毅に話しかけてくる。
「いや、可愛いなって思って」
「まあ確かに可愛いわな。何、気に入ったのか?」
「そういうんじゃないけど……」
「嘘つけ。顔に惚れましたって書いてあんぞ。俺にはわかる」
誤魔化したのを一瞬で見透かされ、思わず苦笑が零れる。寿は出会った頃からそういうことに鋭くて、弘毅が恋をするとすぐに気づいてからかってくる。自分の気持ちが悟られるのを恥ずかしく思う反面で、時にはよき相談相手にもなってくれる寿は弘毅にとって頼れる兄貴分の一人だった。
「にしても、弘毅が年下に熱上げるなんて珍しいじゃねえか。今までは年上ばっかだったろ?」
「自分でもちょっとびっくりしてる」
「気に入ったんなら付き合ってみりゃいいじゃねえか。お前いまフリーだろ? 龍矢も行きの車でフリーだっつってたからな」
「それはちょっと……だって、龍矢くんって来年の春にはいなくなっちゃうんだろ?」
「おう、なんかそんなこと言ってたな」
「じゃあ今から付き合い始めたとしても、半年くらいで終わっちゃうじゃんか」
「別にあいつが遠くに行っちまうからって、別れる必要なんかねえだろ? ああ、もしかして遠距離になるのが嫌なのか?」
「うん……」
弘毅には、遠距離恋愛で失敗した過去がある。大丈夫だと信じてその恋に飛び込んでみたけれど、次第に我慢できないことや噛み合わない部分が露出してきて、結局別れに至ってしまった。何よりも互いに物理的な距離があるように、心にも少しずつ距離ができてしまう。電話でどれだけ話そうが、一度開いた距離はなかなか縮まらず、触れられない相手よりも手近の別の誰かを求めてしまう。それは弘毅も相手も同じだった。
そのときの失恋が、特別辛い記憶として残っているわけじゃない。けれどまた同じようなことになってしまったら、互いにいろんなものを消耗するだけで、何も残らない気がする。それはなんとなく嫌だった。
「まあ確かに遠距離は辛いよな。俺も経験あるからなんとなくわかるわ。けどよ、お前は若いんだからまだ先があんだろ? 駄目になったって次を見つけりゃいい」
「嫌だよ、そんな適当なの。俺は付き合うんだったら、やっぱりその人と死ぬまで一緒にいる気で付き合う。もちろん途中で気持ちが変わったりするのかもしれないけど、そうじゃないと付き合う意味ってないと思うんだ」
「その歳でそんな重く考える必要ねえと思うけどな~。まあ弘毅は真面目だし、仕方ねえのかもしんねえけどよ。でも何もしねえのももったいねえよ。だからセフレくらいにはなっとけば?」
それは弘毅も少し考えた。けれど自分の中に龍矢に対する恋愛感情がある以上、ただのセックスフレンドでいるのは逆に辛い気がする。その感情が段々と膨らんでいって、最後には暴発してしまうんじゃないかと不安だった。
けれど寿の言うとおり、何もしないのももったいないとも思っている。どうせあと半年しか一緒にいられないのなら、その間に一度でいいから身体を重ねてみたい、それだけの関係でもいいから龍矢と親密になりたい。せめぎ合う感情の中に、そんな願望も存在していた。
どの選択肢を選んでも、きっと自分は何かしら後悔をするのだろう。失恋に未練と後悔は付き物だ。どんなに綺麗に幕を閉じたとしても、きっとそれは変わらない。けれど後悔の大きさは選択肢ごとに違っていた。弘毅にとって一番後悔が小さくて済むのは――
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