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この国は、もう駄目だ
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……なんだか、城下町がいつもよりも騒がしい気がする。
私は城下町に来てから、開口一番にそう思った。
私は、月に何度かお忍びで城下町へと行くことがあった。
城下町は明るく、どんなにいても飽きないし、情報収集にうってつけだからだ。
そんな月に数回しか来ない私でも、城下町が以上に盛り上がっているのが分かった。
「……おじさん、何かあったの?」
「あぁ、ヴィリーバか……って、君におじさんと言われるほど年は食ってないよ」
私が声をかけたのはパン屋のおじさん……ではなくルアシス(24歳)。私が何度目かの城下町へと訪れたときに、パンを分けてくれたことで仲良くなった(私は貧乏舌なので、貴族料理よりも平民が食べる料理の方が口に合う)。ちなみに、ヴィリーバはルアシスに名前を聞かれたときに、咄嗟に言った偽名である。
「私にとっては24歳も42歳も大して変わりませんよ」
「いや、変わるだろ」
「まぁ、そんなことはどうでもいいではありませんか。とにかく私は今、城下町で何があったのか知りたいのです」
私は本当にルアシスのことなどどうでもいいと思いながらそういう。
「あぁ、それなら、多分ソフィア様とレイナ様のことだろうな。……一つ先の道先でそのことについての号外が配られているらしいから、気になるのであれば見てくればいい」
そう言いながら、号外が配られているらしい場所を教えてくれるルアシスに感謝しつつ。
私は足早に、ルアシスの元を去ったのであった。
―――――
ルアシスが言っていた場所にたどり着くと、ルアシスがいた場所とは比べ物にならないほどの騒ぎになっており、その騒ぎを聞きつけ、どんどん人々が集まってきて、騒ぎは収まりそうにない。
「号外、一つくださる?」
私が号外を配っていたお兄さんに話しかけると、お兄さんは、はいどうぞと言いながら私に号外を渡してくれる。
私は騒ぎから一歩引いたところで、号外に目を通す。
『我らの聖女、ソフィア・マグネシア様が、忌わしき悪女、レイナ・ファリウムのこれまでの悪行を公のものとし、悪女を華麗に成敗した!!』
な、なによ、これ。
我らの聖女?男たらしで不実な女の間違いでしょ。それに、忌わしき悪女って!!レイナのことをよく知りもせず、そんなことを言えたものだ。それに、華麗に成敗って何よ!?レイナの話を聞きもせず、勝手に話を進めて、挙句の果てに殺したことのどこが華麗なのよ!?
ゲームで見た内容が頭の中に流れ出し、それと同時に胸にため込んできた何かが一気に言葉となり、私の体に駆け巡る。
「さすが聖女様だ。悪女のレイナを懲らしめるとは!!」
「それに、ソフィア様はレイナの元婚約者のデイファン様との婚約が決まったらしいじゃないか」
「デイファン様は、レイナの悪行にたいそう心を痛めていたらしいからな。きっとソフィア様はそんなデイファン様の心の傷を癒し、それがきっかけで婚約することになったのだろう」
「さすが聖女様だ!」「やはり、レイナはソフィア様に成敗される運命!!」
「これで俺らの将来も安泰だ!!」「私たちは一生ソフィア様の味方よ!!」
――あぁ、この国は、もう駄目だ
そう思わざるを得ないほど、城下町の民は皆、ソフィアに心酔しきっていた。
ソフィアのことを信じて疑わない民。ソフィアが悪といえば、たとえ今はもてはやしているデイファンですら悪とみなすのであろう。
……レイナの味方などいない、ソフィアが全てのこの国に、もうもはや固執する理由などない。
私はローブを翻しながら、帰路につく。
私たち生物を無条件に輝かせる空高くにある太陽は、憎たらしいほど燦々と光り輝いていた。
―――――
「おかえりなさいませ、お嬢さ……」
城下町から帰ってきた私に、声をかけようとしたシャーナは、私の顔を見るなり言葉を詰まらす。
おそらく、私は今、とんでもなく酷い顔をしているのであろう。そりゃそうだ。誰が親友の悪いうわさを聞いて、元気でいられるのであろうか。
「……ねぇ、シャーナ」
「何でしょうか、お嬢様」
「貴女は……レイナのことを、どう思っていたの?」
私は、声を震わせながら、シャーナにそう聞く。
「私は……レイナ様とお話したことはなく、お嬢様と一緒にいるレイナ様しか見ていませんが……」
そこでシャーナはいったん言葉を区切り、気づかぬ間に私の目からこぼれ落ちた涙をぬぐう。
「お嬢様がレイナ様のことにこんなに一生懸命になって、自分のことのように涙を流す……その事実が、レイナ様がいかに良い人だったのか、よくわかります」
シャーナはそう言い終えると、私の頭をなでてくれる。
彼女は少しだけ年が離れていて、私が幼い時からテイラン家に仕えている。それも相まって、シャーナは時々、本当のお姉さんのようだ。
私がそう思いながら、涙をこらえてシャーナの方をまっすぐ見つめると……
「え?」
シャーナにも聞こえないほど、小さな小さな声で私はそうつぶやく。
一瞬、本当に一瞬だったが、シャーナの顔が、鬱陶しそうな表情になったのだ。
まるで、面倒だと言わんばかりの表情。きっと、先ほどのレイナに対する肯定的な意見は、単に私の機嫌を取るための言葉だったのだろう――つまり、全てうそだ。
味方なんて、誰もいない。信じられるのは、自分だけ。
「……何はともあれ、私はお嬢様の味方ですよ」
そう言ってにっこりと笑うシャーナ。
へぇ、そういうのであれば、私はとことん貴女を利用して、最後には絶望を与えながら裏切ってやる。
私は内心ほくそ笑みながら、シャーナに「ありがとう」と、思ってもいない感謝の言葉を口にする。
――裏切り者には、最大級の罰を与えなければね
私は城下町に来てから、開口一番にそう思った。
私は、月に何度かお忍びで城下町へと行くことがあった。
城下町は明るく、どんなにいても飽きないし、情報収集にうってつけだからだ。
そんな月に数回しか来ない私でも、城下町が以上に盛り上がっているのが分かった。
「……おじさん、何かあったの?」
「あぁ、ヴィリーバか……って、君におじさんと言われるほど年は食ってないよ」
私が声をかけたのはパン屋のおじさん……ではなくルアシス(24歳)。私が何度目かの城下町へと訪れたときに、パンを分けてくれたことで仲良くなった(私は貧乏舌なので、貴族料理よりも平民が食べる料理の方が口に合う)。ちなみに、ヴィリーバはルアシスに名前を聞かれたときに、咄嗟に言った偽名である。
「私にとっては24歳も42歳も大して変わりませんよ」
「いや、変わるだろ」
「まぁ、そんなことはどうでもいいではありませんか。とにかく私は今、城下町で何があったのか知りたいのです」
私は本当にルアシスのことなどどうでもいいと思いながらそういう。
「あぁ、それなら、多分ソフィア様とレイナ様のことだろうな。……一つ先の道先でそのことについての号外が配られているらしいから、気になるのであれば見てくればいい」
そう言いながら、号外が配られているらしい場所を教えてくれるルアシスに感謝しつつ。
私は足早に、ルアシスの元を去ったのであった。
―――――
ルアシスが言っていた場所にたどり着くと、ルアシスがいた場所とは比べ物にならないほどの騒ぎになっており、その騒ぎを聞きつけ、どんどん人々が集まってきて、騒ぎは収まりそうにない。
「号外、一つくださる?」
私が号外を配っていたお兄さんに話しかけると、お兄さんは、はいどうぞと言いながら私に号外を渡してくれる。
私は騒ぎから一歩引いたところで、号外に目を通す。
『我らの聖女、ソフィア・マグネシア様が、忌わしき悪女、レイナ・ファリウムのこれまでの悪行を公のものとし、悪女を華麗に成敗した!!』
な、なによ、これ。
我らの聖女?男たらしで不実な女の間違いでしょ。それに、忌わしき悪女って!!レイナのことをよく知りもせず、そんなことを言えたものだ。それに、華麗に成敗って何よ!?レイナの話を聞きもせず、勝手に話を進めて、挙句の果てに殺したことのどこが華麗なのよ!?
ゲームで見た内容が頭の中に流れ出し、それと同時に胸にため込んできた何かが一気に言葉となり、私の体に駆け巡る。
「さすが聖女様だ。悪女のレイナを懲らしめるとは!!」
「それに、ソフィア様はレイナの元婚約者のデイファン様との婚約が決まったらしいじゃないか」
「デイファン様は、レイナの悪行にたいそう心を痛めていたらしいからな。きっとソフィア様はそんなデイファン様の心の傷を癒し、それがきっかけで婚約することになったのだろう」
「さすが聖女様だ!」「やはり、レイナはソフィア様に成敗される運命!!」
「これで俺らの将来も安泰だ!!」「私たちは一生ソフィア様の味方よ!!」
――あぁ、この国は、もう駄目だ
そう思わざるを得ないほど、城下町の民は皆、ソフィアに心酔しきっていた。
ソフィアのことを信じて疑わない民。ソフィアが悪といえば、たとえ今はもてはやしているデイファンですら悪とみなすのであろう。
……レイナの味方などいない、ソフィアが全てのこの国に、もうもはや固執する理由などない。
私はローブを翻しながら、帰路につく。
私たち生物を無条件に輝かせる空高くにある太陽は、憎たらしいほど燦々と光り輝いていた。
―――――
「おかえりなさいませ、お嬢さ……」
城下町から帰ってきた私に、声をかけようとしたシャーナは、私の顔を見るなり言葉を詰まらす。
おそらく、私は今、とんでもなく酷い顔をしているのであろう。そりゃそうだ。誰が親友の悪いうわさを聞いて、元気でいられるのであろうか。
「……ねぇ、シャーナ」
「何でしょうか、お嬢様」
「貴女は……レイナのことを、どう思っていたの?」
私は、声を震わせながら、シャーナにそう聞く。
「私は……レイナ様とお話したことはなく、お嬢様と一緒にいるレイナ様しか見ていませんが……」
そこでシャーナはいったん言葉を区切り、気づかぬ間に私の目からこぼれ落ちた涙をぬぐう。
「お嬢様がレイナ様のことにこんなに一生懸命になって、自分のことのように涙を流す……その事実が、レイナ様がいかに良い人だったのか、よくわかります」
シャーナはそう言い終えると、私の頭をなでてくれる。
彼女は少しだけ年が離れていて、私が幼い時からテイラン家に仕えている。それも相まって、シャーナは時々、本当のお姉さんのようだ。
私がそう思いながら、涙をこらえてシャーナの方をまっすぐ見つめると……
「え?」
シャーナにも聞こえないほど、小さな小さな声で私はそうつぶやく。
一瞬、本当に一瞬だったが、シャーナの顔が、鬱陶しそうな表情になったのだ。
まるで、面倒だと言わんばかりの表情。きっと、先ほどのレイナに対する肯定的な意見は、単に私の機嫌を取るための言葉だったのだろう――つまり、全てうそだ。
味方なんて、誰もいない。信じられるのは、自分だけ。
「……何はともあれ、私はお嬢様の味方ですよ」
そう言ってにっこりと笑うシャーナ。
へぇ、そういうのであれば、私はとことん貴女を利用して、最後には絶望を与えながら裏切ってやる。
私は内心ほくそ笑みながら、シャーナに「ありがとう」と、思ってもいない感謝の言葉を口にする。
――裏切り者には、最大級の罰を与えなければね
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