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2 とある国の王太子暗殺任務
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※ちょっと暴力行為があります。ご注意ください。このあとの数話【重たい愛】での王太子視点と被ります。
一年ほど経ってそれなりに動けると判断された俺は、この日、ギルマスからとある国の王太子の暗殺を命じられた。
「───ほう、暗殺者っぽく無感情になったな」
そう言われても声が出せないから反応できない。いやもう人形のようになってしまったから何でもいい。
「フン。まあいい。トェル、ここから東にあるテランティスという国の王太子ミリオネアってヤツを殺ってこい。その国の国境までは転移の魔導具で送ってやる」
「・・・・・・」
俺はコクリと頷く。
「まあ殺れれば御の字だが、王太子は相当の手練れらしいから失敗する確率が高い。そのときは自害しろ。いいか、くれぐれも闇ギルドの場所を漏らすなよ」
「・・・・・・」
話せないのにどうやったら漏らせるんだ? もしかしてそういう魔法でもあるのだろうか?
暗殺訓練では俺は魔法を使えないということでそういうことは教わらなかったから分からない。
───でもまあ、失敗したら死んでいいんだから助かるな。
何なら返り討ちでひと思いに殺してくれないかな?
見ず知らずの王子様なんて殺したくない。まあ誰だって殺したくないけど。
だからなるべく痛くないように、ひと思いに一撃でバッサリと俺を殺って欲しい───。
そんなことを思いながら必要な暗器を服の中に忍ばせると、魔導具担当の男が転移の魔導具を発動して俺を国境の森に送り、すぐに自分だけサッサと帰ってしまった。
真っ暗な闇の中、気配を消して記憶した地図にそって進む。
時々仮眠をしてひたすら走るというのを二日ほどすると、王都の街に着いた。
普通の徒歩なら倍以上はかかってるな。
高い塀を闇に紛れて登って飛び越え、城まで移動して様子を窺うと、今日は何やらイベントがあったらしくお祭りのあとのような空気感が残っていた。
そんなちょっと浮かれた空気で弛んだような騎士達の目をかいくぐって、事前情報で得た王太子の私室のおおよその場所に向かう。
───アレだな。
あたりを付けた部屋にバルコニーから侵入すると確認のために辺りを見回す。どうやら不在のようだ。
そこが間違いなく王太子の部屋だと確信した俺は、部屋の主が戻ってくるのをジッと待った。
そして夜の十時頃。
弛んだ気配が消えた頃に王太子の部屋にやって来た使用人は俺に気付かずに部屋の奥の方で何やら作業をしていた。
気配を消して様子をみていると、用が済んだようで部屋を出て行った。
そのすぐあとに件の王太子が戻ってきた。
聞いていた情報通りの白金の髪にアイスブルーの瞳。背が高く、引き締まった筋肉の動きがシャツの上からも分かる、美しい顔の男だった。
───いかにもやり手そうな王子様。きっとこういう人がトップだったら、俺も───。
そんな詮無い思考が過るが、頭を振って追い出す。
───こんな人に殺されるなら本望だな。でもこんな人に人殺しさせたくないな。
死んでもいいと思っていたからか、ソレともそんな相反する気持ちでいたからか。
静かにあとを尾けて向かった先は浴室に繫がる脱衣所で、彼がシャツに手をかけた瞬間にナイフで後頭部を狙い、腕を突き出す───。
「っ何者だ!」
最小限の動きで避けられた上にナイフを持った手首をガッチリと掴まれた。
「っ!」
手を引くが全くビクともしない。挙げ句にそのまま握力だけで手首の骨を砕かれた。
───嘘だろ!?
激痛が走るが、こんなの奴隷魔法が放つ激痛よりは全然マシだ。
今度は左手にナイフを持ち、再び掲げるといつの間にか左手首も掴まれて同様に砕かれる。
「───ッ!」
慌てて一歩引き、無事な足で蹴りを食らわそうとして逆に脛を蹴られてあっという間に両足も折られ、無力化された。
───ちくしょう。ならお願いだ、いっそひと思いにトドメを刺してくれ。
横倒しになって、痛みよりも嬲り殺しの恐怖に震えていると王太子にフードを剥ぎ取られた。
俺は奴隷になってからほとんど髪を切っていないから前髪は伸びて目が隠れていたが、王太子とハッキリと目が合ったのが分かった。
彼が瞠目したのは一瞬で、俺は喉元のアンダーシャツも下ろされ、首を確認された。
「───お前、出せないんじゃなくて喉を潰されているのか」
喉に残る横一文字の傷で俺が話せないことを悟ったらしい。ソレと隷属魔法が刻まれていることも。
だが今更どうでもいい。
早く殺してくれないかな?
もう生きてたくないから。せっかく死んでいいと命令されてるんだから。
両手足がぼろぼろだから自害し辛いんだ。
だから。
───お願い、早く殺して。
たぶん無意識に口を動かしてたんだろう。ソレを王太子が読み取ったのかは俺には分からないが───。
「───少しの間、我慢してくれ」
誰かに何か指示を出していた王太子は、屈んでそう囁いて俺の目尻を親指で拭った。
いつの間にか涙を浮かべていたらしい。そんなの、とっくに涸れたと思っていた。
───これでやっと、苦痛から逃れられる。
そう思ったら涙が止まらなくなって。
ぼろぼろと零れ落ちる涙で王太子の顔は見えないが、俺は譫言のように『殺して』と口を動かした───。
一年ほど経ってそれなりに動けると判断された俺は、この日、ギルマスからとある国の王太子の暗殺を命じられた。
「───ほう、暗殺者っぽく無感情になったな」
そう言われても声が出せないから反応できない。いやもう人形のようになってしまったから何でもいい。
「フン。まあいい。トェル、ここから東にあるテランティスという国の王太子ミリオネアってヤツを殺ってこい。その国の国境までは転移の魔導具で送ってやる」
「・・・・・・」
俺はコクリと頷く。
「まあ殺れれば御の字だが、王太子は相当の手練れらしいから失敗する確率が高い。そのときは自害しろ。いいか、くれぐれも闇ギルドの場所を漏らすなよ」
「・・・・・・」
話せないのにどうやったら漏らせるんだ? もしかしてそういう魔法でもあるのだろうか?
暗殺訓練では俺は魔法を使えないということでそういうことは教わらなかったから分からない。
───でもまあ、失敗したら死んでいいんだから助かるな。
何なら返り討ちでひと思いに殺してくれないかな?
見ず知らずの王子様なんて殺したくない。まあ誰だって殺したくないけど。
だからなるべく痛くないように、ひと思いに一撃でバッサリと俺を殺って欲しい───。
そんなことを思いながら必要な暗器を服の中に忍ばせると、魔導具担当の男が転移の魔導具を発動して俺を国境の森に送り、すぐに自分だけサッサと帰ってしまった。
真っ暗な闇の中、気配を消して記憶した地図にそって進む。
時々仮眠をしてひたすら走るというのを二日ほどすると、王都の街に着いた。
普通の徒歩なら倍以上はかかってるな。
高い塀を闇に紛れて登って飛び越え、城まで移動して様子を窺うと、今日は何やらイベントがあったらしくお祭りのあとのような空気感が残っていた。
そんなちょっと浮かれた空気で弛んだような騎士達の目をかいくぐって、事前情報で得た王太子の私室のおおよその場所に向かう。
───アレだな。
あたりを付けた部屋にバルコニーから侵入すると確認のために辺りを見回す。どうやら不在のようだ。
そこが間違いなく王太子の部屋だと確信した俺は、部屋の主が戻ってくるのをジッと待った。
そして夜の十時頃。
弛んだ気配が消えた頃に王太子の部屋にやって来た使用人は俺に気付かずに部屋の奥の方で何やら作業をしていた。
気配を消して様子をみていると、用が済んだようで部屋を出て行った。
そのすぐあとに件の王太子が戻ってきた。
聞いていた情報通りの白金の髪にアイスブルーの瞳。背が高く、引き締まった筋肉の動きがシャツの上からも分かる、美しい顔の男だった。
───いかにもやり手そうな王子様。きっとこういう人がトップだったら、俺も───。
そんな詮無い思考が過るが、頭を振って追い出す。
───こんな人に殺されるなら本望だな。でもこんな人に人殺しさせたくないな。
死んでもいいと思っていたからか、ソレともそんな相反する気持ちでいたからか。
静かにあとを尾けて向かった先は浴室に繫がる脱衣所で、彼がシャツに手をかけた瞬間にナイフで後頭部を狙い、腕を突き出す───。
「っ何者だ!」
最小限の動きで避けられた上にナイフを持った手首をガッチリと掴まれた。
「っ!」
手を引くが全くビクともしない。挙げ句にそのまま握力だけで手首の骨を砕かれた。
───嘘だろ!?
激痛が走るが、こんなの奴隷魔法が放つ激痛よりは全然マシだ。
今度は左手にナイフを持ち、再び掲げるといつの間にか左手首も掴まれて同様に砕かれる。
「───ッ!」
慌てて一歩引き、無事な足で蹴りを食らわそうとして逆に脛を蹴られてあっという間に両足も折られ、無力化された。
───ちくしょう。ならお願いだ、いっそひと思いにトドメを刺してくれ。
横倒しになって、痛みよりも嬲り殺しの恐怖に震えていると王太子にフードを剥ぎ取られた。
俺は奴隷になってからほとんど髪を切っていないから前髪は伸びて目が隠れていたが、王太子とハッキリと目が合ったのが分かった。
彼が瞠目したのは一瞬で、俺は喉元のアンダーシャツも下ろされ、首を確認された。
「───お前、出せないんじゃなくて喉を潰されているのか」
喉に残る横一文字の傷で俺が話せないことを悟ったらしい。ソレと隷属魔法が刻まれていることも。
だが今更どうでもいい。
早く殺してくれないかな?
もう生きてたくないから。せっかく死んでいいと命令されてるんだから。
両手足がぼろぼろだから自害し辛いんだ。
だから。
───お願い、早く殺して。
たぶん無意識に口を動かしてたんだろう。ソレを王太子が読み取ったのかは俺には分からないが───。
「───少しの間、我慢してくれ」
誰かに何か指示を出していた王太子は、屈んでそう囁いて俺の目尻を親指で拭った。
いつの間にか涙を浮かべていたらしい。そんなの、とっくに涸れたと思っていた。
───これでやっと、苦痛から逃れられる。
そう思ったら涙が止まらなくなって。
ぼろぼろと零れ落ちる涙で王太子の顔は見えないが、俺は譫言のように『殺して』と口を動かした───。
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