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4 異世界転移者の立ち位置
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いつの間にか見知らぬ森に異世界転移していたこと、そこで闇ギルドのメンバーに捕まり奴隷にされたこと。
そして喉を掻き切られて───。
「・・・・・・そのときの痛みと恐怖は、今思い出しても・・・・・・身体が震えます」
たぶん相当酷い顔色だったんだろう。身体の震えも止まらなくなる。
そんな俺を横から抱きしめて背を擦ったりして宥めてくれるミリオネア様にホッとする。
「それがおよそ一年前です。俺は魔法が使えないから捨て駒くらいしか使えないと、暗殺訓練をさせられて───今日が初任務でした」
スミマセンでしたと再度謝ると、抱きしめたままの状態で気にするなと囁かれてドキッとする。
うう・・・・・・いい声過ぎてドキドキする。
「そ、それで国境付近まで転移の魔導具というので送られて、そこから王都を目指してひたすら走り、城までこっそり入り込んでミリオネア様を待ってました」
「・・・・・・私が戻るまでずっとこの部屋に?」
ミリオネア様がちょっと眉をひそめた。たぶん彼でさえも俺が忍んでいたことには気付いていなかったんだろう。
「はい。気配を消すのだけは上手かったらしくて、一度使用人が来たときも気付かれませんでした」
「・・・・・・それで私が脱衣所で無防備になるところを狙ったわけか」
「・・・・・・スミマセン」
卑怯だと言われても仕方ないけど、だって暗殺ってそういうモンでしょ?
「あの、依頼主は知りません。失敗したら自害しろという命令も受けてました。隷属魔法って、言うこと聞かないと全身が激痛で気絶しちゃうんです。もう、死んでもいいやって思えました」
そう言ったらナツメ様が泣きそうな顔になった。他の二人もあまり顔は変わらなかったが、ちょっと眉をひそめた。
俺はそれだけで胸がほっこりした。
見ず知らずの元奴隷の暗殺者にこうして心を砕いてくれる人が少なくとも三人いるって、今の俺からしたら凄いことだよね。
そんな存在、この世界では一人もいなかったんだから。
ナツメ様に治癒して貰う寸前まで、死が俺の苦痛の解放手段だって、ずっと思ってたから。
ずっと抱きしめたままのミリオネア様の腕に更に力が入ったのが分かった。
でももう大丈夫。
「だから、あの、解放してくれた貴方方にご恩を返したいんです! 何か、俺に出来ることがあれば何でもします!」
そう言って頭を下げた。ミリオネア様にガッチリ掴まれてるせいでちょっと決まらないけど。
「まずは君のこの国での立場をハッキリさせよう。異世界転移者というのはこの世界にとってとても貴重で大切に扱われなければいけない存在なんだ」
真剣な声でそう言うミリオネア様に首をかしげる。
「どうしてですか?」
だって俺は学生で大した知識もないし、何よりこの世界ではごくありふれた魔法さえ使えない役立たずなのに。
そんな思いが顔に出ていたのか、ミリオネア様は困ったように笑った。
「異世界転移者は大抵の人が神の祝福を受けてやって来る。それは人にもよるがほとんどがこの世界に貢献するような能力持ちなんだ」
・・・・・・でも俺、今まで一度も魔法使ってないよ? それ以外って、他に何かあるかな?
「さっき、魔法が使えないと言ってたよね? あれは君が魔法を知らない世界から来たためだと思う」
「あの、僕もさっき魔法を使ったときにムツキさんの魔力を感じました。絶対に使えるはずです」
ミリオネア様がそう言うとナツメ様も付け加えた。
───え、そうかな? じゃあもしかしたら俺も本当に、使える?
「転移直後はこの世界に馴染んでいなかったからだろう。だが一年も暮らしていればいい加減適応しているだろう」
「・・・・・・俺も、魔法が使える? 役に立てる?」
そうキッパリと言われて呆然としていると、ミリオネア様がにっこり笑いかけてきた。
たぶん俺は泣きそうな顔になっていると思う。
「ああ、きっと。ただ今日はもう遅いから明日、魔導師団の者に調べて貰おう。それで使えると分かれば───」
「───あのっ! 僕が教えてもいいですか?」
「ナツメ」
ミリオネア様に被せるようにナツメ様がツッコんできて、ササナギ様が思わず窘めた。しかしコレばかりは引かないという感じでナツメ様が言った。
「ナギ。だってもう、片足ツッコんじゃったんだよ。それに事情を知ってる僕なら安心してムツキさんも練習できるんじゃない?」
「・・・・・・それもそうか。じゃあ明日も付き合うぞ」
「ありがとう!」
・・・・・・魔法が使えるかもとちょっと浮かれているウチに、どうやら明日の予定が決まったようだ。
※もう少し【重たい愛】の王太子sideのムツキ視点続きます。スミマセン。
そして喉を掻き切られて───。
「・・・・・・そのときの痛みと恐怖は、今思い出しても・・・・・・身体が震えます」
たぶん相当酷い顔色だったんだろう。身体の震えも止まらなくなる。
そんな俺を横から抱きしめて背を擦ったりして宥めてくれるミリオネア様にホッとする。
「それがおよそ一年前です。俺は魔法が使えないから捨て駒くらいしか使えないと、暗殺訓練をさせられて───今日が初任務でした」
スミマセンでしたと再度謝ると、抱きしめたままの状態で気にするなと囁かれてドキッとする。
うう・・・・・・いい声過ぎてドキドキする。
「そ、それで国境付近まで転移の魔導具というので送られて、そこから王都を目指してひたすら走り、城までこっそり入り込んでミリオネア様を待ってました」
「・・・・・・私が戻るまでずっとこの部屋に?」
ミリオネア様がちょっと眉をひそめた。たぶん彼でさえも俺が忍んでいたことには気付いていなかったんだろう。
「はい。気配を消すのだけは上手かったらしくて、一度使用人が来たときも気付かれませんでした」
「・・・・・・それで私が脱衣所で無防備になるところを狙ったわけか」
「・・・・・・スミマセン」
卑怯だと言われても仕方ないけど、だって暗殺ってそういうモンでしょ?
「あの、依頼主は知りません。失敗したら自害しろという命令も受けてました。隷属魔法って、言うこと聞かないと全身が激痛で気絶しちゃうんです。もう、死んでもいいやって思えました」
そう言ったらナツメ様が泣きそうな顔になった。他の二人もあまり顔は変わらなかったが、ちょっと眉をひそめた。
俺はそれだけで胸がほっこりした。
見ず知らずの元奴隷の暗殺者にこうして心を砕いてくれる人が少なくとも三人いるって、今の俺からしたら凄いことだよね。
そんな存在、この世界では一人もいなかったんだから。
ナツメ様に治癒して貰う寸前まで、死が俺の苦痛の解放手段だって、ずっと思ってたから。
ずっと抱きしめたままのミリオネア様の腕に更に力が入ったのが分かった。
でももう大丈夫。
「だから、あの、解放してくれた貴方方にご恩を返したいんです! 何か、俺に出来ることがあれば何でもします!」
そう言って頭を下げた。ミリオネア様にガッチリ掴まれてるせいでちょっと決まらないけど。
「まずは君のこの国での立場をハッキリさせよう。異世界転移者というのはこの世界にとってとても貴重で大切に扱われなければいけない存在なんだ」
真剣な声でそう言うミリオネア様に首をかしげる。
「どうしてですか?」
だって俺は学生で大した知識もないし、何よりこの世界ではごくありふれた魔法さえ使えない役立たずなのに。
そんな思いが顔に出ていたのか、ミリオネア様は困ったように笑った。
「異世界転移者は大抵の人が神の祝福を受けてやって来る。それは人にもよるがほとんどがこの世界に貢献するような能力持ちなんだ」
・・・・・・でも俺、今まで一度も魔法使ってないよ? それ以外って、他に何かあるかな?
「さっき、魔法が使えないと言ってたよね? あれは君が魔法を知らない世界から来たためだと思う」
「あの、僕もさっき魔法を使ったときにムツキさんの魔力を感じました。絶対に使えるはずです」
ミリオネア様がそう言うとナツメ様も付け加えた。
───え、そうかな? じゃあもしかしたら俺も本当に、使える?
「転移直後はこの世界に馴染んでいなかったからだろう。だが一年も暮らしていればいい加減適応しているだろう」
「・・・・・・俺も、魔法が使える? 役に立てる?」
そうキッパリと言われて呆然としていると、ミリオネア様がにっこり笑いかけてきた。
たぶん俺は泣きそうな顔になっていると思う。
「ああ、きっと。ただ今日はもう遅いから明日、魔導師団の者に調べて貰おう。それで使えると分かれば───」
「───あのっ! 僕が教えてもいいですか?」
「ナツメ」
ミリオネア様に被せるようにナツメ様がツッコんできて、ササナギ様が思わず窘めた。しかしコレばかりは引かないという感じでナツメ様が言った。
「ナギ。だってもう、片足ツッコんじゃったんだよ。それに事情を知ってる僕なら安心してムツキさんも練習できるんじゃない?」
「・・・・・・それもそうか。じゃあ明日も付き合うぞ」
「ありがとう!」
・・・・・・魔法が使えるかもとちょっと浮かれているウチに、どうやら明日の予定が決まったようだ。
※もう少し【重たい愛】の王太子sideのムツキ視点続きます。スミマセン。
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