重たすぎる愛~【重たい愛】のもう一つの物話~

エウラ

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キョトンとする俺に苦笑するミリィ。

「なぜそんなに騒ぐのか分かっていない顔だね?」
「だって、魔法の知識なんて全くないんだもの」

ミリィの様子に居心地が悪くて、ついムスッと不貞腐れるように呟く。

「そうだね、ごめん。ムツキのコレまでの境遇を思えば軽率な言い方だった」

慌ててそう言って謝罪するミリィに今度はコッチが慌てた。王太子がそんなに簡単に頭を下げちゃダメでしょ!

「ううん、いいの、大丈夫。コレから教わればいいんだし。いやその、何か仲間外れみたいでちょっと・・・・・・」

疎外感で拗ねただけだからこっちこそごめんなさい。

「そうだね、ごめん。いやうん。えっと簡単にいうと、例えばナツメは全属性の魔法が使える他に聖魔法という特殊な属性が使えるんだが」

───とりあえず、と前置きして大まかに話してくれた魔法事情によると・・・・・・。

全属性の魔法というのは『地・水・風・火』の四属性のことで、普通はこの中から一つ。稀に複数の属性を持つ人もいるそうだが数は少ない。

そういう人は攻撃魔法や治癒魔法、補助魔法などを使う魔導師になることが多い。

「今いる魔導師団に入団したり、今は割愛するが冒険者になったりね」
「冒険者! 凄く気になるんだけど、今はガマンする」

冒険者って小説とかでもよく出てくる、俺の憧れの職業だ。

「中にはどの属性も持っていない人もいるけど、この四属性の他にもう一つ誰もが生まれたときから持っている『無』という属性があるんだ」
「・・・・・・無属性?」

誰もが持ってるって言うけど、転移者の俺にもあるんだろうか。

「そう。その『無』属性は魔力があれば最低限の魔力で『生活魔法』という魔法が使えるものでそんなに困ることはない。魔導具も安価で手に入るしね」

奴隷仲間の使ってくれてた身体を綺麗にする魔法もその一つだったらしい。生活に必要な最低限の魔法が使えて、飲み水を出したり竈に着火させる火を点けたり。灯りの魔法もあるようだった。
これは不思議なことに魔力があれば使えるんだとか。
一説には目に見えない精霊という存在が手を貸してくれてるとか何とか?

なるほど。まさしく異世界。俺には全く見えないけど精霊もいるんだ。

そんな中で特殊な属性魔法が『光・闇・聖・雷・氷』で、特に聖魔法は国の中でも一人二人いるかどうかという稀少な属性なんだって。

光魔法や通常の属性の水魔法も治癒魔法に使えるが効果は聖魔法よりも劣るんだとか。

聖魔法は何でも大怪我とかで瀕死の状態から完全回復出来るとか。ただ魔力が足りないと完全回復は無理だそうだが、それでも瀕死状態からちょっと怪我した? くらいには回復できるらしい。
何なら欠損した肉体も魔力が豊富なら復元出来るらしいよ。凄いな、魔法!

過去にその魔法に目覚めてササナギの命を救った縁で今のナツメがいるんだとか。

さすがに亡くなってしまった人を甦らせる、なんて小説のようには出来ないそうだけど。
それはそうだ。それならいくらでも生き返らせられて大変だよ。

それにしても───。

「そんなに稀少な聖魔法をナツメが使えるの!? す、凄い」
「ああ。だから他に知られると狙われるから隠してるんだ。ココだけの話で秘匿事項だからムツキも内緒だよ。ちなみに君を隷属魔法から解放してくれたあの魔法がだよ」

えっ!? そんな重要なこと、なんでもない様にサラッと言わないでくれる!?
思わずどもりながらもナツメに改めてお礼を言う。

「ももももちろん、誰にも言わないよ! ていうか、え!? ナナナツメ、ありがとう、そんなに稀少な魔法を使ってくれて!」
「え? いや大したことないけど。それよりもムツキの方が稀少で大変だよ?」
「・・・・・・何で?」

特殊な属性というのは分かったけど、それならナツメと変わらないよね? そりゃあ二つもあってビックリだけど。

苦笑してそう言ったナツメにまだコトの重大さを分かっていない俺は首を傾げた。

「いい? 今まで過去に光だけとか闇だけというのは持ってる人がいたの。でも光と闇を同時に持つ人はいなかった。何でか分かる?」

そう聞かれてパッと思い浮かぶのは善と悪のイメージ。
明るい昼間と暗い夜。まるでつい昨日までのミリィと俺みたいな───。

「・・・・・・光と闇は相反するモノ、だから?」

じくじくとした胸の痛みを覚えながらかろうじてそう応える。

「正解。だから二つ同時に持ってる人もいない。もし過去に持ってた人がいたとしても、たぶん反発とか相殺してしまって両方使いこなすことは難しい───というか無理かもしれない。もちろん試してみないと分からないけどね!」

───光と闇・・・・・・たぶん、そのどっちも今日まで生きてきた俺の経験からだろう。
この世界に転移する前の光にいた俺と奴隷落ちして闇の暗殺者になった俺・・・・・・。

結局どっちつかずってこと?
半端者ってこと?

「───どっちも使えない?」
「もしかしたら、ね。・・・・・・せっかく魔法を使えるかもって期待してたのに、ごめんね。でも万が一があるかもだから気を落とさないで」

もの凄く申し訳なさそうな表情でそう言うナツメに首を緩く振る。

ナツメは全然悪くない。謝る必要はない。
悪いのは全部俺自身で、ミリィ達に助けられたけど、やっぱり俺は役立たずで───。

「───っ! ムツキ!?」
「───ムツキ! マズい! 魔力の暴走だ!」
「結界を! 皆して出来うる限りの結界を張れ!」
「ムツキ! 大丈夫だから! 落ち着け!」

肩を揺すりながらそう言う声を、昏い瞳でぼんやりと聞きながら身体の奥底から這い上がってくるぐるぐるとした得体の知れない大きな力に抗うことなく、俺は意識を飛ばした。

直後、部屋の中は辺り一面俺の魔力で満たされ、壁の魔導具のランプが弾け飛んだ。

その威力は凄まじく、鑑定用の部屋どころか魔導師団の建物、果ては執務中の国王陛下のところまで魔力の暴走による衝撃が伝わったと知ったのは、アレから丸一日経った翌日の昼過ぎだった。








※次話はミリオネア視点。
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