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11 検査結果と魔力暴走 1(sideミリオネア)
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「ムツキ! ムツキ、しっかりしろ!」
ムツキが魔力暴走を起こした。
失敗した。
そうだ、ムツキは魔力なしだと言われて魔法を使うどころかおそらく魔力のことなど何も分かっていない状態でこの一年間を過ごしたはずだ。
何かのきっかけで暴走する危険性があったのに、なぜか当たり前のように頭から抜けていた。
それは今日までのほんの少しの時間の中で知ったムツキが酷く穏やかでゆったりした性質だったからかもしれない。
だから心の奥で『大丈夫』だと油断していたんだ。
「ミリオネア! 危険だ、結界を張れ!」
「王太子殿下! 離れて下さいっ!」
「ムツキ! ミリオネア様!」
ササナギ達が大声で喚く中、私はどうしてもムツキから離れる気が起きなかった。
愛する者だというのもあるが、なぜか今ムツキを一人にしてはいけない気がしたんだ。
魔力暴走を起こす直前の昏いあの瞳。
私を暗殺しようとしていたときの瞳とそっくりだった。
『俺は捨て駒で役立たずで───』
奴隷に落とされていたときの評価が、トラウマになっていたのかもしれない。
先ほどのナツメとの会話でトラウマが蘇り、暴走のきっかけになったんだろう。
だからこそ私は、私だけはムツキが必要なんだと、いるだけで役に立っているのだと、ずっと側にいると言葉と行動で示さなければ。
三人はキチンと出来うる最高レベルの結界を張っているから心配ないだろう。
それにこの部屋は魔力暴走や暴発を防ぐために防御に特化した造りで、部屋内部は魔導師団全員で結界を重ねがけしているから壊れることはないだろう・・・・・・たぶん。
いやうん、ムツキは無意識に暴走を抑えようとしているのか、部屋全体じゃなく私を避けて魔力が飛んでいるので逆に部分的に強い力がかかって結界に若干ヒビが・・・・・・。
それに気付いたティメール師団長が頬を引き攣らせ顔を青ざめさせていた。
いくらなんでも魔導師団全力の結界にヒビが入るとは思うまい。
私も幾度となく結界が壊されて傷付く。
しかしソレでも結界を張り直しつつムツキを抱きしめ続けていると、ふっと魔力の暴走が止まった。
どうやら魔力が枯渇したようだが、異世界転移者にしては思ったよりも少なくないか───。
怪訝そうな顔をしていたら、ティメール師団長が結界を解いて慌てて近付いてきた。
「───っ魔力枯渇ですね。彼、魔力量の上限は怖ろしく高いんですが、今までに溜まっていた分は王太子殿下の魔力を取り込んでいたものなので、それを使い切ったんですよ」
私の魔力───。
それはアレか、昨夜の既成事実の賜物か。
しかしそれでは鑑定結果が私のモノになってしまわないか?
魔力は一人一人違うのだから。
その懸念を読み取った師団長は苦笑して言った。
「鑑定のときはわずかに溜まっていたクサカベ侯爵様本人の魔力で行いました。あのあと殿下に確認をお願いしたでしょう? アレでしっかり確認が取れましたので」
先ほどの確認はそれのためか。
「・・・・・・そういうことか。では魔力総量が残り二つのウチのもう一つの重要事項か?」
「ええ、確認の内容は一つはクリアしました。残りは───」
「───ムツキ! ミリオネア様!」
「───とりあえずあとにしましょう。今はクサカベ侯爵様の魔力を回復させないと」
師団長の言葉に引っかかりを覚えたが、ナツメも慌てて来たので聞くタイミングを逃した。
まあ師団長の言うとおり、あとで詳しく聞こう。
「ミリオネア様! 怪我が酷いですよ、無茶をしないで下さい。今治癒します! ええ、否やは聞きません。ムツキが目覚めたときに傷だらけのミリオネア様を見て苦しむ姿は見たくないでしょう?」
別にコレくらい───と言いそうになって、ナツメが自分のことのように痛ましい顔でそう言うので想像してみた。・・・・・・うん、ソレは耐えられそうにないな。
「・・・・・・そう言われると弱いな。すまない、頼む。ササナギ、これからしばらくムツキに魔力譲渡をするからこのあとは頼めるか?」
「分かっている。伴侶を第一に思うのは俺も同じだからな。落ち着くまでこちらで対処しよう」
二つ返事で頷くササナギにこちらも軽く頷くとティメール師団長を見た。
「助かる。師団長もすまないが───」
「こちらはお気になさらず。早くクサカベ侯爵様を連れてお戻り下さい」
彼も後処理に大忙しになるだろう。おそらく魔力暴走の衝撃は魔導師団の建物全体にも及んだだろうから。
なにせ結界にヒビが入ったからな。
もしかしたら国王陛下の耳にも届いているかも。
───なんて、ムツキが聞いたら『それをフラグと言うんだよ』と苦笑したかもしれない。
※次話はガッツリR18回。
ムツキが魔力暴走を起こした。
失敗した。
そうだ、ムツキは魔力なしだと言われて魔法を使うどころかおそらく魔力のことなど何も分かっていない状態でこの一年間を過ごしたはずだ。
何かのきっかけで暴走する危険性があったのに、なぜか当たり前のように頭から抜けていた。
それは今日までのほんの少しの時間の中で知ったムツキが酷く穏やかでゆったりした性質だったからかもしれない。
だから心の奥で『大丈夫』だと油断していたんだ。
「ミリオネア! 危険だ、結界を張れ!」
「王太子殿下! 離れて下さいっ!」
「ムツキ! ミリオネア様!」
ササナギ達が大声で喚く中、私はどうしてもムツキから離れる気が起きなかった。
愛する者だというのもあるが、なぜか今ムツキを一人にしてはいけない気がしたんだ。
魔力暴走を起こす直前の昏いあの瞳。
私を暗殺しようとしていたときの瞳とそっくりだった。
『俺は捨て駒で役立たずで───』
奴隷に落とされていたときの評価が、トラウマになっていたのかもしれない。
先ほどのナツメとの会話でトラウマが蘇り、暴走のきっかけになったんだろう。
だからこそ私は、私だけはムツキが必要なんだと、いるだけで役に立っているのだと、ずっと側にいると言葉と行動で示さなければ。
三人はキチンと出来うる最高レベルの結界を張っているから心配ないだろう。
それにこの部屋は魔力暴走や暴発を防ぐために防御に特化した造りで、部屋内部は魔導師団全員で結界を重ねがけしているから壊れることはないだろう・・・・・・たぶん。
いやうん、ムツキは無意識に暴走を抑えようとしているのか、部屋全体じゃなく私を避けて魔力が飛んでいるので逆に部分的に強い力がかかって結界に若干ヒビが・・・・・・。
それに気付いたティメール師団長が頬を引き攣らせ顔を青ざめさせていた。
いくらなんでも魔導師団全力の結界にヒビが入るとは思うまい。
私も幾度となく結界が壊されて傷付く。
しかしソレでも結界を張り直しつつムツキを抱きしめ続けていると、ふっと魔力の暴走が止まった。
どうやら魔力が枯渇したようだが、異世界転移者にしては思ったよりも少なくないか───。
怪訝そうな顔をしていたら、ティメール師団長が結界を解いて慌てて近付いてきた。
「───っ魔力枯渇ですね。彼、魔力量の上限は怖ろしく高いんですが、今までに溜まっていた分は王太子殿下の魔力を取り込んでいたものなので、それを使い切ったんですよ」
私の魔力───。
それはアレか、昨夜の既成事実の賜物か。
しかしそれでは鑑定結果が私のモノになってしまわないか?
魔力は一人一人違うのだから。
その懸念を読み取った師団長は苦笑して言った。
「鑑定のときはわずかに溜まっていたクサカベ侯爵様本人の魔力で行いました。あのあと殿下に確認をお願いしたでしょう? アレでしっかり確認が取れましたので」
先ほどの確認はそれのためか。
「・・・・・・そういうことか。では魔力総量が残り二つのウチのもう一つの重要事項か?」
「ええ、確認の内容は一つはクリアしました。残りは───」
「───ムツキ! ミリオネア様!」
「───とりあえずあとにしましょう。今はクサカベ侯爵様の魔力を回復させないと」
師団長の言葉に引っかかりを覚えたが、ナツメも慌てて来たので聞くタイミングを逃した。
まあ師団長の言うとおり、あとで詳しく聞こう。
「ミリオネア様! 怪我が酷いですよ、無茶をしないで下さい。今治癒します! ええ、否やは聞きません。ムツキが目覚めたときに傷だらけのミリオネア様を見て苦しむ姿は見たくないでしょう?」
別にコレくらい───と言いそうになって、ナツメが自分のことのように痛ましい顔でそう言うので想像してみた。・・・・・・うん、ソレは耐えられそうにないな。
「・・・・・・そう言われると弱いな。すまない、頼む。ササナギ、これからしばらくムツキに魔力譲渡をするからこのあとは頼めるか?」
「分かっている。伴侶を第一に思うのは俺も同じだからな。落ち着くまでこちらで対処しよう」
二つ返事で頷くササナギにこちらも軽く頷くとティメール師団長を見た。
「助かる。師団長もすまないが───」
「こちらはお気になさらず。早くクサカベ侯爵様を連れてお戻り下さい」
彼も後処理に大忙しになるだろう。おそらく魔力暴走の衝撃は魔導師団の建物全体にも及んだだろうから。
なにせ結界にヒビが入ったからな。
もしかしたら国王陛下の耳にも届いているかも。
───なんて、ムツキが聞いたら『それをフラグと言うんだよ』と苦笑したかもしれない。
※次話はガッツリR18回。
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