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14 暗殺未遂の顛末
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───ここは王太子ミリオネアの私室。
俺はミリィに介助されながら、持ってきて貰った衣服を身につけた。
しかしさっきの騒動で腰が死んだのでミリィに抱えられてソファに移動する。
羞恥心?
素っ裸を散々見られて今更だろう? そりゃあまだまだ羞恥心は普通にあるけども、どうしようもない状況なのでもう諦めた。
「───で、アレは一体どういう状況だったのかな?」
ソファに座ったミリィの膝の上に横座りされてミリィの胸に頭を凭れさせられて、そこに囁くように耳元で声をかけられてゾクッとした。
思わず身体が跳ねて腰に響き、ウッと声を漏らすと苦笑したミリィが俺の腰を擦りながら謝った。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪だったね」
自覚あるのか。今はちょっとやめて欲しい。
そう思って痛みに滲んだ目で睨むと顔を背けられた。
何? ばつが悪かった? まあもういいけど。
「───えっと、状況説明だっけ? 俺もよく分からないんだけど、ミリィが出て行ったあとうたた寝してたら気配を殺した使用人が部屋に忍び込んできて」
「……うん」
「殺気を感じたからとっさに身体が動いて、あとは見ての通り」
「……ほう」
「ていうか、俺が言うのもアレだけど、王宮の警備ザル過ぎない?」
「……」
痛いところを突かれたのか無言になって渋面になったミリィ。
扉の前で警護に立つ近衛騎士達もなんとも言えない顔をしていた。
「……まあ、ムツキはちょっと特殊だったからアレだけど、あの使用人の侵入は別だ。今尋問していて背後関係を探っている」
「……俺って特殊なの?」
いやまあ、魔法が使えなかったから隠密系の技術はだいぶ磨いたけどね。でないと速攻死ぬような環境だったし。
でもそれだけで特殊とは言いがたいよね?
「まあ、色々とな。そこはあとでティメール師団長と説明する」
頭に疑問符を浮かべまくった俺を見て苦笑しながらそう言うミリィに、あとで教えてもらえるならいいかと気持ちを切り替える。
「分かった。……それにしても王太子って、かなり危険な立場なんだな。あの使用人、ミリィを狙ってたんだろう? ベッドにいたのがミリィじゃなくて俺だったから間違えたんだろうけど」
「───いや、まだハッキリしていないんだが、おそらくムツキを狙った可能性が高い」
「……え? 何で?」
真剣な顔でそう言われて驚く。
だって俺だよ? どこを見ても平凡で普通の男だよ? 何なら子供と間違われるくらい小柄で童顔で、今は無害の奴隷上がりだよ?
そんなことを思っていたら、なんとなく察したらしいミリィが溜め息を吐いた。そして俺を諭すように言った。
「いいかい、ムツキ。君は異世界転移者である前に王太子の婚約者なんだ。昨夜の陛下との面会から今日までに城の要所や要人にはすでに通達が行っている」
「えっ!? もう!?」
昨日の今日で!? 早すぎない!?
「ああ。異世界転移者ということはまだ伏せられていて知っているのは陛下と王妃、第二王子、あとは宰相と近衛騎士団に魔導師団のみで箝口令が出ている」
じゃあ異世界転移者ということで狙われたんじゃなさそうだな。
───ということは……。
「……王太子の婚約者ってだけで命を狙われるんだ?」
そう漏らしたら、ミリィが渋面になった。
「世知辛いが、そうだ。王太子妃の座を狙う者は存外多い。今まで私に特定の婚約者もおらず、そういうそぶりもなかったのに急に決まった婚約だから───」
「あー……うん。どこの馬の骨とも知れぬ輩に横から掻っ攫われたってことか。なるほど」
そういう輩からすれば、俺は媚びを売って王太子に取り入って、挙げ句に最近返還されて宙に浮いていた爵位を与えられた上で婚約したずる賢い男───という風に思われたのかもしれない。
そりゃあふざけるな、と思うだろう。
そこで、殺してしまえばまた振り出しに戻るだろうという短慮な思考で暗殺者を送り込んだのかもしれないけど。
「襲った相手が悪かったな」
「それな」
ミリィと俺はそう言って顔を見合わせてから、どちらともなく吹き出した。
「あ、いててて……っ」
「───っふ、あ、悪い。だが……はははっ」
「もう、別にいいけど! ふふっ、いでで……いやあ、一応俺も、ふふっ、元だけど、暗殺者だから」
笑う振動で腰がビキビキ痛んだが、どうにもおかしくて、二人でツボってしばらく笑い転げたのだった。
───扉のところにいた近衛騎士が苦笑しつつも生暖かいまなざしで見ていたが、俺はついぞ気づかなかった。
俺はミリィに介助されながら、持ってきて貰った衣服を身につけた。
しかしさっきの騒動で腰が死んだのでミリィに抱えられてソファに移動する。
羞恥心?
素っ裸を散々見られて今更だろう? そりゃあまだまだ羞恥心は普通にあるけども、どうしようもない状況なのでもう諦めた。
「───で、アレは一体どういう状況だったのかな?」
ソファに座ったミリィの膝の上に横座りされてミリィの胸に頭を凭れさせられて、そこに囁くように耳元で声をかけられてゾクッとした。
思わず身体が跳ねて腰に響き、ウッと声を漏らすと苦笑したミリィが俺の腰を擦りながら謝った。
「ごめんごめん。ちょっと意地悪だったね」
自覚あるのか。今はちょっとやめて欲しい。
そう思って痛みに滲んだ目で睨むと顔を背けられた。
何? ばつが悪かった? まあもういいけど。
「───えっと、状況説明だっけ? 俺もよく分からないんだけど、ミリィが出て行ったあとうたた寝してたら気配を殺した使用人が部屋に忍び込んできて」
「……うん」
「殺気を感じたからとっさに身体が動いて、あとは見ての通り」
「……ほう」
「ていうか、俺が言うのもアレだけど、王宮の警備ザル過ぎない?」
「……」
痛いところを突かれたのか無言になって渋面になったミリィ。
扉の前で警護に立つ近衛騎士達もなんとも言えない顔をしていた。
「……まあ、ムツキはちょっと特殊だったからアレだけど、あの使用人の侵入は別だ。今尋問していて背後関係を探っている」
「……俺って特殊なの?」
いやまあ、魔法が使えなかったから隠密系の技術はだいぶ磨いたけどね。でないと速攻死ぬような環境だったし。
でもそれだけで特殊とは言いがたいよね?
「まあ、色々とな。そこはあとでティメール師団長と説明する」
頭に疑問符を浮かべまくった俺を見て苦笑しながらそう言うミリィに、あとで教えてもらえるならいいかと気持ちを切り替える。
「分かった。……それにしても王太子って、かなり危険な立場なんだな。あの使用人、ミリィを狙ってたんだろう? ベッドにいたのがミリィじゃなくて俺だったから間違えたんだろうけど」
「───いや、まだハッキリしていないんだが、おそらくムツキを狙った可能性が高い」
「……え? 何で?」
真剣な顔でそう言われて驚く。
だって俺だよ? どこを見ても平凡で普通の男だよ? 何なら子供と間違われるくらい小柄で童顔で、今は無害の奴隷上がりだよ?
そんなことを思っていたら、なんとなく察したらしいミリィが溜め息を吐いた。そして俺を諭すように言った。
「いいかい、ムツキ。君は異世界転移者である前に王太子の婚約者なんだ。昨夜の陛下との面会から今日までに城の要所や要人にはすでに通達が行っている」
「えっ!? もう!?」
昨日の今日で!? 早すぎない!?
「ああ。異世界転移者ということはまだ伏せられていて知っているのは陛下と王妃、第二王子、あとは宰相と近衛騎士団に魔導師団のみで箝口令が出ている」
じゃあ異世界転移者ということで狙われたんじゃなさそうだな。
───ということは……。
「……王太子の婚約者ってだけで命を狙われるんだ?」
そう漏らしたら、ミリィが渋面になった。
「世知辛いが、そうだ。王太子妃の座を狙う者は存外多い。今まで私に特定の婚約者もおらず、そういうそぶりもなかったのに急に決まった婚約だから───」
「あー……うん。どこの馬の骨とも知れぬ輩に横から掻っ攫われたってことか。なるほど」
そういう輩からすれば、俺は媚びを売って王太子に取り入って、挙げ句に最近返還されて宙に浮いていた爵位を与えられた上で婚約したずる賢い男───という風に思われたのかもしれない。
そりゃあふざけるな、と思うだろう。
そこで、殺してしまえばまた振り出しに戻るだろうという短慮な思考で暗殺者を送り込んだのかもしれないけど。
「襲った相手が悪かったな」
「それな」
ミリィと俺はそう言って顔を見合わせてから、どちらともなく吹き出した。
「あ、いててて……っ」
「───っふ、あ、悪い。だが……はははっ」
「もう、別にいいけど! ふふっ、いでで……いやあ、一応俺も、ふふっ、元だけど、暗殺者だから」
笑う振動で腰がビキビキ痛んだが、どうにもおかしくて、二人でツボってしばらく笑い転げたのだった。
───扉のところにいた近衛騎士が苦笑しつつも生暖かいまなざしで見ていたが、俺はついぞ気づかなかった。
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