重たすぎる愛~【重たい愛】のもう一つの物話~

エウラ

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コホンと仕切り直してティメール師団長はふと真剣な顔になった。

「……最後のコレは、今までの二つの事柄以上にかなり重要な案件です。下手をすればムツキ様が拉致監禁されます。今は解呪されてますが再び隷属魔法で縛られる可能性もあります」

その言葉に一瞬で部屋の空気がぴりついた。

「……根拠は?」

ミリィが険しい表情になり、硬い声音でティメール師団長に問うた。

「昨日の鑑定で、ムツキ様の属性は稀少な五属性の光と闇でした。しかしそれ以外は誰もが持つしかなかったんですけど───」
「───四属性のうちの、一つもない?」
「まさか」
「……」
「……そんな、ムツキ……」

師団長の言葉にミリィが驚き、ササナギも唖然とした。俺は無言で固まる。
ナツメは気遣わしげに俺の名を呼んだが俺はそれに反応できなかった。

───だって、それってつまり、生活魔法以外使えないってことだよな?
光と闇は同時に持っていたら使えない可能性が高いっていうのに、他の属性もないなんて……。

「───ちょっと待て。無以外の属性なしなんだろう? でも最初にティメール師団長はの可能性大だって言ったよな? それって矛盾してないか?」

ササナギがハッと気付いてそう言うと、ナツメも頷いた。

「……そういえば。それなら魔法を利用しようということは出来ないから逆に安全なんじゃ───」
「───私もそう思いましたが、違うんです。あのとき、王太子殿下にも確認のために鑑定をしましたよね?」

しかしナツメの言葉に首を横に振るティメール師団長。
何だ? 何があるんだ?

「ああ、そうだが、でもアレは鑑定にムツキの魔力が使われているかの確認だったのでは……?」

怪訝そうに言うミリィ。しかし何かを思い出したのかハッとした。

「そういえば、確かあのとき言っていたな。『確認の内容はクリアした』と。まさかまだ何かあったのか?」

ミリィの言葉に俺達の視線がティメール師団長に集まる。
師団長は静かに頷いた。

「ええ、もう一つあったんです。殿下の属性魔法は水と風ですよね」
「ああ、そうだ」
「あのとき殿下に水晶に触れていただいて確認しましたが、やはり水と風で間違いありませんでした」

ミリィと師団長のやりとりを見るに、本人の魔力で鑑定しないといけないようだ。指紋や瞳の虹彩みたいなモノかな? アレも一人ずつ違うというし。

でも二人の会話を聞いてもどういうことなのかちっとも分からない。それはミリィ達も同じようで、ミリィが先を促す。

「……それで?」
「───実は四属性を持たないムツキ様に水と風の属性がありました。……殿下と同じ属性です」
「───っ!」
「えっ!?」
「どうして……」
「……どういうことだ?」

師団長の言葉にミリィは目を瞠り、俺は意味が分からず疑問の声をあげた。
ナツメも呆然とし、ササナギは師団長に詰め寄らんばかりに身を乗り出していた。

「先ほども言いましたが、ムツキ様は殿下の魔力をその身に取り込んでいました。殿
「───まさか、取り込んだ相手の魔力の属性が使えるということか!?」
「……」
「え? え? どういう……?」

黙り込んだミリィとは反対に大きな声を出すササナギ。ナツメも言葉が出ないようだった。

俺はそもそも基礎知識がないから、何でこんなに動揺しているのか意味が分からずオロオロとするばかりだった。

「───あのね、ムツキ。魔力譲渡はただ魔力を分け与えるだけで属性に影響はしないんだよ。それに時間が経てば自分の魔力に馴染んで相手の魔力の痕跡は消えてしまうんだ」

俺の戸惑いにナツメが気付いて教えてくれた。
え、でもそれって……え?
更に混乱する俺にナツメは分かりやすく伝えてくれた。

「……ティメール師団長が言うには、ムツキに魔力譲渡をした者の属性が付加されて、ムツキ本人もその属性が使えるっていうこと、らしい」
「……え? じゃあ俺も魔法が使えるかもしれないの?」

さっきは属性がないから使えないと思っていたけど、使えるかもしれない?

俺は内心ちょっと浮かれた気分になったけど、次にササナギとミリィが言った言葉で天から地に落ちた。

「───いいことだけじゃないぞ。どんな属性でもイケるというなら、ムツキを監禁して犯して、隷属魔法で縛って魔法を使わせることも出来る」
「ムツキの桁違いの魔力で殲滅魔法を打ち込まれたら、我が国も無事では済まないだろう。……おそらく、国一帯が更地になる」
「───っ、うそ……でしょ……!?」

俺は血の気が引いた顔で震えながら小さく呟いた。それはミリィにしっかりと聞こえていて───。

「嘘ではない。実際、過去に転移者がふざけて大きな攻撃魔法を放って、大きな山が一つ消えたという文献が残っている」
「───……ぁ」

それで、ティメール師団長の最初の言葉に繋がるわけだ。

俺は、どれだけ迷惑をかける役立たずなんだ。

いつの間にか頬を伝い溢れていた涙を止められずに、俺は抜け出せない迷路に迷い込んだような気分になった。

「大丈夫だ。私が護る」
「……ミリィ……」

そう言ってギュッと抱きしめてくれる腕の力強さと温もりに、闇に堕ちかけた思考が浮上する。

「そうだよ! 僕達もいるよ! ね、ナギ!」
「ああ、そうだ。それにこの国には変態だが超優秀な魔導師団の師団長もいる」
「そうですよね! 大船に乗った気で安心してください!」

そう言ってナツメが手を握ってくれて、ササナギはニヤリと魔王のような笑みを浮かべた。
ティメール師団長も胸を張ってドヤ顔だ。

「───っ、それ、泥船じゃないよね?」
「失礼なー! 魔法の腕はちょー一流ですからね!」
「魔法な」
「そうだね!」
「変態は否定しない」

思わず吹き出すと、めいめいにそんなことを言うミリィ達に何とかなるかも、なんて思って俺は思わず笑みが溢れたのだった。






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