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第一章 フォレスター編
ちょっとソコまで その3
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*前半アルカス視点、後半クラビスとフェイ視点になります*
まだ俺の冒険は始まらない。(笑)
のっけからトラブル続きですでに疲労困ぱい。
主に気疲れだけど。
森に近いところでクラビス達の気配察知に何か引っかかったらしい。足を止めた。
「草に隠れて見えないけど1時の方向にホーンラビットだな。距離は100メートル」
「え、分かるの? 凄いね。魔法とかじゃなくて?」
「俺達くらいになると魔法なんかなくても分かるもんさ。でないと上に上がれないぜ。ほんの一瞬が生死を分ける」
フェイが当然のように言う。
確かにその通りだ。日本とは違う。死は身近にある。
急に実感して体がぶるっと震える。俺ってここに還ってきて、本当に皆に護って貰ってたんだな・・・。
「怖いか?」
俺の震えを見たクラビスが心配そうに聞いてくる。
「・・・正直怖いよ。俺のいた国は事故なんかで亡くなる人はいたけど、そんなに簡単に人が死ぬような状況にならないんだ。戦争も俺達は経験ないし、何かを殺すっていう経験ももちろんない」
でもそれじゃダメなのは分かる。
だって俺は、この世界で生きていく。死ぬまで。クラビスと一緒に。
「でも、大丈夫だから。慣れることはないかもだけど、覚悟はしてる。やるよ」
「ああ、慣れる必要はない。俺が護るから」
「いや、ソレはダメなヤツ。危なくなったらよろしくお願いします!」
「別にいいのに・・・」
「クラビス、過保護」
ホントにね。
「ホーンラビットは素早い動作で角を突き出して突っ込んでくる。今回は俺が捕まえて押さえるから、そこをナイフでトドメを刺して。首か心臓だけど、首の方がいいかな?」
「うん、わ、分かった。頑張る」
「俺も魔法で補助するから心配要らないぜ」
「ありがとう、フェイ先生」
ドキドキする。けど、やらなきゃ。
ナイフを持って構える。
「来るぞ」
ハッとした瞬間、ざざっと音がしてあっという間に距離が詰まった。驚きの声を出す間もなくクラビスがワシッと額にある角を素手で掴んでた。え、掴んだの?!
「へ?」
全く見えなかった。早っ!!
「ほら、ぽけっとしてないでトドメを刺して」
唖然としてたら、フェイに突っ込まれた。
「っ、りょーかいです!」
えっと、首のところを斬る。・・・怖くて震えるけど、負けるな、俺!!
「そう、そこをスパッと思い切りよく! あ、自分は切るなよ?」
なんか軽いなフェイさんよ。お陰でちょっと落ち着いた。
フェイの言うとおり。躊躇うと魔物も俺も辛いから、ひと思いに。
「っ!!」
ナイフのお陰か、たいした抵抗もなくすんなりと首が胴体とおさらばした。
血も流れて、こんな経験なんて初めてなのに、思ったよりも平気な自分に驚く。
「ヨシ! 上手いぞ。よくやった」
フェイが嬉しそうに頭を撫でてくれた。
「アルカス、大丈夫か?」
クラビスが獲物を収納バッグに仕舞ったのをぼうっと見ていたら、体が急に軋んだ。
「いっ・・・!」
「! アルカス?! どうした?!」
クラビスが声をかけるのとほぼ同時に全身が悲鳴をあげて、俺は激痛に耐えられずに意識を失った。
---
アルカスが倒れた。何故?!
怪我は負ってなかったはずだ。
いつもの寝落ちとは違う。苦痛に耐えられないような意識の失い方だった。
「フェイ?! どういうことだ?!」
慌ててアルカスを抱え上げて聞く。
「---俺もあまり見たことがないが、自分より格上の敵を偶然倒したヤツが、一気にレベルが上がったことがあって」
「・・・で?」
「今のアルカスのように、体中に激痛が走って、意識を失う事こそなかったが、数日間筋肉痛のようになって動けなかったと・・・」
じゃあ・・・。
「何か? 今まで経験がなかった分、一気にレベルアップしたと? ホーンラビット1体で? たいした強さじゃないってのに?!」
「・・・ソレなんだが。確か、アルカスにはエストレラ神の加護があったよな?」
フェイに言われて気付く。ちょっと冷静じゃなかった。落ち着け。
深呼吸をする。
「・・・お前、ホント、アルカスがからむとポンコツになるな。しっかりしろ」
呆れた声でフェイが言うが、その通りだ。
「すまん。焦った。確かにステータスには加護があった。だが、そもそもエストレラ神の加護がどういうものか確認していなかったな」
そうだ。色々あって、今は魔力欠乏の方を優先していたからうっかりしていた。
「たぶん、加護が関係していると思うわけだ。経験値が多く手に入るとか、後は精神的苦痛耐性のような状態異常耐性とか。でなきゃ、初討伐であんなに動揺がないのはおかしい」
確かに今までも、急な環境の変化にもかかわらず割とすんなりと受け入れていた。懐が広いんだと思っていたが、それ以外にも加護が作用していたのか。
「まあなんにせよ、一旦邸に戻ってからだ。いつ目を覚ますのか分からないし、領主様や夫人達にも知らせないと。後は、ウィステリア様にも聞いてみよう」
「・・・そうだな」
横抱きにしたアルカスを抱く腕に力を込める。
大丈夫。神の加護なら悪いようにはならないはずだ。
そうして足早に門へ辿り着く前にフェイが叫ぶ。
「アルカス様が倒れた! 悪いが領主邸に連絡を頼む!!」
「っ! 了解!! 誰か伝達魔導具を」
他の門衛がバタバタし出した。
「まさか怪我を?! だがここにはそんなに危険な魔物は居ないはず」
「大丈夫。怪我はないし危険なモノも居ない。ちょっとイレギュラーな事があって意識を失ってしまっただけ。詳しくは言えないけど、心配ない。ありがとう」
そうして門衛のケビンとフェイが話していると、さっきの今で戻ってきた俺達に驚いたのか、詰め所の他の門衛達が声をかけてきた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?! アルカス様も何で・・・」
横抱きで気を失っているのを見て心配そうにしている。
「ああ、ちょっと事情があって、アルカス様はよく急に眠られるんだ。大丈夫だから。心配ありがとう」
フェイが当たり障りなく話す。いつもは愛想よく話す俺だが、今は猫を脱ぎ捨ててるから正直助かる。
「連絡してる間、ちょっと中で休ませて貰って落ち着け」
フェイに声をかけられ、自分が思ったより参っていることに気付く。
ケビンさんに促され、何とはなしにぽつぽつと弱気な事を話していると、話が済んだフェイがきて、邸に戻った。
案の定、早くに戻った俺達と気を失っているアルカスを見て、邸中大騒ぎになったが、そんな中でもアルカスはピクリともしないで眠っていた。
まだ俺の冒険は始まらない。(笑)
のっけからトラブル続きですでに疲労困ぱい。
主に気疲れだけど。
森に近いところでクラビス達の気配察知に何か引っかかったらしい。足を止めた。
「草に隠れて見えないけど1時の方向にホーンラビットだな。距離は100メートル」
「え、分かるの? 凄いね。魔法とかじゃなくて?」
「俺達くらいになると魔法なんかなくても分かるもんさ。でないと上に上がれないぜ。ほんの一瞬が生死を分ける」
フェイが当然のように言う。
確かにその通りだ。日本とは違う。死は身近にある。
急に実感して体がぶるっと震える。俺ってここに還ってきて、本当に皆に護って貰ってたんだな・・・。
「怖いか?」
俺の震えを見たクラビスが心配そうに聞いてくる。
「・・・正直怖いよ。俺のいた国は事故なんかで亡くなる人はいたけど、そんなに簡単に人が死ぬような状況にならないんだ。戦争も俺達は経験ないし、何かを殺すっていう経験ももちろんない」
でもそれじゃダメなのは分かる。
だって俺は、この世界で生きていく。死ぬまで。クラビスと一緒に。
「でも、大丈夫だから。慣れることはないかもだけど、覚悟はしてる。やるよ」
「ああ、慣れる必要はない。俺が護るから」
「いや、ソレはダメなヤツ。危なくなったらよろしくお願いします!」
「別にいいのに・・・」
「クラビス、過保護」
ホントにね。
「ホーンラビットは素早い動作で角を突き出して突っ込んでくる。今回は俺が捕まえて押さえるから、そこをナイフでトドメを刺して。首か心臓だけど、首の方がいいかな?」
「うん、わ、分かった。頑張る」
「俺も魔法で補助するから心配要らないぜ」
「ありがとう、フェイ先生」
ドキドキする。けど、やらなきゃ。
ナイフを持って構える。
「来るぞ」
ハッとした瞬間、ざざっと音がしてあっという間に距離が詰まった。驚きの声を出す間もなくクラビスがワシッと額にある角を素手で掴んでた。え、掴んだの?!
「へ?」
全く見えなかった。早っ!!
「ほら、ぽけっとしてないでトドメを刺して」
唖然としてたら、フェイに突っ込まれた。
「っ、りょーかいです!」
えっと、首のところを斬る。・・・怖くて震えるけど、負けるな、俺!!
「そう、そこをスパッと思い切りよく! あ、自分は切るなよ?」
なんか軽いなフェイさんよ。お陰でちょっと落ち着いた。
フェイの言うとおり。躊躇うと魔物も俺も辛いから、ひと思いに。
「っ!!」
ナイフのお陰か、たいした抵抗もなくすんなりと首が胴体とおさらばした。
血も流れて、こんな経験なんて初めてなのに、思ったよりも平気な自分に驚く。
「ヨシ! 上手いぞ。よくやった」
フェイが嬉しそうに頭を撫でてくれた。
「アルカス、大丈夫か?」
クラビスが獲物を収納バッグに仕舞ったのをぼうっと見ていたら、体が急に軋んだ。
「いっ・・・!」
「! アルカス?! どうした?!」
クラビスが声をかけるのとほぼ同時に全身が悲鳴をあげて、俺は激痛に耐えられずに意識を失った。
---
アルカスが倒れた。何故?!
怪我は負ってなかったはずだ。
いつもの寝落ちとは違う。苦痛に耐えられないような意識の失い方だった。
「フェイ?! どういうことだ?!」
慌ててアルカスを抱え上げて聞く。
「---俺もあまり見たことがないが、自分より格上の敵を偶然倒したヤツが、一気にレベルが上がったことがあって」
「・・・で?」
「今のアルカスのように、体中に激痛が走って、意識を失う事こそなかったが、数日間筋肉痛のようになって動けなかったと・・・」
じゃあ・・・。
「何か? 今まで経験がなかった分、一気にレベルアップしたと? ホーンラビット1体で? たいした強さじゃないってのに?!」
「・・・ソレなんだが。確か、アルカスにはエストレラ神の加護があったよな?」
フェイに言われて気付く。ちょっと冷静じゃなかった。落ち着け。
深呼吸をする。
「・・・お前、ホント、アルカスがからむとポンコツになるな。しっかりしろ」
呆れた声でフェイが言うが、その通りだ。
「すまん。焦った。確かにステータスには加護があった。だが、そもそもエストレラ神の加護がどういうものか確認していなかったな」
そうだ。色々あって、今は魔力欠乏の方を優先していたからうっかりしていた。
「たぶん、加護が関係していると思うわけだ。経験値が多く手に入るとか、後は精神的苦痛耐性のような状態異常耐性とか。でなきゃ、初討伐であんなに動揺がないのはおかしい」
確かに今までも、急な環境の変化にもかかわらず割とすんなりと受け入れていた。懐が広いんだと思っていたが、それ以外にも加護が作用していたのか。
「まあなんにせよ、一旦邸に戻ってからだ。いつ目を覚ますのか分からないし、領主様や夫人達にも知らせないと。後は、ウィステリア様にも聞いてみよう」
「・・・そうだな」
横抱きにしたアルカスを抱く腕に力を込める。
大丈夫。神の加護なら悪いようにはならないはずだ。
そうして足早に門へ辿り着く前にフェイが叫ぶ。
「アルカス様が倒れた! 悪いが領主邸に連絡を頼む!!」
「っ! 了解!! 誰か伝達魔導具を」
他の門衛がバタバタし出した。
「まさか怪我を?! だがここにはそんなに危険な魔物は居ないはず」
「大丈夫。怪我はないし危険なモノも居ない。ちょっとイレギュラーな事があって意識を失ってしまっただけ。詳しくは言えないけど、心配ない。ありがとう」
そうして門衛のケビンとフェイが話していると、さっきの今で戻ってきた俺達に驚いたのか、詰め所の他の門衛達が声をかけてきた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?! アルカス様も何で・・・」
横抱きで気を失っているのを見て心配そうにしている。
「ああ、ちょっと事情があって、アルカス様はよく急に眠られるんだ。大丈夫だから。心配ありがとう」
フェイが当たり障りなく話す。いつもは愛想よく話す俺だが、今は猫を脱ぎ捨ててるから正直助かる。
「連絡してる間、ちょっと中で休ませて貰って落ち着け」
フェイに声をかけられ、自分が思ったより参っていることに気付く。
ケビンさんに促され、何とはなしにぽつぽつと弱気な事を話していると、話が済んだフェイがきて、邸に戻った。
案の定、早くに戻った俺達と気を失っているアルカスを見て、邸中大騒ぎになったが、そんな中でもアルカスはピクリともしないで眠っていた。
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