【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

文字の大きさ
78 / 90
第四章 エルフの里編

一方その頃(sideフェイ)

しおりを挟む
アルカス達が湖で精霊王転生者と遭っていた頃、フェイはエルフの里の中でも一番の魔導具屋というお店に来ていた。

エルフは手先が器用で細々とした細工物や魔導具制作に長けているという。
もちろん薬を作ることも。
が、外部に流出するモノはほとんどない。
たまにウィステリアのようなエルフが外に持ち出したり、制作して売ったりするくらいで、それもほんの一握りなのだ。

そんな技術を間近で見られるとなったら、アルカスじゃあないが、興奮して昨夜は余り眠れなかった。

フェイは黙っていればエルフに引けを取らない美人だ。
寝不足のせいでやや憂い顔になって更に美しさに磨きをかけていた。

・・・・・・口を開かなければ。

先日、運良く光の精霊ルカと契約を交わして何となくキラキラが増したようだが、本人は割とガサツなので頓着しなかった。

しかし里のエルフ達は精霊が視えるので、この前よりもフェイに下心を持って近づく若いエルフが結構いて、魔導具屋に着くまでにかなりのナンパを受けてちょっとイライラしていた。

そうして辿り着いた店の前。

『只今の時間、留守にしております』

そんな看板が目に入った。

「---っああもう! せっかく楽しみにしてたのに胸クソ。アイツらのせいで! 俺の事なんかほっとけよ!」

声を荒げたとき、ふと後ろに気配を感じて飛び退いた。

---が、誰もいない?

用心深く気配を探ると、いないと思っていたその場所に違和感を覚えた。

・・・・・・いる。確実に何かいる。

「何だ? 誰だ?」

攻撃を仕掛けてくる感じでもないので、警戒はしながら声をかけた。

すると、すうっと空気が歪んでウィステリアばりの美形なエルフが姿を現した。
もちろんウィステリアよりもガッチリしているが。
フェイよりも頭一つ分高く、体の厚みも倍くらいあった。

美丈夫と言う言葉が似合う、アルカスが言うところのというヤツである。

フェイは呆気にとられて固まってしまった。

-でっか。エルフのイメージじゃない。

結構失礼な事を考えていたことは内緒だ。



彼はエルバートという。
この魔導具屋の店主で、魔導具制作も手がけているそうだ。

さっきは自作の魔導具の試作品の性能テストをしていたところで、ちょうど戻ってきた時にフェイが店先にいて、フェイが立ち去るのを待つか裏口から入るか迷っていたんだという。

「いや、そこはさっさと姿を現して店を開けろよ!」

思わずフェイが愚痴ったら、無表情だった口角をあげて笑った。

「まさか気配を読まれるとは思わなかったのでな。良い経験になった。感謝する」

自分では最高の出来だと思っていたが見破られるとはな、と何故か嬉しそうだった。

フェイも自己紹介をした。
先日ウィステリアと一緒に里にきた一人だと言ったら、今日店を訪ねる事はウィステリアから聞いていたらしい。

だが、朝イチで来ると聞いていたのになかなか来ないので、今日は都合が悪くなったのかと思って、性能テストを兼ねて外出していたと。

「---あ゛-クソ、途中でめちゃくちゃ声かけられて断るのに時間食ったんだよ。外面が良いのも考えもんだよな」
「それが素なんですね」
「アルカスにはよく萌えとか言われる。これでもAランク冒険者だからな。物理で相手をボコボコにするくらいはデキるぜ。皆、返り討ちにしてやった」

それを聞いてエルバートが微笑んだ。


それから二人は魔導具談義に花を咲かせて、夜に食事をする約束をして一旦別れた。


そして夜に美味しいお酒と料理を堪能したフェイは、いつの間にかエルバートの店舗兼自宅に連れ込まれ、エルバートに惹かれていたのもあって、遂に遅い初体験を済ませることになった。

が、そのまま婚姻してしまうとは誰が予想したであろうか・・・・・・。

本人ですら予想外だった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

世界が僕に優しくなったなら、

熾ジット
BL
「僕に番なんていない。僕を愛してくれる人なんて――いないんだよ」 一方的な番解消により、体をおかしくしてしまったオメガである主人公・湖川遥(こがわはる)。 フェロモンが安定しない体なため、一人で引きこもる日々を送っていたが、ある日、見たことのない場所――どこかの森で目を覚ます。 森の中で男に捕まってしまった遥は、男の欲のはけ口になるものの、男に拾われ、衣食住を与えられる。目を覚ました場所が異世界であると知り、行き場がない遥は男と共に生活することになった。 出会いは最悪だったにも関わらず、一緒に暮らしていると、次第に彼への見方が変わっていき……。 クズ男×愛されたがりの異世界BLストーリー。 【この小説は小説家になろうにも投稿しています】

【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる

おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。 知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

処理中です...